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雑誌目次

雑誌文献

公衆衛生52巻7号

1988年07月発行

雑誌目次

特集 現代の食生活

現代の食文化の特徴と対策

著者: 豊川裕之

ページ範囲:P.438 - P.441

はじめに
 食生活および食糧問題に関心が寄せられているが,必ずしもその度合が有史以来の最大のものであるとはいえない.その理由は,食べものが生命の維持に直接関係することであり,食べものの不足しがちだった時代にあっては,食糧供給こそが最大の国民的関心事であり,食糧確保のために中世の荘園,近世の封建諸侯そして近代の国家が,共通して戦争や紛争を引き起こしてきたという歴史的事実が示すように,食糧問題は常に人びとの関心を集めてきた.したがって,現代における食糧問題に対する関心は度合の強さに特色はなく,関心の内容に著しい変革が起こっていることにその特色があることになる.それは,国際貿易全体のバランス・シートの面で,米国から強要されている農産物輸入の自由化問題という行政・外交上の特色だけではなく,食糧供給の安定化を基本とする食生活の急激な変容と,それに対する不適応として生起する食生活の乱れや,健康破綻も注目されているのである.とくに,生活全般の向上,医療水準の改善によって急性感染症による死亡が減り,いわゆる成人病が死因として注目されるようになったので,その予防として食生活が改めて注目されるようになっているという事情がある.
 そのような食をめぐる環境の中で,現代の日本人が営む食生活の特徴を食文化の面から論述すると次の2点,食文化システムの多重層化(環境側)と不適応者の増加(人間側)に集約することができる.

子供と食生活

著者: 村田光範

ページ範囲:P.442 - P.445

はじめに
 子供と食生活というと,筆者のように小児科医であれば,どうしても子供と栄養という観点に立ち勝ちである.しかし,よく考えてみると栄養は食生活を通して子供の体に取り込まれるのであり,食生活を抜きにしては子供の栄養を考えることができない.にもかかわらず,栄養に重点が置かれていたのは,かつては子供に与えるのに十分な栄養がなかったことが大きな理由であったと思われる.ところが,最近では飽食の時代といわれるほどに食べるものが豊富になっており,これに加えて先進国型生活様式である都市型文化生活が日本の隅々まで普及,発展していることが,子供の食生活に大きな影響を与えており,食生活自体が健康維持増進のみならず,時には逆に健康障害につながるという意味で重要になってきたのである.

老年期の食生活

著者: 藤田美明

ページ範囲:P.446 - P.449

はじめに
 近年の医療技術の高度な発達と衛生環境の整備そして食生活の改善は,日本人の平均寿命の延長に大きく貢献してきた.昭和62年簡易生命表による日本人の平均余命は,男子75.23歳,女子80.93歳に達している.また総人口に占める65歳以上老年者の比率は,すでに10%をわずかに越え,西暦2020年ごろには20〜25%に達すると推定されている.
 このような高齢化社会の中で,精神的・肉体的に健康で豊かな老年期生活を過ごす上で,食生活の果たす役割は極めて大きい.本稿では,老年者の食生活改善に関係するいくつかの要因について考察を加えてみたい.

消費市場の成熟化と分化

著者: 三島徳三

ページ範囲:P.450 - P.452

■量から質の時代に
 いうまでもないが,商品の受け皿としての消費市場は時代とともに移り変わる.昭和20年代,この時代はモノも不足していたし,国民も貧しかった.したがって,買いたくても"買えない時代"であったのである.
 経済白書が「もはや戦後ではない」と高らかに宣言した昭和30年を起点にわが国の経済は高度成長に突入し,消費市場もようやく"買える時代"を迎えることになった.昭和30年代の後半には一般の家庭にもテレビや冷蔵庫,洗濯機が普及し,庶民は歴史上初めて欧米的な文化生活を享受することができるようになった.

国際化時代の食品衛生—輸入食品の衛生対策

著者: 廣瀬俊之

ページ範囲:P.466 - P.469

 日本では,人口の増加や嗜好の多様化による食糧需要の増加と,産業構造の変化に伴う農業生産の後退とが相まって,食糧輸入が増加の一途をたどってきた.
 食糧の輸入数量は1986年には1,581万トンと,前年の2,267万トンを大きく下回ったものの,輸入届出件数は,逆に47.7万件と,前年の38.4万件に比べ24%強という大きな伸びを見せている.

