icon fsr

雑誌目次

雑誌文献

公衆衛生53巻11号

1989年11月発行

雑誌目次

特集 在宅ケア体制の推進と家族制度

日本の家族制度の変化と在宅ケア体制

著者: 園田恭一

ページ範囲:P.728 - P.732

■はじめに
 高齢化社会を迎え,また慢性疾患や精神障害が死因や健康問題の大半を占める時代となり,福祉や医療の課題や対応の方向も大きな転換が迫られるようになってきている.
 日本でも,欧米ほどに顕著ではないにせよ,高齢者や障害者は施設に収容し,また患者は病院へ入院させる方向で,またその方向こそが望ましい福祉や医療のあり方であるとして志向され,追求される動きがみられたが,増大する高齢者や障害者や患者などを,おしなべて施設や病院などに収容したり,入院させたりするということは到底財政的にも,マンパワーの面からもできることではなく,またそれぞれの身体的,経済的,社会的,精神的といった事情や条件などからして,そのすべてが収容や入院などを必要とするわけもなく,また必要以上の長期にわたる施設入所や入院は,社会的なつながりを失わせ,障害や病状の回復や自立性の拡大などにとってもマイナスの役割を果たすことも少なくないことなどが指摘されるようになってきている.

在宅ケアの技術と役割

著者: 黒田研二

ページ範囲:P.733 - P.737

■在宅ケアと施設ケア
 わが国でも在宅ケアの重要性に対する認識は,近年急速に高まってきた.だが実際に在宅ケアによって支えられている人々はどれ位いるのだろう.まず,国が行った調査をもとに在宅の「寝たきり者」の数をみてみよう.
 昭和53年の厚生行政基礎調査では,当時在宅の寝たきり者は全国に38万人,そのうち65歳以上の人は30万2千人いると推計していた.昭和61年にも同様の調査が行われ,その時にはわが国の在宅寝たきり者は35万7千人,うち65歳以上は28万2千人と推計されている(昭和61年国民生活基礎調査第1巻).この二つの調査の結果を比較すると,65歳以上の人口は昭和53年から61年にかけて増大しているにもかかわらず,在宅の寝たきり者数は増加していないどころかむしろ減少しているのである.61年の調査によると「寝たきり者」の主たる介護者は,同居している「配偶者」,「子の配偶者」,「子」の順に多くこれらが80%を占め,ホームヘルパーが主たる介護者である場合は0.6%に過ぎない.

高齢者の自立と在宅ケア

著者: 島内節

ページ範囲:P.738 - P.742

■はじめに
 日本人の平均寿命は世界のトップレベルにあり,65歳以上の人口が2000年には1/6,2010年には1/5,2020年には1/4を占め,世界に例をみない高齢国になる.しかも2000年から要介護者となりやすい後期高齢者(75歳以上)が急増し,生産年齢人口は,1998年をピークに実数で減少していく.
 このような厳しい社会条件をひかえて,老人・家族の健康とQuality of Life(QOL)の調和とその実現は,老人の自立とそれを支える場や社会システムが重要な課題となる.厚生省は本年8月に「寝たきりゼロ国民運動の展開」をスローガンとして公表した.これらの関連条件を踏まえて,老人の自立と在宅ケアの現状・課題・方法について述べる.

当事者・家族にとっての在宅ケアと施設ケア—「介護者(家族)の会」にかかわって

著者: 町野宏 ,   寺島千鶴

ページ範囲:P.743 - P.747

■はじめに
 枚方市の人口は,昭和63年12月現在で390,687人で65歳以上の高齢者人口は25,869人であり,総人口に占める割合は6.6%と,全国・大阪府下の平均値に比べると低い.しかし,市の人口推計では2010年ごろが高齢化のピークになると予想されている.
 ここでは,介護を必要とする高齢者を抱えた家族を組織化し,介護能力を高め家族の市民的生活を保障することを目的として,この組織活動を共に実践してきた立場から,与えられたテーマ「当事者・家族にとっての在宅ケアと施設ケア」について考えてみたい.

