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雑誌目次

雑誌文献

公衆衛生54巻2号

1990年02月発行

雑誌目次

特集 歩行と健康

現代生活のなかでの歩行

著者: 黒田善雄

ページ範囲:P.76 - P.78

 人間の歴史は,ヒトが後肢で立ち二足歩行をすることによって始まったといえる.
 ヒトの大脳化は,起立し二足歩行で生活することにより,他の動物とは比較できないほどに発達し,火を使い,道具をつくるようになった.

歩行の医学—運動生理の視点から

著者: 小野三嗣

ページ範囲:P.79 - P.82

「あしが弱れば長生きができない」
 医学がそれほど発達していなかった古い昔から体験的に語り続けられて来たこの言葉は近代運動生理学によって,その機序が解明されつつあり,少なくとも「世の中に寝るより楽は無かりける.浮き世の馬鹿が起きて働く」を地で行くような生活をしていたのでは,単に長生きができないというだけでなく,いわゆる運動不足病に苦しめられるようになるのは確実といえる.

歩行と人類

著者: 江原昭善

ページ範囲:P.83 - P.86

 二本あしでスタスタ歩くことが,私たち人間にとって健康を維持するうえでほとんど基本的といってよいくらい大切なのは,今さらいうまでもない.生理的にも医学的にも,それを裏付けるデータは山ほどある.
 でも,なぜそうなのだろうか,なぜ二本あしで歩くことが,それほどまでに大切なのだろうか。人類学では,このような運動様式を「直立二足歩行」とよんでいるが,生理的・医学的よりももっと深い人類学的な観点から,この問題を考え直してみることにしよう.

健康づくりと歩行運動の効果

著者: 佐久間淳

ページ範囲:P.87 - P.91

■はじめに
 最近のわが国においては,社会変化や生活様式の変化を反映し,歩行をはじめとする運動不足が広まっており,それらに伴う循環器系の成人病の増加が心配されつつある.
 そこで本稿ではまず,①歩行量の実態を把握する,②同時に,歩行量と成人病のリスクファクター,ないしは歩行量と成人病との関連性を明らかにする,③さらに,運動としての歩行量の増加について,個人レベル,集団レベルで考えることにしたい.

歩行の保健指導—岐阜県本巣町における歩行指導の実際

著者: 新村津代子 ,   古沢洋子

ページ範囲:P.92 - P.95

■はじめに
 田舎というと,農業などで体を使ってよく働くというイメージが強く,自然の中で歩くことも多いだろうと想像しがちである.しかし,アンケートを取ってみると実態はかなり違っていた.交通が不便なこともあり,マイカーの使用が多く,また,駐車場に困ることがないため,どこに行くにも車を使う.そのため,結果的には,1日に何歩も歩かない人が多くなっていた.また,その他の運動やスポーツを行っている人も少なかった.これらの結果は,現在増加している成人病との関連から考えると,栄養,休養,運動のまさに成人病対策の三本柱を中心とした指導の必要性を,改めて保健婦に自覚させるきっかけとなった.栄養や休養指導については比較的導入しやすく,実際の生活に密着した指導を行いやすいが,運動となると戸惑うことが多かった.町民が,容易にかつ継続的に行える運動として歩行習慣の指導を行うきっかけとなったアンケート結果と,具体的な歩行指導をここにまとめてみたので報告する.

歩行の保健指導—長野県大桑村のゴールデンシュー運動

著者: 田中昭三

ページ範囲:P.96 - P.98

■ゴールデンシュー運動の始まり
 昭和50年,51年の大桑村の国民健康保険会計の医療費は,約半分が循環器系にかかわるものだった.また,同年の死亡統計は,脳卒中,心筋梗塞などによる死亡が多く,特に60歳代・70歳代の死亡者が56%を占めていた.
 この予防対策について,昭和52年秋,木曽保健所に相談をもちかけた.当時の木曽保健所長原誠基先生,職員の方々から,歩くことが循環器の疾病予防につながると教えていただき,昭和52年11月に,歩け歩け運動を運動づくり事業の一環として取り入れることを決定,歩き方の講習会,モデルコースの設定,会員募集など,運動の実施に向けて準備に入った.