世界の食糧問題と日本

著者: 三浦洋子

ページ範囲:P.470 - P.474

■はじめに
 アメリカはわが国に対して1982年から始まった日米農産物交渉の場で,オレンジ,牛肉の自由化を要求した.1984年,両品目の輸入枠を段階的に拡大していくことで交渉は妥結した.1986年,RMA(全米精米業者協会)が自国の過剰米処理のため,経済摩擦がらみでコメの市場開放を要求してきた.また1987年,アメリカはわが国の残存輸入制限22品目のうち,12品目の自由化を訴えてGATTに提訴した.このうち落花生と雑豆を除く10品目が,GATT規約違反であるとしてクロと裁定された.現在,わが国はアメリカからオレンジ,牛肉の自由化を迫られ,GATT裁定にまで持ち込まれ,自由化を余儀なくされている.
 わが国の農産物輸入は年々拡大の一途をたどり,現在211億ドル,総輸入額の14%を占め西ドイツ,アメリカと並んで世界最大の農産物輸入国となっている.今後円高メリットによって輸入が更に増え,この数字は更新されるであろう.他方,水産物に関しては乱獲と汚染による枯渇を防ぐため,沿岸200カイリ(海里)までの海域を海洋資源の利用につき,沿岸国に主権的権利を認めようとする動きが世界の主流となっている.これが200カイリ問題である.わが国はこれによって捕獲領域を縮小せざるをえない立場に追い込まれ,養殖と輸入の拡大に方向を転換してきている.

食生活指導の実際

十文字町の食生活改善活動

著者: 黒沢千鶴子

ページ範囲:P.453 - P.454

 秋田県の南部に位置する人口約1万5千人の十文字町に,昭和61年,栄養士として新採用されてから早2年が過ぎた.郡内では初めての採用であり,全県でも町栄養士は少なく,一つの事業を起こすにしても前例がないので,保健所の栄養士さん,町の4人の保健婦さんたちのアドバイスや協力を得てすすめているところである.
 その中で,町の食生活改善活動として栄養知識を普及させていくために協力していただいている組織団体が,「十文字町食生活改善推進員連絡協議会」である.当協議会の推進活動をここで紹介し,食生活改善をどう行っているか,具体的な実践事業について述べてみたいと思う.

栃木県における食生活改善事業の概要

著者: 若林勝治

ページ範囲:P.455 - P.457

 栃木県は,脳卒中による死亡率が全国一高く(表1),このためもあって女性の平均寿命が全国最下位,また男性も37位と低位にあった.そこで,昭和61年度を健康づくり元年と位置づけ,「脳卒中ワースト1を返上し,ヘルシー"とちぎ"の建設を」をスローガンに,知事を先頭に積極的な健康づくり県民運動を展開しているところである.

乳児指導,離乳食指導を通してのかかわり

著者: 鈴木静江

ページ範囲:P.458 - P.459

 私たちの生活環境は,高度経済成長期以降著しく変貌したが,特に物質経済優先の思想は,生産中心の生活パターンを消費中心に変化させてきている.この傾向は食生活にも及んでおり,若い人人を中心に手をかけるよりも金をかけるほうが理想的で,現代的で,価値あるものであるといった観念をうえつけるに至っている.
 他方,家庭にあっても,親子関係よりも,夫婦関係を重視する生活となり,また,"親との物理的別居"あるいは,"親との心理的拒絶"による「核家族」が増加し,これが影響して育児の方法も伝承されることが少なくなってきている.しかも,親自らも親になることに努力せず,その結果は,母子間の接触は時間的,空間的,心理的に疎遠となり,母子分離の状況や母性喪失を生みだしている.

食生活指導における付加価値を模索して

著者: 村沢初子

ページ範囲:P.460 - P.462

 高齢化の進行は本県においては,もはや高齢社会の渦中を生きる現実に至っている.県政の中心課題には高齢化社会対策が据えられ,その一つに「長野県活力ある高齢化社会を目指す懇談会」が発足,懇談会の報告書では基本的対応として「健康づくりの推進」を掲げ,県民一人ひとりのセルフヘルプに大きな期待を寄せている.一方,健康増進対策については63年4月策定の第2次県総合5力年計画の中で,「未来を担う人づくり」として位置づけられている.
 こうした県政の命題に沿うための食生活指導はどうあるべきか,模索しつつ実施している活動の一端を紹介したい.

岡山県栄養改善協議会の活動

著者: 西崎富江

ページ範囲:P.463 - P.465

 岡山県における食生活指導の実際を述べるに当たり,まず,岡山県栄養改善協議会の活動を紹介したいと思う.

