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雑誌目次

雑誌文献

公衆衛生55巻9号

1991年09月発行

雑誌目次

特集 食品衛生の新しい動向

輸入食品の安全対策—検疫所におけるチェック体制

著者: 稲葉博

ページ範囲:P.592 - P.595

■はじめに
 今やわが国の食生活は戦後の食糧不足の混乱からは予想もできないほど豊かになった.豊かさが増してくると人々は,必然的にその質的向上を求めることとなる.食品の安全性への関心の高まりもその一つの表れであり,人々は問題意識を持ち,しかもそれが,日常生活レベルのこととして定着してきている.それはここ数年の食品の安全性に関する消費者運動の流れをみても理解できよう.一方,外国から輸入される食品は,後に触れるように増加をしている.これらは国内で生産される食品と比べて,その生産地の気候風土,生産状況,製造加工の実態,保管,輸送状況等が必ずしも明らかなものが多いとはいえないことから,輸入食品の安全性確保に関する社会的な関心はますます強くなってきている.
 本稿では,わが国の輸入食品の安全性確保の最前線の現状について解説を試みたい.

輸入食品の安全対策—東京都食品環境指導センターの活動状況から

著者: 花澤孝悌

ページ範囲:P.596 - P.600

■はじめに
 わが国の食糧自給率(カロリーベース)は,48%と欧米に比べかなり低いといわれており,食卓の半分は,輸入食品に頼っているといえる.
 世界各国の珍しい食品が日常の食卓にみられたり,国内で生産されていたと信じていた生鮮食品までが実は輸入食品だったりして,輸入食品は,大変身近なものになっている.その反面,消費者の間で関心が高まっているこれら輸入食品の安全性について,市場に出回ると,どのように監視・検査されているのか,現在の東京都の例を紹介しながらこれらの安全対策を考えてみたいと思う.

食品添加物・収穫後使用農薬

著者: 牧野利孝

ページ範囲:P.601 - P.606

■食品添加物
 消費者ニーズの多様化,個性化の流れの中で,食品分野においても,新しいコンセプトを求めて新たな食品や多種多様の加工食品が製造され,販売されるようになっている.このような加工食品の製造に重要な役割を果たしているのが食品添加物である.ここでは,化学的合成品たる食品添加物の指定および削除に関する基本方針と食品添加物の表示について述べることとしたい.

特定保健用食品について

著者: 今田寛睦

ページ範囲:P.607 - P.611

■はじめに
 わが国は戦後の急速な経済発展により,生活レベルの向上とともに保健衛生をめぐる環境も著しく改善され,その結果世界に誇る長寿国となったが,その一方でがんや高血圧,心臓病などの成人病の増加が新たな課題として浮かびあがってきた.寿命の伸長や疾病構造の変化は,単に医療技術の進歩のみならず,経済状態や生活環境,社会環境などとも深く関わっており,食生活もその重要な部分を担っている.そもそも食品には私たちが生きていくうえで必要な種々の成分が含まれており,これらを摂取することで生命を維持し,健康を保ち,成長を促し,体力を増強させ,疾病を予防し,またこれを回復させている.そこで食糧事情や食習慣,個人の嗜好の偏り等から必要な成分を取り損なったり,過剰に摂取したりすることにより,さまざまな健康上の問題が生ずることになる.
 一方,科学技術の進歩により,これら食品に含まれる成分の分析が進み,それぞれの働きが明らかとなるにしたがって,どの成分をどの程度摂取すればいいか,そのためにはどのような食品をどの程度食べればいいかが明らかとなってきた.

食鳥肉の安全確保対策について

著者: 大島徹

ページ範囲:P.612 - P.616

■はじめに
 昭和30年代後半からわが国の畜産は,畜産振興施策の推進とともに急速に発展し,食肉の生産および消費が増大した.とりわけ,食鳥肉の消費量は昭和40年以降増大し,平成元年には約172万トンと昭和40年(約21万トン)の約8倍に達し,その消費比率は,豚肉の42%に次いで第2位の34%を占めるまでに至っている(表1).
 厚生省では,増大する食鳥肉の安全性を確保するため,昭和53年に異常鶏の判定および処理加工の取り扱いに関する基準を盛り込んだ「食鳥処理加工指導要領」を関係機関に通知し,営業者の自主検査の強化を図った.
 しかし,食鳥肉のますますの需要の増加,カンピロバクター等による食鳥肉が原因と思われる食中毒の発生の増加,輸入食鳥肉の増加等により,厚生省では,公的検査の制度化を検討するため食鳥検査制度検討委員会を設置し,昭和62年5月の同委員会の最終報告書を基に法案化し,平成2年6月「食鳥処理の規制及び食鳥検査に関する法律」(以下「食鳥検査法」)が制定された.食鳥検査に関するものを除く部分は本年4月からすでに施行されており,来年4月からは食鳥検査が実施されることになった.

