icon fsr

雑誌目次

雑誌文献

公衆衛生54巻7号

1990年07月発行

雑誌目次

特集 中小企業の健康問題

中小企業と労働福祉—人手不足と労働時間短縮

著者: 鈴木春男

ページ範囲:P.436 - P.440

 中小企業では経営不振に陥り,整理され消滅していく企業がある一方で,新しく設立され発生する企業も数多く存在している.そうした消滅と発生をめぐる淘汰がくりかえされるなかで,健全な経営が生き残り,全体としては経営の近代化がなされていくわけであるが,現在の中小企業にとって淘汰を促す重要な要因に人手不足の問題と時間短縮の問題がある.
 内需拡大政策のなかで景気は好調であり,多くの中小企業が人手不足に悩んでいる.また,他方では,昭和63年4月に労働基準法が改正・施行され,労働時間短縮が社会的要請となっている.人手不足と時間短縮は,一見したところ相互に矛盾し,両立は不可能のように見える.確かに,人手不足の下では時間短縮などとても無理だという企業が多いし,また時間短縮を進めるには従業員の採用が不可欠だとする企業も多い.しかし,それを矛盾と考え,両立は不可能だと考えた企業の経営は破綻する恐れがあるといわなければならない.健全な経営がなされるためには,時間短縮を進めながら同時に人手が確保されていかなければならないのである.ここでは,現在問題となっている時間短縮と人手不足の実態を把握したうえで,両立させるためには何が必要かを考えてみたい.

中小企業の疾病像

著者: 田中健一

ページ範囲:P.441 - P.445

■はじめに
 特集「中小企業の健康問題」で与えられた「中小企業の疾病像」という命題に対しては,二つの立場から論述することができると考えている.
 一つは罹患者数は少なくとも,これまで「職業病」といわれてきた疾病が,中小企業においてどうかという視点であり,いま一つはいわゆる職業病と関係なく,今日労働行政が多大の関心を寄せている成人病タイプの疾病が,中小企業においてどうかという視点であろう.歴史的にみれば,これまで中小企業労働衛生に関する議論の多くは,前者に集中していたといってよい.

中小企業の健康づくり対策

著者: 田中茂

ページ範囲:P.446 - P.451

■はじめに
 労働災害や職業病の発生が,大企業に比べて中小企業に多いことは古くからよく知られている現象であり,現在もその傾向に変わりはない.
 一方,最近の労働者の健康問題は高齢化と技術革新およびサービス経済化によって,成人病が増加し,体力が低下し,高齢者の災害が増え,ストレス関連疾病が増加してきた.

理容・美容従事者の健康管理

著者: 熊木敏郎

ページ範囲:P.452 - P.457

■理容・美容業の変遷
 理容・美容業は近年まで,中小企業の中で最小規模の事業所であった.しかしこのところの人口都市集中化に伴い,大都市を中心に事業所の大型化が起こってきている.総理府統計局が行っている環境衛生関係調査資料をみると,常時雇用者数2人以下の事業所は次第に減り,3〜4人,5〜9人の雇用者を持つ事業所が増えた.
 理容所数はこの10年間ほとんど横ばい状態であるが,美容所数は昭和50年代にすでに理容所数を上回り,年々着実に増加している.そして資格を持つ従業者数も増え,昭和63年度において従業理容師数は約24万人,従業美容師数は約31万人となっている.

全国労働衛生団体連合会の取り組み

著者: 井手義雄

ページ範囲:P.458 - P.461

■はじめに
 昭和63年5月労働安全衛生法が改正され,労働者に対する職域健診の内容は大きく変わろうとしている.
 昭和44年,全国労働衛生団体連合会が「全国労働衛生検診機関連合会」として発足した当時の日本の経済は高度成長期であったが,その後の2度にわたるオイル・ショックにもめげず,日本経済は力強く成長してきた.

産業医の活動

著者: 野見山一生

ページ範囲:P.462 - P.466

■はじめに
 労働安全衛生法により50人以上の従業員を雇用する事業場は,産業医を選任する義務がある(労働安全衛生法).この法律により産業医を選任し,所轄の労働基準監督署に届出をしている事業場数は8万カ所で,その多くは中小企業である.
 地域保健を担当する「第一線の医師」の多くは,地元の事業場の求めに応じて「産業医」としてその職務を果たしてきた.また,日本医師会も「産業医活動は地域保健活動の主要な活動の一つ」として位置づけ,地域,地区医師会も活発に産業医活動の振興に当たってきた.しかし,卒前,卒後を問わず,産業医活動をどのように行うべきかの教育を受ける機会もなく,また,専門領域以外の新しい領域「産業医活動」について学ぶ時間的余裕を生み出すことの難しい多くの「第一線の医師」にとっては,産業医活動の実践は厳しい課題でもあった.このような状況下にあっても,産業医活動は次第に盛んとなり,多くの「第一線の医師」がこの活動に参加するようにはなったが,一部の名目だけの「産業医」のいたことも事実であった.そこで,労働基準監督署と郡市区医師会の産業医選任状況の把握の現状,また,産業医自身と事業場の両面から産業医活動の実態を明らかにすべく,実態調査を行った.

