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雑誌目次

雑誌文献

公衆衛生52巻4号

1988年04月発行

雑誌目次

特集 地域医療計画と公衆衛生

地域保健医療計画と厚生行政

著者: 佐柳進

ページ範囲:P.216 - P.219

■はじめに
 昭和60年12月,わが国の医療に係わる基本法である医療法が改正された.昭和55年9月に発覚した富士見産婦人科病院事件,医療法人十全会グループ事件に端を発した法的措置であるが,法改正案の成立,即日公布までに5年余り,更に施行までには約6年という長年月を要したことになる.無論,両事件や,その後に発覚した北九州病院事件に見られた悪質な医業経営に的確に対応すべく,医療法人への指導監督の強化のあり方が多多議論された事は当然であるが,更に,各都道府県において,今後医療計画を作成して,体系的かつ効率的な医療を提供するよう義務づけたにとが,もう一つの長期審語になった要因であった.ここでは,この都道府県医療計画の作成が持つ,厚生行政における意義について見てみたい.

医師会と地域医療計画—新潟県医師会のかかわり

著者: 馬場賢一

ページ範囲:P.220 - P.225

■はじめに
 昭和60年12月27日,医療法(昭和23年法律第205号)の一部改正により,プライマリー・ケアという言葉は入ってはいるが主点は2次医療以上における医療圏の設定と病床規制を根幹とする地域保健医療計画策定が義務づけられた.趣旨はわかるが,その狙いには長期入院低減その他を含めて医療費抑制にあることがうかがわれる.このことは医療を受ける住民にとっても,現場で保健医療を行う医療担当者にとっても重大事である.計画立案に当たって,新潟県医師会は県行政に対して次のにとを強く提言した.
 1)あくまでも住民,医師会,行政の合意形成の上での計画策定であること
 2)計画策定に参画する者はあらかじめ,包括医療理念の共通理解のもとで考えを進めること.包括医療理念とは①生まれてから死ぬまで一貫したケアとキュアが行われる医療,②予防からリハビリ,社会復帰にいたる一貫したシステム医療が整合的に連続する医療,③すべてのライフサイエンスが協働しつつ参加する医療,
 3)住民の受診の自由を妨げない計画であること
 4)医療機関の自然発生的であろうとも現実の診療圏を尊重した計画であること
 5)医療機関配置の適正化及び医師を含むマンパワーの充実と配置の適正化(機能を含めて)を具現する計画であること
 6)福祉との連携を確立すること

兵庫県の保健医療計画

著者: 平田輝昭

ページ範囲:P.226 - P.229

■はじめに
 兵庫県では昭和57年より県独自で地域保健医療計画の策定を開始したが,昭和60年12月に医療法が改正され,各県において医療圏域および必要病床数を必要記載事項とする医療計画の策定が義務付けられたため,これらの要件を含んだ形で検討を進め,県医療審議会の答申を得て昭和62年4月1日施行した.ここでは,兵庫県地域保健医療計画の概要とその後の推進状況について報告する.

離島・へき地の保健医療計画

著者: 有川勲

ページ範囲:P.230 - P.233

■はじめに
 鹿児島県では改正医療法に基づく「鹿児島県保健医療計画」を昭和62年6月1日付をもって公示した.全国では神奈川,兵庫に次いで3番目ということであるが,法改正後任意的記載事項を省かず,また,保健分野も盛り込んだ計画としては最も早かったものと自負している.このように計画発表が早かったのは,本県では大規模病院の進出問題が大きかったこと,いわゆる"駆け込み申請"への対応に苦慮していたためとみられているようであるが,我々としては決してそれのみが早かった理由ではないものと考えている.
 その理由の第1は,本県では昭和57年に県,県医師会,県歯科医師会,県薬剤師会,大学の5者で構成する「地域保健医療協議会」が設置されており,計画づくりのコンセンサスを得る場が既にあったことである.第2には,この協議会において保健医療課題の多くが検討し協議されてきていたこと,第3には,計画策定の前提となる各種基礎調査,すなわち,県民傷病実態調査,県民保健医療意識調査,医療施設機能調査,医療施設管理者意識調査を実施ずみであったことである.第4には,県医務課に課長級の担当参事をおき,計画づくり体制強化を図ってきたこと,そして第5には昭和61年に県政の総合的施策の方向を示す「県新総合計画」が明らかにされたばかりであり,地域保健医療計画はこの中の保健医療部門を敷衍する形で作業を進めることができたことである.

