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雑誌目次

雑誌文献

公衆衛生52巻6号

1988年06月発行

雑誌目次

特集 産業医学最近の話題

産業医学の現状—日本産業衛生学会の活動から

著者: 堀口俊一

ページ範囲:P.365 - P.368

■はじめに
 わが国の産業医学に関連する学会の中心は「日本産業衛生学会」であるとして異論はないであろう.この学会の淵源は昭和4(1929)年,倉敷労働科学研究所に本部を置き,暉峻義等を理事長とする産業衛生協議会の創立に溯る.この時,創立総会および第1回産業衛生協議会が開かれ,以来,現在まで60年になんなんとする歴史を有する.来年はいわば還暦に当たる.また現在の機関誌「産業医学」は本年から第30巻に入る.当初は労働科学研究所の機関誌「労働科学研究」(その後「労働科学」と改称)の場を借りていたが,昭和34(1959)年,現在の「産業医学」として独立した.
 学会の定款によると,「本会は産業衛生の進歩をはかることを目的とする」(第3条)とあり,この目的を達成するために,つぎの事業を行うことが第4条に掲げられている.(1)日本産業衛生学会および日本産業医協議会の開催,(2)産業衛生に関する協議会,研究会の開催,(3)機関誌の発行,(4)産業衛生に関する調査研究,(5)産業衛生に関する教育研修,(6)産業衛生に関する資料の収集,編さん,(7)その他本会の目的達成上必要な事項.以上のほか,「本会の目的を達成するため必要があるときは委員会を設けることができる」(第34条)とされている.

生物学的モニタリング

著者: 緒方正名 ,   田口豊郁

ページ範囲:P.369 - P.373

■生物学的モニタリングの定義
 「生物学的モニタリング」(biological monitoring)とは,生体試料中に含まれる環境汚染物質を分析・定量して環境汚染の程度を評価することである.これに対し,「環境モニタリング」(environmental monitoring)は,外界の空気・水・食物などの試料を分析・定量して,汚染の程度を評価することである.
 産業保健の領域では,生物学的モニタリングは,「工業化学物質のヒトの生物学的モニタリング」であり,生体試料(血液・尿・呼気等)中の化学物質,代謝物の定量値から,作業環境の空気中に含まれる有害化学物質の作業者の摂取量を求め,暴露の程度を評価することと位置づけられていた.さらに有害物質のヒトに対する初期の影響を測定し,暴露の程度,健康の危険度を評価し予防に役立たせることも,最近,生物学的モニタリングとして加えられるようになった.前者を「生物学的暴露モニタリング」,後者を「生物学的影響モニタリング」と呼んでいる(図1).
 一方,環境保健の領域においては,生物試料によるモニタリングは,「生物試料による環境モニタリング」と言われ,自然環境中の生物集団における汚染物質(例えば,魚介類中の有機塩素化合物の量)を経時的に観察することによって,環境の汚染度の変動を把握・評価する方法をいう.

アスベストによる健康障害の予防対策

著者: 森永謙二 ,   神山宣彦 ,   横山邦彦

ページ範囲:P.374 - P.378

■はじめに
 一昨年1月のアメリカ環境保護庁US EPAによる10年後のアメリカへのアスベスト(石綿)の輸入及び使用の全面禁止の提案は,わが国の関係方面にも大きな衝撃を与えた1).その後,学校等の天井に吸音・断熱材としてアスベストが吹付けられていることが判明し,アスベスト問題は労働衛生のみならず環境問題として真剣にその影響を調査し,対策を進める必要に迫られている.アスベスト関連疾患については筆者の別稿2)〜8)に譲り,本稿ではアスベストによる健康障害の予防対策の観点から,アスベストの産業利用,暴露の機会,許容濃度について述べ,最後に最近話題となった吹付けアスベスト問題についても触れる.

