icon fsr

雑誌目次

雑誌文献

公衆衛生54巻4号

1990年04月発行

雑誌目次

特集 女性・健康—ニュートレンド

〈てい談〉女性の社会参加と男女平等

著者: 赤松良子 ,   高橋久子 ,   小野寺伸夫

ページ範囲:P.220 - P.225

 小野寺 ご承知のとおり,人間として生活していく基本に男女があることは当然なのですが,現在は,男女がともども社会的役割を担っていくという時代,男女共同参加社会の実現を目指していく時代に入ってきていると思われます.そこで,最近の女性の社会進出や参加について,様々な当面する話題や新たな課題などのお話をうかがいたいと思っております.
 まず,高橋先生から最近の話題についてお話しいただければと思います.

働く女性の労働の変遷と健康問題

著者: 石津澄子

ページ範囲:P.226 - P.229

■就業年齢の変化と高学歴化
 かつて,日本の働く女性の特徴といえば,平均年齢は20歳代前半と若く,ほとんどの人が独身,勤続年数が短く,当然交替が早く,学歴も中学卒,高校卒が大半を占めていた.したがって,職業の種類も熟練を要しない単純作業,繰り返し作業,事務作業などが主流であった.
 この実態に少しずつ変化が見え始めたのは昭和40年ころからで,昭和61年の統計によると,年齢は明らかに中高年化し,高学歴で,結婚し,子供を育てながら働き,勤続年数も長くなり作業内容も専門職が増え,多岐にわたるようになった(総理府統計局資料).

働く女性の健康の実態—貧血と訴えの調査より

著者: 前田和子

ページ範囲:P.230 - P.234

■はじめに
 わが国の産業界は著しい経済成長を遂げ,それに伴い労働衛生の抱える問題も多様化してきている.産業発展時の裏面史といわれて労働衛生の歴史が作られてきたが,現在もなお,経済の動向に追従した形で問題が提起されている.職場への女性の進出は著しく,それは労働衛生をめぐる新たなテーマとして提起されている.情報管理社会の中での電算化,技術革新の場における女性の関与をはじあとし,様々な職場で活躍する時,女性独特の健康問題を無視することは出来ない.これらについて実際の事例より探っていくこととしたい.

女性の栄養・運動・休養—健康づくり

著者: 苫米地孝之助

ページ範囲:P.235 - P.239

■はじめに
 栄養・運動・休養が健康づくりの3本柱として大切であることは,すでに多くの人が知識として持っていると思われる.しかし実際にこれをどのように実行しているかとなると話が別になる.我我は毎日の生活に追われ,健康にマイナスになると考えられるものでも,それを行わなければならないことがしばしばあるし,また逆に健康々々と考えるあまり,味気ない生活を送ってもつまらない.したがって知識と実行との問にある程度の落差があることは止むを得ないことかも知れない.しかしいざとなってどちらかを選択しなければならない場合は,こうした知識が必要不可欠となるし,間違った判断をしなくてもすむようになる.
 特に女性の場合は,家族なかんずく子どもの健康のためには十分な知識を持っていることが要求されるし,家族の食事はそれ自体が家族の健康そのものを左右することにもなる.最近,女性が社会に進出し,夫婦が分担して家事を担当するケースも見られるようになったが,まだまだ家族に対する女性の影響は大きいものがある.こうした点を考えると,女性は自分自身はもちろんのこと家族の健康づくりのためにも,正しい知識をぜひ持っていてほしいものである.

女性の地域保健活動—母子愛育会活動を通して

著者: 持田兆子

ページ範囲:P.240 - P.243

■はじめに
 ここ半年位の間に,私たちの仕事に関係する報告書が相次いで出された.その一つは,待望の「地域保健将来構想検討会報告書—保健所の在り方を中心として」(平成元年6月),二つめは,「新しい時代の母子保健を考える研究会報告」(元年12月),本年1月には,「これからの家庭と子育てに関する懇談会報告書」も出された.筆者が特に注目し期待しているのは次のことである.
 保健所の在り方では,保健所機能の拡充の基本的方向性の中に,

女性と性—母性管理の立場から

著者: 石濱淳美

ページ範囲:P.244 - P.248

■はじめに
 われわれはいま,人生80年という人類初めての経験に遭遇している.かつてのわれわれは,他の多くの哺乳動物と同様に,生殖の終わりが大体生命の終わりで,生殖と生命はほぼ同じものであった.
 しかし今日の女性は,生殖期間のほぼ2倍の人生を生き続けており,さらに延長する気配をみせている.

