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雑誌目次

雑誌文献

公衆衛生51巻1号

1987年01月発行

雑誌目次

特集 健康科学

個人と集団の健康科学

著者: 小泉明

ページ範囲:P.4 - P.7

■健康科学とは何か
 健康に関する科学として多くの人が思い浮かべるのは,おそらく医学であろう.あるいは衛生学であり,さらには保健学であろう.いまなぜ健康科学か.まずはじめに,このことについて言及しておかなければならないように思われる.
 いま,なぜ健康科学かを一言でいえば,これまでに健康それ自体を対象とする科学がなかったから,と説明することができそうである.伝統的な医学では,失われた健康,損なわれた健康を取り戻すことに主眼がおかれてきた.そこでは疾病ないし傷病が主要な研究対象であって,健康はそれらのない状態としての認識にとどまるか,あるいはそれを多く出てはいない.

健康の疫学

著者: 苫米地孝之助

ページ範囲:P.8 - P.12

■健康の考え方
 健康の疫学を記すにあたり,まず健康をどうとらえるかが問題である.WHOのいうような抽象的ものではなく,具体的かつ現実的な考え方が必要である.
 一般に健康から疾病へのプロセスとして次のような図(図1)が示されている,その中で客観的にみて異常はなく,しかも健康感を持っている者は一応健康人と考えてよいであろう.ついで何らかの原因によって病気に対する抵抗力や,いざという時の予備力が減少した者を半健康人と呼ぶことができる.このような者は疲労を感じやすく,体力の衰えを自覚してはいるが,ほどほどに健康だと思っており,他覚的には多少機能的ないし生化学的な変化が現れているが,なお器質的な変化が認められない時期でもある.

健康教育の諸相

著者: 金永安弘

ページ範囲:P.13 - P.16

■はじめに
 生きる主体としての人びとが,学習することによって,健やかに生きる姿勢の選択の自由を,自らがなしえることは,自らの日常生活のありようを超えてゆくためにとても大切なことである.
 全人的な健康についての学習を深めていくなかで,他者の健康を思いやる気持ちや他者の喜び,悲しみに共感する心が芽生えてくる.

運動と健康

著者: 池上晴夫

ページ範囲:P.17 - P.20

 運動と健康の問題を論ずるには,まず健康とは何かという問題からスタートし,健康をどうとらえるかという立場を明らかにしておかなければならない.

栄養と健康

著者: 伊藤雅治

ページ範囲:P.21 - P.25

■はじめに
 最近のわが国の疾病構造は人口動態統計による死亡原因,国民健康調査による有病率の他,受療率,国民医療費等からみて,循環器疾患,がん,糖尿病等,食生活と係わりの深い疾病が大部分を占めるようになった.
 厚生省は昭和53年度より,生涯を通じての健康づくりの推進,健康づくりの基盤整備,健康づくりの啓発普及を三本柱とする国民健康づくり対策を推進している.国民の健康的な生活の啓発普及を図るため,昭和60年に「健康づくりのための食生活指針」を策定し,昭和61年度には「健康づくりのための運動所要量」の策定検討委員会を発足させた.今回はわが国の国民栄養の問題点と,健康づくりのための食生活指針を策定するに当たって,基礎資料とした「疾病予防と栄養に関する検討委員会」報告についてふれたい.

休養と健康

著者: 梅澤勉

ページ範囲:P.26 - P.31

■これまでの休養,これからの休養
 病気から身を守ることが休養の目的であった時代は,疲労の回復=睡眠+休息=休養となる.この方程式は,生活が貧しく,労働時間は長く,筋力に頼る労働が多かった時代に通用してきた.しかし,この方程式がこれからの休養には通用しないということに読者はすでにお気付きのことと思う.これからの休養には多くの意義,目的,内容が含まれてくるからである.
 われわれの生活を時間と行動の二つの次元から分けると,睡眠,食事,家事,労働,テレビなどの行動と,それぞれのために消費した時間から生活の実態を分析することができる.また,技術革新の出現による生活の変化から,生活時間のなかで自ら自由に処分できる時間を労働時間と対比させて考えるようになってきた.労働時間が減少し,労働に消費されるエネルギー量も少なくなったことによって,生活時間のなかに占める自由に処分できる時間(以下,自由可処分時間と略す)は量,質ともに増大していくからである.しかも,自由に処分できる所得の増大は,自由可処分時間内の行動を充実させる大きな要因となる.

