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雑誌目次

雑誌文献

公衆衛生51巻7号

1987年07月発行

雑誌目次

特集 医学教育と公衆衛生

医学教育の改善

著者: 吉田亮

ページ範囲:P.436 - P.441

■はじめに
 臨時教育審議会第二次答申1)のなかに,芭蕉の言葉を引用して「教育の本質も,常に不易と流行の両面を統一するものとしてとらえなければならないであろう……この両面を統一することを忘れて,前者のみに固執すれば,教育は独断,硬直に陥り,後者のみに流されれば,教育は軽佻浮薄に堕するであろう」という文章がある.たしかに「期待される医師像」とか,卒前において学生が体得すべき「基本的態度」といったものは本来不易のものである.
 しかし,アメリカ医科大学協会が1984年に出した「Physicians for the Twenty-First Century」—The GPEP REPORT2)—を引用するまでもなく医学教育を取り巻く環境即ち流行面の変化は激しく,今日ほど医学教育の改革・改善が緊急のこととして社会的に要請されている時代もない.

医学教育の流れ

著者: 酒井シヅ

ページ範囲:P.442 - P.447

■ドイツ医学採用に至るまで
 日本における近代医学教育,つまり,西洋医学の系統的な教育の始まりは,安政4年(1857)に長崎でオランダ人ポンペ・ファン・メールデルフォールト(1829-1908)が始めた教育である.しかし,それが全国的な広がりを見せたのは明治に入ってからであった.
 明治維新後,朝廷は直ちに西洋医学を公認して,日本の医療を刷新する施策をつぎつぎと打ち出した.同時に,明治2年1月,越前藩医岩佐純と佐賀藩医相良知安を医学取調御用掛に任命している.また,同年11月,早くも「医学校範則」1)を出して,新しい教育の方針と内容を示した.

医学教育における衛生・公衆衛生学の課題

著者: 青山英康

ページ範囲:P.448 - P.452

■はじめに
 最近,わが国のみならず国際的に,医師の生涯研修も含めて医学教育全般について,「改革」を求める声が各方面から上がっている.
 これは,WHO憲章によって「健康権」が国際的に確認され,先進国とか発展途上国などの経済的な条件や,自由主義国とか社会主義国などの政治的信条や思想の相異を越えて,「医療の社会化」が進展する中で,医療をめぐる背景が大きく,急速に変化し,この変化に適切に対応する「新しい医療のあり方」として,医学・医療の中に「プライマリ・ケア重視」が強く求められるようになったためと考えられる.

公衆衛生医師の確保対策と現況

著者: 入山文郎

ページ範囲:P.453 - P.456

■はじめに
 わが国の健康水準の向上に衛生行政機関の果たしてきた役割は大きい.特に,結核対策等,各種の感染症対策や母子保健対策の分野に代表される通り,保健所が衛生行政の第一線機関として,主として疾病予防の観点から多大の貢献をしてきたことは歴史の示すところとなっている.
 さらに,人口の高齢化,疾病構造の変化,医学・医療技術の急速な進歩等によって,保健医療政策が大きく転換しようとしている今日,地域住民に対して各種の保健サービスを供給している保健所の果たす役割はますます重要となっている.特に,最近では,成人病に代表される慢性疾患対策が保健対策上の重要課題となっており,その疾病の特徴から,保健サービス供給に当たっては,保健所側の新たな体制の整備が求められている.このため,国においても体制の整備に向けて種々の施策を実施してきているところである.その中でも,公衆衛生業務,特に保健所において保健活動に従事する医師の確保と養成が最も重要な課題の一つとなっている.

生涯教育と公衆衛生の役割

著者: 重松峻夫

ページ範囲:P.457 - P.460

■はじめに
 現代社会は,その発展に伴い急速に変化していて,それに対応していくためには,いずれの職業の人もその生涯を通じてそれぞれに学習を続けていく事が必要となってきています.ことに専門職(profession)に携わるものは,その専門機能を果たすために,そして与えられた自立性—専門領域における自由裁量権—を正しく行使できるために,その基礎となる専門領域における体系化された知識と科学的技術に関して,生涯を通じて学習し,研修を続けなければなりません.わが国における専門職の生涯研修は,諸外国に比べて制度的に大きく立ち遅れています.
 ことに保健医療をめぐる背景は,近年急速に変化していて,保健医療サービスはその変化への的確な対応を求められています.その対応への動きの中で,医師の生涯研修の問題が取り上げられ,特に地域保健医療,プライマリ・ケアへの指向が強まるとともに,医学界の大きな課題となってきています.日本医師会では,昭和60年12月,「生涯教育制度化のガイドライン」を制定し,昭和61年2月以降各都道府県,郡市医師会で,それに基づいて試行が行われています1)

