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雑誌目次

雑誌文献

公衆衛生55巻3号

1991年03月発行

雑誌目次

特集 保健医療ソーシャルワーク

保健医療ソーシャルワークにおける公衆衛生的アプローチ

著者: 山手茂

ページ範囲:P.152 - P.155

■はじめに
 先進諸国においては,19世紀に近代化が進展するにともなって,「貧困と病気の悪循環」が重大な社会問題として取り上げられ,公衆衛生とともにソーシャルワークが発達し,保健医療ソーシャルワークが成立した.それ以来,ほぼ100年の間に,各国において保健医療ソーシャルワークが進展してきたが,「豊かな社会」における成人病=慢性・難治性疾患や精神障害の増加,高齢化にともなう心身障害老人の増加,核家族・単身生活者の増加などの新しい状況に対しては,まだ十分には対応できない状態にあるように思われる.
 わが国においては,戦後の窮乏期に結核患者の増加をはじめとして,「貧困と病気の悪循環」に陥った患者・家族の問題が重大な社会問題として取り上げられるようになり,保健所・結核療養所などにソーシャルワーカーが配置され大きな役割を果たしたが,経済成長期以後は総合病院・精神病院にソーシャルワーカーが増加しており,「診療の補助者としての医療ソーシャルワーカー」という考えが強まっているようである.

保健医療ソーシャルワークの今日的課題

著者: 荒川義子

ページ範囲:P.156 - P.158

■はじめに
 近年の保健医療分野における著しい変化は,保健医療サービスを必要としている対象者はもちろんのこと,そこで働く者にとっても大変厳しい状況を生みだしている.人口の高齢化,疾病構造の複雑化・長期化に伴う医療費は年々増加してきている.国はやがて到来する高齢化社会に備えて,医療費の抑制を図りつつ,疾病の予防および健康増進のためのプランを立案し,多様な施策を講じてきている.すなわち,国民医療費の適正,かつ効率的な配分をめぐり,入院治療が適切か否かをチェックする入退院判定委員会が病院に設けられて,入院期間の短縮が図られ,長期入院患者は転院あるいは退院を余儀なくさせられている.したがって,患者は地域で生活せざるをえなくなり,医療もこれまでの病院中心から,地域へとその範囲を拡大してきている.
 過去十年にわたって進められてきた行政改革に伴う医療,保健,福祉制度改革は,受身的な要援護者から,自らのニーズに基づいて主体的に選択し,決定する生活者へとその対象者観を転換させ,「自らの健康は自らで守る」という自助努力を促してきている.

地域へのソーシャルワーク—精神障害者へのアプローチ

著者: 伊藤淑子 ,   田尾有樹子

ページ範囲:P.159 - P.162

■はじめに
 精神医療は,日本の保健医療の中でも,その閉鎖性のために批判を受けることが多い領域である.だが,ソーシャルワーカーの雇用については,他の領域よりも積極的になされており,都内82カ所の精神病院の約8割がソーシャルワーカーをおいている,という現状がみられる.業務内容の確固とした位置づけはまだなされていない一方で,これらのソーシャルワーカーには心理的,社会的な広い領域にわたる視点と活動が期待されている.
 筆者の一人である田尾は,1978年から12年間,東京の吉祥寺病院の精神科ソーシャルワーカーとして勤務してきた.病院の変遷と,その中での業務の変化を振り返りながら,精神病院のソーシャルワーカーが患者の社会復帰に関連して,特に地域との関係の中で求められている役割を振り返ってみたい.

地域へのソーシャルワーク—重症心身障害児・者へのアプローチ

著者: 田村惠一

ページ範囲:P.163 - P.166

■はじめに
 1981年国際連合による国際障害者年10カ年行動計画も終盤を迎え,わが国においてもさまざまな情勢変化が見られてきている.とりわけ,重症心身障害児・者への療育サービスの内容については大きく変貌してきており,このことはすべての障害児・者は隔離,差別されることなく,教育・生活等あらゆる場面で一般の人々との統合された生活を送る権利を有するという,国際障害者年のメインテーマであるところの「完全参加と平等」の考え方が,ここ数年急速に浸透してきていることからもうかがうことができる.
 以前は重い障害を持っている人々の生きていく基盤は,少なくとも地域という生まれ育った環境下ではなく,地域とは隔絶された所での生活を余儀なくされていた感がする.その頃の一般的な考え方であった心身障害児・者=施設入所という図式は,今日では都市部と地方部の差異はみられるものの相対的には地域療育の充実と相まって影を潜め,「障害児・者は施設に入れる,または入る」という考えかたをする親・家族・本人は大きく減少してきている.