御調町の保健活動と地域医療計画

著者: 山口昇

ページ範囲:P.234 - P.238

■はじめに
 わが国の人口の高齢化は,ここ10年間加速度的に進み,同時に疾病構造も変化して,それに伴う医学及び医療技術の進歩,医療施設や病床数の増加,医師数の増等,医療をとりまく環境は大きく変化してきた.しかも最近では,住民の健康に関する関心度も高まり,社会のニーズも従来の疾病の治療だけではなく,"健康づくり"をはじめとする保健予防から後療法,更に場合によっては,福祉までの包括的な幅広い活動が要求されるようになってきた.
 国もかかる状況を踏まえて,60年12月医療法を改正し,都道府県に"医療計画の作成"を義務づけたが,これは"保健医療供給体制のシステム化"を図るということであり,換言すれば地域保健,地域医療のシステム化であろう.

地域医療計画と保健所

著者: 神山昭男

ページ範囲:P.239 - P.243

 これまで保健所にとって保健計画とのかかわりの指針は,昭和35年の衛第370号で示された内容であった.すなわち,「各市町村の区域を単位として保健所,市町村その他の機関・団体等が共同して総合的な保健計画を樹立することは,市町村の公衆衛生活動の能力を向上させ,実情に応じた活動を推進するために極めて効率的な措置と考えられる」が,このなかで保健所の役割は「技術的な助言・指導等を通じて,この共同の計画の樹立ならびにその実施結果の検討及び評価に対してその機能の十分な発揮に努めること」とされていた.
 そして,今般の医療法改正による保健医療計画における保健所の役割としては,「地域の現状分析に必要なデータの収集・解析,計画原案に対する助言・提言,2次医療圏単位での推進体制の中核となり,管内の共同保健計画を推進していくこと」1)とされている.

地域医療計画と医学教育

著者: 野崎貞彦

ページ範囲:P.244 - P.247

■わが国における地域医療計画
 昭和60年12月27日に医療法が一部改正となり,新たに医療計画に関する章が設けられ,各都道府県は医療計画を定めることとされた.この法律が,昭和61年6月27日から施行されて以来1年半が過ぎ,既に計画を公示した都道府県も少なくない.

地域医療計画における歯科保健医療

著者: 間宮ゆかる ,   若林良孝

ページ範囲:P.248 - P.252

■公衆衛生的視点から見た歯科保健医療
 人が自分の生涯を考えたとき,多くの人々は,健康で,幸福な生活を送りたいと願っているだろう.しかし,この願いが妨げられたとき,人は妨げるものを身体的・精神的苦痛としてとらえるだろう.「病気」は,その苦痛を引き起こす一つの因子であり,「歯科疾患」も,生命を左右する病気に比べれば,緊急性や危険性の少ない病気ではあるが,苦痛を生じさせる一つである.
 たとえば,歯科の2大疾患の一つである歯槽膿漏は,痛みなどの自覚症状がなく徐々に進行し,歯が1本1本抜けてゆく.歯が1本抜けたとしても,その時は,人は身体的にも精神的にも余り苦痛とは感じないだろうが,それがたび重なり,多数の歯が抜けた時には,食物を満足に噛めない事態を引き起こしている.成人病が死亡原因の上位を占める現代において,健康な生活を維持する上では,食生活が一つのポイントであろう.従って,人々にとって「噛めない」という事は,食生活が乱れる引き金の一つとなり,健康な生活を営む事を妨げる一つの因子となると思われる.そして「噛めない」という事は,人々にとって,日常生活の上で,身体的・精神的苦痛となってゆくと思われる.

