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文献概要
特集 先端科学技術と公衆衛生
先端科学技術とバイオエシックス
著者: 米本昌平1
所属機関: 1三菱化成生命科学研究所
ページ範囲:P.830 - P.833
文献購入ページに移動今日,バイオエシックスという言葉や,この直訳語である生命倫理というすわりの悪い言葉は,一応市民権をもったようにみえる.が,その像はなお曖昧なままにある.かつてこの言葉には,遺伝子組換え技術を監視する意味が込められていたし,現在では最新の医療技術の倫理問題を語ることであり,人によっては高邁な生命論を展開することであったりする.しかし,この分野の文献に目を通してみてすぐ気がつくことは,その圧倒的多くがアメリカでなされ,しかもどこか異和感が残るものが多いことである.そこでこれを,いま少し広い視野から眺めてみると,そこには70年代のアメリカが体験した,医学と医療をめぐる思想的・制度的な構造変動がみえてくるのである.
その最も基本にあるのは,"医療の現代化"という問題である.戦前と現在とを比べてみたとき,決定的に異なるのは,日本を含む先進諸国が,栄養不良障害と伝染病という病苦をほぼ完全に克服し,医学の課題の中心が,がんや成人病や遺伝病や先天異常へと移ってきたことである.医学でいう,急性疾患から慢性疾患の時代への移行である.そしてこれは当然のことながら,医療思想の変換のきっかけをも含んでいた.
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