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雑誌目次

雑誌文献

公衆衛生55巻1号

1991年01月発行

雑誌目次

特集 骨粗鬆症の予防

老人保健と骨粗鬆症

著者: 能勢隆之 ,   大城等 ,   中村達彦 ,   山本吉蔵

ページ範囲:P.4 - P.6

◆はじめに
 平均寿命の延長により,高齢化社会が進展している.これを長寿社会に発展させるためには,老化によって起こる疾病(骨相鬆症など)の予防のみでなく,ポジティブ・ヘルスの考えを入れた健康増進に重点がおかれる必要がある.昭和元年〜昭和5年の間に生まれた現在の60歳の人の平均寿命は,出生当時は男45歳,女47歳であったので,すでに15〜20年長生きしていることになる.そのため,今まであまり問題にならなかった骨粗鬆症が老人保健上,重要な課題となり,今日ほど注目されたことはない.厚生省は,「寝たきり老人ゼロ作戦」と銘打って,今までの脳卒中対策等に加えて,新たに寝たきり原因の上位を占めている骨折等を引き起こす骨粗鬆症や転倒を予防するための対策を展開している.

骨粗鬆症の診断と治療

著者: 川嶋禎之 ,   高橋栄明

ページ範囲:P.7 - P.11

◆はじめに
 骨粗鬆症とは単一の疾患ではなく,種々の疾患,加齢,薬物投与などにより骨の量が病的に減少し,これに由来する臨床症状を呈した病態を指している.一般的には,骨量の誠少した状態を総称して骨粗鬆症と呼んでいるが,厳密には臨床症状を伴う場合を“骨粗鬆症”,臨床症状を呈しない骨量のみの減少状態を“骨量減少症”と区別して用いられる.したがって,“骨粗鬆症”の診断に当たっては,まず第一に骨量の減少を客観的に把握すること,さらに骨量減少に由来する臨床症状を確認することが必要である.また,組織学的検査・生化学的検査により,骨軟化症などの骨の質的変化を伴う疾患を除外すると同時に,二次性骨粗鬆症の原因疾患を鑑別する必要がある.
 治療に当たっては,骨粗鬆症という言葉が高血圧という表現と同様,一つの病態を示しているのみであることを念頭におき,種々の薬剤の作用機序を理解したうえで病因に即した治療法を選択すべきである.

骨折の疫学—大腿骨頸部骨折の頻度と予防の手がかり

著者: 細田裕 ,   藤原佐枝子

ページ範囲:P.12 - P.15

◆はじめに
 わが国の老年者数は10年間で約1.5倍に増加し,これにともなって70歳以上の四肢の骨折数も,10年間で約1.5倍に増加している.
 老人の骨折が問題になるのは,数の増加だけでなく,骨折後の経過が,若い人に比べよくないため“quolity of life”が損なわれるからである.例えば,厚生省の患者調査によれば,四肢を骨折して6カ月以上入院する人は,65歳未満では5%に過ぎないが,70歳以上の人では約22%にも及んでいる.特に大腿骨頸部を骨折した場合は,退院しても,歩行に介添が必要となったり,痴呆や寝たきりの誘因になることも少なくない.
 老人の骨折は,骨粗鬆症を基盤として起こり,骨粗鬆症およびそれに伴う骨折の予防は,高齢化社会の公衆衛生上重要な問題である.
 ここでは,厚生省シルバーサイエンス研究事業骨粗鬆症研究班(班長:折茂肇)が行った全国の大腿骨頸部骨折の発生頻度,発生率の調査結果を紹介し,危険因子の解明につながる問題点をあげ,予防への手がかりを述べていきたい.

骨粗鬆症の集団検診

著者: 折茂肇

ページ範囲:P.16 - P.21

◆はじめに
 骨粗鬆症は,最近,社会の高齢化に伴い痴呆とならび非常に注目されている疾患である.わが国においては全国的な疫学調査は行われていないが,約20年前に行われた,慈恵会医科大学整形外科教室の疫学調査結果をもとに,各年代の骨粗鬆症発症数を算出したものが表1である1,2).推定によると1988年の時点では,男性約94万人,女性約380万人,計約470万人の罹患者がいることになる.しかし,医療の進歩に伴う社会の高齢化には著しいものがあり,現在では骨粗鬆症の発症頻度もより高くなってきていると考えられる.そのうち年間約5万人の大腿骨頸部骨折患者が発生し,その治療に要する費用は約400億円と言われており,老人医療費の高騰の原因として大きな社会問題になりつつある.したがって本症を早期に診断し,骨折の予防および適正な治療に努めることが重要となる.
 骨粗鬆症とは,「骨の構成成分である基質と骨塩の比が一定のまま,つまり化学的な組成に変化のないまま,両方とも減少する状態」と定義される.

