公衆衛生55巻9号

1991年09月発行

特別寄稿

わが国における感染症の情報システムの沿革・1—病原微生物検出情報システム誕生の前夜

著者： 大橋誠¹ 宮村紀久子² 倉科周介³

所属機関： ¹東京都立衛生研究所 ²国立予防衛生研究所ウイルス中央検査部血清情報管理室 ³東京都立衛生研究所環境保健部

ページ範囲：P.642 - P.644

　有効な疾病対策には適切な状況把握が不可欠である．つまり情報の収集である．むろん，感染症の対策も例外ではない．にもかかわらず，過去の感染症全盛期には，苛烈な現実への対処に追われて，こうした活動に社会資源が割かれることはむしろ稀であった．それゆえに，心ある公衆衛生の専門家たちは，機会あるごとにその改善を要路に訴える努力を重ねてきた．その甲斐あってか，結核・感染症サーベイランス事業の発足とその保健所等情報システム整備事業への組み込みなど，最近に至ってようやく感染症情報収集の組織化への動きが急である．患者情報と並んで感染症情報の一方の主軸をなす病原体情報の収集活動に親しく関与してきた筆者らにとって，こうした状況の変化はまことに感慨深いものがある．わが国の病原体情報のシステムは，病原微生物検出情報の名のもとに，全国の地方衛生研究所（地研）と国立予防衛生研究所（予研）が協力して維持に当たってきた．このシステムの沿革を感染症の動向と併せてたどりながら，感染症対策発展の方向性を考えてみたい．