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雑誌目次

雑誌文献

公衆衛生54巻1号

1990年01月発行

雑誌目次

特集 健康づくりへのさらなる挑戦

健康づくり計画の今日的意義

著者: 橋本正己

ページ範囲:P.4 - P.8

■はじめに
 1960年代以降のわが国の寿命の伸長と乳児死亡率の低下は,WHO等の国際会議の場でしばしば‘miracle’と評せられているが,これはとりも直さず世界に類のないテンポでの高齢社会化を示していることは周知のとおりである.近年,各方面のさまざまな調査が示すように,今日国民の最大の関心事は健康問題であり,一人ひとりの‘Quality of Life’は,国民各自が自ら創り出す健康の質によって,大きく左右されるようになったことが分かる.
 戦後40余年,1医学徒としてひたすら公衆衛生の道を歩き続けた者としては,誠に深い感慨を覚えると共に,わが国の公衆衛生が,かつて経験のない新たな発展の段階を迎えていることを痛感する.求められた主題は標記のとおりであるが,この特集で紹介される十指に近いユニークな,市町村,府県からの貴重な事例の報告の背景として,公衆衛生・医療,および社会福祉の歴史的な経緯と今日の動向を巨視的に考察して,ご参考に供したいと思う.

越前町における保健計画—福井県越前町

著者: 佐々木修

ページ範囲:P.9 - P.13

■はじめに
 近年わが国の社会環境は食生活の充実,医療技術の向上,社会福祉の充実,疾病構造の変化等,かつてないほどの変化を遂げ,その結果平均寿命が著しく伸び,世界でも屈指の長寿大国となった.
 これら社会環境の変化は当越前町においても顕著に現れ,老人人口構成率を16%台に押し上げると共に,産業形態をも漁業中心からサービス業中心へと変化させた.その結果,若年労働力が町外へ流出し,昼間人口の減少が顕著になってきており,当町でもこの状況を踏まえた保健事業の施策の展開が課題となってきた.

健康なまちづくり事業—香川県善通寺市

著者: 平尾勘市

ページ範囲:P.14 - P.17

■はじめに
 善通寺市は,香川県の西北部の内陸に位置し,南は金刀比羅宮の琴平町に北は瀬戸内臨海工業地帯に隣接し,東西8.9km,南北7.96km,総面積は39.88km2である.
 弘法大師生誕地の総本山「善通寺」の門前町として,また戦前は旧陸軍第11師団の所在地であり,軍都として栄えてきた.

21世紀「まち・ひと・ゆめ」ライフプラザ計画—大阪府箕面市

著者: 中井武兵衛

ページ範囲:P.18 - P.21

■はじめに
 箕面市は大阪府の西北部に位置し,面積48.35km2,人口119,620人の文教住宅都市であり,住民の所得水準は高い.
 また,下水道の普及率が97.8%であることでも明らかなように,都市基盤の整備はほぼ完了している.こうしたことから,本市では21世紀を展望した「第三次箕面市総合計画」を基調とした市政運営,すなわち,新しい感性と発想をもって目標達成型から目標創造型の市政運営を行うべく,全市民のコンセンサスを得ながら,高齢化・国際化・高度情報化に備えた「市民が主役の,市民が育てる,活力あふれる生活創造・快適環境都市みのお」を創造することを目指している.

総合福祉ゾーン「しあわせの村」—神戸市

著者: 高橋信雄

ページ範囲:P.22 - P.26

■はじめに
 構想から約20年の歳月を経て,総合福祉ゾーン「しあわせの村」は新しい福祉都市づくりの拠点として,また神戸市制100周年記念事業のひとつとして開村した.
 「しあわせの村」は,宮崎前市長が命名したもので,高齢者や障害老などハンディキャップのある人が健常者と一緒になって暮らしていける社会,いわゆる「ともに生きる」社会をめざすためのモデルとして,また宮崎前市長の“福祉とはこうあるべきだ”との信念に基づき整備されたものである.

「あいち健康の森」構想—愛知県

著者: 小林英治

ページ範囲:P.27 - P.30

■健康と長寿の総合拠点施設
 いま,愛知県では人生80年を「心身ともに健やかに充実して生きる」ことができる地域社会づくりをめざして,「あいち健康の森(仮称)」の建設計画を進めている.
 緑ゆたかなテーマ公園として,「人生80年をより健康に生きるための研究と学習の森」,「心身の健康を高め地域ケアをすすめるリフレッシュと交流の森」をつくろうというもので,研究者にも,実務家にも,ボランティアや一般の人々にも,そして,実年・老年世代とともに子供たちや若者たちにも喜んでいただけるものにしたいと考えている.

健康科学センター構想—茨城県

著者: 大和愼一

ページ範囲:P.31 - P.35

■はじめに
 茨城県は首都圏の北部に位置し,県南部では首都圏への通勤圏として人口が急増しつつあるが,県北部は農林業を主とし,高齢化が急速に進行している.65歳以上人口比率は,県全体では11.8%であるのに対し,県北の6町村では,すでに20%を超えている.
 県南部には筑波研究学園都市を中心として最先端の科学技術の集積があり,一方では広大な平地を有して,農業粗生産額は全国第2位である.このように二面性を持っていることが茨城県の特徴である.

