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雑誌目次

雑誌文献

公衆衛生56巻1号

1992年01月発行

雑誌目次

特集 日本の人口・世界の人口

人口を考える—公衆衛生の視点から

著者: 華表宏有

ページ範囲:P.4 - P.7

◆はじめに
 今年は,コロンブスの新大陸発見からちょうど500年目に当たる.その当時の世界人口は,3億から4億程度であったといわれる.
 国連人口基金から毎年発表されている世界人口白書(1991年度版)をみると,すでに54億を越えた人類は,2001年には64億になると予測されている.その中で,1億2,000万余りが37万平方キロの狭い国土に生活しているわが国では,21世紀を目前に控えた大きな時代の潮流として,「成熟化(高齢化)」,「情報化」,「国際化」の3つが注目されている.
 今回の特集「日本の人口・世界の人口」の中で,やや総論的に「人口」を「公衆衛生の視点」から考えるには,一体どんな切り口が期待されているだろうか.よく考えてみると大変な難問であり,その人の世界観やこまかい専門領域の相違によって,「公衆衛生の視点」にも様々な濃淡がありうることを,率直に認めないわけにはいかない.

現代の人口問題—世界と日本

著者: 河野稠果

ページ範囲:P.8 - P.12

◆世界の人口問題
 世界の人口問題を一言でいえば,急速な人口増加問題である.国連人口部の推計によれば,1991年現在の世界人口は53億8,533万で,ざっと54億である1).世界人口が50億になったのは1987年であったが,50億の半分の25億であったのは1950年であった.したがって,37年間に世界の人口は倍になるという急速な人口増加ぶりである.そこで,25億の半分の12.5億であったのはいつだったかを調べてみると,デュラン(John D Durand)の推定によれば1850年頃であり,その期間人口が倍になるのは100年もかかっている2).こうしてみると,第二次世界大戦後に人口増加が急に速くなったのを知ることができる.
 表1に,1990年に国連がまとめた世界人口推計を掲げた.これによると,世界人口はすでに述べたように1950年には25億であったが,1960年には30億,1975年には40億に達している.1990年には53億で,すでに1950年の25億の倍を超えている.さて,それでは将来はどうなるかというと,2000年には62億6000万,2025年には85億に達すると予測している.

労働力人口の国際間移動

著者: 小川直宏

ページ範囲:P.13 - P.16

◆人口高齢化と労働市場の動向
 第二次大戦直後の1947〜49年では,合計特殊出生率(一人の女性が生涯かけて産むと思われる子供数)が4を超えていたが,1957年には2.04となり,10年間で50%以上も減少した.その後は安定していたものの,1973年の第一次オイルショック以降再び下降を開始し,1989年にはわが国にとって史上最低である1.57となり,1990年には1.53まで落込んだ.死亡率も著しく改善され,1950年では男子の平均寿命は58.0歳,女子のそれは61.5歳であったが,1990年ではそれぞれ75.9歳,81.9歳となり,世界一の長命国となった.
 このような著しい出生・死亡の変化に伴い,年齢構造も激しく変動し,65歳以上人口の割合も1950年の5%から,1990年には12%まで上昇し,人口高齢化現象が深刻化しつつある.また,日本大学人口研究所の人口推計によれば,2025年には高齢者人口の割合が26%を超えることが示されており,来世紀には世界一の超高齢化社会がわが国で出現することはほぼ間違いないと言える.

日本における出生率低下

著者: 廣嶋清志

ページ範囲:P.17 - P.21

◆はじめに
 女性の一人当たり出産数,合計出生率が,1989年に1.57という史上最低を記録して以来,大きな関心を呼んでいるが,出生率が目立って低くなったのは実はここ2,3年のことではない.第1次石油ショック直後の1975年以来,合計出生率は人口が増えも減りもしない置き換え水準(2.1)を下回り,10数年間じわじわと下がり続けている.日本の今世紀の出生率の動向は3期に分けることができ,現在その第3期に入っているのである.第1期は戦前から1950年代の半ばまで,戦後の10年間を含む時期で,この時期に女性の合計出生率が5人から2人にまで低下し,多産多死から少産少死へと変化し,人口転換が終了した.現在の出生率低下は,これに連続するものではなく,その間に合計出生率が2を少し上回る程度におおむね維持されていた第2期20年間がある.この時期はほぼ高度経済成長期に相当する.
 合計出生率が1970年代半ばから2以下にまで低下した現象は,多くの先進資本主義国にほぼ例外なく共通して発生したものであり(表1),その背景には,国によるいくらかの差があるが共通の社会変化がある.

人間と性

著者: 山本直英

ページ範囲:P.22 - P.25

◆はじめに
 スウェーデンで有名な性教育協会RFSUが創立されたのが1933年.1942年に学校での性教育が始まり,1956年に義務化されている.世界で最も先端をきったこの国の性教育は,かれこれ半世紀の歴史をもつことになる.ところが,この国でコンドームの自由販売が認められたのが1970年,中絶が自由に認められたのが1975年であることを聞けば,性についての統制は意外に強かったことがわかろう.アメリカですら,連邦最高裁判所が避妊具を合法化したのが1965年である.そのアメリカが,エイズ禍(現在男性の70人に1人,女性の700人に1人が感染)の対策として,テレビでのコンドームの宣伝を認めたのが,なんと4年前の1987年であった.現在わが国では,テレビどころか新聞雑誌などでも,コンドームの宣伝は自由に行われていない.生理用品のナプキンのコマーシャルが,茶の間のテレビに出現して驚いたのもつい最近のことである.
 こうして見てくると,「人間の性」について国家はかなり干渉し,社会はかなり抑制していることがわかる.歴史的に見ても,人間の性行動への制約はかなり目立つ.たとえば,中絶への制約はどこの国でも大きかった.

