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雑誌目次

雑誌文献

公衆衛生52巻12号

1988年12月発行

雑誌目次

特集 長寿社会と公衆衛生

長寿社会における政策展開

著者: 島村史郎

ページ範囲:P.794 - P.797

■長寿社会の政策主体について
 わが国の長寿社会の進行は,欧米に比較して急速に進むことは周知のことで,ここに新しく説明する必要はない.この長寿社会の進行に伴って,政策の展開を考えるときに,まずその政策主体と政策対象者とを明らかにしておく必要があろう.
 政策主体については,広義的には次の五つの主体が考えられる.すなわち,①中央政府,②地方公共団体,③企業,④ボランティア等の民間団体,⑤家族である.もちろん,高齢者自体のあり方が究極の政策目標であるので,高齢者自身の意識,人生観が重要なファクターではあるが,高齢者の自立を促進し,それに協力する意味で,上記の五つの政策主体が考えられる.この五つの政策主体がいずれも長寿社会に対してそれぞれの機能を果たしているが,世界の各国についてみると,これら五つの政策主体の機能分担に濃淡の差のあることがわかる.例えば,スウェーデン,イギリス等のヨーロッパ諸国では,中央政府が高齢者対策に対して主導的な役割を果たしてきた.このため,ヨーロッパ諸国では高齢化社会の進行に伴い,政府が巨額の財政負担を強いられることになり,いわゆる英国病等の現象が生じてきている.

長寿科学の新しいシステム化と発展への期待

著者: 祖父江逸郎

ページ範囲:P.798 - P.801

■高齢化の現状と超高齢化への進展
 40年前の1947年には,わが国の平均寿命は男50.06歳,女53.96歳で,人生50年時代であったのに,40年後の1987年には男75.61歳,女81.39歳となり,人生80年時代に転換した.平均寿命を欧米と比較しても,男ではアイスランド75.04歳,スウェーデン73.97歳,オランダ73.51歳,女では,アイスランド80.3歳,オランダ80.07歳,スイス80.01歳で,わが国では,これらのいずれよりも高い.わが国は,今や名実共にトップレベルの長命国となった.
 人生80年時代にふさわしく,最近では,傘寿を迎えた元気な高齢者に出会う機会もふえてきた.筆者の約半世紀にわたる医療経験からしても,これまでみられなかったことであるが,最近では,80歳以上の外来患者がかなりみられるようになり,90歳を越えた外来患者も時に経験するところであり,100歳老人の入院も現実のものとなってきた.このような患者の高齢化現象からみても,確かに人生80年時代が現実のものとなってきたことを痛感する.

長寿科学と公衆衛生

著者: 新井宏朋

ページ範囲:P.802 - P.806

■はじめに
 「長寿科学と公衆衛生」という課題をいただいて複雑な気持ちである.なぜかというと,長寿科学という言葉が今日の流行語になってもてはやされている反面,我々が長年親しんできた公衆衛生という言葉が,この頃ではいささか影が薄くなっているからである.厚生白書(昭和62年版)の「長寿科学研究の振興」の項目で引用されているシルバーサイエンス研究のフローチャート(図1)1)を見ても,疫学研究という言葉はあるが公衆衛生という言葉はどこにもない.有名なC. E. A. Winslowの公衆衛生の定義はどこにいってしまったのだろうか? 長寿科学とか健康科学とかいう新しい言葉の影に隠れて,欠落していくものがあるのではないだろうか? ということを考える必要があろう.

地域開発と長寿社会

著者: 篠崎英夫

ページ範囲:P.807 - P.811

■はじめに
 静岡県は日本でも,従って,世界的にも有数の長寿地域の一つである.女性の平均寿命は81.37歳で全国第4位,男性は75.48歳で8位である.訂正死亡率でも,女性は人口10万対284.7で低いほうから4位,男性は12位である.しかるに老人一人当たりの医療費は381,484円で,少ないほうから2位である.また平均在院期間42.8日は短いほうから3位,病床利用率83.2%は低いほうから16位,も長寿を裏づける指標といえるのではないかと思う.気候温暖,風光明媚な県土の上に,勤勉で穏やかな県民性が重なって,長寿県を形成したのであろう.
 今後さらに長寿対策を推進するため,"不死"(フシ→フジ)の語源とも言われる不老長寿のシンボルである富士山にちなんで,"普段から実行しよう3運動"即ち,①進んで健診,②運動と休養,③正しい食習慣(フジサン運動)を県政の重要政策課題として掲げ,「日本一健康県づくり」を展開している.