家庭医にとっての在宅ケア

著者: 森脇潤

ページ範囲:P.748 - P.751

■はじめに
 これまで在宅での医療が困難であり,そのためやむを得ず入院していた多くの人たちが,医学と医療技術の進歩を在宅での医療に取り入れることによって,早期に本来の生活に戻ることも可能になってきた.一方では,退院可能ではあるが,家庭での看護・介護体制が整わないために退院できない人もある.これらの問題について各部門での,真剣な検討と実践が行われている.在宅での医療を主に担当する家庭医側でも,地区医師会を中心として,また,看護,福祉関係者,住民団体,行政側でも,在宅ケアの促進についての提言,実践が各地で行われている.
 しかし,高齢になるほど,在宅での介護能力が減弱していくというだけでなく,主な疾病以外に,心身の老化による医学的特殊性が加わるため,家庭医が一人だけで高齢患者に対応することが出来なくなっているということを重視して対策を考える必要がある.そのためには,往診による医療が再検討されなければならない.

訪問看護と家族

著者: 山崎摩耶

ページ範囲:P.752 - P.755

 10年ひと区切りという言い方にならえば,約ふた区切りに近い年月を,地域の老人や家族と共に悩み,過ごしてきたことになる.
 訪問看護という仕事を通して実感させられた老人や身体障害者とその家族の,生きざま・死にざまは時代と共に少しずつ変化を見せつつも,実は連綿と連なった日本的な家族の様相を越えもせず,変わらせもしていないことに気づく.

期待したい在宅ケア像—訪問看護モデル事業から

著者: 藤原君子

ページ範囲:P.756 - P.759

■はじめに
 昭和63年度から2カ年にわたり厚生省からモデル指定を受けた「訪問看護等在宅ケア総合推進モデル事業」は,医療・保健・福祉の連携した総合的な在宅ケアを推進し,もって高齢化社会への対応を探ろうとするもので,箕面市にあっては「訪問看護」制度を創設し,既存の在宅福祉制度(家庭奉仕員の派遣・日常生活用具の貸与・入浴サービス等)や老人保健制度(訪問指導)と組み合わせた事業展開を行うと同時に,本市の地域特性にマッチした将来構想の調査研究を行うことにより,本モデル事業と取り組むこととした.

期待したい歯科在宅ケア—在宅寝たきり老人歯科保健推進事業から

著者: 渡邊公人 ,   高木瑞穂 ,   大蘆壽真

ページ範囲:P.760 - P.764

■はじめに
 島根県松江市(人口14万人)では,昭和63年10月より,家庭訪問歯科調査事業並びに家庭訪問歯科診療事業を始めている.本事業は,島根県歯科医師会松江・八束支部(会員81名,大盧壽真支部長,以下,松江・八束歯科医師会)が松江市からの委託を受けて行っているもので,また,厚生省の「在宅寝たきり老人歯科保健推進事業モデル地区」の指定を受けているものである.
 昭和63年10月1日より平成元年3月31日の間に,49人の在宅寝たきり老人に対して家庭訪問歯科調査を行い,うち42人に対して家庭訪問歯科診療を行った.

ミニ・シリーズ 地域保健将来構想検討会報告書を読んで 対談

地域保健の将来

著者: 橋本正己 ,   大谷藤郎

ページ範囲:P.765 - P.770

 大谷 地域保健将来検討会が出来て2年たち,この6月末に地域保健将来構想報告書が出ました.
 今日は,この報告書の内容について,お互いの今後への期待を述べることにしたいと思います.

市町村保健活動の取り組み インタビュー

保健活動のためのプロジェクトチームを組織—長崎県美津島町

著者: 吉野満夫 ,   俵次男 ,   山口みさ子

ページ範囲:P.771 - P.774

 対馬島内には北から上対馬町,上県町,峰町,豊玉町,美津島町,厳原町の6町がある.美津島町はそのほぼ中央部に位置する.町の東部は対馬海峡に面し,西部は朝鮮海峡を隔てて朝鮮半島に相対している.対馬半島の中央部にくいこんでいる浅茅湾には多くの小島があり,海岸線は入り組み,その延長線は403.3kmに及ぶ.人口は9,262人(平成元年4月1日現在).漁業,農業従事者が半数を占めている.町内の医療機関は国立病院が1,診療所4,歯科診療所3である.
 美津島町では住民の健康増進のためのプロジェクトチームを昭和61年に組織,「福祉と健康づくりの町」の実現に向けて始動した.