食中毒の予防—食中毒の現況

著者: 伊藤武

ページ範囲:P.617 - P.621

■はじめに
 食品に起因する急性の健康障害を食中毒と総称するが,食品媒介による赤痢やコレラの流行は経口伝染病として区別されているし,食品を媒介としたA型肝炎などのウイルス性疾患は行政上の対応からは食中毒としていない.食品衛生に対する積極的な推進とその啓蒙などにより食中毒も変貌を遂げてきたが,食生活の多様化,食品の国際流通の拡大,集団給食,外食産業の著しい発展など食生活の変化あるいは病原微生物の新たな発見により,さらに新しい問題が提起されてきた.ここでは現況の食中毒発生状況と問題視されてきたサルモネラや腸管出血性大腸菌食中毒,リステリア症と小型円形ウイルスによる下痢症についてふれる.

食中毒の予防—きのこ中毒と衛生対策

著者: 山浦由郎

ページ範囲:P.622 - P.625

■はじめに
 きのこはその用途によって食用,薬用,鑑賞用などに分けられる.食用としてのきのこは日本の秋の味覚を代表し,日本人は世界でも有数のきのこ嗜好民族である.ことに飽食時代の今日,グルメ志向や健康志向食品,機能性食品として,野生きのこはたくさんの人に利用され,よく食べられるようになった.反面,例年毒きのこの誤食による食中毒が頻発しており,食品衛生上の問題にもなっている.
 きのこ中毒はこれまで,そのほとんどが家庭に起因する家族単位で発生していたが,近年それに加えて新しい型の事例が発生している.例えば,野外でのバーベキューに参加した仲間29人のツキヨタケによる集団食中毒1),また食品関係営業者が介在していた事例が一昨年,昨年と続いて発生した.すなわち,飲食店が提供した料理に混じっていたクサウラベニタケによる客17人の集団食中毒2),路上販売されていたクサウラベニタケによる6家族,13人の食中毒事件3),さらに観光地の売店で購入したクサウラベニタケを自宅に持ち返って食べた1都2県の15家族,44人の食中毒事件4)など,最近のきのこ中毒は細菌性食中毒の場合と同様に集団化,広域化の傾向がみられる.

食中毒の予防—集団給食施設での対策

著者: 大竹俊秀

ページ範囲:P.626 - P.629

■はじめに
 集団給食施設とは,食品衛生法第29条第3項に規定される営業以外の準用施設であり,「営業以外の場合で寄宿舎,学校,病院等の施設において継続的に不特定又は多数の者に食品を供与する施設」と定義付けられている.
 さて,近年の食中毒の発生状況を見ると,昭和55年から昭和59年までの全国食中毒事件録1)によれば,5年間での食中毒発生件数は5,174件で,患者数は実に168,407名に達している.
 うち,集団給食施設が直接の原因となったものは保育所,福祉施設等を含めると400件を越え,患者数は46,000余名にもなっている.件数的には発生件数の10%にも満たないが,患者数は30%近くにもなっている.
 集団給食施設における食中毒での患者数が多い原因としては,特に学校給食施設の患者数が5年間の平均で,1件当たり150人と多いことがあげられる.
 そこで,本稿では昭和63年から平成2年まで筆者が行った調査結果等を基に,集団給食施設の中でも,食中毒1件当たりの患者数の最も多い学校給食施設を取り上げ,学校給食施設における加熱調理技法を中心に,食中毒の現状と今後の課題について考えてみたい.

新しい食品を目指す—加圧食品

著者: 林力丸

ページ範囲:P.630 - P.633

■はじめに
 食品分野への圧力利用に関心が広く寄せられるようになった.このわが国に独自のこの現象の背景には,世界に例がないほど急速に進む都会化がある.かつての農村人と違い,都会人は「食」に利便性を求める.このためには高い保存性と簡便な利用形態が必要だ.これに食品産業は過度の加熱処理とパック食品で応えざるを得ない状況である.しかし,この方法は風味の犠牲を伴うことに,作る側も食べる側も気付き始めた.必然的に「非加熱加工」や「非加熱殺菌」の新しい方法を求めることになる.熱(T)に限界があるなら,圧力(P)を使おうというのが,食品分野への圧力利用の社会的背景であり,筆者の動機となっている.
 利用する圧力は一万気圧までの水の圧縮である.幸いなことに,これを達成する装置産業の裏付けもセラミックスの分野で発展している.このような時代を背景に,熱を使うように圧力を使えば,食品を中心とする生物関連領域における研究と産業に大いに役立つという認識が広まってきたといえよう.