地域へのソーシャルワーク—在宅ケアへのアプローチ

著者: 磯部雅子

ページ範囲:P.167 - P.170

■はじめに
 暮れもおし迫った頃,74歳の老女が,当病院の外来の医師から紹介されて来室した.彼女の訴えは「胃(癌)の手術をしてから気が弱くなり,一人暮らしが不安になったので老人ホームに入所したいが,入所をとりはからってくれないか」ということであった.
 詳しく経過を聞いてみると,老女は借金(4000万円)をして建てたアパートと株の収入で生活をしていた.身内は妹だけである.「病気になってから気が弱くなり,一人でいるのが辛く,よく眠れず,病院で睡眠薬をもらっている.今後については,すでに家を売りに出しているが,株価の暴落もあり,どのくらいのお金が残るかわからないので,有料老人ホームに入れないのではないか」と心配している.そのため,福祉事務所へ相談に行ったところ,「養護老人ホームへ入所するには,2年くらい待たなくてはならない」と,見通しが立たないことを言われた.そこで,途方にくれ,病院の医師に話したところ,ソーシャルワーカーを紹介されたのである.

家族への医療ソーシャルワーク—援助技法としての一人造形法の試み

著者: 浅野正嗣

ページ範囲:P.171 - P.175

■はじめに
 医療機関における相談援助の対象の範囲は,患者個人のレベルからその上位概念である家族,地域,社会レベルへと広がりをもって,日々の臨床場面で援助活動が繰り広げられている.その中でも,直接的援助としての家族援助の形態は,その方法論において,めざましい進展をみせてきている.医療ソーシャルワーカー(以下MSWと略す)と家族の出会いは,いうまでもなく日常頻繁に行われている.従来からよく話題になったアルコール依存症の家族や慢性疾患の家族,情緒障害児の家族といった範囲から,最近では,痴呆性老人を抱えた家族とか難病患者の家族,末期患者の家族などといった,幅広い領域の家族が相談室を訪れる.しかし,家族との出会いといっても,そこで交わされる話の内容はさまざまである.比較的短時間で解決のできるような軽い問題から,解決には長時間を要し,あるいは軽減することさえできるかどうかといった深刻な問題を抱えた事例までという具合いである.

アニュアル・レポート

公衆衛生の動向

著者: 三好保

ページ範囲:P.177 - P.179

 21世紀への世紀の入口に入る最後の10年となった時期の公衆衛生は,時代の流れと共に大きな変換点に立っていると感じられる.その最大の課題は,平均余命の延長がもたらした世界的な規模で増大の続く人口の老齢化現象であろう.この人口の老齢化が,先進国の中でも,最も早い速度で進行し続けている日本では,最も深刻な問題が山積しだしているのではないかと考えられている.ただ幸いなことに,日本の経済的な発展が局時に進行してきたので,より深刻な事態への発展は少なくて済んでいる状況が続いている.一方では国民所得の向上が,国民の平均余命を延長させる原動力ともなって今日の長寿社会をもたらしたとみることができる.国民所得の向上は,生活の質的向上意欲を刺激し,国民の関心を食生活の充実やグルメ嗜好へと誘導している.食生活の充実と平均余命の延長は,国民の健康意識の高まりを招き,快適で健康な人生指向にかり立てるようになってきた.このような風潮は,人生設計の中により快適性を求めた自己主張の傾向を加速し,旧世代の儒教的人生観からきた画一的な人生論から,新しい世代の快適な人生を求める画一的な新人生論指向が芽生え始めている.

産業衛生の動向—第63回日本産業衛生学会より

著者: 三浦創

ページ範囲:P.180 - P.182

◆はじめに
 第63回日本産業衛生学会・第48回日本産業医協議会は平成2年4月,熊本市で開催された.この学会を通して眺めたわが国の産業衛生の動向を概説する.
 近年の著しい技術革新に伴い,名種産業界における労働態様は大きく変わった.OA化の波は事務所労働のみならず各種産業に及び,機械運転,遠隔操作,監視等の業務が非常に多くなり,これらに関連してOA機器取扱い業務が激増,頸肩腕障害,VDT障害,産業疲労,精神衛生等の諸問題が脚光を浴びている.しかし,その一面,塵肺・産業中毒等の職業病や作業環境の管理・改善,さらに健康管理の問題も依然として大きな問題として残っており,新旧両面の問題に対する研究と実践活動とが本学会に課せられた社会的責務である.
 このような産業界の現状と将来的動向から,産業保健活動を労働者の人間的・生態学的観点より見直すことが大切であろう.したがって,産業医学の現在の動向を知るには,各分野の研究業績を個々に紹介するよりも,本学会の特別講演,シンポジウムおよび特別研修会の内容を見て頂くのが最良と考えた次第である.