VDT作業

著者: 渡部眞也

ページ範囲:P.379 - P.381

 マイクロエレクトロニクス技術の急速な発達によって,生産と経営管理のオートメーション化が,広汎な産業分野で著しい進展を遂げつつある.コンピュータ端末であるVDTでの作業は,そこでの新しい労働形態の一つで,とりわけ事務作業部門に普遍的に見られる.
 この新しい作業形態の労働負担や健康への悪影響への関心と研究は,ヨーロッパでは,1970年代中頃から見られるようになり,また,雇用(失業)問題もからめて労働運動の大きな課題ともなり,その結果,作業時間短縮を含む労働条件の改善が進んだ.わが国での取り組みはこれに少し遅れ,80年代に入って労働組合の取り組みが活発になり,日本産業衛生学会VDT作業に関する検討委員会が,内外の情報を検討・整理して当面の対策や課題について意見を表明したり,労働行政面でも一定の対策指針が出されるなどして,労働条件の悪化には若干の歯止めがかかったが,まだ満足すべき状態にあるとはいえない.

労働者の体力

著者: 大西徳明

ページ範囲:P.382 - P.385

■はじめに
 労働能力は加齢的な機能変成の経過においても安定的に保有されていなければならないといえる.八木は職業体質論の社会衛生学的意義についてのなかで,「職業が特に近代的な産業組織化において,人体保健上,様々の危害を包蔵している.それは半ば強制的作業,夜業昼眠,環境不良,持続的強制姿勢,局部的労作,絶えざる心身の緊張,栄養不足,自由なる戸外運動の不足などが発育発達の劣弱を来し,早期体力の消耗,平均寿命の短縮となって現れる」ことを指摘している.
 作業方法の機械化は,作業形態を著しく変貌させているといえる.かつてエネルギー代謝率の高い作業では,体力的側面が作業能力として評価される対応が直接的であった.しかし頭脳労働化したなかでの体力は,作業能力との結びつきが希薄となり,"基礎的体力"などといわれることにもなる.つまり,生活様式を含めた労働生活の変化は,かつてのような体力レベルを必要としなくなったことは事実である.が,また作業の継続を可能にする体力レベルや,加齢的な機能後退を考慮して体力レベルがいかようにあるべきかについて,曖昧にしている.

中小企業の健康問題

著者: 田中茂

ページ範囲:P.386 - P.390

 労働者の健康を考えるとき,先端技術に関する健康障害や大規模災害を除いて,一般的な労働災害や職業性疾病の頻度や症度が最も集約された姿で出現するのが中小企業である.
 ここでは,この中小企業における労働者の健康問題について述べることにする.

職場の健康教育

著者: 本岡健一

ページ範囲:P.391 - P.393

■職場の健康管理の柱を健康づくりに
 職場の健康管理の目標は,集団の健康を保持することです.昭和30年代は結核対策が,昭和40年代は成人病対策が,昭和50年代は有害業務対策が健康管理の柱でした.このような健康管理の柱の推移は,その年代の企業の経営者と労働者の要請によく答えたことになっています.しかし,このような早期発見・発病予防方式では,疾病損失を減らしはしますが,一応の対策がとれたら,もうその時代は終わりです.昭和60年代は健康管理の柱を健康づくりにすることが,経営者と労働者の要請を先取りしてプラスを生み出す,これからの健康管理の戦略と思われます.
 臨床医学は自動車を使う場合の故障修理に当たり,健康づくりは自動車運転講習に当たります.今の生活環境の中で,各人が上手に生きる手助けが,健康づくりと思われます.

