icon fsr

雑誌目次

雑誌文献

公衆衛生55巻7号

1991年07月発行

雑誌目次

特集 計画の時代—保健と福祉のリンケージ

〈対談〉計画の時代

著者: 北川定謙 ,   長岡常雄

ページ範囲:P.448 - P.453

 長岡 昨年11月に,厚生省から地域保健医療計画の作成のガイドラインが示されました.これは医療法に基づく都道府県の医療計画を,各々の二次医療圏で推進するためのものですが,この地域計画を作成するにあたっては,二次医療圏内の特定の保健所がその事務を行うこととされたため,私たち保健所の職員は,この地域計画の策定に大きな関心を持っているところです.
 またここ数年,高齢社会の到来を前に医療法だけでなく,高齢者保健福祉10か年戦略(ゴルードプラン)を始めとして,老人保健法や老人福祉法など,保健・医療・福祉の各分野にわたる国レベルの計画が策定され,それを補完する都道府県や市町村レベルでの地域計画の作成が進められようとしています.こうした時期でございますので,本日は永年厚生省でこれらの計画の策定に係わってこられました国立医療・病院管理研究所長の北川先生をお招きして,計画作成の考え方についてお話をうかがいたいと思います.

岩手県の保健医療計画の展開と成果

著者: 佐柳進

ページ範囲:P.454 - P.458

◆はじめに
 昭和60年に医療法が改正され,良質でかつ効率的な保健医療を地域に密着したものとして展開するため,都道府県知事に保健医療計画(「計画」という)の策定が義務づけられた.
 岩手県ではこれに先立って,昭和56年に「岩手県地域保健医療計両」を策定し,県域を9つの保健医療圏に分けて,包括的な保健医療サービスの実現を図った.昭和60年には県総合発展計画の策定に合わせて,新たに「新岩手県保健医療計画」を策定した.これはその後,医療法の改正を受けて見直すこととなり,昭和63年3月に必要病床数の算定などを新たに加え,「新岩手県保健医療計画(改定保健医療編)」(「昭和63年計画」という)を策定した.
 岩手県では現在,新しい県総合計画の策定に取り組んでおり,その時期と合わせて新たな計画の策定作業を進めているところであるが,特に必要的記載事項については,新たな患者実態調査を踏まえて必要病床数の見直しをすでに行い,本年4月1日をもって県報に公示した(「平成3年計画」という)ところである.

神戸市保健医療計画の展開と成果

著者: 中作清臣

ページ範囲:P.459 - P.462

◆はじめに
 いきなり昔話で恐縮だが,昭和50年代前半,私たち衛生局の若手職員は,「白地図のうえに病院のマークを印して,それで病院ができれば世話はない」とからかわれながらも,医療圏の設定や地域中核病院網構想の議論に熱中していた.2001年を目標とした新・神戸市総合基本計画(マスタープラン)に基づく保健医療の具体策が求められていたのである.
 そういえばWHO専門委員会による「包括的ヘルスケア」を,私たちは「保健医療」と呼んでいたが,その用語すら局内で理解されなかった.地域医療という概念がようやく定着しはじめたころであり,「医療計画」という言葉自体がタブーであった.
 一方,「保健所問題」も,都市保健所に対するビジョンが示されず,住民不在のまま公衆衛生関係者のみの議論が繰り返されていた.したがって,昭和53年に執行機関の附属機関に関する条例を改正し,市保健医療計画審議会を設置したものの,最初から長期的,専門的,総合的な保健医療計画の策定というわけにはいかなかった.

保健婦の保健計画

著者: 中田克子 ,   桑原弘子 ,   山根由実子 ,   今村イヨエ

ページ範囲:P.463 - P.466

◆「保健婦の保健計画」作成の経緯
 昭和53年から,国民健康づくり計画が推進され,国民一人ひとりが自らの健康に対する自覚と認識を持つとともに,市町村の保健活動の重要性が強調されるようになってきた.そして,市町村保健婦の活動の拠点として,市町村保健センターが各地に整備されていった.
 保健所と市町村の保健活動の協力は「共同保健計画」などによって推進されてきたが,急速な経済社会の変化によって母子保健,成人保健,老人保健などの保健需要は,質的・量的に大きな変化を来たしている.私たちの活動現場でも,刻々と変わる社会情勢と保健需要への対応,保健事業のあり方の検討などの面で,保健所と市町村の協力が一層不可欠となっている.

