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雑誌目次

雑誌文献

公衆衛生51巻4号

1987年04月発行

雑誌目次

特集 思春期

思春期保健の動向

著者: 林謙治

ページ範囲:P.224 - P.229

 ここ10年の間に社会情勢も大きく変容を遂げ,これに伴い公衆衛生上の課題にも大きな変化が見られた.例えば人口の高齢化,医療費の膨張から老人保健はかつてないほど重要なテーマとなり,これを受けて老人保健法が施行されるに至っている.一方,母子保健についても乳児死亡率が千対5.5までに下がり,世界に冠たる成果を築き上げた昨今であるが,このレベルを維持するための発想や母子保健対策の質的変換を図るべき対応が練られている.更に精神衛生の分野も近年大きくクローズアップされ,新たな対応が迫られている現状である.
 結核など感染症を中心とした保健活動から,その後,環境汚染への取り組みへと移り,現在では「ケア」,「精神衛生」をコアとする対人保健にシフトするに至っている.また経済大国に発展したわが国の国際的責務から,近年政府開発援助(ODA)が著しく重要視され,その一環として開発途上国への感染症・母子保健対策の技術協力,中開発途上国を中心とした環境問題への対応協力など国際保健の確立が目指されている.

学校における性に関する指導

著者: 徳永保

ページ範囲:P.230 - P.231

■性に関する指導の基本的な考え方
 学校教育における性に関する指導は,人間尊重の精神に基づいて,人間の性および男女の人間関係の在り方などについての正しい認識を持ち,性に関する知識を科学的に理解するとともに,それらに基づいて青年期にある人間としてふさわしい態度や行動を取れるようにすることを目標として行われている.各学校においては,学習指導要領に定めるところに従い,地域や学校の実態に応じて,保健体育,家庭,道徳,特別活動などの教科や領域を中心に,学校の教育活動全体を通じて行われている.
 しかし,最近の生徒の性意識や性行動の実態や,これらの背景にある家庭や社会の状況を考えると,学校における性に関する指導の充実,特に生徒指導における性に関する指導を充実する必要が高まっている.

十代妊娠の実態と対策

著者: 小平良貞

ページ範囲:P.232 - P.238

 近年,身体的あるいは社会的環境などの影響によって,性の早熟化,性経験の低年齢化傾向が見られるといわれ,このための性非行や十代妊娠の増加などが識者の重大な関心事になっている.
 その中で,特に十代妊娠は大多数が未婚,就学中であり,人工妊娠中絶をせざるを得なくなるケースがほとんどで,更にまた中絶時期を失して「望まざる出産」となる場合も多い.これら十代妊娠の中絶や出産が,その後の生涯にわたって,肉体的あるいは精神的ハンディキャップとなって,健康を阻害することは,個人はもちろんのこと,国家社会にとってもはなはだ寒心に耐えないところである.

若年妊娠と家庭問題

著者: 片山和子

ページ範囲:P.239 - P.245

 いつの時代にも子どもたちは年ごろになると内から名状し難く沸き上がってくるエネルギーにつき動かされ,たじろいできました.思春期です.性の目覚めが生命感となって外にあふれ,同時に心の奥底まで目を向けようとする内向性も育っていく時期.異性に対して,強い関心と羞恥心が同居し,大人と子どもの狭間で自分をもて余しながら,試行錯誤していく時期でもあります.今までの自分の物差しでは計れない初めての経験に,時に深く傷つくこともありますが,それも純粋さゆえ,といやされて来ました.
 ところが,この思春期を自分のものとできない子どもたちがいます.彼らは様々な大人の事情の犠牲となったり,"本人のための受験戦争"という名目のために,思春期に表面化するものは管理され,目をつぶらされ,封じ込めようとまでされ,思いっきり大人になるチャンスをつかめないまま時を過ごしていきます.

思春期の精神衛生問題へのアプローチ

著者: 光元和憲

ページ範囲:P.246 - P.252

 心理的問題を抱える思春期の子どもにかかわってきた経験から,子ども本人にかかわる際に気をつける点と,筆者がここ数年取り組んできた家族療法的視点から見えて来る子どもと家族の関係とについて述べてみたい.