産業精神衛生

著者: 安井義之

ページ範囲:P.394 - P.396

■はじめに
 産業精神衛生――職場における精神健康(mental health in industry)――という言葉も現在では職場に定着したようであり,企業の側から産業精神健康管理の充実をかえって要望する声さえ聞かれる.著しい技術革新の進展,情報化社会の普遍化に伴って,職場の様相も数年前とは全く変わってしまった,この社会的,技術的変容に労働者は常に適応し続けなくては生きてゆけない.
 わが国は世界最高レベルの高齢化社会になってしまった.この労働人口動態の急変に対応するため,企業は諸施策を急速に進めている.中高年齢労働者はこの事態にも適応しなくてはならない.無資源国であるわが国が生き延びて行くためには,すぐれて国際化が必要なことはいうをまたない.円高不況,貿易摩擦などのこともあって,産業人が国外で仕事をする機会は増大するばかりである.異質な文化圏の中で,ある場合には生命の危険をおかして,苛酷な条件下で労働生活を維持しなくてはならないことさえある.産業人に対する精神的な海外不適応への対策が,今日ほど必要なことはない.

産業看護

著者: 奥井幸子

ページ範囲:P.397 - P.398

■産業看護とは
 産業看護は欧米では100年の歴史を有し,看護の専門分野として定義,教育・訓練,業務内容,身分などが確立している.わが国では,1969年に第16回ICOH(International Congress on Occupational Health)が東京で開催され,IndustrialNursingの分科会がもたれたことから,"産業看護"という言葉が使われ始めた.1970年代の後半にIndustrial NursingからOccupational HealthNursingへと欧米での英語の呼称は変わったが,"産業看護"のまま普及,定着しつつある.
 看護の対象が病気や病人のみでなく,健康な人にはその保持・増進のために,看護の立場から健康支援活動に参加するという考え方は,今日の看護界では常識となっている.産業看護とは,看護の基本理念や看護技術を,雇用されて働く人びとの健康の保持・増進に応用することである.日本産業衛生学会の教育・資料委員会による産業看護カリキュラム案(産業医学第23巻443頁)によると,「産業看護活動は看護の原理に立脚し,職域において組織的なアプローチを行うものであるとの前提に立っている.……中略……その基本は基礎看護修得ののちに教育される公衆衛生看護論(いわゆる新カリキュラム)に立脚し,公衆衛生看護を産業の場において展開することにある.」と定義されている.

労働安全衛生法のシステム

著者: 岩尾総一郎

ページ範囲:P.399 - P.401

労働安全衛生法成立までの経緯
 昭和21年11月3日,日本国憲法が公布された.憲法第27条は勤労の権利と義務に関する条項であり,「賃金,就業時間,休息その他の勤労条件に関する基準は,法律でこれを定める」とある.これに伴い,翌昭和22年4月7日,労働基準法が公布された.この法に定められた基準は最低条件であるので,当事者はこの基準を理由に労働条件を低下させてはならないことはもとより,その向上を図るように努めること(第1条),労働条件は労使双方が対等の立場で決定すべきものであること(第2条)などが明記されている.
 労働基準法では第5章(第42〜55条)を「安全及び衛生」とし,危害防止措置や安全衛生教育等を規定していた.しかし,法律の義務主体を「使用者」とする労働基準法は,使用従属関係の存在する範囲にしか適用されず,複数の企業労働者が共同で作業する場所等では,最低基準の遵守のみならず,災害防止に関する責任が明確でなかった.そこで,労働災害防止対策を推進して労働者の安全と健康を確保すること,快適な職場環境を形成することを目的とした,労働安全衛生法が昭和47年6月8日公布され,労働基準法の「安全及び衛生」に関する条文は削除された.労働安全衛生法では,義務主体を「事業者」として責任の所在を明らかにする一方,第122条に両罰規定を設け,行為者も処罰されることとしている.

対談・連載

公衆衛生の軌跡とベクトル(8)—1980年代そしてこれから

著者: 橋本正己 ,   大谷藤郎

ページ範囲:P.402 - P.406

戦後公衆衛生を振り返って
 大谷 これまで7回にわたり,私たちの足跡を通して,戦後の公衆衛生を振り返ってきましたが,公衆衛生のこの40年間を橋本先生はどう評価されますか.もちろん,ひと言で言うのは難しいことですが…….
 昭和20年代に考えていた人間の夢のようなものがしぼんできてしまった,という率直な感じですが.