沖縄における「長寿者—環境系」の究明を目指して—農村地域の調査事例

著者: 平良一彦 ,   宮城重二

ページ範囲:P.812 - P.815

■はじめに
 敬老の日を前に,「全国長寿者名簿」が厚生省から発表された.沖縄県は今年度中に新たに百歳になる者が58人(男6人,女52人)で,これら新百歳を加えた百歳以上老人人口は146人となる.これを人口10万人当たりの人数で示すと本県は10.01人で,2位の高知県(6.19人)を大きく引き離し,今年もトップの座を守り続けている.同様に平均寿命にしても松崎1)が指摘しているように,"伝統的長寿県"として常にトップグループを形成している.
 一人当たり県民所得や医療供給水準は全国平均の70%程度に過ぎないにもかかわらず,沖縄県はなぜ長寿なのか興味深いところであるが,筆者らは目下,沖縄の長寿の主体的要因や環境要因を探ろうと多角的な視点からアプローチを試みている.本稿では継続的に調査を進めている対象地域の概要と,そこに居住する90歳以上の高齢者の生活と健康について概説する.

長寿社会における地域ケア

著者: 松野かほる

ページ範囲:P.816 - P.819

 世界に例をみないスピードで人口の高齢化が進んでいる.長寿社会の到来に向けて,総合的な地域保健医療活動は老人保健制度を出発点として着手されてきたが,これからは特に障害を有する者のみに偏ることなく,高齢者が地域社会で自活して,健やかに生きることを主眼とした対応が強く求められる.

長寿社会と国際人口問題

著者: 河野稠果

ページ範囲:P.820 - P.825

■世界各地域の平均寿命の現状
 第二次世界大戦以後の人口に関して世界で最も特筆すべき変化は,死亡率の低下とそれに密接に関連する平均寿命の伸長であり,その結果としての世界人口の急速な増加である.戦後の世界人口の増加はあまりにも激しく,古今未曽有であるだけに,それはしばしば"人口爆発"という言葉で表現された.
 表1,2は,1950年から2025年にかけての世界・先進地域,発展途上地域および7大主要地域における男子と女子の平均寿命の推移を示したものである.ちなみにここで示した平均寿命は5カ年平均の数値であり,1985年までは実績値に基づく推定であるが,1985〜90年以降は将来推計である.

座談会

社会の変化に対応する地方衛生研究所

著者: 北川定謙 ,   國田信治 ,   大谷明 ,   中村晃忠 ,   大橋誠

ページ範囲:P.827 - P.833

 大橋 地方衛生研究所(以下,衛研と略)は地域社会における公衆衛生の向上を図るために科学的・技術的中核として,関係行政各機関・部門と緊密な連携を取って業務を進めてきました.機能的には調査研究,試験検査,研修指導および公衆衛生情報の解析・提供という四つの業務の柱を持っておりますし,対象としては感染症をはじめとする各種疾病予防,食品衛生,薬事衛生,環境衛生など幅広い分野をカバーしています.しかし,変遷する社会情勢にどう対応し,また日進月歩の技術革新をどう取り入れていくかということで,いろいろと悩みを抱えているのが現状です.そして,ここ数年間,衛研のあり方について協議を重ねてきました.衛研の強化対策について厚生省に対しての幾つかの要望事項もまとめることができました.
 そこで,このような機会をとらえ,今日は衛研の業務に関係の深い厚生省からは北川保健医療局長,衛研の感染症の業務に関係の深い予防衛生研究所の大谷所長,また理化学部門でご指導いただいている衛生試験所からは中村先生においでいただき,また衛研を代表して地方衛生研究所全国協議会の会長である國田先生にご出席願い,それぞれのお立場から衛研の現状と問題点についてご発言いただきたいと思います.

