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雑誌目次

雑誌文献

公衆衛生53巻5号

1989年05月発行

雑誌目次

特集 腎疾患の予防と生涯管理

腎疾患の疫学

著者: 酒井紀

ページ範囲:P.292 - P.295

■はじめに
 わが国の腎疾患の実態は,過去20年の間に大きく変貌している.その背景には,腎疾患研究の著しい進歩と共に,治療面,特に透析療法をはじめとする種々の腎疾患治療法の進歩・改善がみられ,この結果,腎疾患の予後を大きく変えてきている.さらに,わが国では学校検尿の法令化や職域検尿の拡大など,いわゆる集団検尿の普及によって,腎疾患の早期発見・早期対策の効果が認められるようになってきている.一方,わが国では透析療法の著しい進歩・普及によって,腎不全患者は年々増加の一途をたどり,いまや,末期腎不全患者の生命維持を可能にする時代となってきている.
 このように,わが国における腎疾患の現状は,医学的にも社会的にも多くの問題が提起され,早期発見から腎不全対策までの重要性が示唆されている.ここでは腎疾患の疫学について,現状分析を中心にして述べてみる.

腎疾患の予防と生涯管理

著者: 森和夫

ページ範囲:P.296 - P.300

■はじめに
 腎疾患の早期発見と生涯管理は,腎疾患の進展,透析への移行への防止のため重要であることは今更いうまでもないことである.
 学校検尿が始まってすでに20年以上になり,その方法も確立してきているが,なお経過観察の面で不十分なところが多い.さらに生涯管理としての有機的なつながりには,今後問題としなければならないことが多い.

腎疾患生涯管理のポイント—学童期

著者: 酒井糾

ページ範囲:P.301 - P.304

■はじめに
 現在,小,中,高(公立)の学校で毎年行われている尿検査は,昭和48年5月の学校保健法施行令,施行規則の改正によって,学校での健康診断の一環として実施するよう義務ずけられたもので,昭和49年から実施となった(表1参照).
 このように尿検査が学校レベルで行われるようになった背景には,疾病構造の変化に伴う慢性疾患の増加という現象があった.そして腎臓病学の進歩によって一部の腎疾患では,子どもの時期に早期発見して管理すれば悪化しないで良い状態を保てることがわかってきた.

腎疾患生涯管理のポイント—青年期

著者: 飯田喜俊

ページ範囲:P.305 - P.309

■はじめに
 現在では全国的に小・中学・高校生に集団検尿が行われており,若年層の腎疾患早期発見にきわめて大きい役割を演じている.しかし,この中で高校・大学生について考えてみると,この年代は年齢的にも小・中学生と成人との間にあり,小児から成人へのターニングポイントの年齢層であるため,腎疾患についてもこれら小児や成人とは異なった特徴があり,実際面でそれに応じた管理が大切である.
 本稿ではこの青年層の腎疾患の特徴について述べ,それをふまえてこの年齢層の集団検尿システムのあり方,その後のフォローアップの問題点などについて述べる.

腎疾患生涯管理のポイント—成人

著者: 川口良人

ページ範囲:P.310 - P.313

 成人の慢性腎疾患の管理について,(1)偶然に(健康診断時,ドック受診時,または保険加入時など)発見された蛋白尿または血尿の取扱い,(2)診断の確定された腎疾患患者の管理,(3)長期透析を受けている患者の管理の3項目に分け,一般の健康管理を業務としている医師を対象としてまとめてみたい.

地域における腎疾患の予防と生活指導の実際

著者: 河西悦子

ページ範囲:P.314 - P.318

■はじめに
 神奈川県下における慢性腎疾患患者は,1万人を超えると推定されており,慢性透析患者は4,447人(昭和63年10月現在調べ)で,近年では年間約400人の増加傾向を示している.いずれの疾病でもそうであるように,腎疾患においても,予防及び早期発見,早期管理は極めて重要である.
 神奈川県では,昭和60年8月より県域(政令3市を除く)において,腎尿路系疾患の早期発見,早期治療を目標に,3歳児健康診査時に検尿を行い,幼児期における腎疾患の実態の把握に努めるとともに,3歳児検尿の方法,結果,及び検尿システムのあり方等につき検討を行っている(秦野地区では昭和59年10月より,伊勢原地区では昭和60年7月より開始).

