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雑誌目次

雑誌文献

公衆衛生53巻1号

1989年01月発行

雑誌目次

特集 「健康診断」の新しい動向

これからの健康診断

著者: 島尾忠男

ページ範囲:P.4 - P.7

■疾病対策と健康診断
 ある疾病に対する対策は,ふつうは予防,患者の早期発見,治療,もしある時には後遺症対策から構成される.このうち治療については日本には開業医を中心とする医療制度が定着しており,費用については健康保険制度があるので,国や地方自治体が疾病対策を行う場合の主な内容は,予防と早期発見ということになる.しかし早期発見についても,なんらかの症状があり,医療機関を受診して発見される患者が多いので,初期には症状がみられないか,あっても少なく,その時期での発見が予後の改善に役立つ場合に,疾病対策としての健康診断が行われることになる.
 疾病対策というと健康診断がしばしばその主軸であるという受け取り方をされるのは,有症状時の医療機関受診と治療が受け身の性格であるのに対して,健康診断と予防は,行政の側から積極的に国民に接触する方式であり,そのための予算が国や地方自治体によって組まれるのに対して,有症状受診と治療は現行の保健医療の仕組みの中で運用されるからである.広義の疾病対策には後者も含まれることは当然である.

地域における健康診断とその考え方

著者: 岩永俊博

ページ範囲:P.8 - P.11

■はじめに
 市町村や保健所では様々な健康診断(以下,健診と略)を行い,住民に対して積極的な受診を勧めている.住民は,時には進んで,また時にはぶつぶつ言いながら受診したり,いろいろな理由をつけて受診しなかったりという光景になる.地域で公衆衛生活動を進める私たちにとって,また,そこに住む人たちにとって健診とはなんだろう.健診はどんな意味を持っているのだろうか.あるいは,健診で何ができるのだろうか.何をしようとしているのだろうか.

学校における健康診断

著者: 大国真彦

ページ範囲:P.12 - P.16

■学校における健康診断の意義
 学校は,発育期にある小児,若年者が集団生活を営むところである.したがって感染症の流行が起こりやすい環境である.また児童・生徒に種々の不健康状態があることは,子どもたちの学習の妨げになる.
 したがって学校における健康診断は,学校教育の場に存在する児童・生徒の健康,発育,体位などの状態,および教職員の健康状態などを的確に把握し,これに基づいて教育的ならびに医学的な事後措置を実施して子どもたちの健康の保持・増進を図り,教育の効果を上げることに意義を見出すことができる.

職場における健康診断

著者: 相澤好治

ページ範囲:P.17 - P.21

■はじめに
 職場における健康診断の目的は,労働者個人及び集団の健康情報を得て,その結果を環境管理,作業管理,健康管理,健康教育に役立たせることにある.
 現今,労働人口の高齢化,ストレス対策の必要性,有害物質の低濃度長期曝露による健康影響評価の必要性などにより,健康診断の意義とその内容は変貌しつつある.昭和63年の労働安全衛生法の改正に伴い,事業者に労働者の健康測定とその結果に基づく運動指導,保健指導などの健康教育を行う努力義務が課せられた.また昭和64年4月には一般健康診断,特殊健康診断の変更があるといわれている.

集団健診の新しい動向

著者: 橋田学

ページ範囲:P.22 - P.26

■はじめに
 高齢社会の到来と国民の健康意識の変容は,健康診断の実施及び健康づくり(体力づくり)への指向を招来し,ここ数年はメンタルヘルス及び健康教育の重要性が強調されている.
 健康診断も時代の流れと共に変容し1,2),新しい健診へと向かっているように思われる.

母子の健康審査とスクリーニング検査

著者: 平山宗宏

ページ範囲:P.27 - P.30

■はじめに
 わが国の乳児死亡率は出生千対5(1987年)となり世界でも最も低くなった.また少産少死の定着によって高齢化社会が確実に到来しつつある.このため老人問題は社会的に重要となり,老人保健法の制定によって市町村の保健業務は,高齢老対策に多くの力を割かなくてはならなくなっている.しかしそれだけに母子保健の重要性はますます大きくなってきているというのが,われわれの認識である.そして諸般の情勢の変化を考慮しても地域における母子保健サービスの中で,健康審査の占めるウエイトは大きい.ここでは健康審査(以下健診)の基盤にある地域・家庭の変化の問題点を含めて,また付随する検査のことを含めて,現在および今後の母子の健診の問題を考えることとしたい.

