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雑誌目次

雑誌文献

公衆衛生53巻9号

1989年09月発行

雑誌目次

特集 地域医師会の新たな実践と展望 インタビュー

21世紀に向けた地域医師会への期待

著者: 大谷藤郎 ,   多田羅浩三

ページ範囲:P.584 - P.588

 多田羅 今日は,これからの医師会の地域公衆衛生活動の展望と期待などにつきまして,大谷先生にお聞きしていきたいと思っています.まずはじめに,これからの医師会活動の展望のなかで,いわゆる家庭医構想というものが,医師会への期待として出てきていると思われます.家庭医というものの理念というか,考え方というものを,何とかふくらませていくようにお話しをうかがいたいと思っているのですが….

第一線医療における公衆衛生活動の実践

脳卒中登録の成果

著者: 丸山正義

ページ範囲:P.589 - P.593

■はじめに
 標題に「登録」とあるが,本県の場合は厳密には登録とは言えず,「発症調査」であるのでこの点あらかじめお許しを頂きたい.
 新潟県は人口約250万,医師数は10万対130.6で全国第36位,医療機関数は診療所が約1,570でやや全国より少なく,病院数は118で全国平均の約半分である.老年人口比率は14.0%で老齢化が進んでおり,地域によっては最高25.9%という地域もある老齢県である.

大阪府がん登録の成果

著者: 杉本宗雄

ページ範囲:P.594 - P.598

 昭和37年12月,大阪府医師会は大阪府衛生部(現環境保健部)の依託をうけ,大阪府立成人病センターの協力を得て,大阪府全域を対象とするがん登録を開始した1).その後4半世紀を越える間,会員各位,関係部局の絶えざる協力・援助を得て多くの成果を上げ,国内のみならず,国外からも注目されるに至っている.
 本報告では,開始当初の状況,その後の発展,現在までの成果の概要,今後の方向に分けて述べる.

老人保健事業の取り組みの成果と課題

著者: 黒川彰

ページ範囲:P.599 - P.603

 志太医師会は静岡県の中部に位置する藤技市,大井川町,岡部町の1市2町より成る医師会で,現在A会員64名,A'会員2名,B会員28名にて構成されている.
 昭和58年2月,老人保健法の施行に伴い厚生省では,40歳からの健康診査を中心とした保健事業・第一次5カ年計画を,さらに,昭和62年4月より第二次5カ年計画を策定し,保健事業の長期的目標として,がん,心臓病,脳卒中等成人病に関して,壮年期からの健康管理に重点を置いた対策を強化することを通じて,国民の健康水準の向上を図ることを掲げている.当医師会が早くから,保健医療関係者からの注目を集めているのは,一般健康診査ならびに基本健康診査の受診率が,厚生省の掲げている50%をはるかに越える値(74%)を維持しているためと思われる.

学校保健の推進—学校心臓検診について

著者: 藤原弘

ページ範囲:P.604 - P.606

 岡山県が学校心臓検診の近代化に踏み切ったのは昭和47年であるが,当初,県医師会と県教育委員会とでたびたび協議した結果,特別なモデル地区を設置して順次に拡充する方法によらないで,最初から,全県の小学・中学・高校生を対象にして同時に発足させる方針をまず決定した.その後15年以上を経過するが,この方針は現在に至るまで一貫して維持されており,県全体を対象にした心臓検診の近代化に大きく寄与したものと考えている.以下,検診と事後管理のシステム化のために取り組んだ主な事項について,年代を追って報告する.
 ①昭和47年,県下統一の学校心臓検診問診票を作成し,1枚で小学1年から中学3年まで使用できるように工夫した.