職域における腎疾患の予防と生活指導の実際

著者: 小口寿夫 ,   古川猛 ,   徳永真一

ページ範囲:P.319 - P.322

■はじめに
 従来腎疾患は無症状で経過する場合,尿毒症になるまで放置されることも稀ではなかった.しかしながら,1972年の労働安全衛生法により,職場における定期健康診断に検尿が法制化されるようになったことから,職場での検尿が腎疾患の早期発見及び進展の予防に大きな役割を果たすようになっている.折田ら1)の成績では,367例のchance proteinuriaの発見動機として,会社検診によるものが114例(31%)であり最も多い.
 職場における腎疾患の管理には,①検尿による腎疾患の早期発見及び診断,②腎疾患の腎不全への進展予防,③腎不全及び透析患者の治療と健常者に近い体力・体調の維持が必要であり,また,治療および日常生活が職場の生活(労働)と調和しながら充実した社会生活が送れるように指導することも必要である2)

腎疾患の総合的対策

著者: 金森仁作

ページ範囲:P.323 - P.327

■はじめに
 わが国における腎疾患,特に慢性腎不全の患者数は年々増加し,人工透析を受ける患者数は,昭和62年末8万人を超え,新規導入患者数は年間約1万5千人で,前年に比べ約7千人の増加が見られ,この傾向は当分続くことが予想される.
 また,人工透析を受ける患者の肉体的・精神的苦痛は大きく,人工透析の長期化に伴う透析患者の骨代謝異常,アミロイド沈着などの合併症や透析患者の高齢化が問題となる一方,人工透析に要する医療費も約4,000億円と推定され,総医療費に占める割合も約2.5%と医療経済,医療資源の有効活用の観点からも大きな問題といえる.

トピックス

新三種混合ワクチン—MMRワクチンについて

著者: 木村三生夫 ,   堺春美

ページ範囲:P.328 - P.332

 1989年4月から,麻疹定期接種の際に,MMRワクチンを使うことができるようになった.MMRワクチンは,すでに多くの国で採用され,わが国でも小児科医より,その導入を促進するように求められていたものである.

総説

アルツハイマー型痴呆の疫学

著者: 酒井亮二 ,   荒記俊一

ページ範囲:P.333 - P.339

●はじめに
 1835年Prichardは「最近のことを忘れることに特徴のある精神状態」を老人性痴呆(senile dementia)と記述した.その後1907年,精神科医Alzheimer1)によって最初の症例報告がなされて以来,「アルツハイマー病」は老年痴呆の代名詞として一般化しており,最近もアルツハイマー病の疫学に関する総説がいくつか出ている2〜4).米国では戦後のベビーブームがピークに達する西暦2030年に6,000万人の65歳人口を擁し,700万〜1千万人程度の老人痴呆を抱えるという5).このように先進諸国では将来,アルツハイマー病が大規模に流行すると危惧される中で未だ病因不明である当疾患に対して強い関心が持たれているが,わが国での疫学研究は極めて少ない6〜8).この理由は後述するように,本疾患に対する臨床診断の確実性が長い間乏しかったことによる.本論においては,わが国を含めたアルツハイマー病の発生要因に関する最近の疫学研究を総括する.

地域リハビリテーションと機能訓練事業

富士見市の機能訓練事業

著者: 片山昱子

ページ範囲:P.348 - P.349

◆はじめに
 埼玉県富士見市は人口93,000人余り,東京のベッドタウンとして急速な人口増加がみられる,比較的若い層の多い市である.
 昭和53年度より,厚生省の指定を受けて,老人保健医療総合対策事業を実施,60歳以上を対象に,通所訓練を老人福祉センターで行ってきた.昭和58年度から,老人保健法施行に伴い,40歳以上の在宅療養者を対象に,健康増進センターで通所訓練を行っている.脳血管障害などによる後遺症を持つ方々が,心身の機能維持を図りながら,1日も早く地域生活へ積極的に参加できるよう援助することが,この事業の大きな目的の一つである.ただ,病院の延長として訓練に終始固執すべきではなく,あくまでも目標は,自主的な地域生活への復帰と考えたい.

