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雑誌目次

雑誌文献

公衆衛生51巻3号

1987年03月発行

雑誌目次

特集 胃癌—その知識と対策のために

胃癌の疫学

著者: 久道茂 ,   小松正子

ページ範囲:P.148 - P.154

■はじめに
 わが国は世界有数の長寿国であるが,胃癌死亡率は世界で最も高い.胃癌は古くから日本人のもつ謎であり,大敵であり,かつ現在においても公衆衛生上の重要な課題の一つである.ここでは胃癌の疫学について,本特集の主旨も踏まえて,現在わかっていること,これからしなければならないことなどを述べたい.

胃癌の診断と治療—現状と将来

著者: 舩冨等 ,   八田善夫

ページ範囲:P.155 - P.159

■はじめに
 胃癌に限らず癌診療の基本は早期発見,早期治療であることはいうまでもない.幸いわが国においては,胃集団検診,人間ドックが広く行われており,国民の胃癌に対する関心の向上とともに,その発見数も増加しつつあると考えられる.しかし,発見された胃癌が必ずしも根治可能なわけではなく,進行癌症例が多く含まれていることも事実である.したがって本稿では,診断に関しては,早期診断における諸問題,工夫を中心に,また,治療に関しては進行癌あるいは,手術不能の症例に対する治療を中心に述べてみたい.

胃癌の病理

著者: 廣田映五 ,   滝沢千晶 ,   金秉琪 ,   板橋正幸 ,   上坂克彦 ,   大津敦

ページ範囲:P.160 - P.168

■はじめに
 近年胃癌の診断法の進歩は,とくに形態学を基礎とするX線,内視鏡の発達は目覚ましいものがある.最近では5mm以下の微小胃癌を発見することも,さほど難しいことではない.しかし,一部の施設を除いては,切除胃癌例のなかで早期胃癌より進行胃癌の症例がまだ多いのが,一般的である.本院でも国立がんセンター開設以来1985年12月までの24年間に外科手術された胃癌は5,009症例である.このうち早期胃癌は,1,627症例,32%で,残りの68%が進行胃癌である.
 胃癌研究会で行われている全国胃がん登録の症例も膨大なものとなり順次集計報告されている1).この間わが国の高齢社会化傾向が次第に進み,公衆衛生学の分野でも高齢者の胃癌に注目されるようになってきた.そこで,本院の症例と全国胃がん登録症例27,100例の手術例胃癌と対比しながら,年齢・性,肉眼・組織型などの形態分類を中心に,代表的な症例と統計的事項を呈示し,形態学的特徴と組織発生などについて若干の新知見を述べる事とする.

胃癌の初発症状とその意義

著者: 春日井達造

ページ範囲:P.169 - P.176

■はじめに
 胃癌の自覚症状は不定で,その早期には一般に軽微で無症状,無自覚のこともあり,これが早期発見の遅れる原因の一つとされている.しかし,病変が進行するに従って,なんらかの臨床症状を表すことは周知のことである.もちろん,病巣の発生部位,大きさ,潰瘍化の有無,狭窄の有無,程度,転移の有無,状態,出血の有無,程度などにより相違があり一様ではない.病巣が噴門に近接しておれば比較的早期につかえ感が現れ,幽門癌では早晩通過障害をきたし,胃部膨満感,悪心,嘔吐など幽門狭窄の症状を表す.疼痛は最も多くみられる自覚症状であるが,周囲臓器への癌転移により激しさを増す.
 胃癌の臨床症状については成書1〜3)にも種々記載されているが,ここでは私どもが経験した胃癌症例についての検討成績4)を述べるとともに,文献的考察を行う.

胃集検の目的と意義

著者: 渕上在彌

ページ範囲:P.177 - P.182

■胃癌の予防
 本邦における癌死の中で,男女共に最も多い胃癌死を減らすための予防対策としては,図1の久道1)の図に示すごとく,1次予防(発生の予防)と2次予防(進展の予防)の二つがある.
 すなわち,もし健康な個人が,加齢と共に胃癌死すると仮定した場合,それを防ぐためには,まず胃癌に罹患することが避けられるならば,これに勝ることはない(1次予防).しかし不幸にして胃に発癌したとしても,転移の少ない早期胃癌の時期に発見し,手術したならば,これまた永久治癒が期待されるのであり,癌死から免れることができる(2次予防).

胃集検の精度管理と事後管理

著者: 宮下美生

ページ範囲:P.183 - P.189

■はじめに
 日本消化器集団検診学会関東甲信越地方会(世話人代表市川平三郎)は,昭和58年9月に,「胃集団検診の精度管理指針」を発表し,これは同年11月14日の日本消化器集団検診学会理事会(於大阪)において,同学会の精度管理指針として承認された.つまり,この精度管理指針は,厚生省公衆衛生局老人保健部長通達(昭和58年1月26日衛老第15号)による保健事業実施要領に示されている「検診実施機関は,常に日本消化器集団検診学会の定めた精度管理を行わなければならない」に該当する指針となったわけである.
 以来,胃集検の分野でも,「精度管理」という言葉がしばしば用いられるようになった.このことは,「指針」作成に参加した私どもにとって,大変うれしいことであるが,胃集検における精度管理の概念や内容は,まだ十分に成熟したとはいえない面もあり,使い手によって多少の混乱もあるように見うけられる.ここでは精度管理に対する私どもの考え方を述べ,なかでも中心をなす「組織の精度管理」において欠くことのできない事後管理の重要性について言及したい.