日本医師会の生涯教育制度化と公衆衛生

著者: 村瀬敏郎

ページ範囲:P.461 - P.466

■はじめに
 日本医師会における生涯教育制度は,官制の制度としてではなく,民間の学術団体である日本医師会(以下,日医と略す)自らが始めたことに大きな特長がある.その基本は,医師自らが,自己の内発的動機づけにより行うところにある.すなわち,生涯教育は,企画されたプログラムに従い行うべき性質のものではなく,自らの積極的な意志に基づき行うものである.しかし,個人個人の努力には限界もある.この生涯教育を継続するための支援として,あえて,日医が生涯教育を制度化することにより,より個人の生涯教育を進めやすくするものである.したがって,その根底には,医師の主体性を損なうことなく,十分に活かすことが考慮されている.具体的には自己が自己の判断で生涯教育と認めたことは,すべて生涯教育における学習として,これを記録し,後に申告するものである.これを自己申告制と呼んでいるがこれが基本となっている.また,学習の課題も自由であり,単に医学ばかりでなく地域医療の実践なども重要な課題とし,その周辺としてターミナルケアに必要な人間そのものの理解に関する学問など広範なものも含めている(本文表参照).
 このため,特に公衆衛生に関して特定されたものはないが,広義に公衆衛生を考えた場合の包括医療の実践については,重要な課題となっている.以下,本会の生涯教育制度化について述べ,おわりに公衆衛生との接点について触れたい.

プライマリ・ケアと生涯教育

著者: 岩渕勉

ページ範囲:P.467 - P.471

■はじめに
 プライマリ・ケア(以下PCと略す)は,J. E. Rodonickの称するACCCAの頭文字に要約される,すなわちA:accessible,C:comprehensive,C:continuity,C:coordination,A:acountableの意味するケアと,おおむね了解されている.そのほかfirst contactとして最初の当該患者の診察に当たることも含まれることから,一次医療という言葉で表されることもある.家庭医の業務が,必ずしも全くPCと同一のものとは言えない.
 PCの定義については,ほかに色々の表現がなされているが,本稿においては上述の定義を尊重し,それを生涯にわたって全うするための生涯教育はどうしたらよいのか,また,"家庭医懇談会"の最終報告書も提出された際なので,家庭医との関連性も考慮しながら話を進めて行きたいと思う.

国立公衆衛生院の卒後教育

著者: 高石昌弘

ページ範囲:P.472 - P.477

■はじめに
 複雑な経済的国際関係,急速な高齢化社会への突入など,われわれを取り巻く社会情勢は予想もしなかったほど激しく変化してきた.科学技術の進歩も予測し難いほどのスピードを示している.医学の進歩も例外ではあるまい.しかし,医学教育についてはどうであろうか.もちろん多くの画期的な試みがなされていることも事実であろうが,医学および教育学におけるそれぞれの理念および技術の相違を考えてみると,現実にはなお多くの問題が残されているといわざるを得ない.教育技術に関する教育方法学的検討が,医学教育のなかに導入され始めてからまだ日が浅いからであろう.
 人びとの健康と福祉につき,医学よりもさらに広範な領域として大きな関わりをもっている公衆衛生の分野では,「公衆衛生教育」として「医学教育」よりも大きな視野の広がりと視点の多角性が求められていると思われる.本稿では,わが国における公衆衛生教育に最も早くから携わってきた国立公衆衛生院の卒後教育について,その内容の概略を述べるが,初めに次の2点に留意して頂きたい.

発言あり

エイズ

著者: 揚松龍治 ,   佐野正人 ,   鈴木治子 ,   田中平三 ,   庭山正一郎

ページ範囲:P.433 - P.435

当面する三つの課題
 日本のエイズは,感染の仕方も性風俗も欧米とは異なるから,それほど心配する必要はないという人もいたが,病気に素人のわれわれには,やはり気にかかることである.なぜならば,これまで欧米その他で起こった社会病理現象が,時をズラして日本に登場してきていたからである.エイズとて例外でありうるはずがない.
 経済優先の世の流れが,業績,能力主義に傾き,庶民の暮らしは年ごとに生きにくさを増している.いま家庭崩壊や退廃などの社会的ひずみは,こどもたちにしわよせされており,その様相は深刻である.そして必の渇きをもつこどもたちのたどりつく先に性の問題がある.貧困,麻薬,売春の黒い淵に落ちこまぬうちに,こどもたちに対して具体的な教育を,公衆衛生の側からも早急に手をさしのべる必要がある.1人の人間の連続的な成長発達に対する援助は,現実には地域保健と学校保健とのつながりがないままに打ち過ぎてきた.次の世代の生命と人権を守るうえからもこどもたちの性に対する取り組みを,エイズの上陸をきっかけに,せめて今からでも考え直す必要があるのではないだろうか.

