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雑誌目次

雑誌文献

公衆衛生51巻2号

1987年02月発行

雑誌目次

特集 老人保健法—4年が経過して

老人保健制度の現状と課題

著者: 小野昭雄

ページ範囲:P.76 - P.84

■老人保健制度の現状
 昭和57年8月に成立し,昭和58年2月に施行された老人保健法は,①壮年期から予防,治療,リハビリテーションに至る総合的な保健医療サービスを提供する,②一部負担の導入,一定割合の公費負担と医療保険の共同拠出により老人医療費の負担の公平化を図る,ことを目的としたものである.このため,「医療」と「医療以外の保健事業」(いわゆる「ヘルス事業」)を行うこととされており,その実施主体はいずれも市町村とされている.
 老人保健法施行後,老人医療費の伸びは落ち着き,保健事業も着実に市町村行政に定着し,制度創設の目的は一応達成した感があった.

老人保健の展開のために—神奈川県の実態と問題点

著者: 榊原高尋

ページ範囲:P.85 - P.89

■はじめに
 老人保健法が制定され施行されてはやくも4年たった.この間にいろいろと問題点はあったにせよ,全国各地で着実に実績は上がっているものと考えられる.
 神奈川県下の状況についてその概況を述べ,今後の対策など考えることとする.

高知県における保健事業の現状と問題点—一般健康診査の標準化への試み

著者: 石川善紀

ページ範囲:P.90 - P.94

■はじめに
 本稿では高知県における一般健康診査の取り組みを中心に,老人保健法施行後の問題点を述べてみたい.
 高知県は人口84万人,面積7,100km2で四国南部を扇状に広がる山間部と長い海岸線を持つ県である.本県は脳卒中死亡率がほぼ毎年全国第1位,標準化死亡比も西日本第1位と高いこともあり,脳卒中対策が重要視されてきた.産業構造も第1次産業中心で,労働,生活習慣,自然環境等に脳卒中の発症要因が数多く存在している.このような中で,地域での脳卒中対策のモデルとして昭和44年より,県中東部の野市町において,筑波大学,大阪府立成人病センターの指導協力で脳卒中予防活動が開始され,その結果,地域レベルでの脳卒中予防が可能なことが明らかにされた.

仙台市における保健事業の現状と問題点

著者: 加藤邦夫

ページ範囲:P.95 - P.100

■はじめに
 老人保健法が昭和57年度に施行され,保健事業の第一次5ヵ年計画が昭和61年度で終わり,第二次の5ヵ年計画が本年4月から開始されようとしている.この時機に仙台市において,保健事業がどのように展開され,また市民がこれをどのように自らの健康づくりに活用したのか,昭和57年度より60年度までの実績に基づいて展望し,問題点を集約してみたいと思う.

老人保健事業と保健所の取り組み

著者: 多田羅浩三

ページ範囲:P.101 - P.107

■はじめに
 老人保健事業の第1次5ヵ年計画もいよいよ最終年を終えようとしている.この間の成果については各種事業の実施率あるいは健康診査受診率の向上,また事業の基盤整備などの面で大きな評価を受けていることは周知の通りである.それだけに,老人保健事業の実施主体は市町村であるということが法によって定められてはいるが,事業の推進に対し保健所の果たしている役割もまた極めて大きなものであったと思われる.本論ではそのような認識のもとに筆者らが今春,全国の都道府県立保健所を対象に行った「中高年者の健康管理に対し保健所の果たしている役割についての調査研究」の結果の大要を紹介し,老人保健事業の推進と保健所の取り組みについて若干の考察を加えてみたい.