川崎市における胃がん検診の現状と評価

著者: 吉田貞利

ページ範囲:P.190 - P.196

■はじめに
 川崎市におけるがん対策は昭和36年県の補助事業として事業化された「がん相談事業」がそのはじまりであるが,本格的にがん対策事業として開始されたのは,昭和41年4月に川崎市がん検診センターが設置されてからのことである.
 本市のがん対策の基本的な考え方としては,市民に対し「がん」の啓蒙普及活動および受診希望者の把握などの業務は各保健所が担当し,実際の検診業務はがん検診センターが行い,これらの連絡調整は衛生局が行うという三者のチームワークによる検診体制をしき,一次検診(集団検診)からそれに続く二次検診(精密検診),そして事後管理に至るまで徹底して行う一貫した検診システムである.そしてすでに20年もの実績を作り上げ,市民生活のなかに浸透し,がん撲滅のために貢献してきている.

胃癌と栄養・食事

著者: 加藤育子 ,   富永祐民

ページ範囲:P.197 - P.202

■はじめに
 食物は,Wynder1),Doll2)などが推計するように,癌に対する環境性の危険因子の中で,最も重要な位置を占めていると考えられる.胃は,摂取された飲食物が最初に貯留する場所であるため,その発癌に食物が大きく関与しているのではないかということは,古くから,推測されてきたことである.日本において胃癌は,なお最も頻度の高い癌であるが,その訂正死亡率は,1960年頃より低下を示してきている.また,アメリカ合衆国においても1930年以後,胃癌死亡率は急激な低下を示し,現在ではまれな癌となっている3).このような変化の理由は明らかではないが,食生活の変化によるところが大きいと推測されている.

胃がんに対する行政施策

著者: 小野昭雄

ページ範囲:P.203 - P.210

■老人保健法施行までの取り組み
 成人病に対する行政的な対応が始まったのは,昭和32年に厚生省に設置された「成人病予防対策協議連絡会」が,成人病の実態調査,医療施設の強化,専門技術者の養成の必要を指摘したのに始まる.これに基づいて,昭和33年,35年,38年,54年に悪性新生物実態調査が実施された.また,昭和37年に国立がんセンターが設立された.
 昭和40年12月には,政務次官会議がん対策小委員会で「がん対策の推進について」の決議がなされ,がん対策の主要項目として,次にあげる「がん対策の5本柱」が確立され,がん対策の充実が図られることとなった.

発言あり

単身赴任

著者: ,   ,   ,   ,  

ページ範囲:P.145 - P.147

単身赴任の機会を生かそう
 水ぬるむ春を迎える.この季節になると新しく就職する人,転勤する人,その中には単身赴任する人々もいる.昭和60年人事院発表の「国家公務員転勤実態調査」によれば,家族を持つ勤務者の4人に1人が単身赴任といわれている.さらにはますます進む国際化社会において,海外への単身赴任を合わせると,その数は増加の一途をたどることが予想される.最近では,大都市東京・大阪・名古屋・札幌等への単身赴任が多く,"札チョン","博チョン" なる新語も生まれている.
 昨秋福岡で,新聞の地方版で見たのであるが,単身赴任者の集いが結成され,その共通した悩みや問題点を語り合ったり機関紙も発行されているという.

論考

「望まない妊娠」について

著者: 吉村寿博

ページ範囲:P.211 - P.213

○はじめに
 「望まない妊娠」の問題,即ち,避妊法,あるいは人工妊娠中絶をめぐる事柄は,人類にとって永遠の問題である.現在においても,避妊を確実に行うのは,実際問題として容易ではない.
 わが国においては,昭和58年,出生数約151万,自然死産数(妊娠12週以降の死児の出産)約4万に対して,優生保護法による人工妊娠中絶数は約57万となっている1).これは,昭和30年の117万人をピークに次第に減少してきてはいるが,最近減少傾向は頭打ちで,これ以上の減少はあまり期待できず,公衆衛生上無視できない数である.またこの問題は,現在検討中である低エストロゲン含有経口避妊薬の解禁を控え,また,新しい堕胎薬や妊娠早期診断薬の開発,あるいは,異常妊娠,医療事故などに対する患者の欲求の増大,婦人の経済的自立等の社会的変化ともからみ,ここで再度考えておく必要がある.

調査報告

宮城県における市町村のがん対策に関する一調査

著者: 清水弘之 ,   西郡光昭 ,   久道茂

ページ範囲:P.215 - P.218

●はじめに
 がん制圧のためには,基礎から治療に至る各分野での研究の必要なことは言うまでもないが,その実践応用としてのがん予防ならびにがん検診もまた重要である.事実,全国の各市町村は,がんの集団検診,がんに関する知識の普及など様々な形で,がん対策を行っている.今回,私どもは,今後のがん対策推進のための基礎資料にするため,宮城県の市町村を対象に,がん対策の現状と将来の展開方向について調査した.