歩行の保健指導—埼玉県富士見市の「健康にやせる教室」

著者: 井筒紀代子

ページ範囲:P.99 - P.101

■はじめに
 富士見市では「健康にやせる教室」(以下,教室とする)を,医学的検査を取り入れ,医師・栄養士・保健婦をスタッフとしてスタートし,今年で2年目である.
 本教室(週1回の2カ月コース)の対象者は,以下のとおりである。昨年の一般健康診査の受診者からと,広報による募集からとの2本立てとした.肥満度は,おおむね30%以上,その平均値29.8%,最大値61.4%,最小値15.0%で年齢は平均45.7歳,最高齢者67.0歳から最低は35.0歳であった.なお,対象者の約8割は主婦およびパートタイマーであった.

歩行と環境整備—まちづくりと歩道

著者: 山下保博

ページ範囲:P.102 - P.105

■はじめに
 歩行は,人間が移動するための最も基本的な手段であり,それによる健康や精神面における恩恵は計り知れないものがあるといわれている.
 しかし,わが国が昭和30年代から始まる高度成長期に入ると,自動車の増加に拍車がかかり,幹線道路から溢れ出した自動車が,今までキャッチボールをしたり立ち話をしたりしていた路地裏にまで進入してくるようになった.この頃から道路計画の目標が「いかにして自動車交通を大量に,円滑に流すか」という機能面を重視せざるを得ない状況が生じてきた.

研究ノート

老人健診受診の有無とその後の高血圧関連循環器疾患死亡

著者: 松原勇 ,   鏡森定信 ,   中川秀昭 ,   成瀬優知 ,   垣内博成 ,   垣内孝子 ,   河野俊一 ,   吉居富美子 ,   小谷悦

ページ範囲:P.127 - P.129

●はじめに
 老人健診のひとつの大きなねらいは高血圧関連の循環器疾患の予防と管理にある.そこで,筆者らはこの健診の実態を知るために種々の調査6)を行ってきた.本稿では,この高血圧関連の循環器疾患の予防と管理に関する評価のひとつとして,受診群の高血圧者の頻度やその後の死亡状況を調査し,非受診群のそれと比較検討を行ったので報告する.

調査報告

職業を有する主婦とその子供の健康状態と栄養摂取状況

著者: 山田重行 ,   西原信彦 ,   桜井信夫 ,   近藤今子 ,   夏目典子

ページ範囲:P.130 - P.135

 昭和50年代以降の急速な技術革新や,国民ニーズの多様化による高度な技術集約産業や情報関連産業,あるいはサービス関連産業の発展に伴い,こうした産業を中心に広範な職業分野での婦人労働者の著しい増加が認められる.特に近年,パートタイム労働者が家庭主婦層を中心に増加しており,総務庁統計局「労働力調査」でみると女子短時間雇用者は昭和61年には352万人で,女子雇用者全体の22.7%に達している1)
 主婦がパートタイマーなどとして働きに出るならば,その労働時間帯は,多くの場合家事等の時間帯と重なるため,それらに費やす時間は減少し,それは炊事時間の短縮など,家事労働の密度の低下として現れてくることが予想される.貧血の母親には貧血の子供が多いという指摘がなされているが2),自立前の子供は母親の作ったものを食べて生活するため,母親,すなわち主婦の食生活に対する姿勢が食事の質を左右し,それが子供の健康に反映されることは十分予想される.

資料

アメリカ合衆国CDCのエイズサーベイランスシステムの初期変遷

著者: 宮崎元伸

ページ範囲:P.136 - P.138

■はじめに
 エイズ(Acquired immunodeficiency syndrome)は,1981年中ごろに男性同性愛者や静脈注射薬物乱用者に日和見感染や悪性新生物が並はずれて発生したことから公衆衛生的に脚光を浴びたことに始まり,わずか数年間に合衆国全体へと広がっていった.本編では,アメリカ合衆国Centers for Disease Control(以下,CDC)が実施しているエイズサーベイランスシステムの初期,すなわちエイズ発生時の1981年から1984年についての移り変わりについて述べる.

レポート

「健康と福祉の丘」のあるまちづくり—宮城県涌谷町

著者: 前沢政次 ,   久勉

ページ範囲:P.107 - P.111

 高齢化社会の到来とともに各地で健康づくりへの関心が高まっている.他方,これまで個別に進められてきた保健・医療・福祉のそれぞれの活動を連携させようという動きも顕著になってきた.
 宮城県涌谷町では「健康と福祉の丘のあるまちづくり」構想を打ち立て,まず涌谷町町民医療福祉センターを1988年10月に開設,保健・医療・福祉が連携する活動を開始した.今回は久管理課長および前沢センター所長の話しをまとめて紹介しよう.

