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雑誌目次

雑誌文献

公衆衛生52巻3号

1988年03月発行

雑誌目次

特集 公衆衛生の課題と展望

公衆衛生の課題と展望

著者: 重松逸造

ページ範囲:P.144 - P.145

 今年(昭和63年)は,厚生省とその付属機関として発足した公衆衛生院の創立50周年に当たる.この両者の歴史が,そのままわが国における公衆衛生の発展過程を物語っているといっても過言ではあるまい.もちろん,公衆衛生に関係する主要な施設の整備と活動はもっぱら第二次大戦後に集中していることはいうまでもないが,21世紀も間近に迫ってきた今年あたりが公衆衛生においても大きな節目の年になりうるということかもしれない.
 高齢化社会到来の声は既に耳にタコができるほど聞かされているが,人間(特に日本人)の通弊として現実の事態に遭遇しない限り,なかなか本腰にはならないということもあろうし,一方,現状でも着々とそのための準備が進められているという認識の仕方も存在しよう.いずれにしても,これからの公衆衛生活動は経済的な発展途上段階にある時期のそれとは異なり,社会活動全般のバランスを考慮して実施される必要があろうし,さらにいえば国際的な連携ということも強く求められる時代になってきたということができよう.

疫学

著者: 青木國雄

ページ範囲:P.146 - P.147

 疫学の現代の課題のなかで,疫学情報の質の向上,方法論をめぐる問題点,医療の疫学,保健サービスへの貢献,医の倫理との関連などを取り上げ考察したい.

地域保健

著者: 高橋弘

ページ範囲:P.148 - P.149

■はじめに
 わが国の地域保健活動は環境衛生改善に始まり,対人保健活動としては社会防衛的な色彩の強い結核対策,母子保健対策が中心であったが,保健所はそれぞれに大きな役割を果たしてきた.その後,焦点が明確でない時代が続いてきたが,どうやら地域保健活動の重点として老・成人保健と精神保健の二本柱が確立されてきたようである.後者に関しては筆者に知識も経験も乏しいので,本稿では老・成人保健に限って,保健所の立場からみた地域保健について,当管内での取り組み,経験を踏まえて考えてみたい.

母子保健

著者: 長岡常雄

ページ範囲:P.150 - P.152

■改善された母子保健指標
 昭和60年は母子保健に携わる者にとって感慨深い年であった.それは,日本における乳児死亡率が出生数1,000に対し5.5となり,世界最低となったと考えられたからである.昭和25年当時の乳児死亡率は60.1であり,欧米諸国の2倍以上であった.それがこの35年間に10分の1以下と急速に改善して来たのである.この間,母子保健に関しては種々の対策がとられて来た.昭和12年に保健所法が制定され,母子保健が結核予防とともに保健所の重要な事業とされたのをはじめとして,昭和22年には,児童一般の健全な育成と福祉の積極的増進を基本精神とする児童福祉法が制定され,この中で妊産婦・乳幼児の保健指導や未熟児対策,あるいは三歳児健康診査など母子保健の施策が順次整備されて来た.
 昭和40年には母子保健法が制定され,母子の一貫した総合的な対策がよりきめ細かく行われるようになり,ここ数年では新たに神経芽細胞腫の検診やB型肝炎母子感染防止事業が開始されている.また従来の未熟児や結核児などに加え,悪性新生物や心疾患などの慢性疾患児に対しても医療費助成制度が拡大されるなど,医療給付の面でも制度の充実が図られて来た.

