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雑誌目次

雑誌文献

公衆衛生50巻8号

1986年08月発行

雑誌目次

特集 へき地・離島の保健・医療

へき地・離島における保健医療対策のあり方

著者: 岩崎榮

ページ範囲:P.504 - P.510

■へき地離島の住民に学ぶ姿勢
 とかく,へき地離島の保健医療は,へき地離島を持つ地元町村の努力に拘わらず,うまく事が運ばないことが多い.そして,その多くの責任が,そこで保健医療を提供する医師にある場合でも,直接,医師にその事を訴えることは容易ではない.もし,そのようなことがあれば,医師やその医師をお世話した医局の逆鱗にふれ,医師の引き揚げという事態を招き,その地域は,立ち所に無医地区となる.従来,よくみられた事例である.そして,このような事を最も身に染みて知っているのが町村長なのである.
 一度でも,このような経験をした町村長は,決して医師に弓を引くようなことはしない.何としても,忍の一字とばかりに百度参りと相成る次第.それでも医師は来てくれない.仕方がないので,国外にまで医師を求めに歩く.よい時はよいが,悪くなるとすぐに首にできる.定着率はまことによくない.

離島における廃棄物処理の現状と課題

著者: 出口栄一郎

ページ範囲:P.511 - P.515

■はじめに
 廃棄物は,我々の日常生活並びに経済活動を行う上で必ず発生する物であり,国民生活の向上,多様化並びに産業形態の変化に伴い,質的,量的に変動するものである.これらの所産である廃棄物をいかに適正に処理し,生活環境の保全及び公衆衛生の向上を図るかは,社会の維持発展に不可欠な,しかも基本的な事項である.
 国においては,昭和58年11月,生活環境審議会が厚生省に対し,「今後の廃棄物処理行政の基本的方策について」と題する答申をしているが,廃棄物処理施設の整備に関しては,その必要性は認識されながらも「めいわく施設」ということで,施設整備が進まない中で,とりわけ鹿児島県の離島における廃棄物処理問題について考えてみることにしたい.

対馬の地域医療計画案

著者: 大和田野勝徳

ページ範囲:P.516 - P.521

■はじめに
 厚生省は昨年6月25日付の,へき地保健医療検討委員会の報告をうけ,同年8月26日付,第6次計画をより適切な計画とするため各県の事業量を調査することとし,各県健康政策関係主管部長あてに,指導課長通知を出した.
 各県はこれに対して,昭和60年度末を目途に,各種のシステムづくりを含めた,へき地保健医療計画を策定し,体系的,かつ計画的な推進を図ること,となっている(厚生省健康政策局指導課長通知指第23号).

へき地に対する包括的保健医療の試み

著者: 前田次郎 ,   大櫛陽一 ,   角田伝 ,   菊谷準 ,   嶋孝 ,   西本至

ページ範囲:P.522 - P.528

■はじめに
 和歌山県は紀伊半島の西南面に位置し,総面積の78%が山岳部であり,500m以上の山岳地帯が海岸線にせまり,延々500kmにも及ぶリアス式海岸を形成している.従って交通網は長くなり極めて不便で,数km山岳に入ると山村は孤立し,長い間に人口移動が起こり,山村地域の人口が激減し過疎化して,医師もいなくなり,無医地区となっている.このような地域は本県には71ヵ所もあり,指定無医区である.このような地域の人口は2万人足らずで,全人口の約1.4%に過ぎない.しかし,その面積は図1に示すように,極めて広大である.また,このような地域は若者が流出して,住む人々は老人が主体となり,ますます保健医療上にも多くの問題が生じている.健康保険制度が確立している今日,なお,いわゆる"置薬"の需要がこのような地域では多いことからも,人々の病気に対する不安感を如実に物語っている.
 これらの問題を解決するために,種々な施策が講じられてきたが,県医師会も地域医療の一環としてこの問題を捉えて,県衛生部,県立医大の協力のもと,へき地の包括的な医療システムを立案し実践している.ここに10年に及ぶへき地に対する取り組みの一端を紹介するとともに,へき地の人々の健康状態について若干の知見を得たので報告する.