衛生公衆衛生学史こぼれ話

37.黒球寒暖計の考案

著者: 北博正

ページ範囲:P.196 - P.196

 1932年,英国のバーノン(H.M.Vernon)は黒球寒暖計という計器を考案・発表した.これは厚さ0.5mmの銅板で直径6インチの中空の球を作り,その一部に寒暖計を固定する口がついている.これは国旗を掲げるとき,旗竿の先端につける金色の球とよく似ている.高温職場で熱中症を予防するためのもので,黒球温(黒球寒暖計の中心部の温度)と気温との差から,輻射熱の強さを測る簡単な計器であるが,実用的価値は十分にあり,最近ではマラソン等を夏季に行う際,日射病の予防に使われているが,どの程度理解して使っているのかわからない.
 この計器は早速わが国にも輸入され,一方,錺屋が腕を振るって模造品を作ったが,直径が6インチなのはなぜなのかわからず,論議が交わされた.結局,御本人に照会したところ,何と水洗便所の貯水槽(天井に近いところにとりつけられている)の止水弁を働かすための浮子であって,当時の英国で最も大量に使われたもので,外側につや消しの黒色塗料を塗ったという.ただ身近のありあわせの物を利用したに過ぎないことがわかった.

ぷりずむ

あと始末

著者: 園田真人

ページ範囲:P.214 - P.214

 衆議員,参議員同時選挙が終わってから半年になるというのに,色あせた候補者のポスターが電柱に残っている.とくに,落選した候補のポスターが多い傾向があるのは「あとは野となれ山となれ」という日本の諺があるように,自分の行為に対する責任を放棄して,どのようになっても気にしないという,日本民族の特性が表れている.そして,試合が終わったあとの観覧席のゴミは散乱しており,公衆便所の汚れかたをみても,乱雑きわまりない場所が多くみられることなど,あと始末をするという習性が欠如しているのではないかといわれても仕方がない.
 電柱に残っている色あせた候補者のポスターをみると,昭和60年1月,心筋梗塞のため62歳で亡くなられた田中六助さん(自由民主党幹事長)が初めて立候補したときのことを思いだす.六さん(北九州の人たちは今でもこの愛称で呼んでいる)は,昭和35年の衆議院選挙に立候補したが7位で落選した.ほとんどの落選候補があとは野となれになりやすいのだが,私は,支持者の家を一軒ずつ,「お世話になりました,有り難うございました」といって回られた六さんの爽やかな姿を記憶している.それから3年後の選挙で当選し,数々の要職につかれ,めざましい活躍を続けられ将来が期待されたのだが,政治家としてはこれからという時に惜しくも亡くなられた.

日本列島

住民の自覚症状と健康づくりの実行頻度—仙台市

著者: 土屋眞

ページ範囲:P.154 - P.154

 仙台市衛生局では毎年,(社)仙台市衛生団体連合会の地区衛連(衛生連絡会)の地域単位に重点地区事業を住民と共に行っている.事業計画は自由であり,東保健所管内(人口約15万)では事業の一つとして地区把握資料としてのアンケート調査を10地区衛連地域に行ってきた.
 これをみると,自覚症状を始めとする細かな頻度が,各地域であまりに類似していることに驚かざるをえない.それだけ行政に期待し真面目に書いて頂けているためと思う.頻度そのものも大切な指標であるので表に示した.

よみがえった梅田川21年のあゆみ—仙台市

著者: 土屋眞

ページ範囲:P.202 - P.202

 東部および北部両地区の梅田河川浄化運動20周年の記念式典が,さる昭和60年8月に行われてから,はや1年以上が過ぎた.記念誌が発行され,それまでの経過も細々とまとめられていて胸を打つものがある.
 東保健所の所長室の壁には,お預りした河川環境浄化に関する表彰状が並んでいるが,61年になって更に建設大臣,厚生大臣,知事からの表彰が加わり,高く評価されていることは喜ばしい.

看護教育の将来—岐阜

著者: 井口恒男

ページ範囲:P.213 - P.213

 東海地方は関西地方や関東地方と並び,看護婦確保の困難な地域となっており,給与水準が民間に比べ低い公立病院ではより深刻な状況にある.供給をはるかに上回る需要により,各病院とも看護婦数の一割以上の新陳代謝がみられ,供給過剰気味の九州,四国方面と比べ,看護婦の平均年齢にも差があるように思われる.
 ところで看護婦養成は,中学卒以上を対象とした2年課程の准看護婦と高校卒以上ないし准看護婦を対象とした2〜3年課程の看護婦の養成となっているが,専修学校他各種学校としての職業教育によるものが多い.岐阜県においては14校の准看護婦養成施設(2高校の衛生看護科を含む)と,高校卒後3年課程(一看)6校,准看護婦対象の2〜3年課程5校(1校は一看と同施設)計24施設で養成されているが,いずれも専修学校他各種学校であり,大学はない.

基本情報

公衆衛生

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1170

印刷版ISSN 0368-5187

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