トピックス 国際シンポジウム

職業性末梢神経障害

著者: 祖父江逸郎

ページ範囲:P.475 - P.478

■はじめに
 職業性末梢神経障害についての国際シンポジウムが1987年10月22〜23日の両日にわたり,北九州市産業医科大学で開催された.このシンポジウムは,毎年産業医科大学主催で行われる国際シンポジウムの一つとして取り上げられたもので,産業医科大学国際シンポジウムの第7回にあたる.国内外から多数のこの方面に関心のある著名な研究者が集まり,いくつかのテーマについて,熱心な討議が行われた.その内容はかなり広汎に及び,重要な問題もいくつか含まれており,産業医学の現場においても密接な関連をもつ多くの知見が述べられた.ここでは,そのうち主なものを取り上げ述べることにする.

ウイルス性出血熱の最近の知見(2)—マールブルグ病,クリミア・コンゴ出血熱

著者: 宮崎元伸 ,   清水博 ,   倉田毅

ページ範囲:P.479 - P.482

●はじめに
 ウィルス性出血熱は,輸入感染症のなかでも最も注目される疾病であるが,なかでもラッサ熱,エボラ出血熱,マールブルグ病およびクリミア・コンゴ出血熱の4疾病はその代表的なものであり,最近の研究によりこれらの臨床像に対する考え方の様相が,少なからず変わってきた.前2疾病に関してはすでに述べたところであり1),今回は特にマールブルグ病およびクリミア・コンゴ出血熱についての疫学,ウイルスの性状,媒介動物,感染経路,症状,検査所見,診断,治療等について述べることにする.

インタビュー

世界保健機関の展開と日本の役割—中嶋 宏 世界保健機関本部事務局長に聞く

著者: 紀伊國献三

ページ範囲:P.487 - P.490

 日本人として初の国連機関最高責任者に就任
 紀伊國 本日は去る1月14日の世界保健機関(WHO)の執行理事会で,第4代の本部事務局長に選任されました中嶋宏先生に,就任のご抱負をお伺いしたいと思います.
 たいへんおめでとうございました.

講座

産業医学における神経および心理・行動機能評価〔3〕—中枢神経機能—大脳・脳幹誘発電位と事象関連電位

著者: 村田勝敬 ,   荒記俊一

ページ範囲:P.483 - P.486

■はじめに
 産業医学領域における中枢神経系の機能評価法として従来より脳波があり,メチルブロマイド中毒における「痙攣波」のように大脳表層部の定性的な障害の同定に使われている.
 一方,近年コンピュータによる情報処理技術の発達に伴い,中枢神経系の求心性機能を反映する各種の誘発電位や認知・判断機能に関連する事象関連電位などの機能別,定量的な脳電位の測定技術が幅広い分野で応用されつつある.本稿では,既に測定技術が確立し生理・心理学的意義も次第に明らかになりつつある短潜時体性感覚誘発電位,聴性脳幹誘発電位,視覚誘発電位および事象関連電位(P300)の測定法と,産業医学領域での測定成績を紹介する.

健康学習の試み・5

健康学習の適応と評価

著者: 石川雄一

ページ範囲:P.491 - P.496

 講演形式を主体とした講師中心型健康教育と,コミュニケーションを主体とした受講者中心型健康学習のどちらを選択すべきかは,幾つかの条件を基に決められる.どちらか一つの方式ですべての問題解決を図ろうとせず,どちらの形式がその会に適切かの判断を,次に述べる六つの条件を頭に置き,決定する.

活動レポート

京都府弥栄町の保健活動の取り組み

著者: 今西欽一

ページ範囲:P.497 - P.500

●弥栄町の概要
 弥栄町は京都府の北部,丹後半島の中央部に位置し,600町歩の米の倉,とうたわれる農業と丹後ちりめんに代表される機業を主産業とし,産業振興と住民福祉を行政の柱としている.特に町の中央を流れる竹野川流域には単位収量が京都府ではトップクラスで,しかもおいしいコシヒカリを産する美田が広がっている.
 また,広大な山林をかかえる野間地域には,離村跡地を利用して昭和53年に「森林公園スイス村」がオープン,スキー場をはじめ丹後半島の四季を通じた観光レクリエーションゾーンとして,家族づれや若者でにぎわい,地域振興に大きく貢献している.

発言あり 民間保険

社会医学領域の発展とともに,他

著者: 大井玄

ページ範囲:P.435 - P.437

 先日,"Momey"という雑誌をのぞいたら色々の医療保険の紹介があった(ちなみにこういう雑誌を読むものは,金が欲しいのに実際には金を持たざる者が不思議に多い).
 いよいよ医療費も民間保険に頼る時代が本格化してきた.