へき地保健医療対策と大学の役割

著者: 青山英康 ,   大原啓志

ページ範囲:P.529 - P.534

■はじめに
 "Health for all by the year 2000"をスローガンに,WHO憲章に規定され,国際的な確認を得た「健康権」に基づいて,地球を単位とした「保健水準の向上」が図られている以上,わが国においては,すべての国民を対象にした「保健水準の向上」が検討されなければならないのは当然のことである.
 とくに,今年度は昭和31年以来5次にわたる年次計画を立てて取り組まれて来た「へき地医療対策」全体の見直しの上に,新しい「へき地保健医療対策」の第6次計画の発足の年として,昨年6月25日に「へき地保健医療検討委員会」の答申を受けて,厚生省が各都道府県に,年次計画の策定を求め,その実施に踏み出している年だけに,将来計画も含めて,幅広い討議を深めておく必要がある.

離島と駐在保健婦—沖縄県の現状と課題

著者: 伊波茂雄

ページ範囲:P.535 - P.544

■保健婦の現状
 昭和26年,保健所法が制定され(当時の琉球政府及び立法院による独自の法律)保健所が設置された.この時公衆衛生看護婦が誕生し,駐在制度が確立された,当初は沖縄本島北部,中部及び南部の3保健所に40人が配置されたが,次第に増員され,日本復帰(昭和47年)後は保健婦という名称に変わり,昭和60年には県と市町村保健婦合計が211名となった.
 市町村保健婦は,昭和50年に初めて2名採用され,60年には21市町村で36名配置されている.県駐在保健婦と市町村保健婦はほとんど地区分担制となっている(表1,図1).

北海道における保健医療

著者: 三宅浩次

ページ範囲:P.545 - P.550

■北海道の地域特性
 保健医療問題という視点から,北海道という地域的特殊性を以下のように3点挙げて整理する.

へき地歯科保健医療問題

著者: 末高武彦

ページ範囲:P.551 - P.555

■はじめに
 国民皆保険制度は,医療受療の社会的経済的な機会均等を目指し,昭和36年から全国的に実施をみた.しかし,同制度が実施されて以来25年を経た今日,人口10万対地域歯科医師数は,表に示すごとく市町村の人口規模により大きな格差を示しており,いまだ無歯科医町村,無歯科医地区が全国的に存在している.
 本稿では,へき地歯科医療対策が実施されてから25年を経た今日,これまでのへき地歯科医療対策をふりかえり,今後のへき地歯科保健医療,すなわち,へき地住民がより等しく歯科保健医療を受けられる対策について,筆者の考えを述べる.

離島の栄養問題—山形県酒田市飛島を例として

著者: 森雅央

ページ範囲:P.556 - P.562

■はじめに
 山形県の唯一の離島は飛島である.この島はそこに住むことを宿命づけられている定住者,もしくは短期間の生活を営む移住者,さらには観光を主目的として来島する人など,「人」と「島」との結びつきのある島のことで,いわゆる地理学的な意味での離島ではない.「飛島」の持つ条件は社会的にも,文化人類学的にも,また生態学的にも,さまざまな課題をかかえている.筆者はその点を「公衆栄養学」ことにコミュニティの機能としてどう展開されているかということについて,25年余りにわたって問い続けてきた.この調査の軸になるものは,島の人々の「食」の行動であった.「島」の人々の「なりわい」「住まい」など「くらし」の問題は,離島ならではの「生活学」の課題ともなる.
 すなわち「島」は海によって囲まれていることから,ややもすれば,外部との交通の困難性だけが浮かび上がってくる.こうした困難性や途絶性は島を孤立化させ,隔絶性が増せば自給生活が強制される.そのために社会は停滞し,伝統的生活文化が根強く残っている例が多い.しばしば離島が「隠された土地」と考えられ,俗にいう「秘島」ブームをひき起こす.従って訪れる観光客の心理には生活文化の本質を探求することではなく,隔絶性から来る閉鎖的な人間関係や自然環境を垣間見ようという好奇心が先行し,ひいては島の後進性という一般通念で島をみつめがちである.