活動レポート

高脂血症教室のあり方を考える—自主活動グループへの発展を通して

著者: 森田佳重 ,   新倉和子 ,   有沢貴美栄

ページ範囲:P.634 - P.636

●はじめに
 横須賀市は,神奈川県の東南部に突出した三浦半島の主要部を占め,東は東京湾,西は相模湾,南は三浦市,北は横浜市,逗子市及び葉山町に接する略菱形の地形をなす行政区である.人口約44万人(平成2年10月現在),市街は平地を中心として,北郷,中央,東部及び西部地区を分散し,一環した形態を構成していないところに特徴がある.
 南部保健所は,市の南東部に位置し,人口約14万人で,昔ながらの農村・漁村地域がある一方,丘陵地の開発が進められている.
 本市では,昭和58年度より,医師会委託の形で一般健康診査(以下,一般診査とする)を行っている.昭和61年度からの一般診査は,医師会委託による個別診査と保健所での集団健診を並行して実施することになった.集団健診の受診状況は,表1,2の通りである.南部保健所では,受診者の半数以上が要注意者であることから,集団健診終了後,健康教室を実施してきた.

現代の環境問題・18

騒音・振動—苦情とその対策

著者: 和田忠幸

ページ範囲:P.637 - P.641

■はじめに
 騒音・振動は各種公害の中でも最も身近な公害であろう.というのも,私たちの身近には生活に不可欠なものとして自動車,鉄道などの交通機関,工場,建設工事,商店街などが存在し,これらは潜在的に騒音・振動を発生する可能性を持っていて,さらには,私たちは生活者として常に騒音・振動の発生者ともなりうるからである.
 一般的に大気汚染や水質の汚濁などの公害が,汚染の蓄積(濃度)と生態系や生活環境との関係で問題にされ,ひとが感覚器官で直接感知しにくいのに対して,騒音・振動は,ひとが感覚器官で直接感知してから,その騒音・振動について妨害・嫌悪を示す程度が問題となることが多い,いわゆる感覚公害(一部,振動などによる物的被害もあるが,大部分は感覚的被害である)であり,一過性ということもあって,単にその物理量のみでは評価することができない面を持っている.
 これらの騒音・振動の性質と社会情勢の変化および人々が求める生活環境の質の変化が,騒音・振動の評価,対策を難しくしているものと考えられる.

特別寄稿

わが国における感染症の情報システムの沿革・1—病原微生物検出情報システム誕生の前夜

著者: 大橋誠 ,   宮村紀久子 ,   倉科周介

ページ範囲:P.642 - P.644

 有効な疾病対策には適切な状況把握が不可欠である.つまり情報の収集である.むろん,感染症の対策も例外ではない.にもかかわらず,過去の感染症全盛期には,苛烈な現実への対処に追われて,こうした活動に社会資源が割かれることはむしろ稀であった.それゆえに,心ある公衆衛生の専門家たちは,機会あるごとにその改善を要路に訴える努力を重ねてきた.その甲斐あってか,結核・感染症サーベイランス事業の発足とその保健所等情報システム整備事業への組み込みなど,最近に至ってようやく感染症情報収集の組織化への動きが急である.患者情報と並んで感染症情報の一方の主軸をなす病原体情報の収集活動に親しく関与してきた筆者らにとって,こうした状況の変化はまことに感慨深いものがある.わが国の病原体情報のシステムは,病原微生物検出情報の名のもとに,全国の地方衛生研究所(地研)と国立予防衛生研究所(予研)が協力して維持に当たってきた.このシステムの沿革を感染症の動向と併せてたどりながら,感染症対策発展の方向性を考えてみたい.