現代の環境問題・12

食品汚染—加熱,調理におけるがん変異原物質

著者: 菊川清見 ,   加藤哲太

ページ範囲:P.183 - P.187

●はじめに
 がんの発生には,多くの環境因子が関与しているが,特に食物がその大きな部分を占めていることが,疫学調査などから示唆されている(図1)1).食品中には多種のがん変異原物質が含まれていることが明らかになってきており,これらは,自然食品に含まれるもの,カビ毒(マイコトキシン),前駆物質の組合せによって体内で生成するもの,加熱,調理によって生成するもの,食品添加物,および嗜好食品に存在するものに分類できる.これらのうち,食品を加熱,調理することによって生成するがん変異原物質について概説する.
 加熱,調理によって食品に生じるがん変異原物質として,現在明らかになっているものは,多環芳香族炭化水素化合物,ニトロ多環芳香族炭化水素化合物,ヘテロサイクリックアミンおよびニトロソアミン類などがある.

活動レポート

ボランティア活動を通じての健康づくり

著者: 滝沢佳子

ページ範囲:P.189 - P.191

●はじめに
 新潟県は日本海側のほぼ中央に位置し,面積は長野県に次いで全国第5位の広さを有しており,県の人口は約247万人であり,20市56町36村の計112市町村で構成されている.主軸産業は農業であるが,繊維,金属製品など地場産業も育成されてきている.
 新潟県の保健衛生の特性としては,豪雪,寒冷などの地理的,気象的条件のもと,全国平均に比べ脳卒中・がんなどの死亡率が高くなっている.また高齢化が全国に比較し進んでいる.

報告

日常生活におけるホルムアルデヒド暴露

著者: 土井まつ子 ,   石黒彩子 ,   伊藤泉 ,   鳥居新平 ,   柴田英治

ページ範囲:P.208 - P.212

●はじめに
 ホルムアルデヒドの人体に及ぼす影響は,初期には,職業上の暴露による急性中毒が問題とされた.近年では生活環境下において,ホルムアルデヒドを発生する接着剤や樹脂を使用した合板,塗料,繊維製品,化学製品等の普及とともに家屋構造の変化による気密性の高い住空間における生活様式が増加し,日常生活での暴露が問題となってきている.
 米国では1980年,CIIT(Chemical Industry Institute of Toxicology)の動物実験により発癌性が報告され1),以来空気中のホルムアルデヒドの規制対策が検討されている.西ドイツ,オランダ,デンマーク,スウェーデンではすでに室内のホルムアルデヒド濃度の許容基準が制定されている.わが国においては労働環境下における暴露が問題とされ,工場との敷地境界線における基準値が一部の地域において定められている.しかし,居住環境における暴露に関しては,法的規制はなされておらず,また暴露の実態に関する報告も少ない.そこで,我々は今回,一般家庭の住環境におけるホルムアルデヒド濃度,個人暴露量の実態,および住居条件との関連について,フィルターバッチを用いて調査した.

靴・靴下着用時における趾根部の快適環境要因について

著者: 成瀬正春 ,   青山光子

ページ範囲:P.213 - P.216

 趾根部の快適環境要因を明らかにするため,相対湿度を52±15%,気流を0.24±0.19m/sとし,気温を5〜35℃まで変えて,2種の靴(皮靴とビニール靴)と3種の靴下(綿 100%,毛 100%とナイロン100%)を組合せて着用した時の趾根部の環境を測定した.
 気温に対し,趾根部皮膚温はロジスティック回帰曲線を示し,趾根部相対湿度は一次回帰直線を示し,趾根部絶対温度および同部二次酸化炭素濃度は指数回帰曲線を示した.
 気温,趾根部皮膚温,同部相対湿度および同部絶対湿度は,趾根部の快適環境要因と思われた.
 趾根部の二酸化炭素濃度と快適度との関係は明らかではなかった.しかし,二酸化炭素濃度を測定する事により,趾根部の皮膚温,絶対湿度,相対湿度の上昇は,趾根部の毛細血管拡張に起因するとの示唆が与えられた.また,趾根部の二酸化炭素濃度測定は趾根部の換気状況把握の一指標として有用で有る事が示唆された.

