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雑誌目次

雑誌文献

公衆衛生52巻1号

1988年01月発行

雑誌目次

特集 市町村保健センター10年の歩み

市町村保健センターの系譜—健康づくりの場の構築

著者: 多田羅浩三

ページ範囲:P.4 - P.6

ドーソン報告の理念1)
 イギリスでは,1911年国民保険法が成立し,1913年から国民健康保険の給付が始まった.この国民健康保険制度は時のロイド・ジョージ蔵相が1908年夏,自らドイツに渡り,実地に得た見聞をもとに制度化したものである.
 本制度によって,一定の年収以下の被用者は,一般医のサービスを保険の給付として受けることができるようになった.この制度の発足によって一般医の医療サービスが大きく前進したことは明らかである.しかし国民健康保険制度は一般医のサービスの提供を保証したものでありながら,病院の医学の興隆の中で,患者はややもすると一般医を通り抜け,病院に沈殿してしまう傾向があった.このことは,一般医への報酬支払い方式が人頭報酬制度であったということによって一層促進されたといえる.

保健婦活動と市町村保健センター

著者: 望月弘子

ページ範囲:P.7 - P.9

はじめに
 住民の生活に最も近い場で,保健婦活動が展開できることは保健婦は勿論,住民にとってもしあわせなことである.
 市町村保健センターは,行政にとっては住民の健康を守るための施策の象徴であり,住民にとっては健康診査,健康教育をはじめ健康についての心配ごとなど気安く,普段着のままで相談に対応してくれる施設であり,自分たちの健康を守るための住民組織活動などの拠点でもある.ここで市町村保健センターの利点についてふれてみたい.

市町村保健センターの現状と課題

著者: 滝沢秀次郎

ページ範囲:P.10 - P.13

 近年,疾病構造の著しい変化,高齢化社会の進展,医学・医術の進歩,地域住民のニーズの多様化,高度化等を背景として,地域保健対策の在り方にも抜本的な見直しが求められていると言えよう.
 昭和20年代,30年代をピークとした結核予防対策や,その後の昭和40年代の公害対策などの集団的疾病予防や"露呈した状態"に対する"対症療法"の時代から,"自らの健康は自らの手で"という健康増進の時代へと変様してきており,昭和50年代に入ってからの各種の地域保健対策をみると,そうした状況を反映した考え方が基本となっている.

地域における保健センター

著者: 笹井康典

ページ範囲:P.14 - P.18

 保健センターは市町村における保健サービスの拠点である.保健所が感染症対策や環境衛生対策から出発した経緯から,基本的には地域に対する規制も含めた対策型の社会資源であるのに対して,保健センターはサービス提供の拠点であり,すべての住民が利用するものである.
 本稿では,まず大阪府における保健センターの現状を述べ,今後,保健センターが地域の保健サービスの拠点として発展するプロセスで重要となるポイントとして,①保健と福祉の連携,②保健センターと保健所の連携について述べたい.

高知県における市町村保健センター—保健所の立場から

著者: 中西範幸

ページ範囲:P.38 - P.41

 昭和53年,厚生省から国民健康づくり計画の中核施設としての市町村保健センターの構想が発表された.これは,近年の生活習慣の著しい変化に伴い,母子保健,成人病予防,老人保健,健康増進などの保健需要の増大に対処するため,市町村が主体となり地域住民が気軽に健康診査,健康相談,健康教室などを受けることができ,健康に対する住民の自覚を高めるための拠点とするものである.
 高知県における市町村保健センターをみるには,対人保健サービスを積極的に展開している高知県の保健所について述べる必要がある.高知県における保健所,保健婦の配置状況は表1に示すとおりである.高知県の保健所は,人口稀薄型ないし過疎型(L型)と支所型(S型)の保健所が多いが,保健所は医師の充足もよく,老人保健法による昭和60年度の一般健康診査は約4割が保健所によって担われており,保健所が市町村保健センター的機能も果たしていると言える.また保健婦は駐在制を取っており,市町村保健婦51人に比し保健所保健婦151人と多いことも高知県の大きな特徴である.ここでは高知県の市町村保健センターの特徴とその活動状況を紹介し,市町村保健センターと保健所の連携について述べる.

活躍する保健センター

南郷村保健センター—総合的な保健活動の拠点を目指して

著者: 村田明子 ,   大高道也

ページ範囲:P.19 - P.22

 青森県では,住民生活に密着した健康診査,健康相談,健康教育,機能回復訓練等の対人保健サービスを充実させるため,昭和53年度から昭和61年度までに11の市町村保健センターを設置し,昭和62年度にはさらに2つのセンターを整備中である1).ここでは,岩手県と隣接する県境の村,南郷村の保健センターの活動を紹介する.