健康診断をめぐる法的問題

著者: 加藤済仁

ページ範囲:P.31 - P.34

■はじめに
 健康診断は,従前から施行されている母子保健法,労働安全衛生法,学校保健法などに加え,老人保健法が昭和58年2月1日から施行されたことによって,法的にも一応確立したといえる.この国民の健康の維持,増進を目的とする健康診断は,それを受ける国民ばかりでなく国にとっても医療費の負担を軽減するという利益をもたらすことにもなる.このことから,健康診断は医学,医療技術の進歩,発展とともに今後一層進歩,充実していくと考えられる.
 しかし,健康診断は,一般の診療とは異なった医療行為であること,それを受ける者のプライバシーに関係するものであることなどからいろいろな法的問題を有している.そこで,健康診断の今後の進歩,充実によって生じるであろう法的問題も含めて検討する.

トピックス

運動前のメディカルチェック

著者: 岸良光

ページ範囲:P.35 - P.38

◆はじめに
 最近は体力増強維持のために,各年齢層で多くのスポーツが行われるようになった.それに伴い,スポーツ中の事故の報告を多く見聞きするようになった.このような事故を未然に防ぐことはできないかという疑問が現れ,医師およびパラメディカルに対し,その方法が強く要求されるようになってきた.その一つの方法に,運動開始前のメディカルチェック(以下メディカルチェック)が挙げられるが,その目的,項目などを簡単に述べてみたい.

活動レポート

村ぐるみの健康管理活動に取り組んで

著者: 中嶋幸枝

ページ範囲:P.39 - P.41

◆八千穂村の概況
 八千穂村は長野県の東南,南佐久郡のほぼ中央に位置し,総面積は66.18km2でその77%は森林原野である.千曲川をはさみ,東は秩父山系,西は八ヶ岳山系に続いており,千曲川流域は標高740〜780mの間に帯状に耕地が開けている.気候は山間地帯にあるため極めて冷涼で,年平均気温は9.9℃,雨や雪が少なく塞さが厳しい内陸的気候である.
 国道141号線と県道が千曲川をはさんで南北に走り,村の基幹道路となっている.また八ヶ岳を横断して走る国道299号線は,重要な観光道路となっている.人口は5,000人余で,昭和40年から50年頃ほどの過疎化現象はないものの,青少年層の村外流出がみられ人口は減少傾向であり,逆に65歳以上の老人人口の割合は約18%と年々上昇している.主な産業は農業であるが,農家の90%近くが兼業農家で,村内外の事業所へ勤めている人が多い.

結核の集団感染における保健所の役割

著者: 関龍太郎 ,   高田知英子 ,   勝清子

ページ範囲:P.42 - P.46

◆はじめに
 松江保健所は,昭和19年10月に松江中央保健所としてスタートした.63年10月で満44歳になる.発足後20年余は「結核」,「伝染病」,「乳児死亡」等の対策が主な仕事であった.
 しかし,現在は,がん・脳卒中・心臓病等の成人病,精神保健,廃棄物対策,食中毒対策等が保健所の主な仕事になってきている.また,近年はAIDS対策,禁煙対策,スパイクタイヤ対策,ぼけ老人対策等が加わってきている.

調査報告

保健所における精神関係診断書発行の現状

著者: 清水英利

ページ範囲:P.59 - P.62

●はじめに
 保健所で実施されている「一般健康相談」では免許申請,就職,受験などに必要な種々の健康診断書の発行が求められ,この中には精神病者や麻薬などの薬物中毒者ではないことを証明するものなど,精神関係の診断書がかなりある.この業務について必ずしも専門医でない保健所医師から,初対面で,限られた時間に実施することに責任が持てない,という不安や疑問が以前から表明されていた.東京都・区の保健所予防課長会でも何度かこの問題が取り上げられたが,結局は担当医師の判断に任されて発行され,同じ都・区の保健所でありながら,異なった対応がなされてきた.

資料

地域住民における血糖・総コレステロール・GOT値等の摂食時刻との関係

著者: 土屋眞 ,   北川正伸 ,   中川愛子

ページ範囲:P.63 - P.68

 老人保健法に基づく健康診査が全国的に行われているが,当地においても一般健康診査(基本健康診査)時に,受診者は食後の時刻がまちまちなまま採血され血液検査を受けるため,どこまでを正常値と読むかの血液正常値の判定に,関係者は苦慮している.
 そこで空腹時および摂食後の時間的推移とともに,血糖値がどのように変わり,どの辺までを正常値としたら良いのか,また総コレステロールやGOT・GPTなどの正常値が,食事によってどのような影響を受けるかについて,大体の傾向を知り,今後の参考にするため検討を行った.簡単な統計的処理から得られた数字を呈示したい.

