icon fsr

雑誌目次

雑誌文献

公衆衛生52巻9号

1988年09月発行

雑誌目次

特集 コミュニティと精神保健

社会病理と精神保健—少年非行の動向とその処遇

著者: 岩堀武司

ページ範囲:P.582 - P.587

 はじめに
 社会病理現象とされるものには,犯罪・非行・離婚・売春・自殺・貧困・差別・スラム等があり,これら社会病理現象の解明を,社会学の立場から目指すのが社会病理学である.
 しかし,何をもって社会の病理とみなすのかという基本的な問題については,社会的偏倚論・社会解体論・社会的逸脱論,さらには社会問題的視角など,さまざまな立場から論じられている.その対象領域もさまざまであり,貧困・失業・暴動・争議・差別・スラム・災害などといった社会的要因の比重が比較的大きい現象から,犯罪・非行・自殺・売春・離婚・中毒・精神障害といった,個人的要因の比重が比較的大きい現象まで包括され,統一的な体系はなお確立されていない.

心身症の病態

著者: 久保木富房 ,   末松弘行

ページ範囲:P.588 - P.591

 はじめに
 心身症(psychosomatic disease, P. S. D)の定義に関しては,日本心身医学会が昭和45年に治療指針を作成し,その中に,「身体症状を主として訴えるが,その発生の原因や誘因あるいは経過の増悪因子として,心理・社会的因子あるいは性格的因子がとくに強く関与している症例(病態)」と定義されている.
 しかし,ごく最近のことであるが,池見らによってこの治療指針の改正が求められている.いわゆる「P. S. D」と,いわゆる「神経症」の区別については今までに多くの議論がなされてきたが,現在も多くの未解決の問題が残されている.
 今のところ心療内科や心身医学が対象とする

職場の精神保健—企業の精神保健管理における連携活動の試み

著者: 内藤俊之

ページ範囲:P.592 - P.597

 はじめに
 企業における現実的な精神保健活動を考える場合,精神障害あるいは職場不適応状態を有する企業職員の早期発見・早期対処から,社会復帰,再発防止という流れの中で,職場によく適応した健康な状態を長く維持することは容易ではない.ここでは主として二次予防および三次予防について,実践に即した技術論的な記述を試みたい.

児童・生徒の精神保健

著者: 清水將之 ,   北村陽英

ページ範囲:P.598 - P.601

 児童期・青年期と精神保健
 今日の子どもは物質的豊かさの中に生き,一見幸せであるかのように見える.しかし彼らは果たして本当の幸福を手にしているのであろうか.都市部においては,幼少時より伸びやかに遊び回る自然を提供されず,ファミリー・コンピュータによる個人のイメージ内に閉塞された世界に生き,対人関係は希簿で,遊びの中で自ずと培われる生きて行く上での基本的な知恵と技法を体得することができない.今少し年齢が上昇すれば,受験という苦行が彼らを待ち構えている.個々の親がどのように思い入れているかは別として,客観的に見れば,現代日本の児童・生徒はどうも幸せな,あるいは安心できる状況の中に生きているとは言い難い.
 では,具体的にどのような精神保健的問題が子どもの上にのしかかっているのであろうか.

保健所の精神保健活動

著者: 真野元四郎

ページ範囲:P.602 - P.606

 はじめに
 保健所の精神保健活動は「精神障害者等の医療及び保護を行い,且つ,その発生の予防に努めることによって,国民の精神的健康の保持及び向上を図ることを目的」1)とし,「地域における第一線の行政機関として,精神保健活動の中心となり,精神保健センター,精神病院,社会福祉関係諸機関,施設等との緊密な連絡協調のもとに,精神障害者の早期発見,早期治療の促進および精神障害者の社会適応を援助するため,相談および訪問指導を積極的に行うとともに,地域住民の精神的健康の保持向上を図るための諸活動を行う」2)とされている.
 また,「精神保健業務の実施体制」3)の中で,精神保健関係業務従事職員の職務内容が明記され,「精神衛生業務実施方法」4)については,①精神保健相談,②訪問指導,③患者クラブ活動等の援助,④衛生教育および協力組織の育成,⑤関係機関との連絡協調が示されている.