明日の地方衛生研究所

地方衛生研究所における公衆衛生情報の活用と課題

著者: 方波見重兵衛

ページ範囲:P.340 - P.343

◆はじめに
 世界経済の発展と共に,航空機の発達は質量共に目覚ましく,国内外の人の交流は増加し,その時間的な短縮も著しい.
 したがって赤痢,腸チフス,コレラ等はもちろんであるが,AIDS等の新しいウイルス性疾患等の流入に関し,病原微生物情報の把握は緊急を要する.

保健所活動の新しい展開

環境衛生業務の見直しと課題

著者: 藤本佳佑

ページ範囲:P.344 - P.347

◇はじめに
 「環境衛生」という言葉は非常に広範な概念であり,内容を厳密に規定してかからないと,何を言っているのか意味不明の空虚な議論の展開になりかねない.これは「環境」という言葉自体にその責任の一端がある.「環境」論について理論的考察を行う場合,例えば主観的環境と客観的環境についてとか,対立概念である「主体」の生物学的レベルについて等,興味ある問題が多々ある.
 ここでは「環境衛生」について理論的な「環境」論を出発点とする立場からではなく,現実に保健所が業務として行っている「環境衛生」業務について,身近なところから現状を考え,現在的な問題にスポットを当ててみよう.

事例からみる保健相談 家庭内暴力

家族とのかかわりを通して

著者: 児玉三千江

ページ範囲:P.350 - P.351

 本事例は,息子の問題行動(家族への乱暴,被害妄想等)を目の前にして,母親自身が不安定となり神経科受診をし,その医師から保健所に相談するように勧められて来所したものである.

発言あり 人工臓器

国家的な体制づくりがキーポイント,他

著者: 阿久津哲造

ページ範囲:P.289 - P.291

 人工臓器は,従来の薬剤や外科的修復・切除あるいは放射線による方法では治療し得ない生体臓器機能の一部,または全部を一時的にあるいは永久に代行するものである.
 これまでに30種類以上の人工臓器が開発され,多くのものが既に臨床使用されている.人工腎臓,人工肝臓,人工肺,人工心臓,人工膵臓,人工血管,人工関節,ペースメーカー,人工血液などがその代表的なものとして挙げられる.これらの人工臓器の歴史は新しく,今世紀に入ってからである.したがってその機能という点では,生体臓器のそれに比較すればまだまだ足元にも及ばない.例えば人工腎臓といっても,血液透析によって尿の成分を除去するだけでホルモンは全く関与せず,人工肝臓に至っては,人工肝臓という名前に値せず,生体肝臓機能のほんの一部を一時的に代行するにすぎない.上記のような代謝には関係しない人工血管や人工弁は現在では,10年以上の寿命がある.
 自らエネルギーを持つ機能的人工臓器の最初のものは人工心臓である.これはKusserowによる補助人工心臓の研究開始,Kolff-Akutsuによる全置換型人工心臓の研究開始といずれも1957年で,今年で32年の歴史を持ち,現在では前者では世界で600例以上の臨床例があり,本邦においても150例を越す症例が報告されている.

公衆衛生人国記

沖縄県—戦後沖縄のユニークな保健医療制度を育む

著者: 崎原盛造

ページ範囲:P.352 - P.354

戦後沖縄の医療を担って--大宣見朝計先生
 戦後沖縄の保健医療は敗戦によって本土から切り離され,27年間も米国の統治下に置かれた歴史的背景の基に展開された.その間,軍事政策がすべてに優先し,米国の基地保有に支障を与えない範囲でしか自治も認められなかった.また沖縄は,日本の行政権が停止されたため,戦争で多くの人的物的資源を失い,「無」の状態からの再出発であった.
 その戦後沖縄の医療行政で,最も重要な役割を果たしたのは大宜見朝計先生であった.県立一中から旧制福岡高校を経て,昭和13年新潟医大を卒業.翌14年,内務省の地方技師として沖縄県学務部社会課に赴任した.戦況が悪化し,敗戦の色濃くなった昭和20年初頭,本土出身の県衛生課長が出張名目で沖縄を脱出したため,その後任に大宜見先生が発令された.医療行政の責任者として知事らと行動を共にし,「ひめゆり」の女学生たちと同様,南部戦線に退避したが,壕の中で米軍の捕虜となって九死に一生を得た.