レポート

住民検診高受診率の維持とコンピュータ管理

著者: 石黒源之 ,   中井晃 ,   雍成麟 ,   湯下堅也 ,   中野重男 ,   中島敦子

ページ範囲:P.479 - P.484

 昭和37年,岐阜県和良村では循環器検診を開始し,以後,胃がん検診,肺がん検診,乳房検診,子宮がん検診を加え,現在では以上の諸検診を毎年行っている.各検診の受診率は他に類をみないほどに高率となっている.しかし,昭和55年頃より受診率はそれ以前に比較し若干低下しはじめた.この原因の一つとして,少ない職員で多くの受診者のデータを処理するため,受診後の管理指導が遅れること,継続未受診者を拾い出せなく,放置していたことなどが挙げられた.
 このための対応として,受診者のデータ管理,異常者の管理指導,未受診者の拾い出しなどにコンピュータを導入し,小村の宿命である職員不足を補い,限られたマンパワーで最大の仕事効率を生み出すことを試みた.このレポートではこの間の経過と若干の考察を加え報告する.

調査報告

東京都田無保健所管内の民生委員を対象とした地域精神衛生に関する調査

著者: 影山隆之 ,   浮田徹嗣 ,   金有淑 ,   熊倉伸宏 ,   栗栖瑛子 ,   斉藤高雄 ,   佐々木雄司 ,   伊藤裕 ,   上原俊男 ,   福谷喜代子

ページ範囲:P.485 - P.489

■はじめに
 在宅精神障害者が地域社会で安定した生活を送るためには,在宅福祉・ケアなどのサービスの充実強化が欠かせない.ところで,民生委員は地域福祉活動に大きな役割を果たしている.地域内の精神障害者およびその回復途上者に対し,民生委員による援助的な働きかけが今後どのように展開されうるであろうか.民生委員の職務上の精神衛生に関連する問題とニーズを把握し,地域の精神障害者に対する援助機能向上と対策推進に役立たせるために,以下のような調査を実施したのでここに報告する.

肥満中高年女性に対する運動指導と食事指導の効果の検討—東村山市スポーツ教室参加者について

著者: 内山巌雄 ,   市川勇 ,   横山栄二 ,   栃原裕 ,   梶本雅俊 ,   阪上裕子 ,   山田香代 ,   小林加代子 ,   北島正子 ,   流石ゆり子 ,   秋本恵子 ,   東嶋千草 ,   藪本初音 ,   楠木伊都美

ページ範囲:P.490 - P.497

●はじめに
 近年,日本人の食生活や生活様式の変化に伴い肥満者の増加が注目されている.肥満は多くの成人病と密接に関係することから1〜3),各分野において肥満の改善に対する取り組みがなされている.しかし従来の肥満教室は,栄養指導を中心としたものが多く,肥満の改善の評価も体重の増減,血液所見,自覚症状が主体となっており,その評価方法や地域での指導の継続方法など問題点も多い.
 そこで今回は肥満中高年女性を対象に,運動と食事の両面から指導を行い,総合的に効果を検討した.また,この指導の中で一部の対象者に運動による循環機能の改善を評価する一つの方法として,トレッドミル運動負荷試験を試みた.

宮城県一農村住民のHDL-コレステロールと肥満度との関係

著者: 土屋眞 ,   佐藤千賀子 ,   伊藤克己 ,   斎藤了

ページ範囲:P.498 - P.503

●はじめに
 近年,医療の進歩,公衆衛生活動,日本人の食生活の向上などの成果として脳卒中は低下しつつあるが,内容的には大きな変化があって,脳出血の減少に反し脳梗塞の増加が著しい.これはまたCT等により診断の精確度が進んだことや,高齢者の増加などが理由としてあげられている.
 脳梗塞は脳出血ほど高血圧との関係が密接でなく,予防の難しさが昔から指摘されてきた.それだけに脳卒中や虚血性心疾患の基盤になる動脈硬化,ことに粥状硬化(アテローム硬化)に関係深い脂質代謝異常に対する,高比重リポ蛋白(HDL)分画中のコレステロール(HDL-コレステロール)の意義は大きい.このたび宮城県北の農村地域住民の健康診査時に上乗せして行われた,検査成績を検討したのでその要旨を報告する.