トピックス

喫煙対策の世界的動向—第6回喫煙と健康世界会議

著者: 富永祐民

ページ範囲:P.407 - P.408

 昭和62年11月9日から12日に,東京の経団連会館において,第6回喫煙と健康世界会議が開催された.本会議には世界58カ国から702人(外国人434人,日本人268人)が参加し,喫煙の実態,健康への影響および喫煙対策などについて熱心な討議が行われ,11月12日の最終日に11項目の勧告(後述)をして幕を閉じた.
 喫煙と健康世界会議は,1967年(昭和42)にアメリカで第1回目の会議が開催され,その後4年に1回のペースでイギリス,スウェーデン,カナダなどで開催されてきた.第1回の喫煙と健康世界会議がアメリカがん協会の主催で開催され,その後も喫煙と関係のあるがん,心臓病,呼吸器疾患ならびに健康教育に関する民間団体が共催のかたちで開催してきているので,日本で開催された第6回喫煙と健康世界会議も結核予防会,日本対ガン協会,日本心臓財団,健康体力づくり事業財団ならびに第1回喫煙と健康世界会議以来毎回共催団体として参加しているアメリカがん協会が参加し,厚生省,WHO,喫煙と健康国際連絡協議会などと連絡をとりながら共催のかたちで開催された.

ウイルス性出血熱の最近の知見(1)—ラッサ熱,エボラ出血熱

著者: 宮崎元伸 ,   清水博 ,   倉田毅

ページ範囲:P.409 - P.413

■はじめに
 最近ウイルス性出血熱のなかでもいわゆる国際伝染病といわれているラッサ熱,エボラ出血熱およびマールブルグ病の3疾病,さらにクリミアコンゴ出血熱の臨床像に対する考え方の様相が少なからず変わってきた.そこで最近の知見をふまえ,これらのうちラッサ熱およびエボラ出血熱についての疫学,ウイルスの性状,宿主動物,感染経路,症状,検査所見,診断,治療等について述べることとする.

健康学習の試み・4

「健康学習」のコーディネイト・スキル

著者: 石川雄一

ページ範囲:P.414 - P.418

 健康学習に関する文献を読み,研修会に参加して,頭の中で十分理解できたと思っても,人前に立つと頭の中が時間とともに混乱し,収拾がつかなくなることがある.前もって学習会の流れを準備・計画し,いざ始めようとしたら,緊張して平素の自分を忘れ,さらにその緊張感が会場の参加者にまで伝わってしまう.また,おしゃべりな一人の中年女性の独壇場となり,だれも手がつけられない状態となることがある.あるいは,参加者から質問を受けたが,それに対する解答を持ち合わせていないためにオドオドしてしまう.
 これらの問題を解決するためには,基本的医学知識に加えて,自分の心理状態及び参加者全体をコーディネイトする技能が必要となる.それらの技能のいくつかは,各人の経験から自然に体得することができる.そこで無意識に上手にこなしているものは何かを,再び意識下に再認識し,他方,自分が不得手な部分は,その解決法を学習する必要がある.

活動レポート

保健所における乳房相談事業の取り組み

著者: 櫛谷三郎 ,   山崎イト ,   塚野和子 ,   佐藤由美子 ,   小山歌子 ,   長沢京子 ,   川又令枝

ページ範囲:P.419 - P.421

はじめに
 近年わが国の乳がんによる死亡は,生活様式の変化や社会環境の変化により年々増加している.新潟県では乳がんによる死亡は年間70〜80人でほぼ横ばいであるが,手術数は昭和47年には約260人,昭和58年には約300人,昭和60年には400人を越えて増加の一途をたどっている.乳がんは他のがんと違って大多数が増殖がゆっくりで,また体表にあるため自己検診により早期発見が可能という特色がある.
 当保健所管内では昭和60年ごろまでは,一部の市町村で単発的に乳がんの健康教育を実施していた.しかし,専門医の確保が難しいことから,より積極的な早期発見のための自己検診法の指導や,乳房検診は行われていなかった.