東京都の新たな社会福祉の枠組み—東京都地域福祉推進計画

著者: 小林光男

ページ範囲:P.467 - P.470

◆高齢社会へのアプローチ
 東京都は,本年1月「東京都地域福祉推進計画」を策定し,21世紀の高齢社会をいきいきとした福祉社会とするための,新たな社会福祉システムを築いていく道筋を明らかにした.福祉の視点から来たるべき高齢社会を展望し,すべての都民が住みなれた地域で,安心して暮らすことができるよう,福祉をはじめ保健・医療,住宅,まちづくり,就労など関連施策を総合化した地域福祉を,計画的に推進しようとするものである.
 昭和61年7月,東京都社会福祉審議会は,「東京都におけるこれからの社会福祉の総合的な展開について」答申し,21世紀を展望したこれからの社会福祉は,在宅福祉を基調とした地域福祉を総合的に展開することが重要であるとし,その計画的な推進を図るため「地域福祉計画」の必要性を提言した.

釧路市在宅支援センターの実践と課題

著者: 坂本一

ページ範囲:P.471 - P.475

 1990年6月,老人福祉法は大改正され「在宅福祉サービスを推進する」ことが決定された.これに基づき「高齢者保健福祉推進10か年戦略」が施行されることになり,平成2年から「在宅介護支援センター」が10カ年間に1万カ所,設置されることになった.
 北海道内では,平成2年11月1日札幌市と旭川市にオープンし,釧路市では同年12月1日から,特別養護老人ホーム釧路鶴ケ岱啓生園内に介護支援センターを併設し,業務を開始した.

老人保健福祉計画の役割

著者: 尾縄伊孝

ページ範囲:P.476 - P.480

◆はじめに
 昨年6月に「高齢者保健福祉推進10か年戦略」いわゆるゴールドプランの実現を図るため,老人福祉法等関係諸法の改正が行われた.その中で老人保健サービスと老人福祉サービスの計画的かつ一体的な提供を図る観点から,老人福祉法および老人保健法に老人福祉計画と老人保健計画がそれぞれ規定され,市町村および都道府県は,その両方を一体化して老人保健福祉計画(図1)を定めることとされた.
 これは,保健福祉行政の分野においても,今後,計画的な行政手法により,サービスの水準や施設等の整備水準を着実に向上させ,目標値をクリアーしていこうとするものである.
 今後急激に到来する超高齢社会に向けて,計画的かつ総合的・一体的に保健福祉サービスを展開していこうとする計画行政的な手法を導入して,しかも住民に最も身近な市町村において一元的に提供していこうとするものであり,その意味で,具体的な実行性を伴った老人保健福祉計画づくりは大変画期的なものであると思う.

計画づくりのガイドライン

著者: 多田羅浩三

ページ範囲:P.481 - P.484

◆計画の理念—現実からの出発
 人間の健康は個々の人間の固有の心身の状態のなかに存在するものであり,それゆえ人間の健康状態は「健康か,不健康か」という二者択一のものではなく,「健康から不健康へ」と連続した状態にあるものである.
 日本人の平均寿命は,平成元年度において男が75.91歳,女が81.77歳であり,わが国はいまや世界有数の長寿国となっている.このような長寿社会は,わが国の優れた保健,医療,福祉の伝統のなかで達成されたものであり,われわれはその成果に限りない誇りを持つことができると思う.しかし長寿社会であればあるほど,その社会は多様で固有な健康状態の人間を多数包摂しており,それだけに保健,医療,福祉の担う役割はますます大きなものとならざるを得ないのである.