環境保健

著者: 廣田良夫 ,   廣畑富雄

ページ範囲:P.32 - P.37

■はじめに
 世界保健機関は"Health for all by the year 2000"の戦略の中で,開発途上国においては感染症及び寄生虫疾患が死因の中心をなしていること,先進国においては循環器疾患,癌,事故が死因の中心をなし,環境保健が重要性を帯びつつあること,このような先進国の様相は途上国においても工業化の段階で当てはまることを述べている1).また同戦略達成の鍵となるプライマリ・ヘルスケアの要素としては,食物と栄養の確保,安全な水の供給と基盤衛生施設整備,母子保健(家族計画を含む),地域的流行疾患の予防と対策,主要感染症に対する予防接種,通常の傷病に対する適切な医療提供,必須医薬品の供給をあげている2).従って開発途上国においては,主として健康問題の中心をなす感染症や寄生虫疾患の克服に環境保健の役割が期待され,先進国においては主としてman-madeの病因の克服に,環境保健の役割が期待されているといえよう.

乳幼児期の健康科学—子供のための新しい健康科学を求めて

著者: 織田正昭 ,   日暮眞

ページ範囲:P.38 - P.42

■はじめに
 近年,わが国は平均寿命が延び,男74.84年,女80.46年(共に昭和60年)と,事実上世界最長寿国の地位を得るに至った.この平均寿命の延びに寄与した因子はいろいろあろうが,"乳児死亡率の低下"が多大な貢献をしたことは否定できない.統計的にみても,昭和初期の乳児死亡率は出生1,000人当たり100以上であった(昭和1年137.5;10年106.7)が,昭和51年にはついに10を割り,現在では6をも割るに至った.この"乳児死亡率の低下"の原因としては,結核対策の成功,出生前診断にもとづく早期治療の開始,ワクチンや抗生剤による感染症の予防・治療法の普及,医療制度の改善,出生率の低下などが挙げられる.健康な子供はやがて健康な社会をつくり,社会的繁栄の礎となる.このように乳幼児期の健康状態は,そのまま一国の将来全体をも予測する重要な要素となる.
 ところで乳幼児の健康の保持・増進は,単に病気の克服という立場からだけでなく,健康にかかわる諸々の要素,およびそれらの因果関係をも考慮して,総合的にかつ積極的に求められなければならない.したがって例えば乳幼児の健康を扱う際,母親との関連を無視することは出来ないし,乳幼児の事故対策を乳幼児の立場だけからたてても決して有効ではない.

学校における健康科学

著者: 高野陽

ページ範囲:P.43 - P.47

■はじめに
 人は,すべて,健康で幸福な生活を営む権利を有している.この権利を,個々の人,または,集団としての人が如何に獲得していくか,そのために,何をすべきかを追究する学問や実践として,健康科学の領域があるものと筆者は解釈している.それを十分に有効なものとして活用できるためには,その対象となる「人」と,その人が生活している「場」を適切に把握する必要があり,さらに,その「人」や「場」における保健的意義を認識しておかなければならない.
 学校における健康科学を論ずる際,その対象は,いうまでもなく,学齢期や思春期の小児(以下,児童生徒と総称する)であること,その対象が学校という特定の場で生活していることを念頭におく必要があるが,この対象は,突如として湧き出てきたわけではない.生後,乳児期や幼児期を経て学齢期に達したわけであり,さらに,成年期から老年期へと人生は続いており,決して,その時期だけの断片ではない.また,対象の生活は,学校という特定の場に限定されたものではなく,家庭及び地域にも広がっていることも認識しておかなければならない.