学校保健

著者: 東郷正美

ページ範囲:P.153 - P.154

 義務教育の年齢がほぼ当てはまる5〜14歳の年齢階級での死亡率は,人生において最低である.昭和60(1985)年の厚生統計によれば,人口10万対で5〜9歳では男26.6,女15.3,10〜14歳では男19.9,女13.1である.この年齢層は,感染症などで多くの人が死亡していた時代でも,年齢別にみればいつでも最低の死亡率を示してきている.低くなったといわれる乳児死亡率よりも,当然のことながらはるかに低い.その死因は不慮の事故が第1位であり,その中でも自動車事故が一番多い.学校保健の最低限の目標を,小学校入学以来中学校卒業まで,預かった子供を死なせないこととすると,当面の目標は,自動車事故をいかに防ぐかである.赤痢をはじめとする消化器系の伝染病や,肺炎などの呼吸器系の病気で,幼い生命が次から次へと奪われていった時代から見たら,想像を絶するくらいに子供は死なない時代に至ったといえよう.世の中の人々は,何とありがたい時代を迎えたと思っているだろうか,それとも,何と危険極まりない時代に暮らしていると思っているだろうか.もし前者であるならば,人々はきっとのんびりと生活を楽しめるであろうし,後者であるならば,常におびえて,生活を楽しむどころではなかろう.小・中学生侍代には,めったには死なないのであるから,もう少し学校でも家庭でも,のんびりと子供を育て,教育してもよい時代になったのではなかろうか.

成人・老人保健

著者: 内藤雅子 ,   根岸龍雄

ページ範囲:P.155 - P.157

■はじめに
 成人・老人保健の課題の模索,その保健管理の展望は,近い将来のわが国の人口構成,疾病・死亡構造,それらに対する医療資源および医療経済・保健・福祉などに関する情報を推測できれば可能となる.幸いなことに,そのためのてがかりは,先人の努力によって,世界でもまれな統計資料として多数残されている.それは,人口動態統計のみではない.第二次大戦後の統計とはいえ,受療率,有病率などや近年の医療経済および医療資源に関する各種の情報がある.
 明治以降のわが国の進歩はきわめて急速であったし,現在もそれは継続している.このために,わが国民はその生まれ育った社会的環境によって,大きく異なる疾病・死亡構造および医療への対応を示すこととなった.数多くの疾患で,その死亡率の推移に明確なコホート現象が認められており,また受療率,有病率にも生年群別に特徴的な所見が認められている.これらの特徴を踏まえると,近い将来のわが国の成人ないし老人の生年群別人口,有病者数,受療者数,死亡数が推測されることとなる.これらの動向と,医療資源および医療経済・保険・福祉に関する諸情報との関係は,成人保健および老人保健の各種の問題点を浮彫りにし,その解決のための方法論の方向を思考させることとなる.

精神衛生—「公衆衛生としての精神衛生」を目指して

著者: 佐々木雄司

ページ範囲:P.158 - P.160

■はじめに--私の不安と疑問
 私が臨床精神医学を離れ,新設間もない東京都立精神衛生センターに身を投じたのは,昭和41年9月であった.以来21年余,地域精神衛生活動に埋没し続けてきたわけであるが,絶えず私を悩ませているのは,保健所精神衛生活動のあり方への不安と疑問であった.
 実は,10数年前の本誌にも,その疑問を投げかけたことがある1,2).別冊を読み返すと,多少表現こそ異なれ,今回の主張と大差なさそうである.当時は,保健所保健婦の「精神障害者に対する訪問件数/全訪問件数」はわずか数%,デイケアなど夢物語であった.今日ではそれに比し,その活動は普遍化・活発化し,保健所業務の大きな柱の一つとしての市民権が確立されたかのようにみえる.にもかかわらず私の不安は一向に消えない.

地域医療

著者: 五十嵐正紘

ページ範囲:P.161 - P.163

■コミュニティの形成
 コミュニティ,つまり生活共同体の実体形成と意識形成の程度が,当該地域に関わる問題意識の形成とその問題の建設的な解決の基盤である.また,生きがいがあることが個人が健康であることの最も重要な内容であるように,地域に質の高い活発な営みがあることが,地域集団が健康であることの指標である.地域医療の成否も当然ながらコミュニティの形成や地域の営みの質の高さと不可分である.地域づくりに地道な提言と行動をすることが,地域医療に関わる医療人の必要条件となってくる.
 共同体作りの基本は人作りであり,そのキーポイントは自立と共同である.特に健康な共同体の人作りにあっては,病や障害と共に生きる,病めるもの,障害者と共に生きるという地域社会の雰囲気が肝要である.このような心の主要な部分は,子供の頃に周囲のものとの出会いの中で培われる.地域医療に関わる医療人は,その長い地域の子供たちとの接触の中で,このような人間形成を支援する任務がある.