明日の地方衛生研究所

衛生微生物検査におけるレファレンス・サービス・システムの整備

著者: 大橋誠

ページ範囲:P.47 - P.50

 地方衛生研究所(以下地研と略)が,厚生省予防局長等衛生三局長名「地方衛生研究所設置に関する通達」に基づいて,設置されてから約40年が経過した.現在,全国に合計70の地研があるが,これらはそれぞれの地域にあって,公衆衛生行政の向上のための科学的・技術的中核としての役割を果たしてきている.各地研とも,基本的には調査研究,試験検査,研修指導,情報の解析提供の業務を持ち,感染症予防,薬事衛生,食品衛生,環境衛生など幅広い分野をカバーしてきた.
 しかし,1954,76両年に厚生事務次官名の「地方衛生研究所の強化に関する通達」によって補強されたとはいえ,常に整備状況は時代の要請に比べ遅れがちであり,地域格差も大きいという悩みを抱えてきた.特に,昨今は公衆衛生を取り巻く情勢が社会の高齢化,国際化,情報化傾向及び技術革新の流れの中で急激に変化しつつあり,地研の業務内容にも益々幅広い範囲と高い技術水準,迅速な対応が要請されるようになって,上記の悩みは更に深刻化している.ここ数年来,地方衛生研究所全国協議会が今後の業務の在り方と強化の方向を鋭意検討してきたゆえんである.そして,昨1988年8月19日には,厚生事務次官通知の改正あるいは補強を求める要望書を提出するに至った.

保健所活動の新しい展開

地域歯科保健活動

著者: 北原稔

ページ範囲:P.51 - P.53

 これまで地域で行われてきた歯科保健は,乳幼児の虫歯予防が主であった.その内容は歯科単独の事業展開が多く,一面的な指導の傾向があったといえよう.ところが,乳歯のう蝕は軽減し,開業医の数は増し,住民の意識は変化した.歯科の保健も医療も量から質の問題が問われるようになり,成人・老人に至るライフサイクルを通じた歯科保健としての展開が始まりつつある1)(表1).歯の健康問題は"人間の一生"や"全身の健康",そして"生きた暮らし"との関わりを密にして対応してゆくことが求められているのである.

事例からみる保健相談 育児相談

発達・発語の遅れをもったMちゃんの援助

著者: 伊川文子

ページ範囲:P.54 - P.55

1.相談者
 視線が合わず,呼んでも振り向かず,言葉の出なかったMちゃんの援助から報告する.
 昭和57年11月生まれ(現在6歳の女児)のMちゃんの生育歴:定頸は4カ月,寝がえりは5カ月半すぎ,はいはいは9カ月半,歩行開始は1歳1カ月であった.

発言あり 現代のアメニティ

高まる価値観—調和ある街づくり,他

著者: 高桑栄松

ページ範囲:P.1 - P.3

 私は,参議院で環境特別委員会理事を務めたが,つくづく残念に思ったのは「環境影響評価法案」が,2年半の審議の後に廃案(昭和58年11月)になったことである.その後,再提出の動きがしばしばあったが未だそのままである.このことは,わが国がアメニティを論ずる以前の公害防止の原則を,なおクリアしていないということの証左とも考えられるのである.現代社会における価値観の変動の中で最も注目すべきことは,これまでの経済的価値に対して人間的諸価値が重要視されるようになったということであろう.そして,基本的人権としての健康がクローズアップされるにつれて公害が問題となってきた,この価値観の変動は,さらに快適な生活環境に視点を置くアメニティ志向へと発展してきた.
 私は,昨年横浜で開かれた「美しい街づくりとアメニティ」を主題とするシンポジウムに出席し,総括として次のように提案した.

公衆衛生人国記

愛媛県—愛媛に生まれ愛媛で活躍した人々を中心に

著者: 高橋弘

ページ範囲:P.56 - P.58

 愛媛の人は,良く言えば温和で素直で争いを好まず,悪く言えば積極性に乏しく保守的であると言われ,先年のNHKの県民性調査でもおおむねそのように分析されている.
 しかし公衆衛生の分野では,なかなかどうして持続する志を持ち続けて変革に挑戦した先人が多い.本稿では,その中で愛媛に生まれ,愛媛で実績を挙げた人々を中心に述べてみたい.