ふるさと21 健康長寿のまちづくり事業

著者: 神田裕二

ページ範囲:P.36 - P.39

■「ふるさと21 健康長寿のまちづくり事業」の背景
 厚生省は,平成元年度から「ふるさと21健康長寿のまちづくり事業」を開始した.具体的には,市町村等が高齢化に対応するまちづくりの基本計画を策定することに対して補助を行うとともに,民間事業者が保健・福祉サービスを総合的に提供する一定の施設を整備する場合に,NTTの無利子融資や税制上の優遇等の支援を行う「民間事業者による老後の保健及び福祉のための総合的施設の整備の促進に関する法律」を制定し,健康・福祉をテーマとするまちづくりに乗り出している.その背景としては次のような事情が挙げられる.

総説

食品の放射能汚染を考える

著者: 滝澤行雄

ページ範囲:P.40 - P.49

 ソ連チェルノブイリ原発事故に係わる食品の放射能汚染は,わが国で当初考えられていた予想を超え,輸入食品を介した体内被曝によるリスクの有無が,事故から3年を経過した今なお,国民のあいだで不安につつまれている.そこで,食品保健の立場から,原発事故に起因する食品の放射能汚染の実態を整理し,推算される実効線量当量をもとに,食生活の安全性について考察し,参考に供する.

研究ノート

症例対照研究の手法による子宮がん検診の有効性の評価

著者: 祖父江友孝 ,   鈴木隆一郎 ,   橋本澄代 ,   横井信子 ,   藤本伊三郎

ページ範囲:P.64 - P.66

●子宮がん検診の有効性の評価
 がん検診の有効性は,一般的には,受診者における死亡率減少によってのみ確認できる.したがって,「子宮がん検診が有効である」ことを示すには,「子宮がん検診受診者における子宮がん死亡率が非受診者に比べて低い」ことを示さねばならない.ただし,子宮がん検診においては,検診により非常に早期のがん(上皮内癌)が発見可能であり,かつ,これを切除することにより浸潤がんへの進展,さらには子宮がん死亡を予防しうることがすでに立証されている.したがって,子宮がんの場合は,その有効性を浸潤がん罹患率の減少という観点からも観察できる.すなわち,「子宮がん検診受診者における子宮の浸潤がん罹患率が,非受診者に比べて減少する」ことを示すことによっても,子宮がん検診の有効性を示すことが可能である.
 こうした死亡率,罹患率の減少を最も客観的に示しうるのは,無作為対照比較試験(randomized controlled trial)である.すなわち,一定集団を無作為に検診群と対照群とに分けて,両群における死亡率,または罹患率を比較する方法である.

北海道の老人医療費に影響を及ぼす要因

著者: 田中宏之 ,   妹尾秀雄 ,   森昭久 ,   福山裕三

ページ範囲:P.67 - P.70

 北海道は1人当たり老人医療費が全国で最も高く,昭和61年度は全国平均の1.48倍であり1),なかでも1人当たり入院診療費は同年度全国平均の1.74倍に及んでいる2)
 今回私たちは,北海道の老人医療費が高額になる背景を受診者サイドから明らかにするため,特に入院に焦点を当て,どのような老人が入院しているか,またその場合の入院医療費がどのようになっているかを調べることにした.

インタビュー

弥栄町の保健活動への取り組み

著者: 藤村操

ページ範囲:P.50 - P.52

 弥栄町は京都府の北部,丹後半島の中央部に位置する.日本三景で有名な天の橋立のある宮津市に隣接し,四方を山に囲まれた田園地帯である.昭和38年以降,人口は減少してきたが,福祉施策と地域産業の振興策に行政の力点をおいた結果,人口の流出に歯止めがかかり,現在の人口は6,500人.町の産業は丹後米や丹後ちりめんの産地として知られるように,農業および織物業である.
 弥栄町の「健康づくり」については,その一端をすでに52巻7号で紹介したが,今回は町の行政のトップがどのような指向で施策をしてきたかを,藤村助役にうかがった.

進展する地域医師会の公衆衛生活動

小田原医師会の活動(3)—地域リハビリテーションと救急医療のシステム化

著者: 鈴木重光 ,   山口肇久 ,   遠藤郁夫

ページ範囲:P.54 - P.55

■地域リハビリテーションの検討
 山口 これからの小田原医師会の事業の中で重要な課題のひとつとして地域リハビリテーションの課題があります.
 神奈川県では,医学的リハビリテーションについて,地域でどのような取り組みをしたらよいのか,そのシステムについて検討を進めていたのですが,89年の2月に神奈川県医学的リハビリテーションシステム検討委員会地域部会が報告書をまとめました.そこで,この報告書に基づいて,地域の第一線の医療機関として,どのような対応が可能なのかを具体的に検討することになりました.このモデル地域として本年度から,小田原医師会が足柄上医師会とともに検討および実験を行うことになりました.足柄上医師会はすでに在宅ケアのモデル事業を行っていますが,それに関連する事業を行うことになったのです.

