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雑誌目次

雑誌文献

公衆衛生54巻11号

1990年11月発行

雑誌目次

特集 ウイルス肝炎の疫学と予防

ウイルス肝炎への公衆衛生活動

著者: 門奈丈之

ページ範囲:P.734 - P.737

■はじめに
 ウイルス肝炎の起因ウイルスは,ウイルスマーカーにより決定された,A型肝炎ウイルス(HAV)とB型肝炎ウイルス(HBV)ならびに肝臓を標的臓器とするが未確定の,非A非B型肝炎ウイルスに分けられてきた.
 しかし,1988年アメリカカイロン社の研究陣により,非A非B型肝炎ウイルスのうち非経口感染型肝炎ウイルスに由来すると考えられる,cDNAの発現産物を抗原とする,いわゆるC型肝炎ウイルス(HCV)抗体検出のassay系が確立され,C型肝炎の診断1)が可能となってきた.

ウイルス肝炎の疫学—A型肝炎の疫学

著者: 馬場優 ,   鈴木司郎

ページ範囲:P.738 - P.741

■はじめに
 A型肝炎は人類の歴史とともに存在した疾患と考えられるが,1973年Feinstone1)らにより初めて,患者の糞便中より,病原体であるA型肝炎ウイルス(HAV)が発見されて以来,この17年の間,A型肝炎の研究の発展はめざましく,HAVのウイルス学的性状・感染病態・臨床像・疫学・予防にいたるまでほぼ明らかにされ,残された問題は発症病理と予防ワクチンの開発と考えられるほどである.予防ワクチンに関しては,本邦でも,すでに臨床試験も行われており,予防対策も最終段階に入ったといえる.最近の各国の国際化傾向は,目を見張るものがあり,各国での経済発展,各国間の経済的・政治的交流などが,A型肝炎の発生状況・浸淫度にかなり変化をもたらしてきたといえる.こうした事実から,将来的に予想されるA型肝炎の疫学の観点からの予防対策が必要となってくる.今回,本邦を中心にしたA型肝炎の疫学について述べる.

ウイルス肝炎の疫学—E型肝炎の疫学

著者: 内田俊和 ,   志方俊夫

ページ範囲:P.742 - P.744

■E型肝炎とは
 E型肝炎という用語が定着したのは,ここ1〜2年のことである.以前は経口型(enterically transmitted,水系,流行性)非A非B型肝炎と呼ばれていた.日本で問題になっている非A非B型肝炎は,輸血を介して伝播するC型であるが,開発途上国ではE型がさしあたり重要である.
 E型肝炎はウイルス形態学,疫学,臨床など多方面にわたりA型肝炎に似ている.ウイルスの遺伝子はA型とは全く異なり,相同性はないが,形状はエンベロープを欠き,またクレオカプシドから成り,球形で,直径は27nmである.ゲノムはRNA. 起炎ウイルスは主に,糞便に汚染された飲料水を介し経口感染する.少なくとも流行例では,食物を通して伝播することはあまりない.ウイルスは物理学的に脆弱で,そのためか感染力が弱く,家族内で2次感染することは稀である.

ウイルス肝炎の疫学—B型肝炎の疫学

著者: 樋口庄市 ,   小島秀男 ,   上村朝輝

ページ範囲:P.745 - P.748

■はじめに
 B型肝炎はB型肝炎ウイルス(HBV)の感染によって引き起こされる病態で,その感染様式には一過性感染と持続感染がある.一過性感染は免疫系が完成した後で感染を受けた場合に起こり,臨床的には急性肝炎の経過をとって50日前後で肝機能が正常化し,慢性の経過をたどることはない.しかし,肝炎を発症するとそのうちの約2%が広範な肝細胞障害が一時的に起こる劇症肝炎へと進展し,不幸な転帰をたどる場合もある.
 一方,持続感染は臨床症状の有無を問わず,HBVの感染状態が持続する病態で,この病態の成立機序として,宿主のHBVの排除に関わる免疫応答の低下が想定されている.そして持続感染者のうち約10%は,程度の差はあれ,炎症が持続的に存在する慢性肝炎の状態となり,場合によっては肝硬変,肝癌へと進展する.