地域リハビリテーションと機能訓練事業

岡山県加茂町の機能訓練事業

著者: 鏡真由美

ページ範囲:P.112 - P.113

◆加茂町の概況
 加茂町は岡山県の最北部に位置し,面積は159.53km2と町村では県下最大の規模を誇る.面積の90%以上は山林である.人口は6,436人,世帯数は1,885戸,老夫婦のみの世帯が109世帯,老人のひとり暮らし世帯が146世帯,老齢化率が20%と,高齢化のすすんだ過疎のまちである.町内の医療機関は,病院1,内科医院2,歯科医院1があるのみで,専門の疾病については,隣接している津山市の医療機関にたよっている現状である.

保健所機能の新たな展開—模索する保健所

長野県

著者: 藤島弘道

ページ範囲:P.114 - P.115

 厚生省では,地域保健将来構想検討会の提言を受けて,保健所を特定保健所と一般保健所に区分けするとのことである.長野県でも,事務サイドでは,国の方針に従って作業が進められている.我々とすれば,一般保健所も,総合窓口の設置など,機能強化を図るという表現に,一縷ではあるが,非常に強い期待をつないでいる.
 長野県では,前回の,県の出先機関の統廃合を中心とした行政改革の際,知事の,“保健所はその対象としない”との言葉を受けて,全保健所・支所の機能強化に努めてきた.これからも,特定・一般という名称の差が,地域で保健所の権限・機能の差と,受け取られないよう努力する必要があると考えている.衛生行政を,衛生教育的に表現すれば,権限で行政を行うのではなく,科学的な技術と手段で実施すべきものであろうが,実務的にはそうは割り切れない.

進展する地域医師会の公衆衛生活動 インタビュー

大阪市南医師会と大阪市おとしより健康センター(1)—南医師会の地域活動とセンターの開設

著者: 大島久明

ページ範囲:P.116 - P.117

 超高齢化社会における大都市での老人ケアシステムの確立に向けて「大阪市おとしより健康センター」が昨年9月にオープンした.設立は大阪市の外郭団体で,実際の運営は大阪市,大阪府医師会,大阪市南医師会の3者で出資の財団法人である.地元医師会である南医師会はこの運営の中心として大きな力となっている.今回は同センターの副所長を兼任している大阪市南医師会の大島副会長に,南医師会がセンターの運営にどのような役割を担っているかをうかがった.
 「大阪市おとしより健康センター」の特徴のひとつは,高齢者が「かかりつけ医師」との関係を密接に保ち,健康教育,健康増進,寝たきり防止,ぼけ防止を目的としたリハビリテーション,レクリエーション,コミュニケーションなどを織り混ぜたデイサービス,さらに在宅ケア介護者を考慮したショートステイを利用しつつ,継続的,包括的に在宅ケアを受けられることである.

保健婦活動—こころに残るこの1例

家族から見放された精神分裂病患者への援助

著者: 平野かおる

ページ範囲:P.118 - P.118

 精神保健法の改正により,精神障害者を早期に退院させるようになってきた.急性期を過ぎた患者が退院するのは当然のことであるが,両親の高齢化,家族の離散等で患者の面倒をみられない家庭,また,患者が退院することで家族崩壊の危機に立たされる家庭等様々な問題が起こっている.この事例は,患者を支えるべき家族が見放してしまった精神分裂病患者の事例である.

子育てに奮闘した分裂病のMさんのこと

著者: 慶田桂子

ページ範囲:P.119 - P.119

 「慶田さん元気.私,今働いているのよ」と久しぶりにMさんから電話があった、最近いつ訪問しても留守で気になっていたが,その元気な声に安心した.
 保健婦には,その場ですぐに対応していかなければならない相談の他に,一緒に悩みながら解決の方向を探っていくケースも多い.時には冷静に考えながらも,その場では感情的に対応している自分に気づく.3年前に出会ったMさんとのかかわりは,そんな事例の一つである.

