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特集 公害とその後
森永ヒ素ミルク中毒事件と被害者のその後
著者: 山下節義1
所属機関: 1奈良県立医科大学衛生学
ページ範囲:P.538 - P.543
文献購入ページに移動1955年,西日本一帯で発生した森永ミルク中毒事件は,12,131名(そのうち死亡130名,1956年厚生省調べ)の乳幼児が被災したという大規模なものであった.この事件は,粉ミルクに混入していたヒ素などの化学物質(以下に「ヒ素」と表現する)により引き起こされたものであった.心身の発達が未熟な,抵抗力の弱い,生後間もない乳児を主体とする集団に発生したという点で,また,主食である粉ミルクに混入していた毒物による中毒で,古今東西に類例を見ない事件であり,事件の背景や事件発生後の経過等に問題点を多々内包していたという点で,特異な出来事であった.
「ヒ素」によると原因が明らかにされて後,森永粉乳の使用停止や未使用缶の回収が行われた.BAL等を用いた治療により,被災児たちの臨床症状は急速に消退し,年内にほとんどが治癒したと判断された.そして,翌年の一斉「精密検診」の結果,「後遺症として認むべきものなし」として,この事件は処理され,医学的にも行政的にも社会的にも忘れ去られていった.
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