研究ノート

都市勤労者における身体活動状況の把握方法に関する検討

著者: 内藤義彦 ,   飯田稔 ,   谷垣正人 ,   佐藤眞一 ,   北村明彦 ,   木山昌彦 ,   小町喜男

ページ範囲:P.485 - P.490

●はじめに
 近年,機械化・自動化を中心とする生活環境の変化により,身体活動量の不足が社会的な問題として各方面で取り上げられるようになった.しかし,身体活動量の不足がどのような集団においてどの程度認められるのか,その実態を検討した成績はわが国においてはほとんどない.また,身体活動量の不足あるいは過重が循環墨疾患の発症とどのような関連があるのかを検討した疫学調査研究も,わが国においては数少ない1).そこで,今後の循環器疾患予防の観点から,わが国の実情に即した身体活動の疫学的評価方法を開発し,日本人の身体活動と循環器疾患の関連を明らかにする調査研究が望まれる.われわれは,現在,生活環境を異にする各地の集団において,身体活動状況を把握するための研究を展開中である.その一環として,ここでは,都市集団(大阪)における個人レベルの身体活動状況を,新たに開発した身体活動質問票および各種身体活動指標を用いて評価し,循環器疾患のリスクファクターとの関連を検討した成績を報告する.

地域リハビリテーションと機能訓練事業

長崎県における地域リハビリテーションの現状

著者: 宮岡秀子 ,   浜村明徳 ,   道下進

ページ範囲:P.491 - P.497

●はじめに
 昭和53年に地域リハビリテーション(以下リハと略す)関係者の組織として発足した“リハ協議会”では,老人保健法の施行時より長崎県の委託を受け,今日まで7保健所管内2市16町をモデル地区に,地域リハ推進のための事業を行ってきた(昭和58〜60年機能訓練システム研究事業,昭和61〜63年地域リハ推進事業,平成1〜3年地域ケア・システム推進事業).当初,この事業の目的は,ケアやリハに関する社会資源の乏しい地域においても,老人保健法で定められた機能訓練事業や訪問指導などの実施が可能であるかどうか,またその進め方などを研究することにあった.しかし,我々はこの目的のほかに,モデル事業を通じ地域リハの普及を計ることにも力を注いできた.
 我々は,地域リハを「障害によって様々な問題を抱えつつ在宅生活を営む人々の健全な生活を取り戻すこと,またそれを維持していくことを目的とするリハの立場から実践されるところの総合的でしかも継続的な地域総体による活動」と考えている.このような考えに基づき,①直接的援助活動,②組織化活動,③地域住民への働きかけ(公衆衛生53巻4月号を参照1))の3つの活動を実践活動の柱として地域リハを展開してきた.

現代の環境問題・16

廃棄物汚染—一般廃棄物とその対策

著者: 後藤典弘

ページ範囲:P.498 - P.500

 わが国の廃棄物処理法では,廃棄物は品目で定めた「産業廃棄物」とそれ以外の「一般廃棄物」とに分類される.前者による汚染およびその対策については,すでに本シリーズで述べられている1)ので,ここでは後者について述べる.

保健所機能の新たな展開—飛躍する保健所

老人保健法に基づく検診事業と保健所の果たすべき役割

著者: 中村のぶ久

ページ範囲:P.501 - P.504

 昭和58年から開始された老人保健法に基づく各種検診は,昭和62年からの第二次5カ年計画により,平成3年に最終年を迎えることになる.
 この事業主体は市町村にあり,したがって市町村所属の健康に携わる人々の資質は,次第に向上してきている.もちろんこの事業の効率ある推進を図るために,各県に成人病検診管理指導協議会と各部会が設置され,保健所単位には老人保健推進協議会が設けられている.

目でみる保健衛生データ

小児ウイルス性発疹症

著者: 磯村思无

ページ範囲:P.505 - P.507

 小児の発疹性疾患のうち厚生省感染症サーベイランス患者情報対象疾患の主要なものについて,最近の全国統計1)を中心に紹介したい.

エスキュレピウスの杖

(16)健康と体力

著者: 麦谷眞里

ページ範囲:P.508 - P.509

1.はじめに
 先日(4月)の日本出張は散々だった.というのも,直前の復活祭休みを利用してバル・ディゼールヘスキーに行っていて.そのため顔が雪焼けしたままだったので,会う人ごとにそれを咎められ,別段悪いことをしたわけでもないのに謝ってばかりいたからである.今回は,まず,そのあたりの話題を中心に,健康と体力ということについて考えてみたい.