ウイルス肝炎の疫学—C型肝炎の疫学

著者: 富平正子 ,   前田栄樹 ,   有馬暉勝

ページ範囲:P.749 - P.751

■はじめに
 非A非B型肝炎(NANB型肝炎)は肝硬変および肝癌の原因として重要であり,また輸血後肝炎の90%以上を占め,散発性肝炎の20〜40%を占めている.しかしその診断は他の肝炎ウイルスの感染を除外し,さらにアルコールや薬剤の関与を否定することが必要であった.
 1988年アメリカのChiron社グループ1),また有馬らにより2),C型肝炎ウイルス由来のRNA断片が発見され,HCV関連抗体の測定法は急速に進歩した.これらの測定系を用いて非A非B型肝炎のHCV抗体陽性率を調べると,高率に検出されている.さらにさまざまな肝疾患でHCV関連抗体の検索が行われ,C型肝炎の臨床成績が相次いで報告されているが,これらは抗体検査でありキャリアおよび病因としてはfalse positiveおよびfalse negativeが存在すると考えられる.本稿では,これらの成績をもとにC型肝炎のわが国における疫学を,本教室での測定系の異なるHCV抗体検出率の異同も交えてまとめた.

ウイルス肝炎の疫学—D型肝炎の疫学

著者: 飯野四郎

ページ範囲:P.752 - P.754

 デルタ(D)型肝炎は,イタリアのB型肝炎患者の肝組織中のHBc抗原を研究していたRizzettoが,HBc抗原とは異なるものとして発見し,1977年報告した1).新しく発見された抗原(HD抗原)はHBc抗原と分布は類似するものの,まったく異なるものであった.
 その後,この抗原の研究から,B型肝炎ウイルス(HBV)の存在下でのみ感染しうるウイルス,デルタ(D型)肝炎ウイルス(HDV)が発見された2)

ウイルス肝炎の予防—A型肝炎の予防

著者: 井上長三 ,   矢野右人

ページ範囲:P.755 - P.756

■はじめに
 A型肝炎は,糞便中に排出されたA型肝炎ウイルスの経口感染により伝搬する.衛生環境の改善とともに,A型肝炎ウイルス感染の発生が激減したと思われ,わが国におけるA型肝炎抗体保有率をみても年齢依存性である.高齢者ほど陽性率は高く若年者では低く,しかも年とともに抗体保有者が高齢化し,全体的には抗体保有者が次第に少なくなっている.このことはA型肝炎ウイルスの感染可能者が増えていることになる.わが国におけるA型肝炎は,現在でも散発性急性肝炎の1/3強を占め,周期的に流行を来す傾向もあり,今後の予防対策が重要である.現在A型肝炎ワクチンが臨床試験の最終段階に入っているが,これまでのA型肝炎に関する知見をまとめ,予防対策に有用と思われる点について述べる.

ウイルス肝炎の予防—B型肝炎の予防—母子感染予防を中心に

著者: 多田裕

ページ範囲:P.757 - P.760

■はじめに
 全妊婦を対象にHBs抗原のスクリーニングを行い,出生した児に感染の危険がある場合には,児に予防処置を実施することにより,成人になってから問題になる慢性肝炎,肝硬変,肝癌などの撲滅を目指すことは,疾病対策としては画期的なことである.
 わが国では,国の事業として公費による妊婦のHBs抗原検査が1985年から実施されるようになり,翌年1月以降にHBs抗原とHBe抗原がともに陽性の母親から出生した児に対しては,抗HBsヒト免疫グロブリン(HBIG)とHBワクチンを用いて母子感染予防処置が行われるようになった1,2)

ウイルス肝炎の予防—C型肝炎の予防—院内感染防止を中心として

著者: 吉澤浩司

ページ範囲:P.761 - P.765

■はじめに
 1989年,Kuoらにより血液を介して感染する非A非B型肝炎ウイルスのうちの一つであるC型肝炎ウイルス(HCV)の血清学的マーカー(C100-3抗体)の測定系が開発され1),C型肝炎の病態が一挙に明らかにされるものとの大きな期待が寄せられた.しかしその後,この測定系はC型肝炎診断のための第一世代の測定系とも言うべきものであり,未だ改良すべき点が多く残されていることも明らかにされつつある2).したがってC型肝炎の感染病態については,その解明がようやく緒についたところにあると言ってよいであろう.
 HCV感染の予防対策は,その感染様式が類似していることから基本的にはB型肝炎ウイルス(HBV)感染の予防対策に準じて行えば良いと考えられる.しかし,HCVの場合は中和抗体の存在は未だ確認されておらず,またワクチンも完成していない点が大きく異なる.したがってHCVの感染予防は,その感染病態の理解の上に立った感染源対策,感染経路対策がその基本になるといえる.

肝炎キャリアの健康管理

著者: 山本和秀 ,   辻孝夫

ページ範囲:P.766 - P.769

■キャリアとは
 肝炎ウイルスとしてA型,B型,C型,D型,E型が明らかにされ,このうちB型,C型においてウイルスキャリアが存在する.D型はB型肝炎ウイルスキャリアにのみ感染するウイルスで,わが国においてはまれである,C型肝炎ウイルスは,最近そのウイルスの核酸が明らかにされてきているが,そのウイルスキャリアについてはまだ不明なことが多い.ここでは主にB型肝炎ウイルス(HBV)キャリアについて述べる.