思春期の発達と家族の関係—米国における研究から

著者: リンダ・ベル ,   デビッド・ベル

ページ範囲:P.253 - P.257

 思春期によく見られる問題の多くは,思春期というものは家族システムの一部であると考えると,よく理解できるし治療しやすい.米国における思春期の発達に関する研究は,思春期の子どもを家族内に位置づけて考えることの重要性にますます焦点を当ててきている1).思春期の子どもを対象とする臨床に携わっている人々も,より効果的な治療を提供するために,家族そのものを扱うようになってきている2).家族療法は家族全体のなかの個人に焦点を当て,個人の行動は一つの組織システムの一部であり,家族メンバーひとりひとりの感情,思考や行動は他のメンバーの感情,思考,行動と複雑に関係し,互いに補足しあっているとみなしている1).したがって家族メンバーの一人の行為は他の全員の行為に影響を与える.このように,思春期の子どもは家族全体から影響を受けると同時に,家族に起こるプロセスや変化に影響を与えている.
 思春期の少年少女は家族の中で理解するためには,家族の構造と家族のコミュニケーションプロセスに焦点を当ててみるとよい.家族の構造(例えば,誰が誰と親密で,誰が力をもっているか)は,多くの思春期の問題を理解する上で重要である.家族のコミュニケーションプロセス(メンバーが互いにどう語りかけるか,また互いに傾聴しあう,理解しあう,認めあう能力はどうか)も重要である.

身体障害者の思春期問題

著者: 穐山富太郎

ページ範囲:P.258 - P.262

 現代社会は便利な生活をもたらした文明の進歩と裏腹に,子どもや青年が本質的に求める大自然の生活環境を破壊しつつある.いわば,大人の生活ペースに振り回され,子ども本来の生活ペースは掻き乱されている.このことは子どもの生活リズムの実態をみても一目瞭然としている.日の出とともに目を覚まし,日暮れとともに眠りにつく人間古来の自然の営みが,テレビ,電気炊飯器,自家用車などの影響か,遅寝,遅起きの習慣により大きく乱され,成長期にある子どもの睡眠リズムにまで影響を及ぼしている.氷室7)らによると,3歳児で起床時間は29%が8時以降,就寝時間は44%が10時以降と極端な遅寝,遅起きの睡眠パターン(夏期の調査)となっていて,改めて驚かされる.遅寝,遅起きの睡眠パターンは子どもの食生活や遊びにまで悪い影響を与えることになる.
 また,夫婦共働きや片親家庭の増加に伴う鍵っ子問題をはじめ,不健全な社会環境は子どもの発達過程で健全な成長の阻害因子となっている.

地域における思春期保健活動

著者: 伊藤桂子

ページ範囲:P.263 - P.271

 昭和40年「母子保健法」が公布され,その翌年厚生省児童家庭局長通知として「母性,乳幼児の健康診査及び保健指導に関する実施要領」が出されている.その中には妊産婦や乳幼児への対策に先んじて,未婚期の母性保健としての方針,健康診査,保健指導の必要性が,思春期前後を対象として掲げられている.
 これを契機とし,全国各地で母子保健法の理念に基づいた各種の母子保健事業の系統的な展開が始まったが,思春期対策としての取り組みは,残念ながら当時はまだ乳幼児や妊産婦対策ほどの緊急性や必要性の認識に欠け,十分な母子保健施策上の位置づけがなされないまま今日に至っている.

講座

ライフスタイルと健康—2.遺伝的健康度

著者: 森本兼曩

ページ範囲:P.274 - P.282

1.健康破綻における遺伝素因とライフスタイルとの交絡
 疾病の発症は,遺伝素因と環境要因の交絡により決定している事実は今やあまねく知られている.この事実は四半世紀以前までは殆ど知られることなく,遺伝は漠然たる体質として,また環境は大自然そのものとして享受するべきものと解されてきた.しかしここ20〜30年における遺伝学と環境科学の目覚ましい進歩により,現在,医学・公衆衛生学が主要な課題としている疾病の大部分が,その程度の差こそあれ,遺伝素因と環境要因の交絡のもとにその発症が決定されることが次々と明らかとなってきた.例えば遺伝のみでその発症が決定されるものとしてDown症や,Lesch-Nyhan症等のいわゆる先天性の遺伝性疾患がある.また家族性大腸腺腫症(Familial polyposis coli)に代表されるように,中年期以降にその発癌遺伝子を持つ個人のほぼ100%に発症する重要な疾患も明らかとなっている.Klinefelter症等の染色体異常症候群も100%遺伝により決定される疾患群である.一方,フェニールケトン尿症は常染色体性劣性遺伝によりおこるアミノ酸代謝異常症で,放置すると精神の発達障害が生ずる.生後すぐさまPKUテスト(いわゆるガスリー法)により発見し,フェニルアラニンを欠いた治療食を与えて育てることにより,その発症をほぼ完全に防止することが可能である.

発言あり

労働時間短縮

著者: ,   ,   ,   ,  

ページ範囲:P.221 - P.223

働きバチ根性の意識改革
 米国やEC諸国など先進工業国では,ILOが1926年に条約化した週40時間労働が定着し,週休2日制が当然のこととなっている.更に労働組合は週35時間制を目指しているのである.
 これに対し,本邦では法的にはなお48時間労働のままであり,週休2日制も周知のごとく,ごく限られた職域に限られており普及しているとはいえない.