発言あり

健康・自然食品

著者: 加納克己 ,   久常節子 ,   大塚知雄 ,   渡部正 ,   生田恵子

ページ範囲:P.501 - P.503

待たれる科学的解明
 近代科学は新しい化学物質を次から次へと作り出し,その数はいまや数千に及ぶという.これらの多くは,我々の生活を豊かにしてくれた反面,健康にとっては危険で有害な場合もある.我々が日常口にする食料品にも,無数の人工的化学物質が使用されている.食料品売場には,自然食品や健康食品がよく目につき,これ以外のものはまるで人体に有害であるかのような印象さえ受ける.このような食品がよく売れる背景には「病気にかかりたくない」,「より健康になりたい」という健康指向が強く働いていると思われる.しかし,皮肉なことに,わが国の平均寿命が世界で第1位になるまでに伸びたのは,ひとつには有機農業による健康食品や無添加の自然食品をとったからではなく,むしろその逆であったのではないだろうか.もし,農薬を使わない有機農業や無添加の健康食品や自然食品であればコストは高くなり,非衛生的であったかもしれず,かくも人口の多いわが国の人々を健康な国民として養うこともできず,工業国への脱皮も遅れ,今日のような経済大国を謳歌することもできなかったのではないだろうか.
 現在,わが国の死因の第1位は癌である.先進文明国はいずれも癌が主要死因であり,文明病と呼ぶこともできる.しかし,アメリカのGroi博士らは癌の25〜75%は予防可能であるという.人口的化学物質の中には発癌性のものも少なくない,

調査報告

地域における機能訓練事業の実施状況と今後の課題

著者: 大原啓志 ,   中屋久長

ページ範囲:P.563 - P.567

●はじめに
 地域における機能訓練は,老人保健法における保健事業の一つとされ,その施行に伴い,地方公共団体の実施すべき施策となった.これは1971年以来,在宅老人機能回復訓練事業や老人保健医療総合対策開発事業として推進が図られてきた1,2)ものが,老人保健法に組み入れられたものとみることができよう.
 高知県においては,1960年代後半より保健婦活動の一環として在宅者のリハビリテーションが取りあげられ,さらに,1970年頃より順次,機能訓練用機器の配置も図られており,その結果,通所による施設機能訓練に発展していた市町村もみられた.1984年2月,高知県によって実施された保健事業の効果的実施方法に関する調査3)(以下,「保健事業調査」とする)によると,調査時高知県下の53市町村中20市町村で機能訓練事業が実施されていたが,このうち17市町村は老人保健法施行以前に開始されていた.一方,16市町村では理学療法士(以下,PTとする)が参加しているが,その実施状況は,実施頻度,参加スタッフをはじめ市町村間の差が少なくなく,この差は,各市町村がスタッフ,財源,地理的条件,対象障害者の特性などとも関連して,それぞれ独自に事業を進展させてきた結果と考えられた.

風疹とそのワクチンに関する青年市民の意識

著者: 阿部ジョアナ ,   中園直樹 ,   新野峰久 ,   近藤喜代太郎 ,   福地保馬 ,   石塚百合子 ,   黒沢和夫

ページ範囲:P.568 - P.571

●はじめに
 風疹(別名3日はしか)は風疹ウイルスによる急性の発疹性疾患で,小児を中心に周期的に流行するが,一般的には軽易な疾患である.しかし免疫をもたない妊婦が妊娠初期に顕性,または不顕性に罹患すると高率に流・死産をひき起こす.また先天性風疹症候群(Congenital Rubella Syndrome)といわれる障害児を出産するといわれ,そのための人工妊娠中絶などの妊娠被害が社会的問題1)となる.これらの防止を目的に風疹ワクチンの開発が進められ,1977年秋から女子中学生,主に3年生を中心に定期的予防接種が実施されている.すなわち政令では「13歳に達する日の属する年度の初日から15歳に達する日の属する年度の末日に至る期間」の女子を対象2)としており,対象に入らない者は予防接種を受ける義務はないとされている.一方,女子を対象としているために男子に対しては,ワクチンの接種および風疹に関するオリエンテーションがあまり行われていないのが現状である.
 また医療従事者(医師,看護婦)では風疹に特別の配慮が必要である.患児やCRS児の治療や看護からの自らの罹患の危険性と,自らが新たな感染源となって妊婦を感染(顕性,不顕性)させる院内感染の危険性である.