女性の社会参加の動向とこれから

著者: 萩原なつ子

ページ範囲:P.249 - P.253

■はじめに
 1975年の国際婦人年の目標として,①男女平等の促進,②社会,経済,文化の発展への婦人の参加,③国際友好と協力への婦人の貢献が掲げられていた.この目標を達成するために「国連婦人の10年」(1975年から1985年)が設けられた.日本においても「国内行動計画」に則り,社会生活のあらゆる領域,たとえば政治,教育,労働,地域活動,家庭生活等に男女が平等に参加貢献できるような環境づくりへの努力がなされてきた.今や1990年代を迎え,女性は様々な分野で様々な生き方そして働き方を,幅広く選択することもありうる時代になった.女性,とりわけ既婚女性が「家庭の外で活動する」という意味での社会参加は,今後より多様化することが予想されている.

調査報告

地域に生活する精神障害者へのサービスをめぐって—イブニング・ケアの試み

著者: 橋本明 ,   井上真樹 ,   市川佳居 ,   尾崎千恵子

ページ範囲:P.278 - P.282

●はじめに
 近年,わが国の精神医療は大きく変化しつつあり,それまでの医療中心,特に入院医療中心のサービスへの反省から,精神障害者の社会復帰・社会福祉サービスの拡充が急がれている.
 だが,いまだに地域で精神障害者を支えていくためのサービスは乏しく,多様性に欠けている.確かに,大都市圏を中心に保健所デイケアの普及,作業所数の増加などによって,地域で生活する精神障害者が利用することができるプログラムは増えつつある.しかしこれらのプログラムだけでは,精神障害者が地域で生活する上での様々なニーズには対応しきれないのが現状である.

現代の環境問題・1

連載開始にあたって

著者: 松下秀鶴 ,   中澤裕之

ページ範囲:P.254 - P.255

 日本の工業は朝鮮事変を契機に驚異的な復興・躍進を遂げ,京浜・京葉,中京,阪神,北九州の各地域を中心に巨大工業地帯が形成された.急激な工業の発達と国民生活の向上に対応して,電力需要も急増し,エネルギー源も石炭から石油に変換されていった.昭和30年代に入ると石油コンビナート周辺での大気汚染,また鉱山や工場廃水による水質汚染などが公害として社会問題となった.このころの公害は,水俣病,イタイイタイ病,四日市喘息に代表されるように,工業地帯や一部の地域に限定された問題であった.そして,これらの公害に対処するために昭和40年代に入って,「公害対策基本法」などによる法的な規制が実施され,環境中の汚染物質濃度も改善されるようになった.企業レベルでの環境汚染対策は確かにその成果を表し,事実,環境大気中の亜硫酸ガス濃度は年々減少し,現在ではほとんどすべての測定局で環境基準をクリアーするようになった.また,汚れのひどかった河川にも魚が戻って来たというようなニュースを聞くようになった.窒素酸化物や浮遊粒子状物質など依然として問題となる物質は種々あるが,公害という言葉が以前と比べて強い響きをもたなくなりつつある.