佐久市健康管理センター

著者: 菊池正雄

ページ範囲:P.23 - P.26

佐久市の概要
 佐久市は,昭和36年4月に3町1カ村が越郡合併した,県下17市中最も若い市である.
 長野県の東端に位置し,上信越高原,八ケ岳中信高原,妙義荒船佐久高原の各国定公園に囲まれた,標高700mの佐久平の中心地であり,市の中央を千曲川が貫流している人口6万人の田園工業都市である.

旭町保健センター

著者: 横田静子

ページ範囲:P.27 - P.30

島根県旭町保健センターの位置づけ
 島根県における老齢人口は,昭和61年に15.8%と全国一の老齢県であり,旭町ではこれを更に上回り25.1%と高齢化に突入している町である.このような状況の中で旭町における保健活動は,従来から各地区ごとの生活改善センターを健康づくりの場として検診や相談,教室等を行ってきた.
 昭和59年度の保健センター開設後は,各地区ごとの検診を残しながらも保健センターにおいては,町全体の乳幼児の検診や相談,心の相談,断酒会及び健康づくり推進協議会等の諸会合等の予防活動を行い,更に機能回復訓練を積極的に行うなど,母子から老人にいたる町民の健康づくりのための保健事業を推進するための場となった.本町では,保健センターを設置してからまだ日が浅いが,町の保健活動の拠点として大きな役割を果たしつつある.

南光町歯科保健センター—健康づくり事業とともに進める歯科保健事業

著者: 新庄文明 ,   衣畑明美 ,   竹田由紀子 ,   岩崎さとみ

ページ範囲:P.31 - P.34

 人生にも社会にも,波と呼ばれる大きなうねりの時期があるに違いない.乗ろうとすれば浮上し,気付かずにいると溺れかねない.市町村が保健事業という波の上にあるとすれば,保健センターは活用に工夫を要するサーフボードのようなものといえるかもしれない.
 人口わずか5,000人の南光町に保健センターは存在せず,設立される予定もない.ここでは町立文化センターと歯科保健センターが保健センターに代わる機能を果たしている.

嬉野町保健センター

著者: 蒲原知愛子 ,   山田裕 ,   芝池伸彰

ページ範囲:P.35 - P.37

嬉野町の概況
 佐賀県藤津郡嬉野町は,県庁所在地の佐賀市から約35km,県の西南部に位置し,東は鹿島市,北は武雄市,そして西南は長崎県に接し,人口約2万人,面積は80.41km2でお茶の産地あるいは温泉地として知られる町である.この地には紀元前8000年から人類が住みつき,湧出する温泉で仕事の疲れ,また病を癒したとされ,神功皇后が,三韓御親征の帰途,今の佐世保の近くに上陸あらせられ,わが嬉野を御通過遊ばされた.その時,ここに湧きて尽きせぬ熱湯のほとばしり出ずるを発見し給い,みあしの疲れを癒し給いて「あな嬉し乎」とのたまわったと伝えられている.
 嬉野町の人口は昭和55年の20,389人に対して,59年20,256人,60年20,558人,61年20,474人とほとんど変化がないが,65歳以上の老人人口の割合は昭和55年の11.9%から60年は14.0%へと年々増加し,高齢化が全国平均よりも早く訪れ,しかも着々と進行している.

対談・連載

公衆衛生の軌跡とベクトル(4)—1960年代を中心に

著者: 橋本正己 ,   大谷藤郎

ページ範囲:P.42 - P.50

難病対策と公害の激化
 大谷 それにしても,1960年代には高度経済成長という社会経済変動に伴ういろいろな問題が出ましたですね.そういう問題の対策について一応手がつけられかけたけれど,それがもうひとつ十分に完全な制度化をできなかったのが残念ですね.
 例えばがん対策では,36年には国立がんセンターができていますし…….

講座

栄養疫学—5.食物消費パタンで食生活と健康の関係を探る

著者: 豊川裕之

ページ範囲:P.52 - P.59

前回の内容を受けて
 前回では,食物消費の二次元空間図・人を作成することによって,従来の調査・分析方法のように食品群別摂取量の多い・少ないを検討することにとどまらず,食物消費パタンの中で個人を同定することに成功したのであると強調した.そして,そのことの重要性を次回,つまり本号において具体的事例を引用しながら説明すると述べた.そこで,本論ではいくつかの具体例を挙げて"食物消費の二次元空間図・人"の有用性を述べることにする.