保健所の取り組み

著者: 日置則子

ページ範囲:P.467 - P.469

■はじめに
 都市における主要な健康問題はいかなる環境・生活において発生しているか,政令市型保健所の公衆衛生活動の第一の検討課題であろう.乳幼児死亡率は低いが死産率は高い.結核有病率は低いが感染性の患者が多い.訂正死亡率は低いが死因別では腎炎・ネフローゼ・高血圧性疾患などが多い.
 これら,臨床的には全く異なる経過をとり,発生要因も異なると考えられている種々の疾患が,特定の近似した生活環境において発生しているように感じられ,確認の必要に迫られている.

地域共同健康管理体制の推進

著者: 山根洋右

ページ範囲:P.470 - P.474

■はじめに
 日本の経済発展は,1986年を景気の谷として拡張に転じ,88年5.1%と実質GNPを伸ばしつつ,高度成長初期の「神武景気」を追い抜いて大型景気を持続している.科学技術革新を挺子に,設備投資も高水準を保ち,電気機械,リゾート開発,不動産,情報処理システムに向かって投資が動き,とりわけ国際化,情報化を背景に知識集約産業への資本集中は激しい.このため,ますます産業構造は高度化し,第一次産業は衰退し第三次産業は肥大化していく.資本が競合するなかで企業経営の多様化,複合化は,今までの高度成長や大企業を支えてきた下請け,孫請けといった国内垂直分業体制とその重層構造化を強め,さらにパート,アルバイト,派遣労働者,外国人労働者,高齢労働者など労働力市場の裾野を広げている.
 一方,このような経済発展は,国際的経済摩擦とともに,国内における労働者・農民の実質的な生活困難,高齢化社会における社会福祉の後退,ドラスティックに進む環境生態系破壊などの深刻な問題を激化させてもいる.中小零細企業の経営基盤の脆弱性と貧困な健康管理体制も,これら日本経済発展の影の一つといえよう.

総説

欧米における移住者結核問題とその対応(2)

著者: 清田明宏

ページ範囲:P.475 - P.479

◆移住者の結核の臨床・疫学的特徴
 移住者間の結核の疫学的な特徴について述べる.
 1)彼ら移住者の結核の罹患率および有病率は,受入国出身の白人のそれと比べると高い.また,受入国の全国結核患者中に占める割合もかなり大きい.

報告

医師過剰問題について

著者: 有賀徹

ページ範囲:P.501 - P.506

 WHOではすでに1948年以来ヘルスマンパワーの検討を行ってきているが1),職種の中で最も重要なことは医師の養成と将来予測であるとしている.
 わが国では昭和36年の国民皆保険制度が確立されてから医療需要は急激に増大した.これをうけて厚生省では医療制度全般についての討議が行われ,昭和45年に「医師数は人口10万対150を目標とし,これを満たすためには医科大学の定員を1,700人ほど増加させる必要がある」とした2).医師数は医師の供給,すなわち医科大学の定員によって左右されることは当然である.昭和30年当時の医科大学は46校,定員数は2,820名であったが,国のこのような医師の養成需要に応えるかのように,昭和45年に戦後初めて医科大学が新設された.その後医科大学の新設が続き,昭和48年には各県1医大すなわち「無医大県解消構想」が提案され,全国の医科大学は80校を数え,定員も8,360名となった.このように医科大学は乱立ともいえるように増大したが,その内訳は国立大学43校,公立大学8校,私立大学29校となっている.これら設立主体の異なる大学の存在は1県1医大構想から離れた問題もあり,このへんにも医師過剰の生ずる理由があるものと考えられる.また,わが国の医科大学には自治,防衛,産業など特殊な医科大学があることも特徴であろう.