地域リハビリテーションと機能訓練事業

地域リハビリテーションの推進と組織化

著者: 米田睦男

ページ範囲:P.192 - P.195

◆はじめに
 昭和58年施行された老人保健法のもとで,さまざまな地域で,機能訓練事業が展開されつつある.しかし,同法施行後すでに9年目を迎えようとしているにもかかわらず,未実施の地域が全国各地に見受けられるのも事実である.ちなみに筆者のかかわりを持つ宮崎県は平成元年度末現在,県下40市町村中実施しているのは20市町村であったが,県予防課による機能訓練指導マニュアルの作成などもあって,あくる平成2年度には新たに3町が開始にこぎつけた(もっとも,この間,福祉の領域のデイサービスセンターや老人保健施設のデイケアなどの開設もあったことから,保健事業としての通所ケアは23市町村ではあるが,地域リハビリテーションの視点に立てば,その利用者は増えている).

保健所機能の新たな展開—飛躍する保健所

宮崎県日南保健所の活動から

著者: 日高良雄

ページ範囲:P.196 - P.197

●保健所とは何か,これからの保健所とは
 「保健所とは何か,保健所のあり方は」,最近よく言われます.法的に云々ということもありますが,まず何といっても(1)保健所は公衆衛生活動を実践する機関であると考えます.臨床診断と同じく,“地域の統計情報から訴え=問題点を把握し,必要に応じ調査(検査)を実施し,診断を行い,それに基づく対応,活動を実施する.そしてその結果を評価し,新たな問題点の把握を”という一連の活動を実践する機関,対人・対物両分野のサービスを実践する機関なのだということです.そして(2)法に基づき,許認可,監督,指導を行う機関であり,また(3)多種の專門職種が配置されている機関(病院,研究所を除きこのような機関は見当たらない)であり,さらに(4)出先機関としての行政事務処理機関でもある,ということを認識する必要があると思います.
 保健所が何をするところか再認識し,多種の専門職種が配置され,対人・対物サービスを行う行政機関であることの利点を見直し,考える必要があると思われます.

進展する地域医師会の公衆衛生活動 胃集団検診に取り組む津山市医師会・3

受診状況と課題

著者: 河原大輔 ,   大桑修 ,   額田克海 ,   綾部長徳

ページ範囲:P.198 - P.199

綾部理事「ここで,胃検診部の設備の現況をご紹介しましょう.検診車は常に大きな課題でしたが,昭和63年度末に高性能の胃集団検診車に更新しました.これでフィルムの大きさが70mmがら100mmに改められ,高解像力でコントラスト,輝度など全般にわたり診断精度が向上し,読影も容易になりました.また,撮影線量がきわめて少なく,診断能力が高まるとともに被爆線量が減少しました.また,単位時間当たりの撮影人数の増加,受診者の待機時間の短縮など,効率的検診や読影活動が進められるようになりました.」
 津山市医師会は一部負担金2千万円弱で新鋭の検診車を導入した.同時に県医師会と津山市に陳情し,経年的な運営の補助を受けている.

エスキュレピウスの杖

(12)WHO事務局の組織・ワープロ

著者: 麦谷眞里

ページ範囲:P.200 - P.201

1.WHO事務局の組織
 WHOの組織については,これまで折に触れ紹介してきている.また,ところどころ詳しく書いたりもしているが,同じことを何度も聞かれるし,時々とんでもない誤解をしている人がいるので,ここで一度包括的に述べておこうと思う.
 まず,WHOの日本語正式名称だが,日本政府による正式呼称は「世界保健機関」である.よく,世界保健機構と呼び間違えてる人がいる.英語の訳としては正しくても,政府としての統一呼称は「機関」と呼ぶほうが正しい.WHO事務局は,本部と六つの地域事務局とからなっていて,本部事務局長(事務総長)は,31人からなる執行理事会で選挙によって選ばれた後,世界保健総会で承認される.一方,地域事務局長は,それぞれの地域委員会で選挙によって選ばれた後,執行理事会で承認を受ける.いずれも任期が決まっておらず,その都度,執行理事会や地域委員会で決定されるが,伝統的に1期4〜5年となっている.選挙であるから,特に定年はないし,立候補にあたっての性・国籍の別も,当然ない.したがって,たとえば,日本人が3期務めた後,再び日本人が立候補しても一向に構わない.