職場における健康科学

著者: 橋田学

ページ範囲:P.48 - P.51

■はじめに
 人の長い一生涯のうち,大部分を占めるのは,図1に示すように職業生活であり,その保健活動である産業保健は重要である.
 この図において田中ら1)は,生涯の生活時間のなかでの基礎的社会集団(つまり,家庭や地域)と機能的社会集団(つまり,学校や事業所)における保健活動の配分を示し,職場は生産の場であり,地域や家庭は再生産の場であると述べている.

高齢者の健康科学

著者: 松崎俊久

ページ範囲:P.52 - P.57

■はじめに
 男74.84,女80.46年という世界一の平均寿命を達成したわが国は,当然の事ながら高齢人口の急増という課題に直面している.
 平均寿命の急伸の内容は,単に乳幼児や青年の死亡率の劇的な改善のみならず,高齢者をも含む全年齢階級ごとの死亡率の改善があり,しかも世界一低い死亡率を呈している.

疫学ワークショップ・2

エイズの疫学

著者: 松井利生 ,   山本直樹

ページ範囲:P.58 - P.62

●はじめに
 エイズ(AIDS)の存在は,アメリカの男性同性愛者という特定の集団に,カポシ肉腫やカリニ肺炎という稀な病気が発症することで初めて気づかれた1).AIDSはヘルパーT細胞の減少に伴う後天性の免疫不全症で,通常発病に至らない日和見腫瘍や日和見感染が発生し,高率に死に至る.
 当初,男性同性愛者や麻薬常習者,売春婦間で流行する特殊な疾患と考えられたが,上記のグループに全く関係のない血友病患者や輸血を受けた人にもAIDS患者が発生し,血液成分を介した感染症であることが次第に明らかになった.特に,血友病患者の感染源と考えられる血液の凝固因子はろ過し除菌されているので,ウイルスを原因とする疾患であることが想像されていた.

油症の疫学

著者: 倉恒匡徳

ページ範囲:P.63 - P.66

●はじめに
 昭和43年10月10日,「奇病」(油症)の発生が初めて報道され,当時大学紛争の最中であったが,私はその原因追求に止むなく従事することになった.今日はこの忘れえぬ体験を述べてご参考に供したい.調査の詳しいデータはすでに報告しているので1,2),ここではなるべく重複をさけ,必要なもののみを示すことにする.

がんの海外学術調査—中国との胃がん共同研究を中心に

著者: 青木國雄 ,   川井啓市

ページ範囲:P.67 - P.71

●はじめに
 がんのかなりの部分は生活環境と密接して発生するので,発がん環境要因を検討する一方法として,生活環境の非常に異なる地域間での比較がある.一国内の異なる地域での比較研究では共通の要因が多いので,できれば相違点の著しい外国との間の比較研究が期待され,それにより発がん関連要因をより容易に検出できると老えられてきた.
 1984年来,文部省は海外学術調査の一環としてがん特別調査を新たに設け,アジア各国を中心とする共同研究によって,がん研究を推進するという道を開いた.アジア各国では,すでに特定のがんの多発地区が報告1,2)されており,これらの地域の中には日本に比べ,より単純な生活を長年継続している地域住民が知られている.生活環境と関連する要因は比較研究により,より容易に検出される可能性が高く,その上,こうした住民のがんは,prototypeとでもいうべき特性を示す可能性があるので,発生機序を考える上にも好都合と考えられた.実際にはこういう条件が必ずしもすべて備わるわけではないとしても,得られる知見とわが国のがん特性と比較対比すれば,がんの予防上にも有用な知見が得られることが期待されたからである.

発言あり

お正月

著者: 安藤昭四郎 ,   川添善弘 ,   萩原康子 ,   村田篤司 ,   門奈丈之

ページ範囲:P.1 - P.3

1年の回顧と骨休めと
 「一年の計は元旦にあり」といわれるが,社会生活が複雑になり,その動きが急速になると,考えること,することも多くなる.
 私自身についていえば,年末に新聞,雑誌から一年間の出来事を回顧し,記録する.政治,経済,社会,国際のほか,社会保障,労働に分類する.一年間でけりがつかず,何年も持ち越す案件もある.老人の保健・福祉も一年のしめくくりはあっても,翌年に引き継ぐ問題が多い.

