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雑誌目次

雑誌文献

公衆衛生53巻6号

1989年06月発行

雑誌目次

特集 くすりと公衆衛生

医薬品の安全性

著者: 浜六郎

ページ範囲:P.364 - P.371

■はじめに
 医薬品が今日の医療に果たしている役割は大きい.医師は多くの薬剤を駆使することにより,患者の治療が以前よりはるかに容易に行えるようになってきた.しかし,産業や経済の急速な発展が一方で公害をもたらしたように,医薬品についてもサリドマイド,スモン,コラルジル,クロロキン,筋肉注射による筋短縮症など,日本では世界に類を見ない規模の悲惨な「薬害事件」を数多く経験した.これらの薬害事件は人類,特に私たち日本人の共有の歴史的教訓というべきものである.多くの貴い犠牲を単なる犠牲に終わらせないために,「安全性確保」のための具体的対策が必要であることがだれの目にも明らかとなった.
 「医薬はもともと人間にとって異物であって,たまたま一定の疾病の治療に役立つ性質が見いだされたに過ぎず,したがって同時に好ましくない性質や働きがこれに伴うことは避け難いことである.したがって薬害を防ぐには,①物質としてできるだけ有害である可能性の少ない医薬品の開発に努めること,②それでもなお残っている有害の可能性については,できるだけ詳しい情報が与えられること,③その情報に基づいてできるだけ安全な使い方に努めること,④それでもなお残っているかもしれない未知の危険に対して常に警戒を怠らないこと,という4段構えの布陣が必要なのである」.

大衆薬の利用の実態

著者: 藤井義澄

ページ範囲:P.372 - P.376

■大衆薬の生産状況
 ―医薬品に占める大衆薬は15%弱 医薬品には医師の使う医薬品―医療用医薬品と,いわゆる大衆薬がある.大衆薬は薬局・薬店を通じて販売される一般用医薬品と,配置用医薬品の2種類に分けられる.配置用医薬品は昔から,富山の置き薬で親しまれた薬で,富山県以外では滋賀県,奈良県,佐賀県などが主な生産県である.
 医薬品は,昭和62年には4兆8,254億円生産されている.このうち,医療用医薬品の生産が4兆1,418億円で,全体の85.8%を占めている.大衆薬は6,838億円で14.2%に過ぎない.昭和62年のわが国の人口は1億2,226万人だから,1人当たりの医薬品生産金額は39,467円である.このうち,大衆薬は5,604円である.

薬物の乱用・依存の問題点

著者: 小沼杏坪

ページ範囲:P.377 - P.382

■はじめに
 一般的にいって薬物の乱用・依存は,薬物と個体と社会環境という三つの要因が合わさって成立するとされている.薬物の乱用・依存の問題は,医学のみならず,心理学,社会学,犯罪学,さらに政治,経済,教育の領域を含め広く学際的に究明される必要がある.近年,自由主義国,社会主義国を問わず,多くの国々において,アルコールあるいは薬物の乱用者の増加が報道されており,わが国においても薬物乱用の今後の動向が心配されるところである.
 ここではわが国における現在の主要な乱用薬物である覚せい剤と有機溶剤を例にとりながら,薬物の乱用・依存の問題点について整理してみることにする.

薬剤師の業務と将来

著者: 小宮宏宣

ページ範囲:P.383 - P.386

■薬剤師の職域と業務
 薬剤師の任務は,調剤,医薬品の供給その他の薬事衛生をつかさどることによって,公衆衛生の向上及び増進に寄与し,もって国民の健康な生活を確保することにあることが薬剤師法第1条に規定されている.この規定からもわかるとおり,薬剤師の活躍している職域は広く,その業務は多様化している.昭和61年の全国の届出薬剤師総数は,135,990人(人口10万対薬剤師数は111.8人)となっているが,そのうち,病院または診療所において調剤に従事する者が25.0%,薬局の勤務者が19.4%,薬局の開設者が12.8%等となっており,薬局・医療施設に従事する者は,全体の57.8%を占めているにすぎない.薬剤師は,この他に,医薬品関係でも,製薬会社において新薬の開発,医薬品の製造品質の管理あるいは販売に係わる学術情報等の仕事に従事し,また,医薬品卸業においても医薬品の品質管理,学術情報等の仕事に従事している.さらに,臨床検査,衛生検査に従事する者,衛生行政,食品関係,化粧品,化学工業等に従事する者等がおり,その職域と業務は多岐にわたっている.
 しかし,薬剤師の主要業務は,調剤と医薬品の供給関係の業務にあり,これらの業務が医療と密接な係わり合いを持ち,薬剤師業務の中でも極めて重要なものである.