環境保健

著者: 山口誠哉

ページ範囲:P.164 - P.166

■最近の環境問題―特に生活環境汚染と健康影響について
 空気,水,土壌等に含まれる有害物質による汚染は,単に局地的ではなく地域社会を大きく含むことになり,結局その影響を受ける可能性のある対象者が,複数,集団になってくることが予測される.また,単に物質による汚染のみではなく,近年においては社会経済問題,精神構造等も人間の生活環境問題として具現されて来ている.
 ある集団の中である特定の疾患が発生した場合,その患者が少数で,しかもその原因がコレラやチフスの如く比較的容易に同定出来るものであればともかく,特に近年の環境保健の問題としては,広い環境の中で不特定多数の患者が発生し,その原因が判然としない場合が多く,その原因の解明は臨床医学的手法では不可能の場合が多い.まして,原因不明または非特異性疾患の患者が発生した場合,個々の患者と環境内特定有害物との因果関係があることを証明することは極めて困難なことになる.

産業保健

著者: 土屋健三郎

ページ範囲:P.167 - P.169

■はじめに
 昭和53年4月産業医科大学医学部の第1回入学式に当たって,筆者は産業医科大学の建学の使命を述べたが,その要約は次の通りである.
 ①産業医科大学は人間愛に徹し,生涯にわたって哲学する医療・保健従事者を養成し,
 ②産業環境を心とする環境科学とライフサイエンスとの融合発展に努力を払い,
 ③経済学をも含む新しい生態学を発展せしめ,
 ④産業化社会における産業・環境保健の確立のみでなく,地域医療との有機的な結合を図り,もって21世紀の医学分野における先駆者として,人類のより良い生存をかちとるための新しい福祉社会を樹立することを建学の使命とする.

農村保健

著者: 野村茂

ページ範囲:P.170 - P.171

 わが国の農村医学には,かつて,高橋実の「東北一純農村の医学的分析—岩手県志和村に於ける社会衛生学的調査」や,林俊一の「農村医学序説」など,農村結核や農村の乳幼児衛生の実態を明らかにした先駆的業績があった.また,南崎雄七らの実施した内務省衛生局の「農村衛生実地調査」や,暉峻義等らの労働科学研究所の「農業労働調査報告」なども昭和初期の農村保健対策を考える基礎的な資料であった.しかし,当時の記録として貴重なこれらの調査研究が剔出した課題は,そのまま現在の日本の農村保健の重点課題ではない.また,第二次大戦後の農民の健康を直視して,農村医療の向上を期して,1952年,若月俊一の主唱によって発足した日本農村医学会の主要課題も,日本の農業と農村の変貌とともに動いている.本年のこの学会の主題も,「変貌する農村への農村医学の対応」ということであった.

衛生行政

著者: 小野寺伸夫

ページ範囲:P.172 - P.174

 近年,人々の生命と健康をめぐる課題が複雑多岐に変化する中で,まもなく訪れる21世紀を展望し課題への対応を積極的に図る衛生行政は,まさに新しい発展の段階にある.
 わが国は国民的努力を通じ,世界的に高い健康水準を保持する長寿社会を形成しつつある.しかし,この現実社会の急速な到来は,今後における健康政策を体系化するに当たり,前例踏襲の路線にとどまらず,先導的な政策科学を基本とした衛生行政システムの確立が求められる.

家庭保健

著者: 中島正治

ページ範囲:P.175 - P.177

■家庭保健の背景
 疾病予防,治療,リハビリを含めて,幅広い意味で保健という言葉を用いることにしても,「家庭保健」という言葉は,母子保健,学校保健,成人保健などに比べて余り聞き慣れない用語である.他の用語と同様,「家庭保健」も保健を考える場合の一つの視点を示しているが,この「家庭」という極めて常識的で日常的な視点が保健という慨念の中で,これまで特に注目されずに,最近になってにわかに関心を呼んでいる理由は何なのであろうか.
 わが国だけでなく,先進工業国においてはいずれも,近年の国民の生活様式の変化に著しいものがある.衣食住の基本的要素についてだけでも,これらの素材の生産,流通の形態,またその利用の方法,地理的,物理的,人的要素まで含めた住環境など,社会環境は大きく変貌を遂げてきている.