公衆衛生人国記

福井県—福井県における公衆衛生の先駆者,笠原白翁

著者: 大井田隆

ページ範囲:P.501 - P.503

 福井県に赴任(昭和60年4月)した直後に大野城(福井県大野市)へ出かけるチャンスを得た.その城内に並べられた資料は,幕末の大野藩の偉大さを想像させるものであった.わずか4万石の小藩が蘭学の学校を開き,大坂より適塾の塾長伊藤慎蔵を,大野のような雪深い山中に招いたのであった.当時の有名なインテリ,伊藤慎蔵を招くことができた大野藩も偉大であるが,伊藤自身の決心にも驚くものがある.これにより全国各地から大野に俊才たちが集まり,蘭学が大いに栄え,それは幕末の奇跡であったと考えられる.
 このように幕末の福井は,大野藩だけでなく福井藩も含めて,日本の医学史上大きな刺激を与えたのである.その中で特に公衆衛生上の先駆者を考えるなら,越前福井の医師笠原白翁を挙げることができると思う.白翁は幕末,種痘を広めるのに貢献した代表的な人である.白翁は種痘を広めるに当たり,藩主松平春獄に嘆願書を提出したりして多くの努力を重ねた後,佐賀藩で成功した種痘の同苗を福井にもたらすことができた.これによって福井ばかりでなく,多くの地域の多くの人命が救われたのである.今でこそ天然痘は地球上から無くなってしまったが,当時は最大の伝染病であった.致死率が高く,治ゆしてもみにくい「あばた」を残したのである.

保健行政スコープ

在宅ケアの推進

著者: 野村陽子

ページ範囲:P.504 - P.505

 高齢化社会の進展が大きなインパクトとなって,在宅ケアの重要性が強調されてきている.近年の疾病構造の変化,核家族化や共働きなどに伴う家庭介護機能の低下等の様々な背景により,在宅ケアに対する社会的ニーズが増加してきている.これに対応してここ2,3年における厚生省の新規施策でも,数多くの在宅ケアに関する施策がみられる.
 また,地域においても総合的かつきめ細かな在宅ケア推進のための様々な方策が打ち出されてきている.そこで在宅ケアのシステム化を先進的に実践している地域の実情とその動向を探り,また近年の厚生省の施策を概観することにより,今後の在宅ケア推進の課題について考えてみたい.

日本列島

衛生行政におけるコンピューターの活用—岐阜

著者: 井口恒男

ページ範囲:P.449 - P.449

 高度情報化社会を迎えている中で,遅ればせながら行政においてもOA化による行政の効率化・高度化,サービスの改善が進められつつあり,衛生行政もその例外ではない.
 衛生部門での事業は種々の法令等に基づいて実施されているものが多く,基本的部分においては都道府県・指定市に共通しており,OA化にかかわるソフトウェアは,都道府県で相互に利用できるものが多いと思われる.すでに,昭和62年から始まっている結核・感染症サーベイランス事業のような厚生省主導で始まった全国共通事業もある.

北保健所泉支所の発足—宮城

著者: 土屋眞

ページ範囲:P.478 - P.478

 泉支所が発足して1カ月半ほどが過ぎた.いずれ保健所に昇格の時が来ようが,合併後のきびしい一歩を踏み出して,職員一同新しい保健所づくりに意欲を燃やし,日に日に保健所らしくなってきている.当支所の現況をお伝えしたい.
 経過:旧泉市民を二分しての激しい住民投票のあと,さきに合併した旧宮城町に続いて,昭和63年3月1日,仙台市と旧泉市(人口13万,年間約7千人の人口増加)および旧秋保町が一緒になり,東北初の政令指定都市を目指した新しい仙台市(人口88万)が誕生した.しかし未だに当泉地区では,市内に合併反対の看板が目立つ.

ニュース

第11回日本プライマリ・ケア学会公開市民講座「家族とその健康」/「国立公衆衛生院創立50周年記念式典・シンポジウム」開催される

著者: 編集室

ページ範囲:P.474 - P.474

 昭和63年6月4日(土),午後1時30分より,日本教育会館において,日本プライマリ・ケア学会の市民講座「家族とその健康」が,詫摩武俊都立大学教授,大友英一浴風会病院長,袖井孝子お茶の水女子大学助教授を講師として開催された.
 初めに「こどもの健康と家族」と題して詫摩氏は,昔と今のこどもの生活の違いを比較し,家庭の中で,親からの働きかけが適切であれば,子供は順調に育つと明言した.親の側の望ましい対応として①こどもの心に「達成感」を教える,②未来の自分を考える働きかけをする,③こどもの言葉に注意をはらう,④こどもにとって家庭は楽しいものであってほしい,と結ばれた.

基本情報

公衆衛生

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1170

印刷版ISSN 0368-5187

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