骨粗鬆症の予防—運動の効果

著者: 楊鴻生

ページ範囲:P.22 - P.26

◆はじめに
 骨粗鬆症では,骨量の低下とその力学的強度の減少に伴い,骨に痛みや骨折を引き起こし,多くの高齢者に生活の制限と苦痛を与えている.高齢化社会の到来とともに,すでに400万人近くの人が,このような状態であるといわれており,今後もますます増加すると予測されている.そして骨粗鬆症は高齢者のquality of life(QOL)を低下させるだけでなく,総医療費に占める,本症の治療費の割合の飛躍的な増加をきたし,アメリカにおいては年間70億ドルを越え,大きな社会問題となっている.本邦においても近い将来,保健医療行政に大きな影響を及ぼすと思われる.それゆえに本症に対しては早急な治療法の開発とともに,予防法についても本格的に取り組む必要がある.
 骨粗鬆症の病因については未だに不明な点も多く,完成した骨粗鬆症に対する治療法は試行錯誤の段階である.近年,疫学的な骨粗鬆症の研究が進み,本症を引き起こしたり,増悪させたりする危険因子(リスクファクター)が解明されるようになった.特に食事におけるカルシウム摂取や,日常生活における運動等が注目されるようになり,その予防効果や,治療への応用が報告されている.

骨粗鬆症の予防—栄養指導

著者: 江澤郁子

ページ範囲:P.27 - P.30

◆はじめに
 日本人の食生活は著しく変化し,かつて経験したことのない飽食時代を迎えた.しかし1988年の国民栄養調査成績1)では,主な栄養素の中で,カルシウムだけが所要量の600mgに届かず,524mgと,その87%にとどまっている.さらに注目すべきことは,図1に示すように,カルシウム摂取量は,1950年代からみればたしかに増加しているが,1965年以降は横ばい状態にあり,カルシウムがいかに摂り難い栄養素であるかを示している.

現代の環境問題・10

食品汚染—細菌性食中毒

著者: 宇田川俊一

ページ範囲:P.31 - P.34

1.はじめに
 厚生省統計資料による平成元年(1989)の食中毒発生状況は,事件数927,患者数36,479,死者数10であり,罹患率は29.6/10万人,事件数は4年ぶりに増加し,食中毒の大型化傾向が続いている.これらの数字を過去10年間(1980〜1989年)の推移と比較してみると表1のようにほとんど変化が認められず,食中毒の研究が進み食中毒事件のあらかたの原因が判明するまでに至ったにもかかわらず,食中毒はまったく減少していないといってよい.さらに平成元年の食中毒を月別発生状況でみると,表2のように例年と同様に7月から9月にかけて全体の58%の件数となり夏季に多発しているが,サルモネラ菌(Salmonella choleraesuis,血清型はS. typhimurium,S. enteritidis,S. litcfield,S. braenderup,S. infantis,S. thompsonなど)および黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)による食中毒は年間を通じて発生している.
 病因物質の判明したものは事件数で84.7%,患者数で89.5%に達している.

研究ノート

老人健診受診状況別にみた高血圧患者の受療状況の検討

著者: 垣内博成 ,   垣内孝子 ,   松原勇 ,   鏡森定信 ,   成瀬優知 ,   中川秀昭 ,   河野俊一 ,   吉居富美子 ,   小谷悦子

ページ範囲:P.35 - P.37

●はじめに
 近年,高齢化社会の進展と共に増え続ける医療費は,大きな社会問題となっている.その対策として,3大成人病の克服ならびに老人医療費の抑制に目が向けられている.しかし,様々な努力にもかかわらず医療費は毎年1兆円程度の伸びを示し,平成元年度には20兆円に達する勢いである.
 1982年Yordiらは,サンフランシスコのある地区において,包括的なコミュニティケアサービスの一環として,中高年者向けの医療を受けた群で1日あたりの費用が低く,それは主に在宅ケアと連携した医療の提供による費用の低下によるものであったと報告している1)
 日本では,昭和58年より国民保健の向上および老人福祉の増進を目的とした老人保健法が施行された.その中で,老人健診は慢性疾患の早期発見,早期治療を具現するものとして重要な役割を占めている.今回我々は,この老人健診の評価の一つとして,老人健診と医療の関連について検討した.すなわち,老人健診受診状況と医療の実態を示す一つの指標である,国民健康保険診療報酬明細書(レセプト)の記載事項との関係を,外来治療中の高血圧患者において調査した.