対談・連載

公衆衛生の軌跡とベクトル(6)—「福祉元年」から1970年代を中心に

著者: 橋本正己 ,   大谷藤郎

ページ範囲:P.253 - P.259

驚異的な日本人の平均寿命の伸び率
 橋本 私は昭和48,49年前後から,主にNational Health Planningに研究的精力を費やしてきました.これは前に話題にしましたので省きますが,1965年から10年以上にわたり,WHOを中心としたにの関係の国際会議に参加して参りました.
 大谷 その間に,WHOの政策も変わってきたのでしょうね.
 マーラーが登場した1973年までは,WHOはオーソドックスなヨーロッパ医学の考え方で,ともかく,いわゆる正統の西洋医学や看護を普及することにより,健康の向上を図ろうとしたのです.それがNational Health PlanningやBasic Health Serviceということであったわけですね.

フォーラム

在宅ケア—現状と今後の展望

著者: 大倉透 ,   重松逸造

ページ範囲:P.260 - P.264

1.在宅ケアに取り組む意味
 超高齢化社会を目前にして,際限知らずに膨張する保健・医療・福祉の需要に比較すると,これに対応すべき社会資源の拡充には限界があり,今やわれわれの社会は,誰かが運良くその社会資源の恩恵に浴し,誰かが取り残されるという,厳しい選択の時代に突入しつつある.
 すでに病院医療の現場では,外来診療の過密,狭き門の入院,患者・家族の意思を無視した冷酷な退院勧告,福祉施設の現場では,入所待機者の長蛇の列といった現象が見られ,最も弱い立場にある人から順に,保健・医療・福祉からの疎外をこうむり,やむなく閉鎖的な在宅生活を余儀なくされている.

アニュアル・レポート

産業衛生・労働衛生を中心に

著者: 西川滇八

ページ範囲:P.265 - P.267

 第60回日本産業衛生学会・第42回日本産業医協議会が昭和62年4月8日(水)より10日(金)の3日間,国立教育会館において開催された.その総会シンポジウムとして,近年課題とされてきた「産業医の専門性」が取り上げられたので,まず,その概要を紹介したい.

健康科学を中心に

著者: 小泉明 ,   星旦二

ページ範囲:P.268 - P.271

 健康科学は,健康に関する課題に対して科学的に対処する学問体系と考えられる.ここでは,1987年のアニュアルレポートとして,疫学研究,個別の課題として重要であったAIDSの問題,さらに科学的で体系的な健康政策の立案と展開をテーマにして展望を試みることにしたい.

医療行政・医療経済を中心に

著者: 大井玄

ページ範囲:P.272 - P.274

◆概観
 1987年度の公衆衛生に関する学会及び研究活動を,医療行政,医療経済,社会と公衆衛生といった立場から俯瞰すると,いくつかの点でこの年は注目すべき年であった.
 まず年頭の1月に,神戸の1売春婦がAIDSと報道され,わが国の社会は一時パニック状態に陥った.神戸周辺の保健所等,HIV抗体を調べる検査機関の懸命の対応,テレホンサービスによるパニックの鎮静化の努力など,緊急時の公衆衛生活動として記憶されよう.

活動レポート

岡山県食品衛生協会の活動

著者: 山田寿

ページ範囲:P.275 - P.278

 岡山県食品衛生協会は,今年で発足以来35年を経過する.この間の食品業界をとりまく環境は革命的といえるぐらいの変化を遂げている.
 我々の協会は,歴代会長を中心として,常に協会員の抱える食品衛生上の問題点を的確に把握し,それらを解決するための活動の方向を模索し,少しでもよりよい方向に進もうということで色々な事業を計画し実行してきた.しかしながら,我々の協会は食品営業者の自主的な集まりであり,協会員の食品衛生に対する認識も様々である.また,協会活動は協会役員及び食品衛生指導員の熱心なボランティア活動に負うところが多い.これらの人々は自営業者が多く,活動時間に大きな制約が加えられているため,協会で企画・立案した事業が長続きせずに終わった事例も多くあった.多くの協会事業の中で,食品衛生自主指導員制度は発足以来約25年を経過し,現在の協会事業の主体となっており,その活動は定着したものとなっている.