統計のページ

病気の姿をデータで読む(8)全癌と胃癌—はるかな希望

著者: 倉科周介

ページ範囲:P.120 - P.123

 癌はいま日の出の勢いである.1953年以来の死因順位第2位の座から,1981年にはついに脳血管疾患を抜いて首位に躍進し,その後も他の死因との差は開く一方にみえる.時代の脚光を浴び,世人の注目を集めて,病気冥利に尽きるだろうが,これほど迷惑なスターもない.盈つれば虧くる世のならいを,この頑敵も思い知る時が来るだろうか.またその時に,われわれは立会うことができるだろうか.各種の癌の来し方にその手掛かりを探ってみよう.

発言あり

日中交流—一期一会,他

著者: 江部高廣

ページ範囲:P.73 - P.75

 大阪府と上海市との友好交流は,昭和55年11月にスタートした.医学分野の交流は相互に医学医術の交流を図り,双方の医療事情を理解することを目的として,大阪府は中国の東洋医学,特に鍼灸医学を学び,上海市は日本の西洋医学を学ぶことにより,多くの成果を上げてきた.交流事業が5年目をむかえた昭和59年11月に,中国側の医療事情を見聞し,今後の医学交流について一歩踏み込んで検討をすすめる段階に達していると判断し,初回の訪中となった.初回訪問とあって極度に緊張して上海の虹橋空港に着いた.上海市の医学交流担当の責任者と小生が出迎えの車に乗り込んだ途端,いきなり耳もとに流暢な日本語が飛び込んできた.「最初に申し上げておきますが,私は○○組の上海支部長を兼ねております.どうかよろしくお願いします.」一瞬,棍棒で殴られたごとく目が眩んでしまった.
 「組」組織の名を聞かされて,白い粉が目に浮かび,運び屋にさせられるのかと茫然となった.小生がひと言も話せないのを見てとり,彼は「冗談ですよ.ハッハッハッ」と笑った.

公衆衛生人国記

埼玉県—公衆衛生行政の開拓者たち

著者: 荻野淑郎

ページ範囲:P.124 - P.126

埼玉県の概況
 埼玉県は関東平野の西部に位置し,総面積377.801km2の内陸県で,地形は,西部の山地(総面積の約1/3)と中央から東部の平野(総面積の約2/3)に大別される.気候は,比較的温暖で水利にも恵まれていたので,かつては農業が盛んで農業県といわれてきたが,首都に隣接しているという立地的条件から,昭和30年代からの国民経済の高度成長と歩調を共にして,工場や住宅団地等の進出がめざましく,著しく変貌してきた.
 県勢の急速な発展とともに,社会環境の悪化,生活環境施設の立遅れ,公害の発生,交通事故の多発等,都市化に伴う保健衛生の問題が発生し,基盤整備を含む衛生行政需要の増大は顕著であった.

衛生施策の動向・都道府県 山口県

やまぐち健康フェア

著者: 長崎哲男

ページ範囲:P.139 - P.139

1.経緯
 山口県では,県民に健康づくりの啓蒙普及を図るため昭和55年度から60年度まで健康づくりの表彰,体験発表,特別講演等の健康づくり知識の啓蒙を中心とした「健康づくり推進大会」を開催してきたところである.
 しかしながら,各市町村において健康づくりの推進大会が普及されたことにより,昭和61年度,従来の「健康づくり推進大会」から「みんなでつくろう健康やまぐち」をテーマにした「やまぐち健康フェア」を開催し,本年度で第4回目を迎えたところである.

保健行政スコープ

介護対策検討会報告書にみる介護対策の今後の展望

著者: 瀬上清貴

ページ範囲:P.140 - P.142

 最近,在宅ケア,在宅医療,在宅介護,在宅福祉サービスあるいは生活の質(QOL)というキーワードが散見される.高齢化社会の進展および2000年には寝たきり老人が100万人にも及ぼうという推計(表1)をインパクトとして,保健,医療,福祉の各分野からこの課題に多くの取り組みが出てきたからであろう.
 日常生活動作能力の低下した高齢者をどこでどのように世話していくべきかは,選択の問題である.施設ケアが良いのか,在宅ケアが良いのかは一概には言いきれない.家族への重圧,女性の社会進出への妨げ,住宅問題等を考えるならば,施設ケアが選ばれようし,医療社会資源の効率的活用という視点からは在宅ケアが選ばれる.同時に,我々はこの選択に当たって高齢者自身の視点を導入すべきである.つまり,社会的心理的な観点から,高齢者の生活の質への配慮をする必要がある.厚生省が在宅ケアの充実を政策として選択したのは,このような考え方による.

基本情報

公衆衛生

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1170

印刷版ISSN 0368-5187

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