精神保健センターにおける地域精神保健活動

著者: 石原幸夫

ページ範囲:P.607 - P.610

 はじめに
 国際的にも大きな注目を浴びたわが国の精神衛生法は,その名も精神保健法と改められ,漸く動きはじめた.精神衛生センターは"精神保健センター"と名称が変わることになった.この施設の前身は,1950年の精神衛生法で設けられた"精神衛生相談所"であったが,1965年の法改正により精神衛生センターとなり,そして今回精神保健センターと改められた.この3度に及んだ名称の変更は,奇しくもわが国におけるcommunity mentalhealthの変遷を象徴的に物語っているといってよい.
 精神衛生センターはこれまで,保健所との緊密な連絡協調のもとで,都道府県における精神衛生の総合的な技術センターとしての役割を担ってきた2).1960年代そして70年代の精神病院を中心とした病院精神医療優先の時代にあって,精神衛生センターは,唯一community mental healthの実践基地として,保健所と共に,地域精神衛生活動を展開してきたといってよい.

精神保健法のシステム

著者: 西山詮

ページ範囲:P.611 - P.614

 はじめに
 精神保健法が今年7月1日から施行された.法改正の要点は,従来の入院制度を改め,患者の諸権利を明らかにし,社会復帰を促進するところにあるという8,13).さらに精神保健指定医の制度をつくって,如上の事業を進める責任の多くをこれに負わせた.
 精神保健のシステムは精神保健法(関連省令等を含む)のシステムに限られない.通常の通院治療や自由入院等のように,精神保健法外のシステムもある.ここでは前者を主として述べ,時に応じて後者にも若干触れることにする.

講座

産業医学における神経および心理・行動機能評価〔4〕—精神・神経行動機能—パフォーマンステスト

著者: 横山和仁 ,   荒記俊一

ページ範囲:P.615 - P.620

 ■はじめに
 近年,有機溶剤,鉛等の職業上の有害因子による早期の精神・神経行動障害の解析に,種々の検査法(パフォーマンステスト)が用いられるようになった.
 この方法によりそれぞれの有害因子の量一影響(反応)関係,可逆性などがSubclinical(臨床徴候出現以前の軽度の障害)レベルで明らかにされつつある.今回は,産業神経学分野で用いられている各種のパフォーマンステストを紹介し,筆者らの成績を含むいくつかの測定成績を提示する.

活動レポート

戸田市立健康管理センターの活動

著者: 飯島昌夫

ページ範囲:P.621 - P.623

 ◎戸田市健康管理センターの特色
 私たちの仕事は,市独自で企画され実施されているものが大変に多い.このことは,保健所の事業が法律や規則などで規定されていることが多いのと異なる点である.財源的な問題はあるにしても,地域の需要に見合った事業を自分たちで調査し,実施方法を検討し,試行しながら実施してゆくのは楽しく,とてもやり甲斐のあるものである.市独自の事業として実施していたもので,始めてから10年余も経て老人保健法によって全く同様といってもよいものが,国の事業として広く全国に実施されるようになったものもある.しかし,それとてもやはり自分たちで開発したとの自負もあり,内容もそれなりに立派な誇るべきものと考えている.同時に私たちは事業の開発に必要な基礎調査や,仕事の成果を見るための効果判定などの学究的分野にも意を用いており,そのため参加各人が執筆する論文発表を主とする健康管理センター年報を年に一度発行して,既に13号発刊にまで及んでいる.

熊本県松橋(まつばせ)保健所の活動

著者: 田丸勲

ページ範囲:P.624 - P.627

 ●はじめに
 今年は厚生省が誕生して半世紀の記念すべき年である.昨,62年は現在の「保健所法」が公布されて40年を経たが,公布と同時期に保健所に勤めた者として感慨深いものがある.昭和23年医療法の改正で医療機関の整備改善方策が打ち出され,今度の改正で地域保健医療対策等,保健所の対応も大きく変わろうとしている.この中にあって,わが松橋保健所の活動について述べたいと思う.