調査報告

島根県の漁村と農村の生活実態と住民の血清脂肪酸構成

著者: 尾崎米厚 ,   福島哲仁 ,   塩飽邦憲 ,   山根洋右

ページ範囲:P.57 - P.61

●はじめに
 わが国には,現在約432,000人(1985年)の漁民がおり,その75%が沿岸漁業に従事する零細漁家である.最近の漁業経営の不振,国際漁業規制の強化を反映し,漁民は年々減少傾向にあり,しかも高齢化が進んでいる.漁民およびその家族の健康問題に関する公衆衛生学的調査も少なく,また漁村特有のライフスタイルに対応した保健活動も立ち遅れていると思われる.
 今回,我々は,島根県の日本海沿岸の一漁村住民の健康と生活実態を調査し,漁村のコミュニティ・ヘルスケアの課題について検討した.また,循環器疾患に関連し,最近注目されている血清脂肪酸構成を,栄養摂取状況調査とともに測定し,農村住民と比較検討を行い,その特徴的傾向について考察した.

資料

都市勤務者の長期休業に関する研究

著者: 中西範幸 ,   多田羅浩三 ,   田中薫 ,   橋本周三

ページ範囲:P.62 - P.66

●はじめに
 わが国の人口の高齢化と定年延長に伴い,労働力人口に占める高年齢労働著の割合は増加しており,労働力人口に占める55歳以上の者の割合は,昭和第60年の18.0%から20年後には27.8%となることが推計されている.労働者が健康に就労し,その能力を十分に発揮できる職場環境を形成することは,職域における健康管理を推進する上での最も重要な課題となっており,労働環境のめざましい変容に即応した健康管理の対応が厳しく迫られている.このような動向を受けて,昭和63年度に労働安全衛生法の改正が行われ,積極的な健康増進に向けた労働者のための健康管理の方向が示されている.市町村においては,老人保健法などを墓盤として,成人病予防を中心とした健康管理の動きが大きな高まりを見せている中で,事業者責任を基本とする職域の健康管理においては,事業基盤が弱い中小・零細企業の取り組みの不足が指摘されており1〜3),中小・零細企業労働者の健康の確保とその支援は,事業者の責任,国の行政分野としてのみならず市町村としても大きな問題となっている.

地域リハビリテーションと機能訓練事業

地域リハビリテーションの技術—主に作業療法士(OT)のかかわりの中から

著者: 奈良栄子 ,   伊藤利之

ページ範囲:P.38 - P.43

◆はじめに
 近年,地域リハビリテーション(以下リハと略す)に対する認識が深まり,病院単位で,あるいは行政機関が軸となって,各地で様々な取り組みがなされている.地域リハにおける主な対象者は,障害はおおむね固定しており,生活の場が家庭内に限定されていることから,病院や施設で行われる医学的リハとは,その対応技術はおのずから異なるはずである.地域リハは様々な職種の連携で行われており,私たち作業療法士(OT)・理学療法士(PT)もその一翼を担っているが,地域リハの技術はまだ確立しておらず手探りの状態といえる.
 そこでこの小論では,横浜市における地域リハ活動のなかから在宅リハ・サービス事業に的をしぼり,私たちが関わるシステムを簡単に紹介するとともに,OTの立場からこれまでの実践をふまえて,在宅リハにおける技術について雑感を述べる.

保健所機能の新たな展開—飛躍する保健所

今後の地域保健を考える

著者: 藤井秀樹

ページ範囲:P.44 - P.45

◆はじめに
 保健所はいうまでもなく,日本における公衆衛生の第一線機関としての役割を果たしてきた.これが現在進行形なのか,あるいは未来形となりうるのかについて,近年さまざまな議論があり,「地域保健将来構想検討会」の報告書(以下,報告書)が出され,未来形にすべくさまざまな指針が示されている.
 このなかで特徴的なことは,特定の保健所と一般の保健所の類別および機能分担であり,従来よりの事業の見直しと共に,新規事業への取り組みが迫られている.以下,小城保健所における地域保健活動の展望について述べてみたい.