保健婦活動—こころに残るこの1例

片麻痺を抱え地域に生きる

著者: 小野郁代

ページ範囲:P.53 - P.53

 松阪保健所では,昭和51年度より,脳卒中後遺症者在宅リハビリテーション活動に取り組んでいる.「寝たきり」予防のために,患者を早期に把握し,訪問等による在宅ケアを円滑に行うため,地域の関係機関と連携をとり,右図のような体制を整えてきた.孤立しがちな患者を支えるため,「希望の会」(管内全域の患者家族会)の開催,「市町村単位のグループ」の育成,患者の手記等を登載した「リハビリ鈴だより」の発行等,患者同士の交流に努めている.本例はその中で「障害を持ちながら,地域でどう生きていくのか」という点を考えながら支援してきた1例である.

統計のページ

病気の姿をデータで読む(7)—肝硬変と肝癌—成長の代償

著者: 倉科周介

ページ範囲:P.60 - P.63

 肝硬変は肝疾患の終着駅である.念の入ったことに,近ごろでは肝癌行きの引込線まであると取り沙汰されている.肝硬変が死因順位の第10位に登場したのは1968年,以後,1972年に9位,1979年には8位と着実に地歩を固めて今日に及ぶ.原因疾患の大半はウイルス肝炎とアルコール性肝障害で,日本では前者が80%を占めるという.男子が圧倒的で,年齢的には壮年後期,つまり後期途中死が多い.こうした“早すぎる死”の多発には,社会環境や生活環境の特性が,大きく関与すると思われる.戦後のわが国は,経済の高度成長によって混乱と窮乏からの劇的な離脱に成功した.その途上における社会構造のさまざまな矛盾撞着が,成員の健康に有形無形の影響を及ぼしたことは想像に難くない.それを念頭におきながら,肝硬変とその後続病変ともいわれる肝癌の動向を眺めることにする.

保健所機能の新たな展開—模策する保健所

埼玉県

著者: 磯部光彦

ページ範囲:P.56 - P.57

〔はじめに〕
 保健所のあり方が問われて久しい.
 さまざまな機会を通して,検討がなされているが,検討の内容で共通していることは,保健所を地域における公衆衛生活動の専門的中心機関として位置づけ,その上で保健所の専門性を確認し,保有する機能をいかに発揮させるかにポイントを置いている点にある.

発言あり

90年代の公衆衛生—特別区保健所の立場から,他

著者: 栗原久子

ページ範囲:P.1 - P.3

 今回,わざわざ「90年代の公衆衛生」という年代をことわったテーマを戴き,図らずも,21世紀への足掛かりの10年である90年代を,改めて展望してみるチャンスとなった.そしてこの時代が,新たな公衆衛生の基盤を形成していく大転換期となり,重要な時代になることを再認識した次第である.
 それは今日,すでに21世紀における高齢化,情報化,国際化,地球環境等の社会問題が見えており,あらゆる分野において,その対応への戦略が練られている.公衆衛生の分野においても例外ではなく,なかでも,最前線の保健所活動の在り方がきびしく問われており,おそらく,保健所設置以来の再出発となるであろうし,公衆衛生史上に残る時代になるであろうと思われる.

公衆衛生人国記

富山県—行政と大学の連携の推進

著者: 渡辺正男

ページ範囲:P.58 - P.59

 富山県は立山連峰を背景に三方を山に囲まれ,北は富山湾に望み極めてコンパクトに,まとまりのよい地形をしている.歴史的には長い間加賀藩の支配下にあり,その間富山の配置薬という独特の医療産業を生んできた.
 戦後,富山県の公衆衛生活動の中心はもちろん県行政にあるが,県内の医科系大学としては現在の富山医科薬科大学医学部が昭和50年に設立を見たところである.したがって依頼された人物記にはまず行政人から入ることとする.

衛生施策の動向・都道府県 宮崎県

21世紀健康づくり計画

著者: 金井雅利

ページ範囲:P.71 - P.71

1.趣旨および目的
 宮崎県の保健医療をめぐる環境は,全国平均を上回る勢いで進行する高齢化をはじめ,疾病構造の変化,医学医療の進歩,住民の健康意識の高まりや情報化など大きく変わりつつあり,保健医療ニーズも多様化,高度化の傾向にある.このような状況に対処し「日本一住みよい宮崎県」をめざす一環として,地域保健医療のシステム化を推進し,県民の生涯にわたる健康を確保・支援していく総合的な視点から,昭和63年3月に宮崎県地域保健医療計画が策定されたところである.
 21世紀健康づくり計画とは,この地域保健医療計画の中で「保健需要に対するサービスを提供するための地域単位としては,当面,保健所管轄区域とする」と明記されたことを受け,21世紀の「健康宮崎」を目標とする各地域の健康づくりを推進していくための具体的な実施計画として,地域特性を生かした保健所単位の保健計画を策定するものである.

基本情報

公衆衛生

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1170

印刷版ISSN 0368-5187

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