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特集 現代の食生活
現代の食文化の特徴と対策
著者: 豊川裕之1
所属機関: 1東邦大学医学部公衆衛生学
ページ範囲:P.438 - P.441
文献購入ページに移動食生活および食糧問題に関心が寄せられているが,必ずしもその度合が有史以来の最大のものであるとはいえない.その理由は,食べものが生命の維持に直接関係することであり,食べものの不足しがちだった時代にあっては,食糧供給こそが最大の国民的関心事であり,食糧確保のために中世の荘園,近世の封建諸侯そして近代の国家が,共通して戦争や紛争を引き起こしてきたという歴史的事実が示すように,食糧問題は常に人びとの関心を集めてきた.したがって,現代における食糧問題に対する関心は度合の強さに特色はなく,関心の内容に著しい変革が起こっていることにその特色があることになる.それは,国際貿易全体のバランス・シートの面で,米国から強要されている農産物輸入の自由化問題という行政・外交上の特色だけではなく,食糧供給の安定化を基本とする食生活の急激な変容と,それに対する不適応として生起する食生活の乱れや,健康破綻も注目されているのである.とくに,生活全般の向上,医療水準の改善によって急性感染症による死亡が減り,いわゆる成人病が死因として注目されるようになったので,その予防として食生活が改めて注目されるようになっているという事情がある.
そのような食をめぐる環境の中で,現代の日本人が営む食生活の特徴を食文化の面から論述すると次の2点,食文化システムの多重層化(環境側)と不適応者の増加(人間側)に集約することができる.
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