国民保健

著者: 田中慶司

ページ範囲:P.178 - P.181

 21世紀の国民保健を動かしていく上でのキーワードとして,自由化,情報化と健康の価値化を挙げてみたい.
 従来,保健・医療なり公衆衛生の活動は,乳児死亡率や5年生存率,平均余命などの健康指標の向上により評価されてきた.しかし,これらの数値が改善し質の問題,即ち,生命の質(Quality ofLife)が問われはじめて以来,指標のとり方に戸惑いが出てきたように思える.質とは主観的なものであり,直接的に測定し難い.
 そこで,質を間接的に推量するために,選択の幅,情報の質と量,どの程度の時間と費用を投じるか,といったものが客観的指標となり得ると考える.そういう意味でもこの三つの要素は,将来の国民保健を向上させる目標にもなるのではないであろうか.

国際保健

著者: 石川信克

ページ範囲:P.182 - P.183

 国際保健とは,一国のみでは解決できない疾病や保健の問題を,国際間の協力で取り扱う分野といえよう.人の移動や国際交流が著しく盛んになった現今,いかなる国も自国の保健問題を他国との協力なしには処理出来なくなって来ている.従来の国際保健の事業内容を挙げてみると,①国際防疫(主に感染症対策),②国際環境保全(産業排棄物・放射能等への対策),③国際保健医療協力(政府及び民間医療協力,国際保健機関への参加協力),④その他(戦争災害,難民,外国人労働者への健康対策など)であろう.
 これらを推進する立場や目的も,一概に割り切れないが次のものが挙げられる.

対談・連載

公衆衛生の軌跡とベクトル(5)—「福祉元年」から1970年代を中心に

著者: 橋本正己 ,   大谷藤郎

ページ範囲:P.184 - P.190

 大谷 今回は「福祉元年」と言われた昭和48年(1973)から約10年間を話題とします.昭和48年は健保法の改正で高額療養費支給制度など医療費の自己負担をできるだけ少なくし,また年金法改正で物価の上昇があっても政府の責任で年金額をアップすることを定めるなど老後の保障を確実にしようという二本の柱からなる改正があり,またその前年の昭和47年に老人福祉法の改正が行われ,48年からいわゆる老人医療費の無料化が実施されたなどが重なって,「福祉元年」と誇らかに言っていたものです.
 老人医療費の無料化は昭和40年代に美濃部都政をはじめ全国の革新自治体で進み,それらの自治体の動きを受けて,斎藤邦吉厚生大臣のときですが,国として老人医療費を無料化することに踏み切ったものです.この時代は30年代に始まった高度経済成長が,42〜43年ごろから45〜46年ごろまで加速化した時代でした.それで税収入も割合多く,地方財政も国の財政も比較的潤沢で,それに踏み切れたものです.

講座

産業医学における神経および心理・行動機能評価〔1〕—末梢神経機能(1)—神経伝導速度と伝導速度分布

著者: 荒記俊一 ,   村田勝敬 ,   横山和仁

ページ範囲:P.191 - P.194

■はじめに
 最近,技術革新の進行に伴い医用電子機器とこれを用いた電気生理学的測定技術が,急速なスピードで進歩している.日本の神経生理学(主に電気生理学)は長年世界の先端を走って来た.これに対し,公衆衛生学とくに産業医学領域での神経生理学的解析法の応用は,必ずしも十分であるとはいえない.
 21世紀には,神経・精神障害が医学研究上の最重要課題の一つになるとの将来予測がある.公衆衛生学領域でも今後広範囲の神経,精神,行動障害の早期発見と予後管理,リハビリテーション等がますます重要になるであろう.しかし現在のところ,このための基本的な方法論が十分確立しているとはいえない状況にある.そこで本講座では,主に産業医学領域でこれまでに我々が使用して来た最新の神経生理および生化学的方法と心理・行動学的解析法を中心に,これらの方法がヒトの微小な神経・精神・行動障害の解析にどの程度有用であるか,現時点までの研究成果をできるだけ簡潔に整理要約する.初回の本稿では,末梢神経機能の評価のために最も鋭敏で再現性の高い方法と考えられている神経伝導速度と,ヒトにおける測定技術が確立してまだ日が浅いコンピューターを用いた伝導速度分布(神経束中の個々の神経伝導速度の相対的割合)の解析結果を紹介する.