老人保健法と医師会の対応—医療以外の保健事業の展開を中心に

著者: 坪井栄孝

ページ範囲:P.108 - P.113

■はじめに
 現行の老人保健法は昭和57年8月17日に公布されたが,実際に全国的に施行されたのは昭和58年2月1日であるから,満4年を経過したことになる.老人保健法が誕生した経緯は今更述べる必要もないが,高騰する医療費の伸びに歯止めをかけようとする国の施策であり,とくに増加のはなはだしい老人医療費の節減が目的であることには間違いない.この法案が最初に国会に提出されたのは昭和56年5月15日である.当然それ以前から種々論議はされており,当時の日本医師会の対応については「老人医療に関する日本医師会の考え方」,「老人医療の緊急具体化項目について」などで具体的にみることができる.駄足ながらその内容をみると,今回の保健事業第2次5ヵ年計画に打ち出されている諸項目が,すでに当時そのまま盛り込まれておりはなはだ複雑な思いがする.
 ともあれ,はじめて国会に提出されてから何回か修正が加えられつつも審議が継続されたのであるが,当時の日本医師会の対応は,①支払方式の2本建てに反対し,②出来高払い制を堅持する,③老人医療機関は新設しないこと,の3点にしぼられ,自民党幹部との話し合いでは了解が得られ,実質的には廃案になったごとく執行部は考えていた.

老人保健の展開と問題点—神奈川県愛川町の場合

著者: 馬場進太郎 ,   猫田泰敏

ページ範囲:P.114 - P.118

■はじめに
 愛川町は神奈川県の中央北部に位置し,東は相模川を隔てて相模原市,南は厚木市に接している.面積は34.11平方キロメートル,人口35,651人(昭和61年4月現在)である.豊かな自然に恵まれ,伝統のある繊維関係産業と農業に加え,工業団地が完成して県央の中核的産業都市として躍進を続けている.
 本町は従来より「健康」と「福祉」を重点施策として積極的な取り組みを行ってきている.近年の成人病への対策も活発に実施しており,昭和58年2月の老人保健法の施行に当たっては,住民の健康状態や各種保健事業対象者の把握のための実態調査および老人保健データバンク事業などをいち早く打ち出し,先進的に地域に密着した対応を進めている.本稿においては,本町でのこれまでの老人保健の取り組みや現在の状況と問題点,これからの進め方などにつき報告したい.

老人保健法施行4年の実態

著者: 柳川洋 ,   坂田清美

ページ範囲:P.119 - P.124

■はじめに
 老人保健法が施行されて以来4年が経過した.本法の特徴は疾病の予防,治療,リハビリテーションを一体化し,市町村を実施主体としたことである.
 高血圧,脳卒中,がんなどの慢性の経過をたどる成人病対策の理想的な姿は,できるだけ住民と密着した形でサービスが提供され,疾病自然史の全過程が一つの連続した流れとして,とらえられることである.その意味からも老人保健法の意義は大きい.

老人保健事業の評価方法と評価のあらまし

著者: 安西定

ページ範囲:P.125 - P.132

■はじめに
 老人保健法が昭和57年8月に制定され,多くの課題を抱えつつ翌58年2月から全面的に施行されて,早くもまる4年が経過した.この間における公衆衛生・医療関係者や福祉等関連分野の人達の努力は並々ならないものがあったことは,万人の認めるところである.また,老人保健法の目的は,国民の老後における健康の保持と適切な医療の確保のために,疾病の予防,治療,機能訓練等の保健事業を総合的に実施し,国民保健の向上および老人福祉の増進を図ることとされている.そしてその内容は,中高年を対象とした成人病予防法の性格に合わせて,医療費の抑制と老人医療費支給制度の再編成の目的をもつものと解されている.従って,老人保健法は高齢化社会を迎えるなかで,保健・医療をはじめとして保険・福祉等社会保障全体にわたって大きな影響をもたらすことが予想されている.
 さらに一方では,公衆衛生・医療をめぐって,急速な高齢化社会の到来,疾病・健康観の構造的変化,行財政事情,日進月歩の医学・医療等々の諸情勢を迎えて,老人保健医療を含めた新しい展開が要請され,これらにふさわしい包括的なシステムの構築の努力が続けられているところである.