大腸がん検診

著者: 玉城晴孝

ページ範囲:P.607 - P.610

■はじめに
 今日,地域医療を担う実地医家が直面している重要課題の一つは,プライマリ・ケア全般にわたって,その推進的役割を果たすことであろう.しかし,残念ながら,病院・診療所等の施設内医療に長く身を置き,受身的医療と出来高払い制医療に慣れ親しんで来た実地医家にとって,評価しにくい総括的医療の中心的役割を積極的に果たすべきであるとの自覚を医師自らが持ち,これを実践することはなかなか容易ではない.ましてや,第一線医療を担う開業医が減少し高齢化する中で,若手医師の多くが大病院を指向し(開業医の相対的低下),プライマリ・ケアの実践よりも"cure"のための医学・医療の専門的知識の吸収や,医療技術の修得,最先端医療の研究に関心を寄せている現状では,地域住民の肉体的,精神的,社会的福祉を包括した全人間的生涯(アルマ・アタ宣言)を全うしたいとの希求と権利に開業医集団が応え,これに貢献することは非常に困難と思われる.事実,私達も地域においてがん予防のための集団検診事業を実践することには非常な不安を覚えた.しかし,昭和60年以降,連続して大阪のがんによる死亡率が男女とも第1位であるだけでなく,検診受診率も低いという,冷酷な事実に直面する時,正直いって大阪に生活する医師として,一種の危機感を覚えずにはいられない.

老人の在宅ケアと地域ケア

著者: 大輪次郎

ページ範囲:P.611 - P.615

■はじめに
 人口構造の急速な高齢化と共に,新しい社会システムの再構築が要求され,医療保健活動の場でも数多くの変革が行われようとしている.
 愛知県医師会では,昭和51年以降,地域医療システムの調査研究を進め,地域包括保健医療福祉のシステム化を提唱している.そして,①地域住民の健康保持増進のための健康管理,②疾病の早期発見・早期治療,③二次・三次病院での高度医療,④社会復帰のためのリハビリテーション,⑤高齢者,社会的弱者に対する福祉対策(在宅療養,施設療養,入院療養)を,住民のすべてが地域で一貫して受けられることを目標としている.

これからの地域医師会の役割と展望

著者: 渋谷一誠

ページ範囲:P.616 - P.619

■はじめに
 今日,日本の医療制度は大きな曲がり角にあるといわれている.
 近代日本の医療制度は,明治初年に欧州医療を受け入れ発足後,敗戦による米国医療制度の導入によって大きく変革,昭和36年の国民皆保険制度採用以降,高度医療が急速に普及したこともあって保険財政を圧迫,健康保険制度並びに診療報酬の取り扱いをめぐる闘争を繰り返してきたが,昭和58年;老人保健法制定,59年;健康保険法改正,60年;第一次医療法改正(地域医療計画策定),61年;老人医療法改正,62年;国民医療総合対策本部中間報告が出され,平成2年には医療法,老健法,健保法,国保法の改正が予定されるなど,新たな展開を迎えている.

地域医師会の新たな公衆衛生活動への期待

著者: 佐栁進

ページ範囲:P.620 - P.624

■はじめに
 医学医療の高度化,専門分化の流れの中で,医師の専門医志向と患者の大病院指向が始まった.それにつれ,国民の医療の場から,地域医師会によって代表される開業医の影が,なんとなく薄くなってきているように思われてならない.かつて開業医は,地域に密着してその医療体制を全面的に支えるとともに,地域の名士としても大きな影響力と責任を持っていた.住民は医療に関係する問題だけにとどまらず,何かことあれば,自らの「かかりつけ医」に相談を持ち込むことも多かった.しかし,今は必ずしも地域住民の多くが,そういったことを開業医に期待していないのが実情ではないだろうか.
 無論,開業医をめぐるこの信頼性低下の趨勢を,必然的なものとして肯定してしまうことが,ここでのテーマではない.むしろ,開業医等が地域の中で「頼れる医師」として復活することこそがテーマである.地域医師会によって代表される開業医等が,地域の保健医療活動の要として再生することは,今後一層深刻となる老人への保健・医療・福祉サービスの実効性からしても,保健医療資源の有効利用という観点からしても,これからのわが国の保健医療の推進にとって必須の要件であるように思われる.

シンポジウム

高齢化社会における保健・医療・福祉の連携を考える—長崎県厳原町

著者: 戸川幸子 ,   高以良佳子 ,   藤井誠 ,   一宮幹 ,   伊藤新一郎

ページ範囲:P.625 - P.631

 高齢化社会では保健・医療・福祉の連携のもとに地域全体での活動が推進されねばならない.長崎県厳原町では,昨年,離島医療圏組合厳原病院が新築移転(病院名を対馬いづはら病院と改称),町の行政の保健活動と医療との連携強化を図ることを目的に,町の健康管理センターが病院に併設された.先般,同町では町レベルで高齢化社会での取り組みを本格化するために,「高齢者問題を皆で考えてみる」ことを目的に,地域住民や民生委員・食生活改善推進員などの参加を得て,保健・医療・福祉の関係者によるシンポジウムが開催された.