調査報告

保健所デイケアにおけるグループ形成について

著者: 天野薫 ,   岡本祥成

ページ範囲:P.422 - P.426

はじめに
 保健所におけるグループ活動について,渡嘉敷ら1),2)は就労を直接の目的とせず,社会生活の持続を図ることが目的であると述べている.グループの機能としては,社会の中での生活の時間を延長する一つの手段・方法であり,生活の場を広げ体験の場を確保していく援助である.従って,そこでは,単に社会性や生活技術性の訓練だけではなく,メンバー相互の支え合いが重要なこととなってくると述べている.
 また,柏木は3)デイケアを集団療法と考え,デイケアに来ることによって,無為自閉の傾向の助長を防ぐと共に,社会参加ができるようになることを目的とし,構成員(メンバー)が成長していくのは「集団」の力であると述べている.

発言あり アスベスト汚染

研究と対策の一層の進展を/アスベストの制御

著者: 瀬良好澄 ,   馬場快彦

ページ範囲:P.363 - P.364

 一昨年の1月にアメリカ環境保護庁EPAが,今後10年間にアスベストの採鉱,輸入,加工,使用を全面禁止するという提案を行ったことから,わが国でもアスベストの危険性がにわかに叫ばれるようになった.しかし,実は欧米諸国では,はるか以前から社会的な問題として取り上げられており,わが国でも1970年に,アスベスト作業者から8人の肺がん患者がでたことを筆者らが明らかにし,また当時,都衛生研究所の溝口博士が,東京・本郷3丁目の大気からアスベストを検出したことが報道された.その翌年,アスベスト研究で著明なセリコフ博士とともに人体病理の研究を行っているニューヨーク・マウントサイナイ医大の鈴木康之博士が日本で講演され,わが国のアスベスト研究並びに対策の立ち遅れに対し警鐘を打ち鳴らし,また1972年にはNHK番組"あすへの記録"に「アスベスト追跡・肺を冒す粉塵」として新たな大気汚染物質としてスポットが当てられた.しかし,当時の厚生省は「緊急の問題ではない」,「労働衛生上の問題ではあっても,公害にはなっていない」として,がん研究の課題として取り上げることはなかった.

公衆衛生人国記

神奈川県—神奈川県公衆衛生協会とともに

著者: 榊原高尋

ページ範囲:P.427 - P.429

 神奈川の公衆衛生を語るとき,偉大な先人たちのあまりの多さに,どなたに焦点をしぼってよいのか迷ってしまった.そこで県公衆衛生協会の足どりをたどりながら先輩を浮彫りにしてみることとした.

保健行政スコープ

地域保健将来構想

著者: 滝澤秀次郎

ページ範囲:P.432 - P.433

 地域保健をめぐる環境は,戦後40年余を経て著しく変化し,地域保健を支える保健所等の保健施設,保健婦等のマンパワー等,ハード・ソフト両面においてその将来的対応には様々な変化が求められている.
 一方,保健医療にかかわる諸制度の見直しも着実に進められ,昭和59年の健康保険法の改正,昭和60年の医療法改正による医療計画の作成・推進,昭和61年の老人保健法の改正,さらには,昭和62年の精神衛生法の改正など,ここ2〜3年だけ振り返ってみても次々と新たな方向性が示されつつある.