活動レポート

暮らしと健康を考える自主組織の芽ばえと組織間連携

著者: 松浦尊麿

ページ範囲:P.770 - P.775

●はじめに
 淡路島は今,世界一の明石海峡大橋の着工により本州と結ばれ,「島」でなくなる日を迎えようとしている.また,泉南沖の関西新空港の建設,淡路島全域のリゾート地域指定による各種リゾート化構想の進行,日仏友好モニュメント「回帰線の庭」建設の決定など,淡路島をめぐる環境は激変の時代となった.
 淡路島は今,期待と戸惑いの中にあるといえよう.

現代の環境問題・8

食品汚染—魚介類の毒に関する最近の知見

著者: 橋本周久 ,   野口玉雄

ページ範囲:P.776 - P.780

1.はじめに
 魚介類の中にはシガテラ毒魚やフグ類のように有毒なものが少なくない.数万種ともいわれる多数の魚介類が,自然の環境条件の中で生き抜くための戦略の一つとして毒をもつ場合もあろうし,また食物連鎖の一段階として無目的に毒を保有する場合もあるであろう.このような魚介類の自然毒,いわゆる“魚介毒”の研究は,水産食品の安全性確保の上からも,また新しい生物活性物質の開発(あるいはそのlead compoundの探索)のためにも不可欠である.魚介毒研究は昨日今日に始まったものではないが,最近におけるその進展には目覚ましいものがある,以下にその成果を紹介したい.

地域リハビリテーションと機能訓練事業

〈対談〉機能訓練事業を地域リハビリテーションの視点から検証する(1)

著者: 廣津留珙子 ,   浜村明徳

ページ範囲:P.781 - P.786

地域保健でなぜ機能訓練に取り組むのか
 浜村 医療の立場にいる私は,一般的に地域保健は疾病予防や健康管理などを中心に展開されるという概念で理解してきました.ところが,昭和58年に制定された老人保健法により,法的には機能訓練および訪問指導という二つの事業が市町村レベルで実施されることになり,これが地域保健活動の中でリハビリテーションの取り組みを始める大きな転機になったと思います.もちろんそれ以前から一部の保健婦さんの間で,障害老人に対する援助が意識的に始められております.
 そこで最初に,地域保健活動の中でリハビリテーションをどのように位置づけられているか,についてお話いただけますか.

目でみる保健衛生データ

戦後の感染症対策小史(2)

著者: 大橋誠

ページ範囲:P.787 - P.790

 前号では,主として経口的に感染する古典的な伝染病と細菌性食中毒について,発生状況の推移とその対策の歴史をたどってみた.本号ではその他の感染症,特にワクチンの有効な疾患,および行政対応が永らく欠落していたウイルス性疾患を中心に取り上げ,戦後の対策史を俯瞰してみたい.

保健婦活動—こころに残るこの1例

頻回訪問を行い,看取ったケースを通して

著者: 白勢貴美子

ページ範囲:P.791 - P.791

 近年,老齢人口の増加に伴い,慢性疾患患者や,医療機器を装着した状態での在宅療養者が増えている.本ケースもバルンカテーテルを挿入したままで退院となるため,病院から継続看護の依頼があり訪問を始めた.準備のための病棟訪問から,退院後は週1回の訪問を,息を引きとるまでの1年2カ月にわたり行った.7年間の保健婦経験の中でこれだけ濃厚にかかわりを持つことも,在宅で看取ることも初めてのことであった.
 〔事例〕Kさん76歳.病名は心筋梗塞および脳血栓による左半身不全麻痺.現在は寝たきり状態で,全面介助が必要である.尿失禁の状態でバルンカテーテルが挿入されている.2,3年前よりぼけ症状が出現し,会話は無理であるが,応答は可能である.しかし,入院までは住職として仕事をしていた.家族は,茶道教師をしている妻71歳(主な介護者)と,Kさんに替わり寺の仕事をしている娘38歳,中学生の孫と4人である.

進展する地域医師会の公衆衛生活動

安房医師会の総合検診活動(3)—これまでの検診結果とその活用

著者: 山田教和 ,   青木謹 ,   原久弥 ,   高橋金雄

ページ範囲:P.792 - P.793

 青木 先輩たちの築き上げた検診活動を発展させ,それを住民のために活用することが私ども現役の務めです.それは,検診の受診状況を常に把握し,受診率向上を考えること,毎年集積されるデータの中から,住民の不健康部分を分析し,因果関係を解明すること,などではないでしょうか.千葉大学で同級であった小倉敬一館山保健所長(当時)から,「安房医師会の検診は宝の山だ.住民へのフィードバックも考えなければならない」と助言されましたので,同じく同級の千葉大学看護学部の野尻雅美教授にお願いして検診データをまとめております.それを,関東農村医学会で発表しており,5年目の今年は「胃がんの死亡統計」と「総合検診の成績」の2題を発表しました.
 「胃がんの死亡統計」の対象は,館山・鴨川両保健所管内の安房郡市2市8町1村の昭和56年より63年までの胃がん死亡者773名(男性489名,女性284名)で,これを中心に調査分析しました.