衛生施策の動向・都道府県 長野県

はつらつ健康づくりやまびこ事業

著者: 藤島弘道

ページ範囲:P.69 - P.69

 長野県の「はつらつ健康づくりやまびこ事業」は,生涯にわたる健康づくりを,総合的・体系的に推進するため,保健所及び関係機関・団体が連携して,地域特性に応じた計画の策定を行い,県民の自発的・実践的な健康づくりを図ろうとするものである.
 行政の段階別に説明すると,県の段階で行うやまびこ事業推進連絡会議は,県庁内の関係部局の連携と地域健康づくりの方向づけを行う.保健所の段階では,地域活動の展開ということで,関係者による健康づくり地域検討会,地域健康づくりに関する作業研究と地域活動,はつらつ健康づくり討論会,はつらつ健康だよりの発行による地域住民へのPR等という手順を踏むことになる.予算積み上げ用の語句を用いたが,要するに,地域にどんな問題があり,どのようにして解決できそうかを,地域住民と共に考え,共に実行し,共に評価するという公衆衛生活動の基本に立ち返ったということである.したがって,何か特別な事業を計画するのではなく,保健所が日常活動として,市町村の行う公衆衛生活動に参画し,かつ指導性を発揮してほしいということである.

保健行政スコープ

厚生科学の振興

著者: 小島光洋

ページ範囲:P.70 - P.71

●科学技術振興の動向
 厚生省の大臣官房の中に,昨年10月1日から「厚生科学課」が誕生した.これは,従来同じ大臣官房の総務課にあった「ライフサイエンス室」を拡充し,厚生省における科学技術を総合的に取りまとめていこうとするものである.「厚生科学」は保健医療,福祉,生活衛生等のニーズに応える科学技術分野という概念として捉えることができ,国民のクオリティー・オブ・ライフ(生命・生活の質)を高めていくことを目的としている.
 近年の社会経済の急激な変化は,物質文明の限界を呈示する結果となり,これに対して真の豊かさとは何かが問われるようになっている.一方,先端技術を中心とする目覚ましい科学技術の進歩は,国民生活を飛躍的に向上させることを可能にしつつあり,まさにこの科学技術の成果を国民生活に的確に活用していくことが,厚生行政に求められるようになった.特に従来の医学の領域に加えて,分子生物学,生体工学等関連の学問分野を加えて生命現象・生体機能を解明し,その成果を広範囲に人間の福祉に役立たせようという指向性が重要であるといえよう.

日本列島

シルバー110番—岐阜

著者: 井口恒男

ページ範囲:P.21 - P.21

 急速な高齢化社会の進展や核家族化の中で,高齢者のニーズは多種多様化しており,高齢者の抱える悩みごとや心配ごとも増大かつ複雑化している.従来,岐阜県では各地域の福祉事務所に老人福祉相談員を置き,高齢者の相談に対応してきたが,その相談内容は高齢者やその家族の保健医療,福祉その他多岐にわたって増大しており,相談者にとって十分満足し得る状況が少なくなった.そこで,各々相談窓口をもっている関係機関が協力しネットワーク化することにより,一体的に対応できるようなシステムを構築し,さらに各種情報をこのネットワークを利用して総合的に収集・管理し,提供することにより高齢者のニーズに対応できるシステムの確立が必要となっている.
 岐阜県ではこれらのシステムのセンターとしての役割を持ち,高齢者の各種相談に総合的に対応し,情報提供を行う機関として「高齢者総合相談センター(シルバー110番)」を昭和63年6月設置した.当センターは対面相談の他,電話相談も重視しており,同時に3者で通話できるトリオホンを2台設置し,各種専門家が相談に応じるなど,文字どおり,シルバー110番(TEL 0582-62-0110)である.センターは精神保健センター,児童相談所その他福祉関係機関が集合設置されている岐阜県福祉会館内に設置されており,運営は社会福祉法人岐阜県社会福祉協議会に委託されている.

最近の食中毒事件の教訓—仙台市

著者: 土屋眞

ページ範囲:P.38 - P.38

 さる6月に泉支所管内で起きた食中毒事件は,小さい出来事ながら一寸した教訓を私共に残し,忘れられないものになっている.ことに最後には,食中毒として扱わないという思いがけないことになったのである.

基本情報

公衆衛生

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1170

印刷版ISSN 0368-5187

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