活動レポート

佐敷町の保健活動の実践と展望

著者: 宮城重二 ,   志村政子

ページ範囲:P.60 - P.65

佐敷町の概況
 本町は,沖縄本島の南部にあり,県都那覇市から東方約16kmの所に位置する.町域は太平洋に面して細長く湾をなし,東西に5km,南北に2km,総面積10.28km2と狭小であるが,背後の丘に登れば町全域が一望できる都市近郊型の農村である.
 昭和55年6月1日に町制が施行され,その後わずかずつ人口は増え,昭和60年国勢調査では総人口が10,514人(2,614世帯),老年人口が980人(老年人口比率9.3%)となっている.

調査報告

名古屋市で販売されているサワガニの宮崎肺吸虫寄生状況

著者: 千種雄一 ,   塩飽邦憲 ,   角坂照貴 ,   金子清俊

ページ範囲:P.69 - P.71

はじめに
 従来人体肺吸虫症としてはウェステルマン肺吸虫Paragonimus westermaniによるものが知られていたが,1974年に宮崎肺吸虫P.miyazakiiによる初の人体症例が報告されて1)2)以来,100例以上の症例報告がなされている3).本症の多くは飲食店で供されるサワガニの生食によることが知られている.しかも,最近は流通機構の発達や食生活の多様化に伴ってサワガニが一般の小売店でも販売されるようになってきている.
 筆者らは,名古屋市内の5店舗で食用または愛玩用として販売されているサワガニについて,肺吸虫メタセルカリア(以下Mcと略す)の寄生状況を調査したので報告する.

発言あり

21世紀の保健医療—生命尊重の行政,他

著者: 太田祖電

ページ範囲:P.1 - P.3

 故深沢晟雄沢内村長(岩手県)は,昭和36年第二期目の村長になるや,「生命尊重の行政」を政治スローガンにした.日本医師会の武見太郎先生や勝沼晴雄先生の指導の下に,加藤邦夫沢内病院長と共に,住民の生命を守ることが行政の基本であると叫び続けた.さらには,「住民の命を守るために,私の命をかけよう」と村議会において宣言した.
 与えられた人間の命が完全に燃焼しつくすためには,健康増進,予防,検診,治療,社会復帰の五つの包括医療が,地域医療として実践されなければならない.

公衆衛生人国記

高知県—駐在保健婦制,汗と涙の40年

著者: 石川善紀

ページ範囲:P.66 - P.68

 昭和62年7月,高知県の駐在保健婦制度を育ててきた上村聖恵女史が亡くなった.行年67歳であった.同女史は大正9年,高知県に生まれ,看護婦を経て,昭和17年に高知県保健婦として一農村に勤務した.当時の農村での保育環境の劣悪さを眼のあたりに見た上村は,県下初の農繁期保育所を実現させるなど,将来の資質をうかがわせていた.昭和23年には県衛生部の発足とともに看護係として,駐在保健婦制度の確立に寄与した,昭和31年からは保健婦係長として,22年間にわたり県下の保健婦活動を指導してきた.昭和51年からは日本看護協会保健婦部会長,以後,職能委員長,第二副会長と要職を歴任し,全国の保健婦活動の指導者として活躍してきた.また昭和57年からは琉球大学保健学科にて保健婦教育にも情熱を傾けている.このように戦後の高知県,さらには全国の保健婦活動の発展に歴史的な役割を果たしてきた.
 高知県では,上村を育て,駐在保健婦制度や看護大学の設立に決定的な役割を果たしたもう二人の人物がいた.日本公衆衛生協会会長,藤風協会理事長の聖成稔氏と高知女子大学名誉教授の和井兼尾女史である.

衛生公衆衛生学史こぼれ話

46.おかしな水系流行

著者: 北博正

ページ範囲:P.18 - P.18

 ちょっと変わった水系流行の1例を紹介しよう.東京府下尾久町(現在,東京都荒川区に編入)は当時は独立した町であったが,町の財政は苦しく,いわゆる場末といった地区であった.
 あるとき,この地区の一画に赤痢が急に多発したが,少々型が変わっていた.スノーがロンドンのコレラ大流行の際に見たのと同様,特定の共同水道栓の利用者に発生しているのである.そこで種々の調査が行われた結果,つぎのような説明がなされた.

ニュース

「保健所法施行50周年記念式典」開かる

著者: 編集室

ページ範囲:P.65 - P.65

 去る12月1日,「保健所法施行50周年記念式典」が厚生省主催,(財)日本公衆衛生協会,(財)予防医学事業中央会など10団体の協賛により,東京・こまばエミナースで開催された.
 「保健所法」は戦前の昭和12年4月5日に公布,同年7月15日に施行され,日本の公衆衛生に果たしてきた役割は大きく,本年で施行50年に相当する.同法は昭和22年9月5日に全面改正され,その後,数次の一部改正を経て今日に至っている.

基本情報

公衆衛生

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1170

印刷版ISSN 0368-5187

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