保健婦活動—こころに残るこの1例

在宅ケアを希望する家族とのかかわり

著者: 佐野静子

ページ範囲:P.510 - P.510

 人口の高齢化に伴い,質と量を伴うケアの需要は増大してくる.当保健所では昭和58年より,痴呆老人の相談指導に取り組み「痴呆老人の地域ケアシステムの検討」を重ねてきた.保健・福祉・医療の総合的観点から,保健所(保健婦)がネットワークの核として推進役となる必要性を感じ,「関係機関の検討会」,「家族会」の育成,ボランティアの「託老所」への支援等実施してきた.この事例とかかわる中で,「在宅ケアの充実」を中心に支援ネットワークが広がり,家族の「在宅で看とりたい」という気持ちを全うできたので紹介する.

出会いから7年が過ぎて

著者: 松永絹子

ページ範囲:P.511 - P.511

 7月のある朝,私はけたたましい電話の音で起こされました.受話器をとると,「絹子さん? 今日で,断酒7年めの記念日が来たよ.あなたに,1番に知らせたくて」と,とてもはずんだ声が,寝ぼけた私の耳にとびこんできました.夜の明けるのを待ちかねるようにかかってきた電話は,以前担当したアルコール症のTさんからの,断酒が7年間続いたという,うれしい知らせでした.その声は,私に,Tさんとの出会いの頃や,その後のかかわりを思い起こさせました.
 それは,私が就職して間もない昭和58年のことで,Tさんの他にも,アルコール症で入院するケースが多く,本当に,どう支援していけばよいか模索している頃のことでした.

発言あり

食中毒

著者: 植田昌宏 ,   高原順子 ,   中林圭一

ページ範囲:P.445 - P.447

「社会の発展とウイルスについての一考察」
 筆者は,公衆衛生分野においてウイルスの増殖様式や遺伝学的性状を研究している者であり,「食中毒」についての専門家ではない.「食中毒」という言葉を聞いて頭に浮かぶことは,1970年位まではサルモネラやビブリオを,1980年位にはそれらにウェルシュとウイルスが加わった.筆者の成長につれて知識が増えたのかと考えて見ると,それだけではない.科学技術の一般生活への普及と検査技術の進歩によるものであると結論される.科学技術の進歩は,一般家庭に冷蔵庫を普及させると共に,低温の方がむしろ生存に好適環境であるウェルシュをも普及させた.検査技術の進歩あるいは応用により,「食中毒」のあるものはウィルスで起こるということが一般的に認知され,筆者もそれらしきものの洗礼を受けた.生の貝を酒のつまみにした翌日であり,ほぼ1日不調であった.筆者の知識では,植物や魚介類で遺伝子の維持を図っているウイルスが,ヒトに急性な病気を起こすことは無い.ヒトに病気を起こすウイルスは,動物や鳥由来のウイルスである.それ以後,「食中毒の原因としてのウイルス」にも興味を持った.

公衆衛生人国記

静岡県—衛生行政関係者を中心に

著者: 中尾仁一

ページ範囲:P.512 - P.514

 静岡県は本州中部の太平洋岸にあり,東西約153km,南北約115km,海岸線の総延長約506kmに達する.総面積7,771平方キロは,都道府県中第13位を占める.
 太平洋に南面し,北には南アルプス連山が壁となって,冬季,大陸の寒気をさえぎる役割を果たしているので,気候が他に比して温暖であり,第一次産業等多彩な発展が見られ,また近代以降は東西を結ぶ交通事情も発達したことから,第二次産業の発展も順調であった.富士山をはじめ自然の景観には優れたものがあり,温泉も至るところに湧出しており,これに伴う第三次産業の発展も顕著である.

基本情報

公衆衛生

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1170

印刷版ISSN 0368-5187

雑誌購入ページに移動

バックナンバー

icon up

本サービスは医療関係者に向けた情報提供を目的としております。
一般の方に対する情報提供を目的としたものではない事をご了承ください。
また,本サービスのご利用にあたっては,利用規約およびプライバシーポリシーへの同意が必要です。

※本サービスを使わずにご契約中の電子商品をご利用したい場合はこちら