薬事監視の実際

著者: 伊藤寛

ページ範囲:P.387 - P.391

■はじめに
 最近,次々と明るみに出た抗がん剤,老人性痴呆治療薬などの偽造医薬品の流通,未承認放射性検査薬の輸入販売など,医薬品をめぐる不正事件は,一般の人々の間に医薬品に対する不安感,医薬品製造業者,販売業者に対する不信感を抱かせるという,ゆゆしい結果をもたらしてしまった.
 医薬品等の品質,有効性,安全性を確保することは,薬事法で最も要求されているはずなのに,かかる不正事件の発生は,違反者に対する措置にとどまらず,行政としても謙虚に反省し,再度このような違反が発生しないよう最善の努力をしていくことが必要である.

新しい血液事業の推進

著者: 清水勝

ページ範囲:P.392 - P.398

■はじめに
 最近の数年間に,わが国の血液事業は大きく変革しつつある.昭和39年の閣議決定による売血から献血への転換を第1次大改革とすれば,昭和60年の血液事業検討委員会の中間答申に基づく対応策は,第2次大改革といってもよいであろう.その骨子は,血漿蛋白分画製剤(以下,分画)のすべてを,献血により国内で自給自足することを国是としたということである.そして,そのための方策として,原料血漿確保量の設定,新採血基準の採用および第2次中間答申として出された血液製剤の使用適正化ガイドライン(昭和61年7月)とである.
 そこで,まずこのような方針が打ち出された歴史的背景と血液製剤の特殊性1)について略記し,次いで血液事業の最近の動向と問題点に触れながら今後の展望について述べることにしたい.

薬務行政の動向

著者: 代田久米雄

ページ範囲:P.399 - P.403

 薬務行政の基本は,優れた医薬品・医療機器等の安定的供給の確保を通じて国民の健康の向上に寄与することにある.今日,本格的な高齢化社会の到来,成人病等疾病構造の変化,バイオテクノロジー等技術革新の急速な進展,さらには国際化や規制緩和の要請など,薬務行政を取り巻く環境は大きく変化しつつあり,このような環境の中で,医薬品等に寄せられる国民の関心もますます高まっている.薬務行政においては,このような環境変化に適切に対応しつつ,各般の施策を積極的に行っていくこととしているが,その主要な点について順次述べてまいりたい.

トピックス 日本がん疫学研究会ワークショップ・レポート

喫煙対策

著者: 小川浩 ,   星旦二

ページ範囲:P.404 - P.409

◆はじめに
 日本がん疫学研究会は昭和56年に発足した,会員数約230名の組織(代表世話人青木國雄名古屋大学医学部教授)である.毎年定期的に研究会を開催し,研究成果を単行本や学術専門誌特集号として刊行しているほか,適宜ワークショップを開催している.昭和63年12月18日に,「喫煙対策」を主題に,東京,国際研究交流会館においてワークショップが開催された(世話人:小川・星).がん予防に占める喫煙対策の重要性に鑑み,喫煙抑止に関する研究と実践についての理解を深める主旨のもとに,約80名の参加を得て,表に示すプログラム内容で行われた.
 喫煙対策については,公衆衛生に従事する多くの方々が,今日何らかの形で,日常業務の中で係わりを持たれていると思われ,このワークショップの内容を紹介し,参考に供したい.

原著

脳血管疾患患者の自宅復帰に及ぼす社会生活因子の影響

著者: 中村桂子 ,   荒記俊一 ,   二木立 ,   林泰史 ,   新美まや ,   戸倉直実

ページ範囲:P.427 - P.432

●はじめに
 わが国の65歳以上の在宅または入院の"ねたきり老人"は1984年に49.5万人であり,このうち約30%は脳血管疾患が原因とされている13),特別養護老人ホームに入所中の者を含めた"ねたきり老人"総数は1985年に約60万人と推定され,今後増加して2020年には160万人から190万人になると予測されている12).これに伴い脳血管疾患に罹患した"ねたきり老人"数も増加するので,"ねたきり老人"に対するサービスシステムの整備を考えるためには,特に疾患を限って脳血管疾患患者を対象として,必要な医療・保健・福祉サービスシステムを検討することが重要である.
 高齢の脳血管疾患患者では,「安全で円満な家庭復帰」がリハビリテーション医学上の重要な目標とされており7),家庭復帰の有無は患者の社会的予後の適切な指標のひとつと考えられる.家庭復帰に関するこれまでの諸研究は,患者の退院先に注目して分析を行っている.Lehmannら14)の先駆的な研究に始まり,二木21),杉浦ら29)およびSillimanら27)により,移動能力レベル別に自宅への退院率が異なり,レベルの低い患者は自宅への退院率が低いことが示されている.二木21)および筆者ら17)は,自宅への退院率が最も低い「全介助」を要する患者が自宅へ退院するためには,日中介護者1人の他に補助的介護者が必要であることを示した.