活動レポート

帯広保健所の活動

著者: 井上一男

ページ範囲:P.195 - P.199

■はじめに
 今,衛生行政は大きな節目を迎えた.昭和62年は現在の「保健所法」が制定され,保健所長会が創設されてから満40周年に当たり,今年は厚生省が設置されてから半世紀の記念すべき年である.また,昭和62年9月に厚生省は保健所のあり方に抜本的な検討を加えるため「地域保健将来構想検討会」を発足させた.従って,今は保健所のあり方を考えてみるのに絶好の機会だといえる.そんな気持ちを込めながら,北海道帯広保健所の活動を紹介させていただこうと思う.

健康学習の試み・1

健康教育から健康学習へ

著者: 石川雄一

ページ範囲:P.203 - P.208

◇変化する保健医療ニーズ
 現在,感染症,がん,循環器疾患の問題解決を目的として,各科の専門医が自分の守備範囲を狭めながらその専門的研究を続けている.一方,総合医療,保健・医療・福祉の統合化など,プライマリ・ケア医療の重要性が叫ばれ,両者の役割分担がなされようとしている.また成人病を中心とした慢性疾患の治療に限界がある現在,予防医学的アプローチの必要性が強調されている.老人保健法での健康診査,健康教育はまさにその代表といえる.
 一方,マスメディアの発達により国民への健康・疾病に関する知識は,不十分ながら高まってきた.知識を習得した結果,疾病予防へ行動変容した人もいたが,反面頭の中で理解していても行動変容まで至らないケースに,私たち医療従事者は頭を悩まし始めた.例えば,たばこが人体に悪影響を及ぼすことは,ほとんどの喫煙者は知っていよう.しかし,人体に悪いと知りながらたばこを吸い続ける喫煙者に,更にたばこの肺がん,慢性気管炎に関する知識を伝達しても,禁煙へと行動変容する率は低い.「私に限って肺がんになるわけはない」,「タバコを吸うと精神的に落ち着く」,「肺がんになったらその時に考える」などの喫煙者の論理があり,単に医学的知識を伝達しても継続的行動変容までには至りにくい.

発言あり 耳の日と現代の生活

聞こえの障害ある人への認識を深める日に,他

著者: 田内光

ページ範囲:P.141 - P.143

 「耳の日」は,我々耳鼻咽喉科医にとっては耳新しい言葉ではない.聞こえの障害のある人々にとっても同様であろう.それでは聞こえの正常な人々,いわゆる健聴者にとってはどうであろうか.「耳の日」の存在を知らない人も多いであろうし,知っていてもただ漠然と「耳の病気にならないように注意をする日」ぐらいに考えているのではないだろうか.しかし「耳の日」は聞こえの障害を持つ人だけでなく聞こえの正常な人にも,ぜひ「聞こえの障害」について関心を持って欲しい日なのである.
 体の不自由な人や,目の見えない人の障害は外見的にもよくわかり,そういう人たちが困っていれば回りの人は手をさしのべるであろう.車椅子の人が立ち往生していれば後ろから押してあげるでしょうし,目の見えない人には手を貸してあげ誘導してあげるでしょう.しかし,聞こえの障害には気づかないことが多い.外見上は五体満足で,その行動は普通の人と変わりがなく,見掛け上は何の不自由もなく行動し,生活しているように見えるからであろう.しかし実際には,耳からの情報不足のため回りに人一倍気をつかい,不自由な生活を送っているのである.聞こえに異常のない人も聞こえの障害をよく理解し,またそのような人たちとどのように対応したらよいか考える必要があると思う.一般の関心が低いがゆえに十分な配慮がなされず,聞こえに障害のある人は非常に困る場合がある.