現代の環境問題・4

水質汚濁—湖沼の汚れ

著者: 須藤隆一

ページ範囲:P.480 - P.484

●はじめに
 昭和40年後半から公害防止に対する国民の強い関心と,国・地方公共団体および民間企業の強力な公害防止対策,ならびに第1次石油危機以降経済が安定成長へ移行し,産業構造の変化や省資源・省エネ対策の進展もあって,直接生命の危険を脅かす公害は解消され,環境は全般的に改善されている.水環境においてもこの傾向は例外でなく深刻な状況は脱しているが,多様化,拡大化している.著しい公害はおおむね消失したものの,環境問題として認識すべき課題は増大している.その一つが湖沼(ダム湖を含む)の水質汚濁である.
 現在問題になっている湖沼の水質汚濁は,有機物が流入して水を腐敗させたり,あるいは毒性物質が流入して水生生物を殺滅させるものではない.湖沼のなかに藻類(植物プランクトン)や水生植物が異常に増殖して,水質悪化が引き起こされる水質汚濁であり,富栄養化とよばれている.富栄養化は,窒素およびリンなどの栄養塩類の流入によって進行する.すなわち,生活排水,工場排水,汚濁河川水,山林や田畑からの流出水などの湖沼への流入,および底泥からの溶出によって引き起こされる.この富栄養化は,人口が集中し,低地にありしかも浅い湖沼で著しく,アオコ(青粉),水の華,淡水赤潮に代表される今日の大きな社会問題となっている1)

地域リハビリテーションと機能訓練事業

富山県福光町の機能回復訓練事業

著者: 松本由紀江

ページ範囲:P.488 - P.489

◆福光町の概況
 福光町は富山県の南西端に位置し,面積は167.74km2でその68.7%は山林であり,自然の豊かな町である.人口は22,266人,世帯数は5,504戸,老齢人口比率は16.28%と県内35市町村のうち11番目であり,高齢化は年々すすんでいる.逆に出生数は年々減少しており,高齢化に拍車をかけている状態である.

進展する地域医師会の公衆衛生活動 インタビュー

B型肝炎対策に取り組む南宇和郡医師会(3)—肝炎対策の実施の現状

著者: 粉川顕仲

ページ範囲:P.490 - P.491

□キャリアの指導や健康管理はどのように行っているのですか
 粉川 対策委員会のメインテーマの一つは,キャリアのフォローをどういう形でやっていくかということです.
 このシステムでの抗原陽性者のケアの特徴として挙げられることは,保健所のクリニックを中心に行っていることです.

エスキュレピウスの杖

(4)対外調整会議とWHO予算

著者: 麦谷眞里

ページ範囲:P.492 - P.493

1.対外調整会議
 私の働く対外調整部局は,WHOに任意拠出している先進各国との調整が,その主な任務である.これに,UNDP(国連開発計画)などの国連組織が加わる.北欧を担当する者,ベルギー,フランス,スイスなどのフランス語圏を担当する者,というふうに分かれていて,私はこの連載の2回目でも書いたが,日本とヨーロッパのいくつかの国そしてUNDPが,その担当である.これら相手国・相手機関と年に1〜2回公式協議を開いて,その年の任意拠出金の使途を協議する会議が,対外調整会議である.
 さて,そのうちの一つを,4月下旬に担当した.そのことを書こうと思うが,その前にWHOの予算の仕組みを簡単に説明しておかねばならない.

保健婦活動—こころに残るこの1例

さんちゃんありがとう

著者: 高井和恵

ページ範囲:P.494 - P.494

 ある日,福祉事務所から1本の電話が保健所に入った.駅近くの高架下でアルコールの臭いをプンプンさせた結核患者が倒れているという.どうも排菌のまま病院を抜け出してしまったらしい.住所不定で保健所で何とかしてほしいとのこと.救急車で病院へ運ばれたが結核病棟がないため,一晩だけという条件つきで近くの結核病院へ回された.だが,今後の収容先をどうしたものか,アルコールの問題,排菌,糖尿病と三拍子そろっていては入院先の病院探しは難しい.とにかく,本人が実際にどういう状況なのか把握する必要があった.
 課長は,サザエさん(私のニックネーム)1人ではと同僚をつけてくれた.急いで結核病棟を訪問したところ,ベッドより処置室まで歩けないほど衰弱していた.車椅子姿で現れた本人は,こじんまりした体格でおびえた感じさえした.苦しそうに「もう二度と逃げ出したりしません」と涙していた.この時の彼の苦痛は他ならぬアルコールによる離脱症状で,指先にチラチラものが見える,絶壁に立たされたような恐怖であったという.