進展する地域医師会の公衆衛生活動 胃集団検診に取り組む津山市医師会・1

3本の柱を中心に医師会事業を展開

著者: 河原大輔 ,   大桑修 ,   額田克海 ,   綾部長徳

ページ範囲:P.46 - P.47

地域的背景と医師会活動の柱
 岡山市からJR線で中国山地を北上すること約1時間30分,岡山県の北部,中国山系の緑に囲まれた盆地の街,津山市に到着する.津山市は岡山県北の中心都市で,市の北部を中国縦貫道が走り,津山市内を起点に関西,山陰,九州方面への交通の要所となっている.街の中心部には吉井川が流れ,古くから歴史と文化に育まれ,そのたたずまいを今に残し,西の小京都と呼ばれてきた城下町である.人口は約8万9千人で,周辺地域も合わせると約14万5千人である.
 また江戸時代末期には蘭学の祖と言われる宇田川玄随(日本で初めて西洋内科学書を翻訳した津山藩医)や洋学者の箕作阮甫その他多くの先賢を輩出した文化と学問の香り高い町であった,現在は歴史的なたたずまいを残しながらも近代的なビルも立ち,地域の政治・経済および文化の中核都市として発展躍進している.

目でみる保健衛生データ

赤痢

著者: 工藤泰雄

ページ範囲:P.48 - P.49

 周知のように,法定伝染病である赤痢(アメーバ赤痢を含む)は,現在も世界的に発生頻度が高く,公衆衛生上依然無視できない疾病の一つである.ここではこの赤痢のなかで,その主体を占める細菌性赤痢に焦点を当て,わが国における最近の動向を概略紹介する.
 図1に,厚生省伝染病統計に基づく1961年以降1988年までのわが国における赤痢の発生状況を示す.本症は,本邦においてもかつては下痢性疾患の一つとして極めて重要な位置を占め,戦前そして戦後も1950年代終わりごろまでは,全国的に水系流行をはじめとする集団発生が多発し,その患者数も毎年数万人にも及ぶ状況にあった.しかし,図からも明らかなように,1960年代に入って患者数は徐々に減少しはじめ,1970年半ばには1,000名前後を数えるまでに至った.これは,主に近年におけるわが国の上・下水道の整備など衛生環境の改善,抗生物質など治療薬の開発・普及などによるものであり,この事情は近年急減をみた腸チフスの場合と同様であるといえる.

エスキュレピウスの杖

(10)医者と官僚機構

著者: 麦谷眞里

ページ範囲:P.50 - P.51

1.ペーパー・ドクター
 小さいころ,私の家(正確には,母方の祖父母の家)は商家だった,すなわち,店先に物を並べて売って生計を立てていたのである.隣近所も,魚屋とか酒屋で,いずれも商売をしていた,小学校で仲の良かった友達の家も,美容院とか塗料店あるいは材木屋,いわゆるサラリーマンの家庭の子はいなかった.今,必死になって思い出してみるが,辛うじてお寺の子と鉄工所の子がいたぐらいで,やはりサラリーマンの子は思い出せない.不思議なことである.私自身,今はサラリーマンだし,厚生省でもWHOでも,私の周りは全員サラリーマンである.医者も,最近はサラリーマン化していて,若い医者が新しく自分の医院を開業することが少なくなってきている.昔は,医者の絶対数が足りなかったため,医師免許の価値も,かなりのものがあった.キャベツが沢山採れた年はキャベツの値段が下がるらしいから,最近のように1年で8,000人も9,000人も医師免許をもらう人間がいるとなると,1個の値段は安くなって当然である.
 ところが,喜ばしいことに,ひと昔前は見向きもされなかった分野が,供給量が増えたことにより見直され始めている.

保健婦活動—こころに残るこの1例

当事者ぬきの支援計画の空回りで学んだこと

著者: 中島歌与子

ページ範囲:P.52 - P.52

 現在Aさんは69歳.家族は夫と子供が4人いるが,子供はそれぞれ独立.子供と父親との関係は良くないが,夫婦の仲は良い.昭和43年,Aさんは幻聴や妄想等の症状を呈し,精神分裂病の診断を受ける.本人に病識が全くないため,病院を退院すると拒薬・受診拒否となり,病状悪化で入退院を繰り返している.63年,心不全で内科に入院.命の保証はできないといわれる.
 前任者からAさんを引き継いだのは,Aさんの夫が1カ月前に軽い脳梗塞で入院(Aさんと同じ病院の内科)し,近くに住む次女がAさんの面倒をみている頃であった.ある日次女から次のような内容の電話があった.「父は現在入院中であるが,父が退院してきても母と一緒に面倒をみることはできない.これまで父には何一つしてもらっていないし,苦労ばかりさせられた.どこか2人一緒に入院できるところを紹介して欲しいと市役所の福祉事務所に相談に行ったが,3年は待たなければならないと言われた.2人一緒に入院させられないなら父だけでも入院させたい.どうしても父の面倒はみたくない.何とか助けてください」泣きつくように頼む次女は精神的にも不安定になっており,一方的に話された.