衛生公衆衛生学史こぼれ話

30.鼻毛(はなげ)

著者: 北博正

ページ範囲:P.521 - P.521

 昔,加賀百万石の前田の殿様が,鼻毛を長く伸ばしていたので馬鹿扱いされたということであるが,幕府は何とか理屈をつけて,前田家を潰そうと隠密を放ったりして狙っていたからで,侍たちも剣術よりも謡曲をやったり,お茶をたてたりして,文弱の徒を装い,戦意のないことを思わせて,何とか難を切りぬけて来たのである.このほかに鼻毛が登場する文献はなさそうである.
 ところが鼻毛は高度の大気汚染地区では,長くなり成長も早いという.人間の赤ん坊は生まれた時は鼻毛は生えていないが,成長するにつれて生えて来る.大気汚染のひどい地区の赤ん坊は早くから鼻毛が生えて来るといい,サルも野生のものでは鼻毛はないか,あってもほんの僅かであるが,大気汚染のひどい地区の動物園や公園の檻に飼われているサルでは,鼻毛が生えて来るという.

日本列島

地域医療研究会発足

著者: 井口恒男

ページ範囲:P.515 - P.515

岐阜
 高齢化,医療技術の革新,医療費の高騰などに伴い,老人保健法,健康保険法,医療法などの施行や改正が実施されつつある中で,住民のニーズに適うべき医療への要望も高まっている.医療が高度専門化する一方で,老人医療,ターミナルケア,プライマリケア,臓器移植,バイオエシックス,医療機関の連携等,現状の医療体系の中で未整備あるいは未検討の課題が山積しているといえよう.
 このような医療環境は全国共通的なものと思われ,全国的にはプライマリケア学会の発足,厚生省の家庭医制度の検討や医療法の改正に伴う地域医療計画など,その対応策が講じられようとしている.岐阜県では,このような医療環境下で,まずは学際的な対応として地域医療研究会が発足した.

仙台市のがん死亡頻度を考える

著者: 土屋眞

ページ範囲:P.544 - P.544

仙台市
 成人病予防法ともいえる老人保健法の施行以来,がん対策もやりやすくなったが,受診率の向上問題や,同法以外のがん検診をどうするか,など多くの課題が残されている.
 ことに5年間,毎年,胃集検を受けた者ががんになった場合,早期癌の占める割合は80%にもなると報告(東北大学・公衆衛生学・久道茂教授)されているだけに,受診率の向上策は重要である.

沖縄県がんマップ発表される

著者: 伊波茂雄

ページ範囲:P.555 - P.555

沖縄
 沖縄県環境保健部は,去る4月に「県内におけるがん死亡の疫学的な分布」をまとめ発表した.沖縄県民の人口10万対の死因別死亡率は昭和51年では第1位脳卒中86.9,第2位がん85.7,第3位心疾患57.2であったのが翌52年には1位と2位が入れかわり,以後毎年がんが第1位を占め,55年104.1,56年は106.0,57年104.1,58年103.0,59年101.4と推移している.即ち全国平均でみた死因別死亡率でがんが第1位となった年より4年早い.そこで60年度からがん対策特別事業をスタートさせ,その一環として48年から12年間のがんによる死亡状況を分析し,市町村単位のがんマップとしてまとめたものが発表された.それによると,がんによる総死亡率は全市町村で全国並み,あるいは以下の率であった.55年における訂正死亡率は男性113.0で全都道府県中26位,女性は63.0で最低位であったが,部位別にみると男性の食道がんは全国平均3.5に対し13.1,肺がん全国平均18.7に対し23.0で,ともに全国一の高率であった.しかし全国平均がトップである胃がんによる訂正死亡率は20.2で最低位となっていた.食道がんや肺がんによる訂正死亡率が高い原因について,専門家は飲食物のうちアルコール及び若年開始喫煙が,疫学的にみて関連性があるのではないかと述べている.

ニュース

「離島・辺地のリハビリテーション」を討議—第23回日本リハビリテーション医学会総会

ページ範囲:P.510 - P.510

 「第23回日本リハビリテーション医学会総会」が,鈴木良平会長(長崎大学医学部教授)のもと去る6月5,6日の両日,長崎市公会堂など6会場で開催された.
 老人保健法の施行以降,各地で機能訓練事業が試みられているが,スタッフの不足をはじめとして多くの課題が山積している.このような状況と長崎という地域性を反映して,この学会ではシンポジウム「離島・辺地のリハビリテーション」(司会・穐山富太郎氏・長崎大学医療短大部,竹内孝仁氏・東京医科歯科大学)がもたれた.このシンポジウムは離島・辺地のリハビリテーションの実態を分析することによって,都市部での問題点をも検討しようという趣旨でもたれたもので,老人のリハビリと障害児のリハビリという二つの立場から報告された.

基本情報

公衆衛生

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1170

印刷版ISSN 0368-5187

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