海外事情

ASEAN健康開発研究所における国際的人づくり

著者: 田口徹也

ページ範囲:P.792 - P.795

 1981年1月,当時の鈴木善幸首相は東南アジア諸国連合(ASEAN)各国を歴訪した.わが国の政府はこれを機会に,新しい国際協力の一つとしてASEAN人づくりプロジェクトの発足を提唱した.同年6月,タイ国がこれを受けてPrimary Health Care(PHC)のための訓練センター創設を要請してきた.周知のようにPHCとは,1978年に世界保健機関(WHO)が主催してソ連邦カザフ共和国の首都アルマ・アタで開かれた国際会議で採択された標語,Halth for All by The Year2000を実現する鍵として強調された概念である.PHCには,栄養改善,安全な水の供給,家族計画を含む母子保健,主な感染症に対する予防接種,通常の病気や外傷に対する適切な治療,そして一般的な保健教育などいずれも開発途上国における当今の保健医療問題を考える際に重要な内容が含まれている.
 1982年2月,日本政府の無償資金協力によってASEAN Training Center for Primary Health Care Development(略称ATC)の建設が開始された.場所はタイ国のマヒドン大学サラヤ校である.

進展する地域医師会の公衆衛生活動

小田原医師会の活動(1)—組織体制の確立

著者: 鈴木重光 ,   山口肇久 ,   遠藤郁夫

ページ範囲:P.782 - P.783

 小田原医師会は神奈川県の西部にある小田原市,真鶴町,箱根町,湯河原町の1市,3町の医師で組織されている.現在の会員数は257人,地域の人口は25万人で医療機関数は150.そのうち病院が18(うち小田原市内に13病院),診療所が132カ所である.小田原医師会はこれまでも積極的に保健活動を展開してきたが,昨年執行部組織を再編成,新たに地域リハビリテーション活動その他の活動の検討を始めている.

地域リハビリテーションと機能訓練事業

地域に根ざしたリハビリテーション

著者: 髙野きみ子

ページ範囲:P.779 - P.781

◆習志野市の概況
 習志野市は千葉県の北西部に位置し,人口145,304人,面積20.8km2で人口密度は1km2当たり6,986人と高く,県下第3位の過密都市となっている.

統計のページ

病気の姿をデータで読む(5)—循環障害—システムの死

著者: 倉科周介

ページ範囲:P.775 - P.778

 わが国で脳血管疾患が死因順位の首座を結核から奪ったのは,太平洋戦争終結後まもない1951年のことである.1953年には悪性新生物が第2位に,1958年には心疾患が第3位となった.この三者が不動のトリオを組んでおよそ20年が経過する.そして1981年,ついに脳血管疾患は悪性新生物に首位を譲って第2位に退く.さらに1985年には心疾患にも抜かれて第3位に後退した.これが1987年現在の上位3死因である.
 だが脳血管疾患と心疾患をまるきり別物のように扱っているのも,習慣とはいえ不思議なものだ.悪生新生物というのは感染症と同じで包括概念である.それと比べるなら,脳血管疾患と心疾患を循環障害として一括するほうが筋が通る.そこで今回は,脳血管疾患,虚血性心疾患,心不全など,最終的には中枢臓器の突発的循環障害に起因するとみられるものを一まとめにして,駆け足で触れることにする.まず,それらの疾患による死亡の年次推移を示す(図1).

保健所活動の新しい展開

診療放射線技師の活動から

著者: 上島唯雄

ページ範囲:P.784 - P.786

◇はじめに
 今日の科学進歩,特に医療機器の高度化は著しい.かつて保健所は,断層撮影装置・ポータブル装置等,結核にかかわる地域のリーダー機関としての役割を果たしていた.現在では,地域の医療機関が大型かつ高性能の医療機器を購入し,保健所の遅れはますますその格差を増大させている.
 また,疾病構造も結核を主とする感染症疾患から成人病を中心とする慢性疾患へと変化し,住民のニーズも量的に拡大し,質的多様化へと変化してきている.しかし,今の保健所の実態は保健所黄昏論を裏付けるかのような旧態極まる装置設備ばかりで,住民のニーズに対し,十分応えられる状況にない.こんなジレンマにさいなまれている一職種の分野で,保健所の将来展望について論ずるにはあまりにもおこがましく,またそれなりの力量を有してはいないが,良き時代に思いをはせつつこれからの保健所における我々技術職の果たす役割は何か,当所において実施している結核対策事業の一部を紹介し,私見を述べてみたい.