保健所機能の新たな展開—飛躍する保健所

岡山県阿新保健所における情報システム

著者: 発坂耕治

ページ範囲:P.645 - P.648

 阿新保健所は岡山県の西北部に位置し,1市4町を管轄するL5型の保健所である.管内人口は年々減少し,1990年10月現在42,266人で,県人口の2.2%を占めている.また65歳以上の人口割合は19.8%(1989年10月)を占め,高齢化が進んでいる.
 地域保健将来構想検討会において保健所は,地域住民に対する保健,医療の情報提供を行うこと,地域保健医療計画の作成,推進に関する企画,調整を行うこと等が盛り込まれた.そこで今回,これまでの阿新保健所における情報システムについて検討し,報告したい.

進展する地域医師会の公衆衛生活動 壱岐島健康会議と地域リハビリテーション研究会—壱岐郡医師会・2

健康会議の発足とその活動

著者: 益川隆興 ,   光武新人

ページ範囲:P.649 - P.651

 4町ぐるみで壱岐島住民の健康を守る組織をつくろうという動きがまとまり,地域活動部会を事務局として昭和63年2月に「壱岐島健康会議」が発足することになる.この健康会議の目的は「壱岐島における住民の健康の保持増進,住民への健康情報の提供および啓蒙を図ること」である.
 メンバーは壱岐郡内4町の各町長,福祉事務所長,教育事務所長,高校および商業高校長,老人クラブ連合会長,連合婦人会長,地元記者クラブ,保健所長,国立病院長,公立病院長,歯科医師会長および副会長,医師会長および副会長,医師会地域活動部会長の19名である.すなわち,健康会議は保健医療福祉に関係する島内のトップを網羅した医師会主導型の任意団体といえよう.会長に医師会長が就任し,副会長に医師会副会長および町村会長が就いている.

目でみる保健衛生データ

無菌性髄膜炎—厚生省感染症サーベイランス事業

著者: 宮村紀久子

ページ範囲:P.652 - P.653

 日本の無菌性髄膜炎の流行状況は,1981年に開始された厚生省感染症サーベイランス事業と,この一環である病原微生物検出情報によって全国的に全体像が把握されるようになった.これによれば,無菌性髄膜炎の主な病因はエンテロウイルスとムンプスである.サーベイランス事業で報告される無菌性髄膜炎患者の発生カーブは,エンテロウイルスの分離状況とよく一致し,エンテロウイルスの動向が無菌性髄膜炎の動きをよく説明する.
 図1に1982〜90年の無菌性髄膜炎の患者発生状況と,1983〜90年に髄膜炎患者から分離された主なエンテロウイルスの月別報告数を示した.無菌性髄膜炎は夏季に毎年類似したパターンで増加するが,その病因は年ごとに違うウイルス型で,単一型の大流行が主流であったり複数の型の流行の組合せであったりする.(ただし,図1の患者発生パターンでは,1987年以降,報告様式が週報から月報に切り替えられたため,1986年以前については換算値を示したが,後半との比較は必ずしも適切でないかもしれない.)

エスキュレピウスの杖

(18)平家・海軍・国際派

著者: 麦谷眞里

ページ範囲:P.654 - P.655

1.平家・海軍・国際派
 見た目が格好良くて,かなりのところまで順調だが,結局は天下を制することのできない典型が,この三者だそうである.誰が言い出したのかは知らないが,言い得て妙で,通説になっている.平家・海軍の両者については,私よりもっと専門家が大勢いらっしゃるし,もとより私には語る資格がないので,ここでは話を三番目の「国際派」に絞ることにする.少し前までは,民間企業の国際派は,海外駐在が長く,一時は日本に帰って来ても,やがて再び海外勤務が巡ってきて,そうこうしているうちに,本社の役員人事から外れてしまう,というパターンを指していた.もちろん本社の社長にはなれなかった.こういう人たちにも二種類あって,自ら望んでそうなった国際派と,何となく人事異動のめぐり合わせで,気がついたら国際派と呼ばれていた,という人もいる.一方,役人は,そもそも外交官を除けば,もともとが国内行政指向であるから,国際派なるものは,存在しないか,してもきわめて少数派であることが多かった.民間でも役所でも,あまり国内の仕事から離れていると,感覚が鈍り,人脈も育たず,結局使いものにならなくなってしまう,という風潮があった.