衛生公衆衛生学史こぼれ話

35.スノーとポット

著者: 北博正

ページ範囲:P.37 - P.37

 疫学を学ぶとき,最初に登場して来る人物はスノー(John Snow,1813〜1858)とポット(Sir Percival Pott,1713〜1788)の2人の医師であろう.
 スノーは1854年のロンドンのコレラ流行時に疫学的手法を用い,コレラが伝染病であること,また水によって媒介されることを認めた.これはコッホ(Robert Koch,1843〜1910)のコレラ菌発見(1883)よりも30年も前のことである.スノーはコレラによる死亡者が発生すると,地図上の該当地点に印をつけていくと,ある特定の井戸の周りに印が集中することを認めた.これはブロード・ストリート(Broad Street)という地区で,ここの共同井戸が問題になった.さらに問題の井戸と隣接の共同井戸間の等距離線を画いてみると,死亡者の大部分が問題の井戸の水を飲んでいることが明ら,かになった.また当時は結婚,出生,死亡等の戸籍は教会に届けられていたが,このコレラ多発地区の属する聖ジェームス(St.James)教区では,1851年の人口が36,406のところ,死亡率は人口10万対220で,他の教区で9〜23であるのと比べると,格段に高率であった.

日本列島

がん検査受診者の頻度と傾向—岐阜

著者: 井口恒男

ページ範囲:P.7 - P.7

 がん死亡が死因の第1位となり,また老人保健事業が開始して4年経過しているが,がん対策はますます重要な課題となっている.国のがん対策は5本の柱を基に推進されているが,なかでも早期発見,早期治療としての保健診断は,今後とも基本施策であることは疑いないものと思われる.老人保健法では胃がん検診,子宮がん検診,さらには肺がん,乳がんの検診も制度化されようとしているが,検診の受診率は一向に増加していないように思われる.
 岐阜県では宝くじ益金をもとに,市町村のがん検診啓蒙普及事業が行われている.この事業の中でがんの検査受診状態についての調査が行われているが,昭和60年度の調査結果の概要がまとまった.老人保健事業の対象となっている胃がんと子宮がんについて,県下18市町村の40歳以上(子宮がんでは30歳以上)の住民について,市町村ごとに無作為に抽出され郵送法等により調査票が配布,回収された.胃がん,子宮がんとも8割以上の回収率となっているが,回答者の6割以上が60歳未満である.

食中毒患者の診定をめぐって—尼崎市

著者: 山本繁

ページ範囲:P.12 - P.12

 食品衛生法(第27条)は医師のみに(食)中毒患者等の届出を義務づけている.これは患者の診察,死体の検案といった医行為の延長線上に届出を位置づけているためであろう.
 ところで,現実の食中毒事件を調査していると,その届出のない有症者等に遭遇することはしばしばであり,その取り扱いに苦慮するものである.

医療資源の共同利用—岐阜

著者: 井口恒男

ページ範囲:P.16 - P.16

 近年のめまぐるしいハイテクノロジーの進展に伴い,医療機器も高度化・高額化しているが,一般医療機関が次々と最新医療機器を整備することは容易でないし,経営を度外視した整備は過剰医療にもなりかねず,好ましい医療を期待し難い.
 岐阜県飛騨地域では従来より保健医療対策協議会を設置しているが,57年末に医療資源共同利用専門部会を設け調査研究を進めてきたが,61年その検討結果をまとめているので概要を紹介したい.

交通死亡の統計—岐阜

著者: 井口恒男

ページ範囲:P.42 - P.42

 岐阜県では交通安全の推進の一つとして県民大会を実施しており,61年度は4月の春の交通安全運動にあわせて開催されている.
 交通安全の上での統計資料としては警察庁のものが利用されているようであるが,死亡事故については発生後24時間内の死亡が集計されている.今回の大会においても,警察統計が使われているが,人口動態統計の死亡と対比してみた.

基本情報

公衆衛生

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1170

印刷版ISSN 0368-5187

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