地域リハビリテーションと機能訓練事業

地域リハビリテーションのマンパワー

著者: 澤村誠志

ページ範囲:P.256 - P.262

■はじめに
 地域リハビリテーション(以下リハと略)の具体的な考え方については,色々な論議があり未だ定説がない.しかし,明確な定義の上に立たないとその論旨なり実践の方向が定まらぬ恐れが生ずる.その定義は,これからのわが国の各地域で展開される実践活動の中で徐々に固定化されようと思われる.筆者は,身障行政の中で地域リハ活動の中核と位置づけられた県立身体障害者更生相談所と兵庫県における地域リハ協議会の活動,兵庫県の地域保健医療計画と県の地域リハシステム委員会への参加と実践を通じて,地域リハをまず次のように定義した上で,与えられたマンパワーの問題に入りたい.
 すなわち,地域リハとは,地域を基盤として,患者,障害者に対する包括的な保健医療・福祉サービス体系の中で組織化され,発症後の早期リハより在宅,施設ケアまでを含んだ一連の継続性をもつリハ活動と考えたい.したがって,この地域リハ活動は,一方では,一般地域医療,つまり健康増進,予防,治療から狭義のリハである機能訓練の分野までを包括した医療システムに含まれ,その重要な位置を占めている.これとともに他方では,リハのもつ体質から,図1に示すように当然,患者,老人など障害をもつ人々や家族を支援する種々の在宅医療福祉サービス,教育,住宅,職業,交通手段,余暇活動など,これらの人々のクォリティ・オブ・ライフ(QOL)を支える広範囲で総合的なサービスを含むこととなる.

保健所機能の新たな展開—模索する保健所

情報管理,マンパワーの充実に向けて—石川県

著者: 西正美

ページ範囲:P.266 - P.267

◆はじめに
 昭和30年代までは,急性伝染病や結核を始めとする慢性伝染病対策をその主題とした保健所は,昭和40年代に入り母子保健法あるいは改正された精神衛生法を踏まえ,その主題を大きく変換することとなった.さらに,社会における疾病構造の変化は成人病対策を求め,保健所における業務にも脳卒中予防のための循環器対策やがんの早期発見のための検診等が導入されはじめた.しかしながら,ほとんど伝染病対策の技術しか持たなかった保健所では,時代の動きに対応することはかなり困難なことであり,また技術の問題のみならず公衆衛生の視点に関しても,的確に理解できていたとは思えない節もないわけではない.また,昭和57年の老人保健法の制定に伴い保健所には,直接的サービスよりも市町村に対する技術的援助や指導調整が期待されるようになってきた.
 石川県では,このような時代の流れに対応するべく,いくつかの試みとそれに関連する機構改革をいく度か試みてきた.昨年,国において「地域保健将来構想検討会」が設置され,その報告(以下「報告」という)がなされたが,そのいくつかはすでに石川県において試行されている.

進展する地域医師会の公衆衛生活動 インタビュー

大阪市南医師会と大阪市おとしより健康センター(3)—センターの運営と登録医制度

著者: 大島久明

ページ範囲:P.263 - P.265

 囗ここで登録医制度についておうかがいしますが,登録医は南医師会員のみを対象にしているのでしょうか.
 大島 いや,原則として大阪市内の開業医はすべて「登録医」の資格があります.老人と密接な関係にある開業医の先生方にできる限り参加してもらおうということで,ご協力をお願いしています.

保健婦活動—こころに残るこの1例

小児虐待を疑って

著者: 土井節子

ページ範囲:P.268 - P.268

 Aちゃん(女)とBちゃん(男)は双胎で,昭和63年1月に在胎26週で生まれた.それぞれ864g,1,023gだった.母親は嫁いできた中国人である.
 未熟児センターを退院後,訪問すると,二人とも足にタオルを巻きつけられ,さらに,その上を紐で結ばれていた.保健婦は初めてのそのさまを見て驚いたが,母親は,「国で友人もしていた.行儀が悪いから」との返答だった.まだ日本語が十分でなく,その上国籍の違いによる文化や育児方法の相違は,その後の関わりを続けていく上で,思った以上に大きいものだった.

在宅ケアでの気づき

著者: 肥田千春

ページ範囲:P.269 - P.269

 これまで,“お年寄りは家庭で看るのが一番,できるだけ入院や施設入所が避けられるよう在宅ケアを支援する”という,在宅ケア優先の考え方をふり返るきっかけとなった事例について,もう一度考えてみたいと思う.