研究ノート

北海道の老人医療費

著者: 妹尾秀雄 ,   福山裕三 ,   河村淳一 ,   藤田恵子 ,   北村啓市 ,   田中宏之

ページ範囲:P.628 - P.632

 高齢化社会が進展している今日,国民医療費の問題が大きな課題となっている.その中でも老人医療費の占める割合やその伸び率がクローズアップされている.特に北海道の老人医療費は全国第1位であり,この高い医療費の要因分析が重要な課題となっている.
 そこで,全国と北海道の診療諸率を地域別に調査分析すると共に,各種指標との関係について統計的に観察し,高い医療費はいかなる要因によるものかを検討した.

論壇

保健所実習の意義—保健所実習医学生の感想文から

著者: 長谷部碩 ,   西宮脩

ページ範囲:P.633 - P.635

 ●はじめに
 今日の高齢・長寿の時代において医療にたずさわる医師は,地域の公衆衛生や福祉施策にも深い関心と知識をもって包括的に医療をすすめてゆくことを求められるようになってきている.専門課程の医学生が保健所において,保健所の業務およびその活動状況を実地に学んで保健行政の現状を知り,問題点を探求してその対応を身に付けることが望まれる次第である.
 筆者らは,医科大学から保健所での実習を希望された場合,業務に支障のない限り,できる限り多くの学生を受け入れている.所内職員の実習への協力も積極的である.昭和58年度から実習終了時に,その評価に資するために感想文を求めている,〔58年度渋谷区保健所(所長:西宮),59・60年度中央区日本橋保健所(所長:長谷部),61・62年度中央区中央保健所(所長:長谷部)〕.今回このことについて報告したい.

調査報告

がん登録の精度を考慮した宮城県のがん罹患率の年次推移

著者: 清水弘之 ,   久道茂

ページ範囲:P.636 - P.640

 ●はじめに
 がん罹患率(とりわけ,特定部位のがん罹患率)の年次推移を,環境中のある因子の質・量の年次推移と比較することができれば,その因子が発生要因であるかどうかを究明する端緒とすることができる.また,既報の年次推移から,様々な将来予測を試みることもできる.
 しかし,がん罹患率の推移は,地域がん登録の成績を基にして得られたものであり,その信頼性は主としてがん登録の精度に依存している.もっとも,がん登録の精度が低いなら低いままに経過しておれば(たとえば登録による値が真の値より10%低いとしても,常に10%だけ低いのなら),罹患率の年次推移はほぼ正確に把握することができる.一方,年とともに登録精度が変化している場合には,観察値(登録による値)のみに基づいた罹患率の推移は,真の推移を反映していない恐れがある.

発言あり オリンピックと健康

選ばれた者のストレスと過労,他

著者: 小野清子

ページ範囲:P.579 - P.581

 ソウルオリンピック大会の開催も刻々と近づいてくるこの頃です.
 今年2月に行われたカルガリー冬季大会で,メダルの数は銅1個に終わったのですが,橋本聖子さんや,伊藤みどりさん,また正式種目ではなかったのですが,金メダルに輝いた獅子井英子さん等の活躍は,久々に日本中を沸かせたものでした.

公衆衛生人国記

千葉県—戦後公衆衛生の流れ

著者: 長井和行

ページ範囲:P.641 - P.643

 社会医学研究会
 昭和22年吉田亮,中島博徳両氏(共に現千葉大医学部教授)がリーダーとなって,社会医学研究会なるものを創り,千葉医大の学生十数名が参加,夏休みを利用して市原郡五井町4部落の結核と寄生虫の集団検診をはじめた.当時の五井町長相川久雄氏が熱心に肩入れをしてくれて,農業会の二階に合宿,女子青年団が炊き出しをするという力の入れようだった.当時の千葉県は未だほとんどが農漁村でもちろん結核と寄生虫が多く,村の鉤虫卵保有率は40%を超え,顔色の悪い人が目立って多かった.五井保健所は未だ粗末な木造平屋のスレート葺きである.「保健所の屋根の瓦の二つ三つ崩れてありぬ寂しき日かな」は吉田亮さんの歌である.若い青年たちの情熱が燃えて生き生きと集団検診の仕事をしながら,ふっと寂しくなる時がある.あれがあの時代の憂愁だったのであろうか.私は今でもこの歌が忘れられない.アルコールをカフローゼという鎮咳剤と水で薄めて飲んで酔い,保健所の廊下で所長の田中正一郎さん(慶大卒元厚生省保健所課長)を真中にしてストームを踊った.今なら当然市民や県庁から叱られるところであるが,当時はそのエネルギーだけが讃えられていたのだと思う.千葉医大第一内科石川憲夫教授が,時に小学校に出張して村人を診察してくれた.その頃大学教授は神様の如き存在で,暑い青田の道に長い受診の行列が出来たものである.