地域リハビリテーションと機能訓練事業

機能訓練事業への市町村の取り組み

著者: 大原啓志

ページ範囲:P.415 - P.418

■はじめに
 地域におけるリハビリテーション(以下,地域リハ)は,老人保健法(以下,老健法)の施行に伴い,機能訓練として市町村の実施すべき事業となったが,それ以前から取り組まれた例があり,1971年以降は在宅老人機能回復訓練事業や老人保健医療総合対策開発事業としての推進も図られていた.高知県では,1960年代後半から地域リハが取り組まれていたが,老健法施行当時の地域リハの実施状況には,訓練内容,スタッフなどで市町村間の差が大きかった.その背景には,老健法以前に各市町村がスタッフ,財源,地理的条件,対象障害者の特性などとも関連して,それぞれ独自な工夫のもとに事業を発展させていたことがある.しかし,その差は,実施方法上の問題だけでなく,事業が始められた契機・動機とも併せて,地域リハの意義の理解や位置づけにおいても認められた.すなわち,機能訓練事業の効果的な実施には,事業実施方法に関するガイドラインだけでなく,その意義を明確にした事業の位置づけ,及びそのための実施態勢のあり方を検討する必要があると考えられた.
 そこで,高知県ではプロジェクトチームを編成し,1984年から86年にかけて調査活動と討議を行い,提言をまとめた.筆者はその一員として参加したが,本稿では筆者の理解した地域リハのあり方と実施上の課題を,老健法以前に取り組まれた市町村の地域リハの実態から得た所見を中心に述べてみたい.

明日の地方衛生研究所

社会防衛と個人防衛の接点

著者: 井上博雄

ページ範囲:P.410 - P.414

■はじめに
 昭和23年の厚生省3局長通達に基づいて設置されて以来,地方衛生研究所(以下,地研)はそれぞれの時代の要請に応じた役割を果たしてきた.象徴的に見れば,戦後の混乱による伝染病流行とその後の復興と発展による高度経済成長に伴う環境汚染の時代を経験し,公衆衛生行政の科学的技術的中核としての責務を果たしてきた.つまり,現実的認識に基づいた時代的,社会的要請が即,地研活動のモチベーションとなり得た時代であり,その対象は主として環境要因,および病原要因の分野に絞られていた.その結果として,地研は細菌,ウイルスなどの病原微生物,臨床病理,環境衛生,食品衛生,および薬事衛生に渡る幅広い分野での分析能力を備えてきた.
 さて,わが国も世界有数の経済大国,長寿国となった現在,保健医療をめぐる環境の変化に伴い,新たな課題が生じてきた.まず,人口構造の高齢化,それに伴う疾病構造の変化,バイオテクノロジーなどの研究技術革新,国際化など,新たに派生した課題に対応すべく保健医療の変革が求められ,現在,保健医療政策の大きな底流として,「国民健康づくり」政策が進行している.その中では,高齢化と誕生以来の長いライフスタイルの過程で生じる成人病がクローズアップされ,「病気と共生する健康」つまり一病息災の健康概念が提唱され,さらに国民一人一人が自らの健康づくり,健康増進を自覚する重要性が説かれている.

保健所活動の新しい展開

食品衛生監視指導のあり方

著者: 山羽俊吾

ページ範囲:P.419 - P.421

◇はじめに
 食品が人間の生命活動にとって必要不可欠なものであることは言うまでもない.近年のわが国における食品事情は一時代に見られた"量の確保"から,"質の確保",すなわち「よりおいしく,楽しく,豊かで,しかも健康で,安全な食の確保」へと大きく変化している.
 このような状況のなか,コピー食品,健康志向食品,輸入食品の増加等,食品は非常に多様化してきている.さらに,店舗のチェーン化,セントラルキッチン・カミサリーシステムの増大,バイオテクノロジーの利用等,食品業界も大きく変革してきている.

事例からみる保健相談

退院後の生活問題—地域の機関との連携による援助

著者: 梶原道子

ページ範囲:P.422 - P.423

 突然の発病で労働不能となった心疾患患者,喉頭摘出した高齢単身患者の2事例を通して,退院後の生活を安定させるためには,地域の機関との連携による援助がいかに必要であるかについて述べたい.