トピックス

米国ホームヘルスの新動向

著者: 前田信雄

ページ範囲:P.834 - P.837

◆はじめに
 1988年8月末の1週間,米国ミシガン大学社会福祉学部において,老人長期ケアの実地研修を行った,社会福祉学部の秋山弘子助教授とミシガン大学ターナークリニックのルース・キャンベル女史のコーディネーションによって,講義と実際訪問をすることができた.このなかで学んだホームヘルスの現状と今後の方向を述べてみたい.
 ホームヘルスは,ホームナーシングつまり訪問看護よりも広い概念である.看護と医療とを主軸にするが,長期慢性患者の場合,どうしてもそれらが効を奏するためには,介護はじめ家事援助など,生活そのものの援助が不可欠である.たとえば,食事,排泄,入浴,清拭などの援助が求められる.リハビリテーション従事者からの指導もほしいし,医師の診断,相談,指示も大切である.と同時に,ホームヘルパーもしくはハウスキーパーあるいはホームヘルス補助者による上述の援助が基盤となって,在宅ケアが長期にわたって継続可能となる.ホームヘルスは,患者の医療,看護,機能回復訓練,機能維持そして日常生活の確保あるいは介護者の指導と援助といった,より包括的な総合的な方向に歩みだしている.

活動レポート

愛媛県歯科医師会の昨日・今日・明日

著者: 須之内淳二

ページ範囲:P.838 - P.841

 社団法人愛媛県歯科医師会は,明治40年7月に発足.現在は会員641人を数え,県内17郡市部に支部がある.
 創立以来,歯科医学を奉ずる専門団体として,奉仕の理念を掲げ,その精神のもとに県民福祉のため全会員の総意のもと,たゆまぬ努力を続けてきた.

福島県二本松保健所の活動

著者: 石下恭子

ページ範囲:P.842 - P.845

 保健所黄昏論が叫ばれ,行政改革のもとに保健所職員の減員や業務の集中化が進められている.二本松保健所も昭和33年には,32名の職員であったが,業務量は減ることなく,むしろ複雑になり難しくなっているにもかかわらず,30年後の現在,22名と10名も減員されている.県職員の心構えとして,時代の流れに即し,横の連絡を密に創意工夫をして仕事を進めよと指導されるが,半世紀に近い保健所の歴史の中で作られてきた流れを変えることは困難である.私たちはいかにしてお互いの意思の疎通を図り,効率よく仕事をするかを模索している.どこの保健所でも行っている日常業務であるが,昭和62年度の重点事業を中心に,二本松保健所の活動の一端を報告する.

海外事情

視力障害および失明の予防—タイ国の事情

著者: 兵井伸行

ページ範囲:P.846 - P.850

■はじめに
 視力障害や失明の問題は,これまで保健医療分野であまり認識されて来なかったが,公衆衛生上重要かつ大きな課題である.世界保健機関(WHO)の1978年の推計(表1)によると,今日世界には矯正視力0.1以下を失明の定義とした場合,約4,200万人の失明者がいると考えられ,そのほとんどがいわゆる発展途上国に暮らしている.また,この失明者の数は今後発展途上国を中心とした人口増加および人口の高齢化により,西暦2000年までに倍になると予想されている.
 これら発展途上国における失明率は,先進工業国に比べ10倍から40倍の高さである1).そしてこのような失明のおよそ3分の2が既存の技術や利用可能な方策によって,治癒可能あるいは潜在的に予防可能であるとされる.つまり多くの失明は,避け得る失明なのである.従って,失明予防は,特に発展途上国において公衆衛生上の重要な関心事となってきている.

調査報告

喫煙婦人の自覚症状と禁煙対策

著者: 渡辺登

ページ範囲:P.851 - P.854

●はじめに
 喫煙,ことに紙巻たばこ喫煙は肺がんのみならず,口腔がん,食道がんなど,多くのがんや慢性気管支炎,肺気腫,虚血性心疾患,胃・十二指腸潰瘍,肝硬変,不妊,分娩異常など諸疾患の危険因子であることが次々と明らかにされた9).これらの知見をもとに,1988年4月7日には世界保健機構(WHO)の提唱で初の「国際禁煙デー」が開かれ,各国は足並みをそろえ反喫煙キャンペーンや禁煙運動,たばこ販売・宣伝の自粛をするよう図った.
 わが国の成人喫煙率は男性では著しく低下しているものの,一方,女性では下げとどまり,しかも20歳代では逆に増加傾向さえ認められる12).女性は妊娠出産や育児にかかわるため,喫煙女性の吸い込むあるいは吐き出す煙が,次代を担う胎児や子どもの健康に多大な悪影響を及ぼす可能性がある.