統計のページ

病気の姿をデータで読む(12)世代の死—競合する死因

著者: 倉科周介

ページ範囲:P.495 - P.500

 ヒトは生まれる時刻を選ぶことはできないと前にも書いた.発車時刻が決まれば,人生の列車の時刻表はおのずと決まってしまう.人生と社会は変化のベクトルが互いに等速順行的なので,位置の移動とその効果を肌で感じることが難しい.世代が違えば社会と出合う年齢が違う.年齢が違えば同じ社会から受ける影響も違ったものになる.世代位置の差によって時間位置の移動による効果は変わってくるのだ.だから社会から受ける影響の連鎖は世代ごとに固有であり,それにしたがって病気と死のパターンも世代ごとに変わるものと考えねばならない.その変化の動向をとらえることが今後の疾病対策の鍵ではないだろうか.

発言あり

マス・メディアと健康情報—保健婦活動をとおして,他

著者: 笠井喜代子

ページ範囲:P.433 - P.435

 今は行政にたずさわっているが,数年前にある町で保健婦活動をしていて不安に感じたことがある.それは,マス・メディアの発達によって地域住民は多くの健康情報を入手できるようになっているが,果たして入手した情報をうまく活用されているかというと,その確証がほとんど見当たらなかったからである.
 ある若い母親は育児に混乱を起こしていたし,お年寄りの方々を集めて健康問題について話し合った時,マス・メディアで得た知識を話題にあげ,次のような言葉をよく使った「あれは体に良いらしいで……」.

公衆衛生人国記

兵庫県—公衆衛生発展の契機

著者: 橋本周三

ページ範囲:P.485 - P.487

兵庫県3代の知事
 兵庫県における公衆衛生の発展には,戦後3代の知事の発想に負うことも多いが,これを支え推進させたのは,多くの優れた医師や行政官の努力でもあった.これら,公衆衛生活動の具体例について,筆者がまじかに仕えた知事の思い出を回顧しながら人国記を綴る.
 昭和29年12月,尼崎市長から県知事になり今は故人となられた阪本勝知事は,人文知事として有名であるが,公衆衛生の事業は,知事時代より尼崎市長時代のほうが意欲的で,ユニークさに富んでいる.

衛生施策の動向・都道府県 新潟県

むし歯半減10カ年運動

著者: 永瀬吉彦

ページ範囲:P.507 - P.507

 WHOは,2000年までに達成すべき歯科保健目標を設定し,その一つとして12歳児の1人平均むし歯数を3本以下にする国際目標を提示し,各国にフッ化物応用を中心とする公衆衛生的歯科保健対策の推進を勧告している.一方,わが国におけるう蝕罹患状況は依然として高い値を示しており,フッ化物利用の遅れがその主因であると指摘されている.このような状況の中,新潟県では,昭和56年度から子供たちのむし歯を半減させることを目標とした「むし歯半減10カ年運動」を県民運動として推進しており,年々着実な成果を上げている.
 この運動の特徴は,第1に県民の共通目標となる達成すべき目標値を定めたことである.第2の特徴は,妊婦から中学生までを対象に,従来から行われてきた歯科健診や歯科保健指導の事業に加えて,乳歯のむし歯予防対策としてフッ素塗布及びフッ化ジアンミン銀塗布を,永久歯のむし歯予防対策としてはフッ素洗口を集団的に行うなど,フッ化物応用をう蝕予防の中心に位置付けていることがあげられる.第3の特徴は,これらの事業の実施主体を市町村としたことであり,県はむし歯予防事業を実施する市町村に対し補助金を交付し,事業の推進を図ってきた.なお,平成2年度における「むし歯半減10カ年運動」推進予算は2,396万円であり,内訳は,啓発普及費890万円,市町村への補助金1,427万円などとなっている.

保健行政スコープ

特例許可老人病院入院医療管理料

著者: 遠藤明

ページ範囲:P.508 - P.509

●はじめに
 平成2年4月に診療報酬が改定された.平成元年4月に消費税導入に伴って微調整が行われたものの,本格的な改定は2年ぶりのことである.
 診療報酬の改定については,診療担当者の代表,保険者の代表および公益の代表からなる3者構成の中央社会保険医療協議会(中医協)において議論が進められ,厚生大臣の諮問に対して行われる答申に沿って行われている.ここでは,今回の老人診療報酬改定の中で特に注目を集めている,特例許可老人病院入院医療管理料について,その背景や考え方を解説したい.

基本情報

公衆衛生

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1170

印刷版ISSN 0368-5187

雑誌購入ページに移動

バックナンバー

icon up

本サービスは医療関係者に向けた情報提供を目的としております。
一般の方に対する情報提供を目的としたものではない事をご了承ください。
また,本サービスのご利用にあたっては,利用規約およびプライバシーポリシーへの同意が必要です。

※本サービスを使わずにご契約中の電子商品をご利用したい場合はこちら