保健婦活動—こころに残るこの1例

家族の歩み 保健婦の思い

著者: 犬伏明美

ページ範囲:P.202 - P.202

 保健婦として6年半,人との出会いの中から生まれた喜びが,日々の活動の支えとなっている.保健婦は,ケースの気持ちや行動を受け止めることに始まり,保健指導を行っているが,時として,家族や保健婦の考えを優先し,ケースの主体性をおろそかにしがちである.その時,保健婦として,誰のために何をすべきなのか,考えさせられるところである.
 私の「こころに残るこの1例」を挙げるとすれば,精神分裂病の33歳の女性と,彼女の家族のことである.彼女は,高校卒業後,地元の中小企業に3年間勤めたが,家庭の事情もあり退職.その頃発病したものと思われるが,家族は,生来おとなしい性格であるからと,病気には気付かず,24歳で婿養子を迎え,25歳で長女,27歳で二女を出産している.その間,妊娠中も受診しないことなどから,普通ではないと感じつつも,時々,家事や農業も手伝っていることや,婿養子への気兼ねから,治療のルートにも乗らず時間だけが経過していた.保健婦とのかかわりは,昭和62年春,2人の子供の面倒も見ず部屋にこもっている,との近隣からの情報に始まる.だが,当時,多忙であることを主な理由に,家族としては治療の必要性をそれほど感じていない状況にあった.

T子が酒を飲むわけ

著者: 川井八重

ページ範囲:P.203 - P.203

 家庭訪問をしていると,どうしても気になる家というものがある.庭草のありよう,履き物の脱ぎ方,掃除道具の置き方などに,その家族の心の乱れが隠しようもなく現れる,といった感じなのである.
 実際,通りすがりにこのような家をみつけて心に留めていたら,何カ月か経ってから,その家族からその時点に分裂病が出ていたとか,透析患者が出ていたことを聞いたという経験もある.

発言あり

これからの保健所長

著者: 岩尾昌子 ,   櫃本真一 ,   柳尚夫

ページ範囲:P.149 - P.151

「地域保健医療のコーディネータ」
 暮れも押し迫った頃,当所管内では結核集団発生騒ぎがあり,対応に忙殺された.幸い,ツベルクリン反応による感染パターンはみられず,2次発生もなく,まずは一安心であった.のんびりしようと思っていたら食中毒事件が発生し,正月3箇日の保健所は忙しかった.
 宇宙に人工衛星が飛び交い,ハイテクの時代と言われながら,地域住民の一番身近なところでは,昔からの公衆衛生の課題に追われている.加えて環境問題も保健所業務として重要になり,雪深い秋田の山奥でも廃棄物の問題は深刻である.このような時代に,保健所長として,公衆衛生活動の前線でいかに仕事をしていくのか,興味のあるところである.乏しい経験であるが,保健所長に対する考え方を述べてみたい.

公衆衛生人国記

茨城県—衛生行政を中心に

著者: 竹村宏之

ページ範囲:P.205 - P.207

 茨城県の戦後の公衆衛生の発展を顧みるとき,実に多くの人々のご協力,ご支援をいただいてきたものと驚かされるのである.歴代知事,とくに現職の竹内藤男知事は,県民の健康に深い関心を寄せ,保健医療の数々のすぐれた施策を確立されてきた.また,医師会の先生方や大病院の院長はじめ臨床の先生方にも,いろいろな場面でご協力をいただき,関係諸団体の方々にも,大いにお世話になって,今日の茨城の衛生は築かれたのである.これらの方々を一々語る紙数はないので,ここでは直接衛生行政に取り組んできた人たちに焦点を合わせて紹介することにしたい.

保健行政スコープ

がん検診の評価をめぐって

著者: 石塚正敏

ページ範囲:P.218 - P.219

●はじめに
 平成4年度からスタートするヘルス事業第3次計画の策定に向け,現在,公衆衛生審議会老人保健部会小委員会でヘルス事業の各項目について検討が加えられている.その中でも焦点となっているがん検診の見直しについては,裏付けとなる科学的知見を同小委員会における検討材料として提供するため,去る1月11日,国立がんセンターにおいて同小委員会主催による「老人保健法とがん検診に関するシンポジウム」が開催された.
 このシンポジウムでは,近年増加傾向にあり,対応が急がれている肺がん,乳がん,大腸がんについて最新の知見が紹介された.本稿では,これら三つのがんに対する検診の効果の評価を中心に概要を報告する.

基本情報

公衆衛生

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1170

印刷版ISSN 0368-5187

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