エスキュレピウスの杖

(8)WHO職員となるには

著者: 麦谷眞里

ページ範囲:P.794 - P.795

1.はじめに
 最近,日本の方々から,WHO職員になりたいけれど,どうしたら良いか,という質問を直接間接によく受ける.お手紙も沢山いただく.特に,WHO宛てに日本語で書かれた手紙は,結局は,私のところに集まって来るので,その数はおびただしいものになっている.国連英検というテストまであるらしいから,ひょっとしたら,自分の就職先のひとつの候補として国連機関を考えている人が増えているのかも知れない.そう思ってWHO職員になるためには,いったいどのような能力・手続きが必要か紹介してみることにした.

発言あり

アルコール依存症—マイペースで楽しみながらの飲酒を,他

著者: 大谷藤郎

ページ範囲:P.731 - P.733

 アルコールと人体との関係について,アルコール中毒,アルコール症,アルコール依存症,問題飲酒者などいろいろあるが,わたしが所属している(社)アルコール健康医学協会では総括して,「アルコール関連障害」と呼んでいる.編集者から題名「アルコール依存症」として原稿を依頼されたので,一応題名をアルコール依存症としたが,それらの呼称には,それぞれ解釈上の違い,ニュアンス上の違いがある.当協会の使用している「アルコール関連障害」という名称は,WHOによるものであって,その範囲は広範囲にまたがるものである.『Alcohol-Related Disabilities(アルコール関連障害)』山本次郎訳(1977年)によれば,「アルコール関連問題」は身体的,精神的病理,並びに例えば子供に対する影響を伴った家庭の崩壊及び低下した生産性へ導く人間関係及び社会機能の阻害を含んでいる.増加している問題としては,過剰のアルコール摂取による交通上の,産業上の,また家庭内の事故の発生がある.アルコール摂取とある種の犯罪との間にも蓋然性のある関連がある.多くの国々においては大量のアルコール摂取の始まる年齢が低下しており,婦人の多くが飲酒者,ときには大量の飲酒者になっているようである.さらに「アルコール関連問題」は,かつては余り影響されていなかった国々でも広がってきている.

公衆衛生人国記

宮城県—ユニークな活動を展開した人々

著者: 藤咲暹

ページ範囲:P.796 - P.798

 宮城県は東北6県の中核県として,第二次世界大戦前から文化,産業,行政など多くの面で先導的な役割を担ってきていた.戦後急展開した公衆衛生活動でも,ユニークな先進的事業が活発に推進されてきた.宮城県の公衆衛生活動の特徴を要約すると,伊達藩の藩校に由来する東北大学医学部が,実践的医療を重視して人材を育ててきたこと,大学と医師会と行政とが極めて緊密な連係を保持してきたこと,多くの人材が地元に密着して継続的に活動してきたことなどが挙げられる.宮城県の戦後の公衆衛生事業に貢献した方々を,その事蹟と共に紹介したい.

保健行政スコープ

国立病院・療養所の今後の役割

著者: 関山昌人

ページ範囲:P.799 - P.801

●はじめに
 国立病院・療養所の再編成は,臨調最終答申(昭和58年)を踏まえた行革の一環として行われたものであると同時に,国立で担うべき医療はどうあるべきかという検討をも踏まえて昭和61年度から実施されているものである.これにより,国立病院・療養所(らい療養所を除く)239カ所を統廃合または移譲により165カ所に減らし,存続している国立病院・療養所の機能を強化しようとするものである.その成果として,移譲では,平成元年に,旧国立療養所阿久根病院が鹿児島県出水郡医師会に経営移譲され,開放型病院として地域の中核医療機関に生まれ変わった.また,統廃合では,国立療養所松戸病院と国立柏病院の統合病院および国立田辺病院と国立白浜温泉病院の統合病院が,平成4年度にオープンする予定である.
 このように,再編成は徐々にではあるが,具体的な形として現れはじめてきた.ここでは,国立病院・療養所が,再編成を通じてどのような医療機関に生まれ変わろうとしているのか,また,なぜ再編成が必要なのかということについて説明したい.

基本情報

公衆衛生

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1170

印刷版ISSN 0368-5187

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