公衆衛生人国記

岩手県—ひたむきな人びと

著者: 角田文男

ページ範囲:P.200 - P.202

 四国四県ほど広い岩手県は,その3分の2を北上山系の寒冷高原で占められ,いつも寒さと冷害による飢えと貧しさに悩み,その上に医療施設の過疎も加わって病いに苦しめられた.岩手県の公衆衛生活動は,「住民の生命を守った村」の沢内村に象徴されるように,乳児死亡の改善と農村医療の改革に始まる.この活動には偉大な二人の先駆者があげられる.一人は医学者として実情を哀れみ立ち上がった根本四郎(1889-1966年)であり,もう一人は政治家として実情を憤り立ち上がった佐藤公一(1889-1961年)である.

保健行政スコープ

地域医療計画について

著者: 潮見重毅

ページ範囲:P.210 - P.211

 都道府県における医療計画の策定・推進を中心とした医療法の改正が昭和60年12月になされて,ほぼ2年が経過した.医療計画にかかわる部分の法律施行が昭和61年8月であるので,実質的には1年6カ月であるが,都道府県において既に医療計画が作成されたところは現在19県に過ぎない.
 医療計画に定められた事項については,計画の公示後に初めて効力を持つことになるので,計画公示までの空白の期間をできるだけ短縮する必要がある.医療計画の早期作成に向けて努力するよう,現在,強く都道府県にお願いしているところである.

衛生公衆衛生学史こぼれ話

48.文明国の伝染病

著者: 北博正

ページ範囲:P.166 - P.166

 第二次世界大戦前,ドイツの疫学者の間で伝染病を文明国の伝染病と未開国の伝染病に分類するという考え方が有力であった.彼らによれば,呼吸器系統の伝染病は主として飛沫感染により,人と人が接近し,その間隔が小さくなり,吸入する菌量が増加し,菌の毒力が強いため,濃厚感染が起こり易い.室内(学校,事務所,劇場,乗物等々)で多数の人間が密集することの多い文明国にみられるので,このように命名された.
 これに対して消化器系伝染病は主として経口感染で,飲食物の汚染,便所,上下水道の不備,ハエの発生等,感染経路がいろいろあり,未開国に共通してみられるので,このような分類となった.現在のアジア・アフリカの諸国に典型的なものがみられる.

日本列島

モデル老人保健施設連絡協議会開く—長野

著者: 藤島弘道

ページ範囲:P.169 - P.169

 昭和62年11月17日,佐久総合病院で,全国7カ所の老人保健施設の,第4回連絡協議会が開催された.
 厚生省老人保健課の岡田課長補佐から,老人保健審議会報告について説明があった後,各施設から現況報告があった.開設日・規模がそれぞれ異なる施設であるが,会議・懇談・見学を通じて,それなりに建前.本音の意見が出された.

山都での民族衛生学会開催—岐阜

著者: 井口恒男

ページ範囲:P.181 - P.181

 飛騨の紅葉も盛りを過ぎた昭和62年11月,高山市において第52回日本民族衛生学会が開催された.会員数が少ない(参加会員約150名)とはいえ,全国から専門学者の集まる学会は高山市においては初めてであり,研修を兼ねて当日会員として参加した地元の保健所や医療機関の職員や看護学生等にとって感銘深い学会であった.
 本学会は,医療機関従事者や全国各大学の保健衛生分野の研究者が参加しており,衛生学会や公衆衛生学会とはやや趣きを異にしたものである.他学会に比べ臨床医学分野や人文系分野等,幅広い分野からの参加者があり,疫学関連をはじめ,食生活,老人医療,精神保健,環境保健等約80題の一般口演の他,四つの講演と一つのシンポジウム,2テーマについての学術サロンが2日間にわたって開催された.

基本情報

公衆衛生

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1170

印刷版ISSN 0368-5187

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