調査報告

テレビ局技術者の長時間労働と労働意識—生活習慣,健康に与える影響

著者: 松岡敏夫 ,   上畑鉄之丞 ,   千田忠男 ,   阿部真雄 ,   笹川七三子

ページ範囲:P.283 - P.291

■はじめに
 近年のわが国労働者の年間総労働時間は,週休2日制の順調な普及にもかかわらず減少せず,欧米先進国に比較してもまだまだ多く,労働時間短縮をはかるうえで労働行政上での重要な課題にもされ1),これらの主要因である残業時間の多さは労働者の疲労蓄積や健康障害の悪化との関連でも注目されているところである2)
 筆者らは今までに過重な労働負担による健康影響を,循環器疾患による在職死亡のケーススタディによって検討し,そのなかに長時間労働の継続による慢性的ストレスが,基礎疾患を悪化させたと考えられる「過労死」というべき状態があることを指摘してきた3,4)

日本列島

大阪府保健所整備構想の策定—吹田市

著者: 笹井康典

ページ範囲:P.238 - P.238

 昭和59年から検討されてきた「大阪府保健所整備構想」が策定され,公表された.
 これは,疾病構造の変化や今後急激に進むと予想される高齢化に対応するために,また昭和58年の老人保健事業の施行に伴う市町村と府保健所との役割分担問題などを踏まえ,21世紀にも通用する保健所の在り方を示す目的で検討されたもの.

ここまでやって初めてパソコン—埼玉県における国民栄養調査の集計および分析の手作りソフト

著者: 国枝寛

ページ範囲:P.272 - P.273

 良きにつけ悪しきにつけ「パソコンドクター」とか「パソコン所長」とか囁かれてから早くも4年になろうとしている.作成したプログラムで最も苦労したのが「国民栄養調査集計・分析プログラム」である.昨年8月にも数名の栄養士が6日間にわたり川口保健所に集まり,昭和60年度に行った国民栄養調査の集計・分析を行った.319世帯の集計をするにはそれ相応の下準備が必要で並大抵のものではないが,この6日間の作業で,世帯平均・地区平均・県平均栄養摂取量のみならず各世帯の平均栄養所要量の計算からレーダーチャートの作成までやってのける.エネルギー百分率や成人換算栄養摂取量は言うに及ばず,食品群別食塩の摂取構成を世帯ごとに出してしまうという回路も設けてある.
 埼玉県には「保健所栄養士協議会」という団体があり,せっかく行った国民栄養調査を生かさない手はないと昭和58年度に初めて57年度分の県レベルでの集計を行った,この時は有志が手作業で毎晩遅くまで,しかも無給で大奮闘したそうである.その作業は容易ではなかったらしく,その年度のうちにプログラム作成の依頼があり翌59年度からパソコンの導入となった.当初はエネルギーや各栄養素の平均値とエネルギー百分率を出すのがやっとであったが,年々バージョンアップ,つまり改訂を重ね内容的にも格好がついてきたので以下に紹介したい.

紹介

「少女たちの性」—江幡 玲子・他 著

著者: 阪上裕子

ページ範囲:P.257 - P.257

 本書は,情報化社会における性の問題を,特に十代の少女に焦点を当てて取り上げた書物である.女子高校生の性に関する意識と行動は,親や教師など身近な大人たちの想像から大きくずれている.本書は,昭和59年5月のNHK「おはようジャーナル」の放送内容と反響をもとに,十代の性の実態,病理,親の世代へのアドバイス,性教育の意義と内容などについて,問題を更に深く掘り下げている.
 執筆者は,それぞれの分野で生(なま)の問題に日夜直面し,少女たちとともに悩み,苦しみ,試行錯誤を積み重ね,その中から,大きな社会問題として十代の性をとらえる視点を確立した方々である.健康に関する学際的・実践的書物である.

—佐藤 方彦 編—「人間のはなしⅠ,Ⅱ,Ⅲ」

著者: 西川滇八

ページ範囲:P.282 - P.282

 人間は十人十色と申します.Homo sapiens(賢いヒト),Homo stultus(愚かなヒト),Homo ludens(遊ぶヒト),Homo faber(つくるヒト),Homo fatigatus(疲れるヒト)などと言われています.本書は,人間工学,衛生学,産業医学,健康科学,解剖学,生理人類学などの立場において研究を介してみた人間の種々の像を紹介したものです.
 各巻いずれも随筆風の短篇ですから,2〜3分のひまができた時に1篇ずつ読めますので,忙しい方々にも格好な読み物と言えましょう.

基本情報

公衆衛生

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1170

印刷版ISSN 0368-5187

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