衛生公衆衛生学史こぼれ話

50.戦時中の栄養

著者: 北博正

ページ範囲:P.385 - P.385

 衣食住というが,衣と住は体温調節の補助手段で,食が生存のための絶対的因子であって,ボロをまとい,あばら家に住んでいても,食が確保されていれば何とか生きのびて活動できるが,食が質・量について不十分であれば,生命を維持することはできない.
 日本人がこのことを強く体験したのは,第二次大戦中の食料不足によってであり,誠にひどいものであったが,一方,あまり学識のない人々も栄養学について自家実験をしたわけで,その後,日本人の栄養に関する知識は一段と向上したといえる.これに対して関係当局の対応は誠にお粗末なものであった.

ぶりずむ

視点をつくる

著者: 園田真人

ページ範囲:P.430 - P.430

 最近のテレビ・ニュースで,中近東や韓国の人たちが群がって手を振り上げ,時にはバスなどに放火する場面を見ることがある.主義主張をアピールするためとはいいながら,その社会背景は理解しにくいところがある.その点,日本の若者たちの群がる理由は,社会の変化が目まぐるしいためいつも忙しく,ゆっくりものを考える習慣を失い,自主性まで無くしたためだといっても言い過ぎではない(それにしても,昭和40年代の学園紛争以来,若者たちの暴力的行為がぱったりと消えてしまった.興奮するのも早いが冷めるのも早いのには驚くばかりである).
 人間にとって,多くの友人を持つことは大切だが,似たようなものばかりで群がっていると同じ話をし,同じ考え方になりやすく,この状態が長く続くと心の活性がなくなり,生活がたるんでくる.これはすべての職業についていえることだが,同業者ばかりで付き合っていると話題が貧しくなり,頭がボケて専門バカになりやすい.

日本列島

ぎふ中部未来博と衛生行政—岐阜

著者: 井口恒男

ページ範囲:P.393 - P.393

 昭和63年の日本列島は空前の博覧会ブームとなっており,全国10数カ所で開催が予定されている.
 岐阜県では7〜8年前,1988年オリンピック誘致で名古屋がソウルに敗れた際,オリンピックに代わるべきイベントの必要性が叫ばれ,その後,中部各県の協力を得ながら「ぎふ中部未来博」を開催することが決定された.その後着々と準備が進められ,昭和62年末には,岐阜市内長良川河畔の岐阜県総合運動場において,20本のパビリオンをはじめ約100本のイベントなどの実施が決定されている.会期は7月8日から9月18日の73日間となっており,200万枚近くの前売券もほぼ売り尽くされている.博覧会事務局では250万人の入場者を目標に諸準備を進めているが,各パビリオンが未来の中部地方や岐阜県の,夢の多い映像や展示品を用意しており,イベントも,国内で初めての富田勲氏のシンセサイザーとレーザー光線による野外大コンサートや,ミス・インターナショナルの選考会をはじめ各種のイベントが企画されており,目標以上の来場者が予想される.健康部門においても,2本のパビリオンが21世紀を担う子供たちを対象にした企画となっており,我々衛生行政従事者にとっても興味をさそうものである.

一般健康診査受診者の過去の受診回数—仙台市

著者: 土屋眞

ページ範囲:P.418 - P.418

1.健康診査内容の動向
 かつて循環器検診として市民を対象に行われていた検診は,昭和57年に施行された老人保健法の法定検診に切り替えられて,名称も一般健康診査となった.この一般健康診査では一般診査後に必要な者に精密診査を実施することになっていたが,昭和62年度からは必ずしも両者を分けなくてもよくなり,名称も「基本健康診査」と改められ,内容充実が図られた.
 ちなみに検査項目は,問診に始まって血圧・尿・身体計測・血清総コレステロール・肝機能・眼底・心電図・貧血・血糖検査等であり,市民にとってもかなり魅力ある検診になりつつある.しかしまだ当市においても受診率向上が重要な課題になっていて,実態調査で把握された対象者数を分母とした受診率は,昭和62年度においても20%程度にすぎず,未受診者が多い.

基本情報

公衆衛生

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1170

印刷版ISSN 0368-5187

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