ケースを変えた家族の力

著者: 山口睦美

ページ範囲:P.53 - P.53

 帰宅すると,今日も郵便受けの中に見慣れた文字の封筒が入っている.差し出し人は,私の文通相手Aさんからである.文通を始めて2年余り,月1〜2回の定期便を私は心待ちにしている.このAさんは,“人間は一つの小さなきっかけで,大きく変わることができる”ということを教えてくれた,思い出のケースである.
 この手紙の差し出し人,Aさんと知り合ったのは,担当していたS村のリハビリ教室の会場であった.

発言あり

エイジング

著者: 尾前照雄 ,   細矢次子 ,   村瀬敏郎

ページ範囲:P.1 - P.3

「エイジングと脳」
 人口の高齢化に伴い,エイジングの問題は医療のみならず,政治・経済の面でも,大きな課題を投げかけている.生物はすべて生まれてから成長し,子孫を次の世代に残し,自らは老いて死滅していく.どの生物にも,寿命には一定の限界がある.
 日本人の平均寿命は,第二次大戦後非常な勢いで延び続け,今や日本は世界で一,二を競う長寿国家になった.医学・医療の進歩がこれに大きく貢献してきたことは当然であるが,広い意味での生活環境の好転も決して見逃がせない.病気を診断し治療するだけでは,この想像を越えた寿命の延長は達成できなかったに違いない.

公衆衛生人国記

香川県—医師会・衛生行政関係者を中心に

著者: 香川清

ページ範囲:P.54 - P.56

はじめに
 香川県は昭和55年に香川医科大学が開講するまで無医大県であったので,戦後の公衆衛生活動はもっぱら保健衛生関係の県職員が,医師会等関係団体の協力を得ながら進めてきた.筆者は昭和22年以来,県職員の医師として琴平保健所を皮切りに現在まで公衆衛生畑に従事してきたので,県内の先輩同僚の方々の活動状況を時代に沿ってご紹介しよう.
 香川県は昔,“玉藻よし”と歌われた讃岐の国一国で,四国の北東部の一隅を占める全国一面積の小さな県であるが,古くから四国の玄関口として宇野・高松間に国鉄連絡船があり,県都高松市には国の出先機関や企業の四国支店が多く集まっている.昭和63年には鉄道併用の瀬戸大橋が児島・坂出間に開通し,本土と地続きになった.本県は美しい瀬戸内海に臨み,屋島の源平古戦場,栗林公園,金刀比羅宮,オリーブと「二十四の瞳」の小豆島等多くの観光地を持ち,気候温暖,降雨や台風は少なく,平坦地が多く交通は便利である.すなわち一般に住みやすい県であり,昭和55年の統計によると,平均寿命は男女ともに全国で上から5位以内にあるが,若者は京阪神あるいは東京に修学や就職し,老人人口比は14.4%と高い.

保健行政スコープ

脳死と臓器移植をめぐる議論

著者: 佐久間文明

ページ範囲:P.67 - P.69

●はじめに
 ここ数年,脳死と臓器移植の問題は様々な場面で議論されるようになってきている.とりわけ最近では,移植希望者の海外渡航,生体肝移植の実施,脳死臨調(臨時脳死及び臓器移植調査会)の発足,一部大学の倫理委員会の脳死からの移植容認など,この問題にとって重要な意味をもつ出来事がたびたび報道されるにつれて,社会的にも大きな関心を呼ぶようになってきた.この問題については,現在脳死臨調において審議中でもあり,行政的に具体的政策を行う段階ではない.したがってこのコーナーのテーマとして,必ずしもふさわしいものではないかもしれないが,この問題の理解のために,わが国でのこれまでの議論の主な論点について,脳死臨調での議論なども参考にしながら,総括的な紹介をしたいと考える.しかし何をどのような順序で議論すべきかということ自体が議論のテーマとなりえることからも,筆者なりの整理であることをあらかじめお断りしておきたい.

基本情報

公衆衛生

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1170

印刷版ISSN 0368-5187

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