健康学習の試み・2

「健康学習」の企画と運営の実際

著者: 石川雄一

ページ範囲:P.279 - P.283

◇健康教育と健康学習
 これまで健康教育の評価が,開催回数,参加人数と講師の知名度でなされ,企画に際しても人集め,講師の選択に精力が注がれてきた.また保健婦自身が実施する場合も,食事,運動の話題を中心に,成人病を代表とする疾病をテーマとした健康教育が運営されてきた.健康教育の効果判定を主催者側の物差しで測ったため,実施後,住民が健康づくりの行動変容をしたか否か,つまり住民の変化度をみる評価はほとんど行われてきていない.塩分摂取量や血圧などの非常に限られた項目は,数値を追ってフォローされたが,人間全体,地域全体の健康度の評価はあまりなされていない.
 それは,健康教育の企画材料が疾病頻度,死因などに代表される結果からスタートしたことに問題がある.病気,死因は,人間が何十年か自分のライフスタイルで歩んだ結果である.住民に取り上げて欲しい話題はと問うと,高血圧やがんと決まった答えが返ってくる.禁煙をしたほうが良いと全員が知っていて,その重要性,具体的方法論を主催者である保健婦や医師が説明する.多くは知識の伝達にとどまり,行動変容までは至りにくい.継続性となると更に困難である.しかし,多くの住民はより健康になることを望んで健康教育の場にやってくる.

発言あり 労働基準法の改定

語り継ぎたい「時のしるし」,他

著者: 華表宏有

ページ範囲:P.213 - P.215

 わが国の労働基準法が40年ぶりに改定され,今年の4月から施行されることとなった.周知のように今回の改定は,法定労働時間を従来の週48時間から40時間に短縮することを基本的な目標としている,あわせて第3次産業の占める比重が大きくなってきた現状を踏まえて,この週40時間の枠組の中で,かなり弾力的な労働時間の配分の方法を認めたり,年次有給休暇の最低付与日数を6日から10日に引き上げ,かつ労使協定によって計画的付与が出来るように定めた.このほか,労働時間の算定,就業規則の中に退職手当について明記するにとなども,主なる改定点として挙げられている.
 戦後40数年を経て,いまや世界の経済大国となったわが国が,国際的な対応も考慮の上で,このように法定労働時間の大幅な短縮を断行するまでになったことを,感無量なこととして受け取ったわけである.終戦の混乱の時代に,多感な中学・高校の青春を送った私のような昭和1ケタの後半の世代は,既に還暦に達した「きけわだつみの声」の世代とも,あとに続く戦後派の世代とも違っている.

公衆衛生人国記

大阪府—カリスマの棲息しない風土(?)

著者: 張知夫

ページ範囲:P.284 - P.286

 大阪の公衆衛生人国記を書くのは難しい.大阪は面積こそ全国最小だが,人口は900万に近く,大閣さん以来の歴史もある.戦後の公衆衛生に限定しても,主な人物の名前を羅列するだけで紙幅が尽きることだろう.たぶん筆者が学窓にいるため,選択に困るほど多くの人を知らないのでこの大役が回ってきたのだと思うが,それだけに,無知と偏見で歪んだ大阪像を提供する可能性の大きいことを,まずお詫びしておかねばならない.

保健行政スコープ

国病・国療の再編成と地域保健医療

著者: 福田祐典

ページ範囲:P.288 - P.289

 国立病院等の再編成に伴う特別措置に関する法律の施行により,再編成問題は新たな局面を迎えたが,その前途を厳しくしている要因に地域医療問題との絡みがある.これは,デリケートな問題でもあるので,筆者の私見も交えて考察したい.

日本列島

病診連携とファクシミリ網—岐阜

著者: 井口恒男

ページ範囲:P.267 - P.267

 医療費の増嵩,高額医療機器の出現,全人的医療へのニーズなどから,医療資源の共同利用や重複検査の排除やチーム医療の推進が進められており,病院と診療所の連携(病診連携,病々や診々連携も包含するものである)が重視されている.
 病診連携の第一歩はコミュニケーションであり,患者の紹介状,検査依頼,精検結果の通知,診療内容の連絡などは現状でも個々の医療機関や医師の方式に従って行われているが,情報の内容,形態,伝達法などに統一されたものが少ない.患者の立場に立った,より迅速,的確に対応するための保健医療情報や処理システムの研究開発を期待したいが,当面,紹介状や診療内容連絡の様式や伝達法など,日常の身近なものから検討が進められるべきと思われる.また,誰もが取り組みやすい方法が,特に病診連携の上では肝要と思われる.

基本情報

公衆衛生

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1170

印刷版ISSN 0368-5187

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