海外事情

アメリカ合衆国エイズキャンペーン—America Responds to AIDS

著者: 宮崎元伸

ページ範囲:P.647 - P.649

●はじめに
 "America Responds to AIDS"(ARA)は,アメリカ合衆国Department of Health and Human ServiceがPublic Health ServiceとCenters for Disease Control(以下,CDC)を通じて実施するエイズキャンペーンである.このARAキャンペーンは,合衆国での最大かつ最も理解しやすいエイズの情報と教育のプログラムとして,1987年9月30日にスタートした.このキャンペーンの特徴のひとつは,テレビやラジオによる放送,広告さらにはポスター掲示などからなるマルチ・メディアを利用したことであり,テレビによるキャンペーンでは耳の不自由な人のために字幕を付けたり,地方では人の集まるところでビデオを流したり等も行っている.技術援助としては,CDCが州や地方のエイズプログラムの担当者に,効果的なプログラムの計画や実施方法について直接指導を行っており,その内容はメディア関係のガイドライン,プログラムの計画と発展方法,イベントプランニング,中央に集まっている情報の利用方法などである.

進展する地域医師会の公衆衛生活動

郡山医師会の公衆衛生活動(3)—産業保健への取り組み

著者: 丹治芳男 ,   菊池辰夫 ,   原寿夫 ,   相崎雄二

ページ範囲:P.632 - P.633

■産業保健の活性化が求められる東北地方
 相崎 郡山医師会が産業医小委員会を組織したのは昭和54年度です.当時の福島県を含めた東北地方全体の産業構造は,大企業がほとんどなく中小企業,特に小零細企業という地域的特性がありました.周知のように労働安全衛生法では,49人以下の従業員の事業所では産業医を置く必要もないし,労働衛生関連の事項については届け出義務がありません.
 そのために東北地方全般で,産業医活動がどちらかといえば行政も含めて,医師会での産業医活動もおざなりにされてきたといえます.福島県でも同様です.県内では浜通りと呼ばれているいわき市を中心にした太平洋側は,かつての炭鉱地帯でけい肺の問題や現在では合成化学のメッカで有機溶剤の問題などがあり,そこへの産業医活動が求められ,産業保健活動に対する事業主ニーズがあります.これらのニーズから地域医師会での産業医活動のかかわりが始まっています.

地域リハビリテーションと機能訓練事業

沼隈町の機能訓練事業

著者: 森下浩子

ページ範囲:P.634 - P.636

■やってみれば出来るもの
 一体,医師も理学療法士(P.T)もいない小さな田舎町の福祉会館のようなところで,機能訓練などどんなにして出来るのだろう,誰に誰が何をしたらよいのだろうと,赴任間もない私が考えている暇もなく,"出来たばかりの会館は機能訓練をするのが目的"と強制的に素人の課長に強迫され,ドタバタと動かされて始まったのが当町の機能訓練事業である.昭和57年6月の最後の木曜日だった.
 町へ来て3カ月しかたっていなかった.

保健所活動の新しい展開

薬事監視業務を中心に

著者: 荒谷哲雄

ページ範囲:P.637 - P.639

◇はじめに
 保健所は医薬品流通の末端である薬局・医薬品販売業者や医療機関から,医薬品が消費者に適正に販売または授与が行われているかを監視指導することにより,医薬品の品質,有効性および安全性の確保を図っている.また,衛生教育の一環として,消費者が医薬品を正しく使うための啓蒙普及活動を展開している.さらに,毒物劇物による危害を防止するため,営業者に対する監視指導も行っている.この保健所における薬事行政の実際を振り返り,今後求められる課題について私見を交え述べる.

事例からみる保健相談

障害を疑われる児と母への援助

著者: 森合真由美

ページ範囲:P.640 - P.641

1.事例紹介
 本事例は,両親の離婚により,本児(2歳10カ月,男)と姉(6歳)が,母親とともに本町の母親の実家に転居してきた.役場戸籍係に手続きのため来所の際,本児の言葉の遅れについて,母親より相談依頼があり,初回面接をする.
 母親の実家は兄が他市に所帯を持っており,母親の両親のみが農業を営んでいる.