保健行政スコープ

「健康運動指導士」の役割とその養成

著者: 小田清一

ページ範囲:P.644 - P.645

 ●健康づくり施策における位置づけ
 本格的な高齢化社会の到来に備え,健康で活力ある社会を構築していくため,厚生省が「国民健康づくり対策」を開始したのは昭和53年であった.この対策は検診の普及による疾病の早期発見,早期治療すなわち2次予防体制の整備に重点が置かれていた.昭和63年度予算の作成に当たり,これまでの10年間の健康づくり施策を評価し,この間の国民の健康づくり意識や社会生活の変化を踏まえ,今後必要とされる健康づくり対策のあり方について検討が行われた.
 その結果,これからは疾病の発生予防(1次予防)や,更に一歩進めて積極的に健康度を向上させる「健康増進」に力点を置いた施策展開を図ることが必要であるとされ,厚生省では昭和63年度から10年計画で第2次国民健康づくり対策「アクティブ80ヘルスプラン」を実施していくこととなった.これは,80歳になっても身の回りのことができ,社会参加もできるようなアクティブな老人を作っていくことによって,21世紀の超高齢化社会に対応していこうという主旨である.つまり人生80年の質的改善を図っていくものである.この対策の特色は次のように要約される.①疾病の発生予防,健康増進に重点が置かれている.②栄養,運動,休養という健康づくりの3要素のうち特に運動に重点が置かれている.③公的セクターによる健康づくり対策に加えて,民間活力の積極的な導入を図っている.

日本列島

未受診者に対する健康教育の報告書—宮城

著者: 土屋眞

ページ範囲:P.591 - P.591

 仙台圏地域医療対策協議会の健康教育部会(部会長は久道 茂東北大学医学部教授.医師会・大学・住民代表・行政・他で構成)では,昭和61年7月から1年半以上,計3回の部会と11回の専門委員会を経て,「中高年の健康教育(その2)健康診査の未受診者に対する効果的な健康教育」と題する報告書をまとめ,さる昭和63年2月,堀田協議会長に報告した.部会,委員会とも殆ど夜間に開催され,熱心に討議がなされた.
 当地においても未受診者対策は当面の大きな行政課題であるので,何とか解決を図りたいとの目的から,仙台圏の現状を分析し,健康教育について検討したものである.なお未受診者に対する健康教育については,全国各地で努力が重ねられ,厚生省編集のノウハウ集等も出ていて参考にさせて頂いた.

I(愛)ホスピタル研究会—岐阜

著者: 井口恒男

ページ範囲:P.597 - P.597

 高齢化や疾病構造の変化,さらに医療機器の高度化は,専門分化や医療費の増嵩を来しており,昭和60年には医療法が改正され,各県において地域医療計画が策定されつつある.このような医療環境下で,病院や診療所では,医療内容やサービスの向上をはかりながら,経営の合理化の強化が要求されている.他方,情報化,コンピュータ化の波は一般分野のみならず医療の分野においても急速に進んでおり,インテリジェント・シティ,インテリジェント・ビル,インテリジェント・ホスピタル等,総合化・頭脳化した情報処理システムが進展しつつある.
 現状では医療機関のインテリジェント化や地域の医療機関群としてのインテリジェント化(地域医療情報システム)は端緒にあり,検討すべき課題が山積しているように思われる.

基本情報

公衆衛生

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1170

印刷版ISSN 0368-5187

雑誌購入ページに移動

バックナンバー

icon up

本サービスは医療関係者に向けた情報提供を目的としております。
一般の方に対する情報提供を目的としたものではない事をご了承ください。
また,本サービスのご利用にあたっては,利用規約およびプライバシーポリシーへの同意が必要です。

※本サービスを使わずにご契約中の電子商品をご利用したい場合はこちら