保健婦活動—こころに残るこの1例

夫婦愛に支えられた在宅ケアの思い出

著者: 今西浩美

ページ範囲:P.656 - P.656

 寝たきり老人や病人の在宅ケアの中で,家族の果たす役割の大切さと苦労に今さらながら,保健婦活動のあり方を考えさせられているこの頃である.ともすれば家族に期待をかけすぎ,患者さんにとっての思いが先立ち,あの方法やこの方法がよいなどとお願いをし,家族の生活を無視してしまうことがある.O江さん夫婦との出会いは,私にとってよりよい在宅ケアのあり方,また人として生き方を考えるという点で,大いに反省し励みになったケースである.
 O江さんとの出会いは,町ヘルパーからの紹介を受け,朝夕の冷えこみがこたえるようになった秋の日に訪問した時から始まる.O江さんは,10年前より脊髄小脳変性症のため,悪化しては入退院を繰り返し現在に至っている.その時は,夫と事情があって別居生活をしており,公団住宅で比較的移動に便利な1階に住んでいた.この頃の状態は,膀胱障害のために自立排尿が出来ず,補助具によって排尿を行うことや,物につかまりながらゆっくり歩くことに不便を感じていたが,買物や食事など日常生活はなんとか自立していた.しかし,寒くなるにつれて状態が悪化し,歩行困難をきたしてきた.

家族保健指導への気づき

著者: 松本正子

ページ範囲:P.657 - P.657

 A君家族とは,転勤の都合で,短期間のかかわりであったが,公衆衛生看護の特性とされる家族保健指導について考えるきっかけを与えられたことで,心に残る1事例である.
 A君は,在胎36週,1,280gで生まれ,脳障害のため痙攣が頻発し,入院を余儀なくされていたが,1歳の誕生日を過ぎた頃,初めて帰宅してきた.そのA君家族に対するかかわりを振り返ってみる.

発言あり

日本の風土

著者: 長尾立子 ,   増田進 ,   村上茂樹

ページ範囲:P.589 - P.591

「フィランソロピー」
 わが国民は,流行語が好きだけれど,最近の流行語はメセナとフィランソロピーだそうである.いずれも舌を噛みそうな,耳慣れない言葉だが,企業の社会的貢献が,このように多くの人々の関心を呼ぶようになって来たことは喜ばしい.
 企業の社会的貢献というと,1%クラブや6冠イベントのように,企業利益の一部を,社会福祉や保健・医療の分野に寄付をしていただく形のものを思い浮かべがちである.しかし,このフィランソロピー活動は,もう少し積極的な意味を持つもののようである.われわれ個人が,医師であったり,弁護士であったり,商社の社員であったりと,その本業の上で,社会的に有用な活動をする面ともう一つ,地域社会での一員として,子供会活動に参加したり,街のお祭りの企画に加わったりという,市民としての面を持つように,企業もまた,良き企業市民として,企業が属する社会の一員としての活動を持たねばならないという理念に基づくものである.

公衆衛生人国記

福島県—公衆衛生を支えた人々(昭和20〜50年代)

著者: 辻義人

ページ範囲:P.658 - P.660

 この年代の公衆衛生の社会的背景は,赤痢をはじめとする急性伝染病予防,結核対策,母子保健などが中心的課題であり,大変ではあったが,一面公衆衛生の華やかな時代であったともいえる.
 この時代の公衆衛生を担った人々について述べるのが,筆者に課せられた役目であるが,公衆衛生活動は本質的に集団プレイであるので,この中から特定の人を取り上げるのは至難の業ともいえる.しかし,福島県公衆衛生に30年にわたって関わりをもったものとして,記憶に残っている人について,独断のそしりを承知の上で述べることにする.記録に残すべき人を落としてはいないかを虞れるものであるが御了承いただきたい.(文中の敬称は省略した).

保健行政スコープ

献血血漿と血漿分画製剤

著者: 大井田隆

ページ範囲:P.663 - P.665

●はじめに
 わが国の血液事業(血液を集め医療機関へそれを供給するシステム)は,昭和39年の米国のライシャワー大使が輸血後肝炎を発症したことによって,いわゆる“売血”から“献血”へ切り替ることができた.同大使は暴漢に襲われ負傷し,その治療のために輸血を行ったところその血液から肝炎に感染し,当時,大きな国際問題にもなったのであった.そして同年8月には「献血の推進について」の閣議決定がなされ,献血運動が盛り上がり,ようやく昭和49年に全血,成分製剤(血液を赤血球,血小板,血漿などに分けて作ったものを成分製剤という)はすべて国民の献血をもとにした血液事業によって供給するようになった(図).
 昭和50年代に入ると図の血漿分画製剤(血漿の中に含まれるタンパク質を分けて製剤にしたもので,大きくはアルブミン,グロブリン,血液凝固因子各製剤になる)が急激に使用されるようになったのである(表).

基本情報

公衆衛生

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1170

印刷版ISSN 0368-5187

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