事例からみる保健相談

長期医療中断者への支援—離島における地域精神衛生活動

著者: 當山冨士子

ページ範囲:P.790 - P.791

1.はじめに
 沖縄県N保健所の精神衛生活動の一環として位置づけられる昭和53年来の一離島村(人口約1,000)に対する地域精神衛生巡回相談(以下巡回と略す)に,当時の研究室主任教授はじめ筆者も一スタッフとして参加している.筆者の主な役割は,島の駐在保健婦の気軽な相談相手,沖縄本島(以下本島と略す)における関係機関との連携および本島における保健婦の役割の一端を担うことである.渡島しての活動は,当初年4回,現在では2回となっている.なお,島の医療従事者は,診療所の医師と看護婦それに保健所の保健婦のみである.
 今回は,長期間医療を中断していたA子への支援から地域精神衛生活動について触れてみたい.ケースの紹介に当たっては,小さな島のため,骨子に支障がない程度に筆者のほうで修正を加えた.

発言あり シルバーサービス

充実したい保健福祉サービスの内容,他

著者: 小山秀夫

ページ範囲:P.725 - P.727

 2000年の65歳以上人口は21,338千人と推計されている.1980年には10,647千人であったことを考えると,20年間で1千万人強の増加ということになる.この間,75歳以上人口は4,792千人増加し,人口比率は3,13%から6.44%へ急増する.
 75歳以上の後期高齢人口は,なんらかの介護を必要とする割合が高く,今後,介護需要が激増する.需要に対するサービスの供給の質と量を確保すること自体が,大きな社会的問題となっている.

公衆衛生人国記

群馬県—戦後衛生行政を中心に

著者: 藤井佐司

ページ範囲:P.787 - P.789

 第二次世界大戦後の群馬県の衛生行政・地域保健活動の特徴の一つに,群馬大学医学部と,群馬県医師会をはじめとする歯科医師会,薬剤師会等の医療関係団体と行政とが,三者一体となって推進されてきたことにあると考えられる.

日本列島

C型インフルエンザウイルスを細胞から分離—仙台市

著者: 土屋眞

ページ範囲:P.732 - P.732

 インフルエンザのC型は,A型B型と異なり,常在していて一般に軽症で流行することも多くない.鼻汁過多が長期にわたることが特徴とされ,再感染しやすいと言われる.ウイルスは生きた細胞がないと繁殖しないので,ウイルスの分離法としては,発育鶏卵を用いる方法と,細胞を使う方法とあるが,C型では今まで多数の研究者が試みたものの,MDCK細胞(犬腎細胞)を用いた分離がうまくいかなかった.
 このたび,仙台市衛生研究所(角田所長)では,C型インフルエンザウイルスを,発育鶏卵から分離しただけでなく,MDCK細胞を用いた分離に成功した.これは世界で初めてであり,近く学会に発表するという.分離・同定には,C型の研究の先駆者である山形県衛生研究所の協力を得たとのこと.また時を同じくして,国立仙台病院でも他の細胞を用いて,C型を分離したと聞く.この細胞を用いた分離方法は,発育鶏卵の使用法よりも,培養されてあるので手がかからず,操作が簡単で時間も短く,安価とのことだ.C型インフルエンザの証明が早くなされることは,防疫上の意義が大きい.

ゴルフ場の農薬対策—岐阜

著者: 井口恒男

ページ範囲:P.774 - P.774

 ゴルフ場の芝生保全・雑草対策に法的な農薬規制のないことから,農薬使用の不適正あるいは乱用による環境汚染(土壌汚染・水質汚染)が全国的に憂慮されており,各県において,その実態調査や使用規制指導策が進みつつある.
 岐阜県におけるゴルフ場はオープン中のもの55か所,工事中のもの15か所,計画協議済みのもの28か所,協議審査中のもの7と非常に多く,県土面積の1%以上を占めようとしている(平成元年7月現在).ホール数は計2,100を越し,9割以上が18ホール以上のゴルフ場である.

基本情報

公衆衛生

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1170

印刷版ISSN 0368-5187

雑誌購入ページに移動

バックナンバー

icon up

本サービスは医療関係者に向けた情報提供を目的としております。
一般の方に対する情報提供を目的としたものではない事をご了承ください。
また,本サービスのご利用にあたっては,利用規約およびプライバシーポリシーへの同意が必要です。

※本サービスを使わずにご契約中の電子商品をご利用したい場合はこちら