衛生公衆衛生学史こぼれ話

39.便所の改良

著者: 北博正

ページ範囲:P.478 - P.478

 わが国では屎尿は重要な肥料として,農家では大切に扱われて来たが,一方,消化器系伝染病や寄生虫病の媒介者として危険視され,屎尿を安全な肥料にする試みは種々行われたが,いずれも成果は上がらなかった.しかしこの問題は,屎尿を肥料にするということが続く限り(最近は屎尿に依存する割合は減って来ているが),日本人の手で解決すべき重要問題である.
 大正の終わりごろから内務省衛生局(現在の厚生省の主体)ではこの問題に取り組んだ.埼玉県大宮の在の伝染病院の構内に試験場を設け,専門家により本格的な野外実験を開始した.主な問題は下記のとおりである.

日本列島

指定都市昇格に向かっての保健所の現況—仙台市

著者: 土屋眞

ページ範囲:P.441 - P.441

仙台圏の近況
 仙台園の2市2町は,合併要請を受けた,泉市・宮城町・秋保町のみならず,仙台市自体も合併問題で揺らいでいる.昭和64年4月を目途とした,地方自治法による政令指定都市昇格そのものには反対はないが,合併となると将来のメリットをめぐって賛否両論があって,予断を許さない.人口急増の団地を主とする泉市は,仙台のベッドタウンで,8割の人が仙台市内で働く.
 指定条件は,おおむね百万人程度とする人口条件以外は,すでに満たされた.合併により東北地方の中枢拠点として,21世紀にふさわしい機能と格調を備えた魅力ある都市づくりが期待されるが,県も実現に向かって努力している.

動物の保護管理—岐阜

著者: 井口恒男

ページ範囲:P.484 - P.484

 ペットブームにのり,犬猫をはじめ愛がん動物は年々種類も多く,増加しているようである.総理府の資料によると,昭和60年には犬の登録頭数は343万頭であるが,猫など届出規制のないものはその実態が明らかではなく,かなりの数にのぼるようである.捕鯨は別としても,最近の日本での異常なペットブームや動物の管理のあり方は国際的にも問題をかもしているが,国内においても野犬等による咬傷,猫などによるゴミの散乱など日常茶飯事となっており,各県ともその対応に苦慮しているようである.
 これらの問題の抜本的な解決は容易ではなく,法的規制の強化もあろうが,飼主のマナー向上に頼るところ大のようである.昭和48年に制定されている動物の保護管理法では,動物の虐待防止,適正な取扱いや保護についての事項を定め,動物愛護の高揚,生命尊重,友愛や平和の情操の涵養に資することや,動物による人の生命,身体,財産への侵害防止などをうたっているが,具体的な施策については各県とも端緒につきはじめた段階のようである.

博覧会に向けてクリーン作戦—岐阜

著者: 井口恒男

ページ範囲:P.489 - P.489

 レジャーブームにのって,飲食物も携帯しやすいものに変っており,ビニール,プラスチックの他,カン詰,ビン詰製品も市場に氾濫している.マイカー旅行者も多く,心ないドライバーによる空カン投げ捨ても目に余るものがあり,全国各県とも頭を悩ます問題である.
 岐阜県では中部地方活性化の起爆剤とするべく,昭和63年7〜9月「ぎふ中部未来博」の開催を計画し,県土あげての準備に大わらわであり,その一環として各種の県民運動が計画されている.環境衛生面においては,道路,河川,公園,空地などに散乱している空カン,空ビン,ゴミなどを一掃するべく環境美化運動を展開することとなり,名称も「美しいふるさと運動」として県民総ぐるみの作戦を計画している.作戦の一つは6月の環境週間,9月の環境衛生週間等に焦点を当て,主要な県下の道路や河川を対象とした清掃活動の実践であるが,これには町内会,老人クラブ,婦人会,青年団,子供会などボランティアグループの積極的な参加が必須となっている.清掃活動は後処理の事業であり,一般ドライバー等の意識が変らない限りイタチゴッコとなり,抜本策とはならない.やはり重要なのは「捨てない,汚さない」意識の高揚や,回収容器の設置など環境整備であり,広報活動の強化と,公園等の管理者や関係事業者の協力が肝要と思われる.

基本情報

公衆衛生

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1170

印刷版ISSN 0368-5187

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