統計のページ

病気の姿をデータで読む(3)—感染症と戦後の総死亡

著者: 倉科周介

ページ範囲:P.644 - P.646

 抗生物質の登場は,医療の需給構造を一変させた.
 それまでは,純然たる細菌感染症はもちろんのこと,一応は,細菌感染を主病像としない疾患でも,感染が予後を大きく左右していた.その脅威が一朝にして雲散霧消したのである.その結果,初期死と前期途中死が激減し,逆に終末死が増加するに至った経過は前回説明した.早い話が,細菌感染症では人は死ななくなったように見える.だが,感染症というものは,十把一括げにして忘れてしまってよい問題では決してない.それについては,別に触れる機会もあろう.ここでは本論に入る前に,抗生物質登場による疾病像の変貌を象徴する感染症の衰退について,手短かに触れておく.

発言あり シングルライフ

経済力と自活力をもった一人の人間として,他

著者: 荻野澄子

ページ範囲:P.581 - P.583

 ニューヨークから戻った友人に久しぶりに出会った.外資系企業に勤める彼女にとって仕事の評価は厳しいが,能力について男女差別されることなく評価されるのでやりがいがあると,目を輝やかして向こうでの職業生活について話してくれた.しかしと彼女は言う.日本に居ると,否が応でも女であるということを意識させられ,また「結婚しているの? どうして結婚しないの?」という問いかけにうっとおしく,窮屈でしようがないと訴えた.
 日本では,結婚して子どもを育てて1人前というノーマル信仰があるため,ある時期以降は,独身生活は"シングルライフ"という,ハイカラな言葉が流行してきてはいるものの,まだ市民権を得にくい状況にある.その一番の犠牲者は,戦中・戦後の混乱のなかで,独身を余儀なくされてきた女性たちではなかろうか.結婚の時期に相手となる男性は戦争に行き,また動員された兄弟の代わりに一家の大黒柱として,家を親を支えてきた独身女性たち.平和で豊かになってきて,自分の身を振り返る余裕ができた今,ひとりで老後を迎えるに至っているが,その過程で,幾多の偏見に遭遇し困惑したかなど,いろいろな手記にとどめられているが,ひとり暮らし女性の戦後史として忘れてはならないのではないだろうか.

公衆衛生人国記

山口県

著者: 上部和彦

ページ範囲:P.642 - P.643

はじめに
 維新の英傑大村益次郎は,いわゆる洋医を学んだ山口県人であるが,公衆衛生はもとより,医師としての活動は少なかったようで,もっぱら軍事面でその名をはせたようである.
 その後医療面で活躍した人達は,主として医師を中心に数多く輩出しているが,いわゆる公衆衛生としての活動は,浅学にして承知していない.

保健行政スコープ

糖尿病の総合対策

著者: 杉原弘晃

ページ範囲:P.650 - P.651

●はじめに
 現在,わが国における糖尿病患者は200万人を越えると推定され,今後も増加が予想されている(図).WHOにおいても,糖尿病はあらゆる発展段階にある人間社会に共通した重大なPublic health problemとして,その対策を各国に勧告している.
 糖尿病は全身に生じる合併症のために,患者さんのQuality of lifeを著しく損なう疾患であり,社会的損失も多大である.ちなみに,成人における失明の主因が糖尿病性網膜症であり,新規の人工透析導入患者のうち約4分の1は糖尿病性腎症である.

日本列島

コレラの散発—岐阜

著者: 井口恒男

ページ範囲:P.624 - P.624

 昭和50年代より,東南アジア等の汚染地域からの海外渡航者を中心とした,コレラ患者の発生が全国的にみられる状況となっており,岐阜県でも過去数名の海外渡航者から患者の発生もみられているが,昭和63年10月から平成元年6月にわたって,海外渡航未経験者からの発生例が3件みられており,コレラも今や常在伝染病となったかの疑問を感ずる.
 昭和63年10月の例は,関市内の70歳代の男性が,10月中旬数日間の下痢症状や嘔吐を訴え,医療機関へ入院し,検便により判明したものであり,その後,家族の小学生1名からも菌が検出されたものである.

基本情報

公衆衛生

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1170

印刷版ISSN 0368-5187

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