講座

ライフスタイルと健康—1.身体的健康度と精神的健康度

著者: 森本兼曩

ページ範囲:P.135 - P.143

はじめに
 ライフスタイルという用語は,Max Weberにより最初に概念化された.Max Weberは,人々がその社会的な生産階級あるいは生活のレベルなど,社会経済的な背景に応じて幾つかの階層に分類され,その階層ごとに特徴的な生活の様式を持つ事を発見して,これをライフスタイルと概念づけた.その後,このライフスタイルの概念はヴェブレンにより,集団のレベルにおける具体的な社会的行動として規定され,現在のこの用語の社会化に大きな役割を果たしてきたと考えられる1).今,ライフスタイルという用語は,個々人の具体的な日常生活習慣を表すと共に,より抽象化された個人の生き様や,健康に対する考え,思考等,その個人の健康意識やひいては人生観とも言うべきものを表現する用語として用いられている.
 本講座では,主として前者,具体的な生活習慣を表す用語としてライフスタイルを用いるが,後に述べるように,個々の日常の生活習慣は,幼少期から,家庭を中心とした社会環境で醸成された個々人の健康意識や人間観の具体的な現れとして見るべき要因が多く,その意味では,これら二つの一見相異なるような用語の用い方自身が,一人の人間の,外的表現とその内なるものを表現する相補的な概念用語として規定する事が可能であろう.

発言あり

受益者負担

著者: ,   ,   ,   ,  

ページ範囲:P.73 - P.75

不十分なアメニティ
 受療率を年齢階級別にみると最も高いのは80歳以上の人口10万当たり21,275であり,最も低いのは15〜19歳の2,598である.20歳以後加齢と共に受療率が高くなるのは当然として,それに付随する医療費の増加が,最近かしましく取り上げられるようになっている.
 さて,国民医療費の増加の主な要因は,人口増や人口の老齢化による疾病構造の変化,また老人医療無料化や高額療養費制度の導入等により,経済的に医師の治療を受けやすくなったための患者の増加,および医療技術の高度化による診療内容の変化などがあげられている.

衛生公衆衛生学史こぼれ話

36.コレラの伝播速度

著者: 北博正

ページ範囲:P.89 - P.89

 19世紀はコレラに悩まされた時代で,コレラ菌発見以前にはなんとも手の施しようもなかった.私の愛蔵する下記の書物に,コレラの伝播速度について面白い記載があるので紹介しよう.
 Samuel Henry Dickson, MD,LLD:Dickson's Elements of Medicine,増補2版,pp. 768, Blanchard and Lea, Philadelplria, 1859.

ぷりずむ

国鉄再建と医業経営

著者: 園田真人

ページ範囲:P.134 - P.134

 いま,国鉄の再建問題が注目されている.戦前から戦後まもないころの国鉄は毅然として動き,頼もしい存在であった.それがどうして,膨大な赤字をかかえて息たえだえになったのであろうか.第一には,政府,国鉄幹部のリーダーシップの欠如があげられるが,ストライキに専念してきた国鉄労組にも一部の責任がある.
 だが,管理者が悪かった,労組が悪いといっている場合ではなく,いかにして再建に成功し,国民の足を確保するかということが急務である.国鉄労組の執行部が労使共同で再建しようという姿勢をみせたことは評価したい.これを否決した一部の人たちには,「では,どういう方法で再建しようというのだろうか」とお聞きしたい.「あくまでも闘いぬこう」「国民の財産である国鉄を守ろう」といったビラが,私の家の前にはられているが,どれだけの国民が賛意をもっているだろうか.

ニュース

老人保健法改正の概要

ページ範囲:P.94 - P.94

 老人保健法の改正案は昨年12月19日の国会で可決,成立し,12月22日公布,62年1月1日より施行された.今回の改正には,参院社労委で十数項目にわたる付帯決議がなされたが,改正の概要と付帯事項は下記の通り.

老人保健施設モデルの実施

ページ範囲:P.118 - P.118

 厚生省は老人保健法の改定により「老人保健施設」が制度化されたことを受け,早急にこのモデル事業の実施に着手する.モデル事業の実施概要は次の通りで,1月末にはモデル施設の指定,告示が行われる予定.なお,61年度予算では10ヵ所程度の経費が計上されている.

基本情報

公衆衛生

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1170

印刷版ISSN 0368-5187

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