衛生施策の動向・都道府県 広島県

地域保健活動の推進

著者: 高田芳樹

ページ範囲:P.357 - P.357

 近年,保健医療を取り巻く環境は大きく変動している.なかでも「高齢化の進展」と「価値観の多様化」は,より地域に密着したきめ細かい保健活動の展開を求めている.
 広島県では,従来から保健医療活動の単位地域を設定し,それぞれの単位地域で企画,立案,総合調整等を行うため,行政,保健医療関係団体,住民団体等を構成員とした地域保健対策協議会を設置(歯科保健部門については歯科衛生連絡協議会を設置)して,地域保健活動を推進している.

保健行政スコープ

「電離放射線障害防止規則」の改正について—その(1)

著者: 労働省労働基準局安全衛生部労働衛生課

ページ範囲:P.358 - P.359

●はじめに
 わが国の放射線障害の防止に関する技術的基準は,「放射線障害防止の技術的基準に関する法律」に基づき科学技術庁に設置されている放射線審議会で審議することとされており,労働安全衛生法に基づく「電離放射線障害防止規則」をはじめ,放射線障害防止に関する国内法令の改正は,放射線審議会の意見具申に基づいて行われることになっている.放射線障害の防止に関する技術的基準としては,「国際放射線防護委員会(ICRP)」の勧告が権威をもっており,わが国でも従来から随時その勧告を国内法令に取り入れてきた.
 ICRPからの新勧告が昭和52年に出されたことを受けて,放射線審議会では新勧告の国内法令への取り入れについて審議を重ね,法律の規定にかかる事項について,昭和55年1月に中間報告のかたちで意見具申を行った.その後,線量当量限度等の具体的な技術基準についての審議を続け,昭和61年7月に最終的な意見具申を関係行政機関に対して行った.

日本列島

第3回近畿保健所若手医師の会総会—大阪

著者: 柳尚夫

ページ範囲:P.322 - P.322

 第3回近畿保健所若手医師の会の総会を2月25日(土)の午後に,大阪府立労働センターで行った.この会は,近畿の保健所に勤務をしたり,保健所をベースに活躍する医師や歯科医師のうち卒後20年までのものが集まり,87年1月に結成された.会員間の親睦や,意見交換を行いながら,保健所問題の研究を目的としている.
 当日は,近畿の各府県政令市の保健所に勤務する医師・歯科医師約50人が参加した.また,大阪府環境保健部と関東衛生行政研究会及び東海衛生行政研究会より来賓として参加があった.

野良猫と放火—仙台市

著者: 土屋眞

ページ範囲:P.339 - P.339

 さる昭和63年10月,野良猫に関係した放火があり,1ヵ月後には保健所に脅迫状が届く事件が発生した.警察が犯人を追っているが12月末現在,まだ解決をみていない.この仙台市北部団地の一つK地区も野良猫の増加に悩まされ,脱糞・天井への住み込み・鯉が取られる・夜中にトタン屋根を歩く・物置等で子を生む・啼き声等の被害がある.しかし苦情は意外に少なく,人間と猫の共存が我慢の限界で続いている.
 これには,子猫の可愛いさ・愛猫家が多い・知人で言えない・たたりへの恐れ・法律の弱さ・行政も手をうちにくい・捕獲等への愛護団体の抗議などが関係深い.長崎市は行政が正面から取り組まれておられるが,当市も法に基づいて何らかの指導や対策を考えるべき時がきたといわれている.ちなみに「動物の保護及び管理に関する法律」では,動物の虐待防止,動物の適正な取扱いとともに,人命・身体及び財産に対する侵害防止をうたい,避妊手術等による犬猫の繁殖制限や処分の方法を明記している.

ニュース

西独でJapanische Bibliothek—森鷗外記念館(東ベルリン)で鷗外展も

著者: 長谷川泉

ページ範囲:P.309 - P.309

 日独合作の「舞姫」の映画が本年5月に完成する(篠田正浩監督で,東・西ベルリンが協力).折から,東西ドイツで鷗外を核にした国際文化交流が盛り上がる機運にある.
 西独のInsel Verlagから本年中に4冊のJapa-nische Bibliothek(日本文庫)が出る.その中の1冊はWolfgang Schamoni教授(ハイデルベルク大学)のIm Umbauと題する鷗外短編集である.西独では既にミュンヘン及び西ベルリン(旧大使館跡を修復した日独センター)で鷗外展が開かれ,話題となった.両展を編成したのはシャモニ教授であった.

基本情報

公衆衛生

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1170

印刷版ISSN 0368-5187

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