統計のページ

病気の姿をデータで読む(10)子宮癌と乳癌—明暗こもごも

著者: 倉科周介

ページ範囲:P.272 - P.275

 いわゆる癌による死亡が全体として増加していることは間違いない.だが全体が部分の代表にならないのは野外事象の常である.腫瘍によって増加率の大小に差があるだけでなく,全体の流れに背を向けて減少の一途をたどるすね者まである.その筆頭格が子宮癌である.反面,乳癌の死亡は増える一方だから,結局のところ,女性固有の癌のバランスシートには,全く変化が見られない.皮肉なものである.拮抗する明暗は,暁闇と黄昏といずれの領するところとなるのだろうか.

エスキュレピウスの杖

(1)WHOへの赴任

著者: 麦谷眞里

ページ範囲:P.276 - P.277

1.プロローグ
 ひどい雨だった.チューリッヒを出たあたりで降り始めた雨は次第に激しさを増し,ベルンからローザンヌへ向かう頃にはどしゃ降りに近い状態になっていた.夜で視界が悪いところに雨が重なったためワイパーを全開にしてもよく前が見えない.おまけに時差のせいか睡魔が襲ってくる.ふと気がつくと自分のレーンからはみ出していて,思わずハンドルを握る手に力を込める.私は内心,これは大変なスタートになったものだと思った.1989年12月18日(月)の夜のことである.

発言あり

がん告知—医療・生き方の選択と生きがい,他

著者: 阪上裕子

ページ範囲:P.217 - P.219

 肺がんで死亡した父,喉頭がんで声を失った祖父の最期の日々が思い出される.昨年には,若い友人が,手術を乗り越えて,目下闘病中である.「がん告知」のテーマをめぐり近親者としての,友人としての複雑な思いがあふれ,表現できない.
 しかし,難病在宅ケアのしごとの中でも,生命の限界をかなりはっきりした形で突きつけられた患者やその家族とかかわる機会が多くなってきている.上に記した家族・友人としての体験を重ね合わせながら,試行錯誤の実践をしている現状である.

公衆衛生人国記

鳥取県—鳥取大学医学部を中心に

著者: 瀧田親友朗

ページ範囲:P.270 - P.271

 趣旨に沿って,誰をそして何を記せばよいのか,人とその事績について知ることが少なく,ペンが進みそうにない.しかし,不備はご寛容を願うとして,あえて未定稿の人名索引のつもりで書き進めたい.

衛生施策の動向・都道府県 三重県

三重県の健康づくりの歩み

著者: 小松仁

ページ範囲:P.283 - P.283

 三重県の65歳以上人口は,12.8%(昭和63年10月1日現在)となっており,全国11.2%を上回る速さで高齢化が進んでいる.このため,高齢化社会に向けて特に成人病の予防と,これらに至らないための健康づくりが必要となっている.
 三重県では,昭和53年度より,県民の健康づくり事業として,「健康づくりの基盤整備」,「生涯を通じての健康づくりの推進」,「健康づくりの普及啓発」を3本柱として展開してきた.

保健行政スコープ

保健医療行政の重点施策とその展開

著者: 西山正徳

ページ範囲:P.284 - P.286

 いわゆる衛生3局の再編が行われ,保健医療事業の実施部門を中心とした保健医療局が誕生したのは昭和59年7月1日であるから,今年で5年を経過したことになる.
 この間多くの施策が展開され,またいくつかの間題も整理されてきている.その主なものを取り上げてみると,まずこれまでの疾病予防から健康づくり対策に大きく乗り出したことである.これについては後に今後の課題として述べるつもりであるが,昭和63年に始まった第二次国民健康づくり対策(アクティブ80ヘルスプラン)は,これまでの厚生省の考え方を大きく変えたものとして評価できる.この他に,これまでの基本的考え方に変化の見られる施策はいくつか見られる.

基本情報

公衆衛生

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1170

印刷版ISSN 0368-5187

雑誌購入ページに移動

バックナンバー

icon up

本サービスは医療関係者に向けた情報提供を目的としております。
一般の方に対する情報提供を目的としたものではない事をご了承ください。
また,本サービスのご利用にあたっては,利用規約およびプライバシーポリシーへの同意が必要です。

※本サービスを使わずにご契約中の電子商品をご利用したい場合はこちら