発言あり 地球とオゾン

文明社会への警告と自戒をこめて,他

著者: 佐野晴洋

ページ範囲:P.361 - P.363

 科学技術の進歩によって,我々は大変便利で豊かな社会に暮らしている.例えば,冷蔵庫,ルームクーラー,ヘアースプレー.ソファー,ドライクリーニング,消火器など広く庶民生活の中に浸透している.それぞれの機器に入っている冷媒,噴射剤,発泡剤,洗浄剤,消火剤などの主成分は塩素またはブロームを含むフッ素炭化水素類でフロン化合物やハロン化合物と呼ばれる.ともに人体に無害,引火爆発の危険もなく,極めて安定な化学物質で全世界的に大量に使用されている.
 ところが全く厄介な問題が起こり始めたのである.フロン類は揮発性が高いため容易に大気中に放出され地球の対流圏(地上から20km以内)ではほとんど分解されずそのまま成層圏に達し,そこで太陽からの紫外線により分解し,フロンに含まれる塩素原子が放出される.塩素原子1個が成層圏にあるオゾン層(地上20〜40km,特に25km付近で最も濃度が高い)のオゾン10000個を連鎖反応的に破壊し,その結果として地表に到達する有害な紫外線量が増加し(オゾン濃度が1%減少すると,地表に達する紫外線量は平均2%増加する),人の皮膚がんの発生率を高め,動植物の生態系にも大きな影響を与える.

公衆衛生人国記

鹿児島県—明治維新の後遺症が残る風土

著者: 脇阪一郎

ページ範囲:P.424 - P.426

はじめに
 本誌の名称が「公衆衛生」だからといって,公衆衛生学の教授なら誰もが地域医療や公衆衛生行政に貢献した人々の紹介が出来るとは限らない.筆者が大学医学部の公衆衛生学教室の無給研究生であった頃,「公衆衛生学の教授は公衆衛生を全く知らなくても,日本の公衆衛生の進歩にとっては何の支障もない」と厚生省の高級官僚が,本音ともいえる内輪話をしていたのを聞いた記憶がある.なるほど,大学に公衆衛生学講座が開設されるずっと以前から,公衆衛生行政は存在していたのである.そう考えると,筆者が公衆衛生のことについては全くの素人であるがゆえにこの執筆を依頼されたことになり,ましてや筆者が鹿児島県入でないことを思えば,進んで筆をとる気になれないのが偽らざる心情である.甚だ不本意ながら,筆者自身の偏見に満ちた人国記を紹介する誤ちを犯すことになろうが,まずもってこの点を許して頂かねばなるまい.

衛生施策の動向・都道府県 愛知県

県民いきいき健康づくり事業

著者: 林正憲

ページ範囲:P.433 - P.433

 愛知県の「県民いきいき健康づくり事業」は,疾病の予防とより積極的な健康増進を目指している.指導対象は,高齢になる前の世代を中心としており,生活全般を直視し,幅広い観点から支援している.健康づくり事業の体系については,①知識普及のためのキャンペーン事業,②運動・栄養指導を中心とした実践活動指導援助事業,③健康づくり指導者教育や支援団体の強化を図った基盤整備事業を柱とし,日常生活における運動不足を解消するための「動きづくり」を主眼に展開されている.
 特に指導の基本は,運動面を重視し,安全性,有効性,容易性を配慮しつつ,健康チェックに基づく指導区分により,3種目の体力チェックを実施し,各人の健康や体力の状態に応じた運動処方(運動プログラム)を提示している.この他,楽しみながら無理なく続けられるような県製作のエアロビック体操などを適宜導入し,広く県民への浸透を図っている.

保健行政スコープ

「電離放射線障害防止規則」の改正について—その(2)

著者: 労働省労働基準局安全衛生部労働衛生課

ページ範囲:P.434 - P.435

●改正の概要(つづき)
 6.喫煙等の禁止の規定の新設
 放射性物質取扱作業室などの放射性物質を経口摂取または吸入摂取するおそれのある区域内における,喫煙・飲食の禁止とその旨を明示することが新たに規定された.

日本列島

ふるさと食品対策—岐阜

著者: 井口恒男

ページ範囲:P.414 - P.414

 一村一品運動をはじめとした地域の掘り起こし,活性化の対策が全国各地で進められているようであり,岐阜県においても,1988年の「ぎふ中部未来博」を契機に,「ふるさと特産食品」がクローズアップされている.しかしながら,このふるさと食品も利用者の健康の保持増進に寄与するためには,必要な条件を満たさねばならない.
 1988年は岐阜県内で,既述の未来博の他,高山市において「飛騨高山食と緑の博覧会」も開催され,ふるさと食品の売り込みも一段と強化された.

基本情報

公衆衛生

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1170

印刷版ISSN 0368-5187

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