老人自殺多発地域の老人意識とその社会的背景

著者: 岡本直幸 ,   亀家朗介 ,   古曽志恵洪 ,   中山英明

ページ範囲:P.855 - P.859

●はじめに
 わが国の自殺による死亡の特徴として,(1)老人の自殺率が高いこと,(2)近年の中高年者の自殺率の急増,そして(3)過疎県と称される岩手,秋田,新潟,島根,高知,宮崎などの特定の県が毎年上位を占めていることから,明らかな地域差の存在をあげることができる1).そのため,自殺死亡の疫学的要因解析として,都道府県単位の社会・経済因子や県民性のデータを用いた自殺の要因解析が行われ,いくつかの関連要因が抽出されており2,3),とくに老人の自殺に関しては,"rural residence(地方居住)" の要因が指摘されている4).また,老人自殺の高率な地方においても,市部より郡部の方が高いことが報告されている4〜7)
 筆者らはこれらの点に注目し,老人自殺の疫学的要因把握と自殺予防の方途を探るための基礎資料確保を目的として,近年の自殺率が毎年第1位を示している島根県において,老人自殺率の高い郡部と全国レベルの市部とにおいて,生活,医療,住民性に関する意識調査を実施し,両地域の老人意識の相違について検討を加えた.また,島根県と同じ山陰地方に属し自殺率は全国値とほとんど変わらない値を示している鳥取県の市部,郡部においても同様の調査を行い,両者の相違についても検討を加えたので報告する.

発言あり 医師国家試験

医療水準の確保・向上を目指して,他

著者: 熊谷長慶

ページ範囲:P.791 - P.793

 医師国家試験の第1回が昭和21年11月に始まってから本年4月で82回を数える.当初は第二次大戦中に臨時医専の急激な増設,教育期間の短縮などが行われたため,敗戦直後は医学教育,医療水準が著しく低下し,また国民の健康状態も極めて悪化していた.
 この対策として医療関係者の資質向上を図るため,医師国家試験が実施された.

保健行政スコープ

地域保健情報システム

著者: 三宅智

ページ範囲:P.860 - P.861

●はじめに
 情報化は現代社会のあらゆる分野で重要視され,推進されており,地域保健の分野における情報化も,重要性は増す一方であり,推進されなければならない.情報化の役割は,より必要なところへ,より必要なものを,より早く,わかりやすく提供することにあり,地域住民に対する保健医療サービスの効果,効率の向上のうえで多くの期待を担っている.情報システムは,情報の収集,整理,分析,伝達,評価を行うシステムとして,様々な技術を応用し開発されてきている.一言に地域保健情報システムといっても,その範囲は広い領域にわたっている.まず第1にあげられるのが,情報の収集,整理,分析,評価のためのコンピュータ化であろう.狭い意味では,情報化はコンピュータ化のことを指して用いられる場合もある.一方,情報の伝達,媒介として様々な技術,手段が使われ始め,試みられている.いわゆるニューメディアとして,文字・図形情報ネットワークシステム(キャプテンシステム),動画を用いる画像応答システム(VRS),ケーブルテレビ(CATV),パソコン通信,ファクシミリ,テレビ電話等,情報の高度化,多様化をもたらす新しい電気通信システム,パッケージ系メディアがある.また,情報の蓄積,媒介の手段として,ICカードや光カードの開発がなされてきている.こうした技術の保健分野での応用も,今後さらに重要となると考えられる.

日本列島

高校生の献血に関する意識調査まとまる—長野

著者: 藤島弘道

ページ範囲:P.825 - P.825

 長野県の献血の状況をみると,ここ数年,16〜19歳の若年層献血者や,初回献血者が減少しており,献血者の固定化が見られる.将来にわたる献血運動展開の基礎資料を得る目的で,県下全日制高校21校の,2年生各2クラスにつき,アンケート記入式で調査を行った.63年2月末に実施し,このほどその結果がまとまった.
 有効回答は1,727名で,男子838名,女子889名である.献血経験のある者は,男子27.2%,女子29.7%であり,貧血で採血できない者のいることも合わせ考えると,女子の献血への協力はやや高い.

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基本情報

公衆衛生

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1170

印刷版ISSN 0368-5187

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