21世紀の夫婦と家族

著者: 柘植あづみ

ページ範囲:P.26 - P.29

◆はじめに
 日本の婚姻や家族の形態はここ半世紀の間に大きく変化し,多様化してきたように思われている.拡大家族から核家族へ,多産多死から少産少死への変化の後にきたのは,離婚率の増加,単身赴任,DINKS,コミューター・マリッジ,夫婦別姓,事実婚,非婚時代,結婚しないかも症候群など,確かに夫婦や家族といった概念が多様化してきたように感じられる.また1.57,1.53ショックの後に結婚しない女性,子どもを産まない女性に視線が集まり,出生率の低下も家族形態の変化がもたらしたもののように捉えられている.しかし,本当に夫婦や家族の有り様は変わってきたのだろうか.男性も女性も自分の意志で多様なライフ・スタイルの中から自分の人生を選びとっているのだろうか.
 このような問題意識で,本稿では現代の夫婦や家族関係の変化を検討したい.

これからの母子医療—人口問題の視点を中心に

著者: 小林登

ページ範囲:P.30 - P.35

 筆者が座長をおおせつかっている「これからの母子医療に関する検討会」での討議をふまえて,人口問題の立場から「これからの母子医療」を論ぜよという編集子の求めである.発表の場が公衆衛生誌なので,この立場も考えると,論文をまとめるにあたって難しさを感ぜざるを得ない.
 まず第一に,検討会の討議をふまえてという編集子の要請であるが,少なくとも表向きは,この会には人口問題という視点はない.むしろ,長寿社会問題を中心に動いている医療の中で,母子医療の今後のあり方を検討せよというのが当局の考えのようであった.

トピックス

訪問看護ステーションの役割

著者: 矢野享

ページ範囲:P.36 - P.38

◆はじめに
 老人保健法改正案が,曲折を経て,1991年9月27日国会において漸く可決・成立した.その4つの改正点をあげると,(1)老人訪問看護制度の創設
(2)老人医療の費用負担について,公費負担割合の引上げ
(3)一部負担金の改正.外来毎月800円を900円に,入院1日400円を600円に(平成4年1月1日より).また平成7年度から消費者物価へのスライド制,等
(4)初老期痴呆の状態にある者の老人保健施設の利用
 以上の4点が主なものであるが,ここでは(1)の老人訪問看護制度について,以下,いささかの見解を述べることとする.

原著

血清フルクトサミン・随時尿糖・随時血糖の組合せによる糖尿病スクリーニングの比較検討

著者: 重藤和弘 ,   坂本文秀 ,   門司和彦 ,   竹本泰一郎 ,   入江太 ,   菅小百合 ,   沼富美子 ,   菅生修 ,   松園朱實 ,   坂下照代 ,   二里温子 ,   村田真喜枝

ページ範囲:P.53 - P.57

●はじめに
 地域保健における糖尿病対策としては,糖尿病や耐糖能低下を出来るだけ早期に発見し,適切な管理指導によって臨床症状や合併症の発現を防ぐことが重要である1〜3).さらに,第一次予防の必要性が叫ばれている今日,ハイリスク者に対しても,健康教育を実施し,糖尿病の発症を予防することが必要であると考えられる.その意味で,老人保健法による基本健康診査により,糖尿病のハイリスク者をスクリーニングすることが今後の課題となる.
 しかし,現在の基本健康診査では,随時の尿糖検査のみによって糖尿病のスクリーニングがされていることから,早期の糖尿病が見落とされる危険が従来から指摘されているように4〜6),ハイリスク者を発見するまでの感度でスクリーニングがなされていないのが現状である.スクリーニングの感度をあげるため,尿糖に加えて血糖,血清フルクトサミン,ヘモグロビンA1cなどの測定を,糖尿病検査の一次スクリーニングに用いることが検討されているが7〜9),これまでの報告は医療機関での人間ドックや企業での健診時のものが多く,地域住民を対象とした健康診査で,どのような検査あるいは検査の組合せがより有効であるかについては,未だ十分な検討がなされていない.

報告

健康増進における住民ボランティア活動—行政養成型ボランティアの意義と課題

著者: 大江浩 ,   石川宏

ページ範囲:P.58 - P.62

●はじめに
 疾患の中心が大きく感染症から成人病,慢性疾患に移ってきた.成人病はその特性から住民自身の価値観や生活習慣と密接に関わっており,実際に予防活動をすすめていくためには,住民自身の活動から広がっていく必要がある.従来から婦人会,老人クラブなどの住民組織が様々な地域活動を行ってきたが,近年,行政側から住民側へ働きかけ,健康づくり活動のリーダーとしての「住民ボランティア」を養成するようになった.
 しかし,このような行政養成型の健康増進を目的にしたボランティアは,地域住民の中でどのような人がなっており,活動に際してどのような感想・意識を持っているかについてはあまり深く追求されていない.
 福野保健所では過去9年間にわたってヘルスボランティア養成事業を行ってきたが,今回,アンケート調査を通じて,ボランティアの社会的特性と活動の感想・意識を検討したので,これまでの事業の経緯を含めて健康増進における住民ボランティア活動の課題について私見を述べる.

海外事情

アフリカのエイズ—特にサブサハラにおけるHIV-1感染の疫学的特徴について

著者: 宮崎元伸

ページ範囲:P.63 - P.68

◆はじめに
 エイズ(Acquired immunodeficiency syndrome)は,1981年にアメリカ合衆国においてカリニ肺炎(Pneumocystis carinii pneurnonia)とカポジ肉腫(Kaposi's sarcoma)の異常増加に端を発し1),1982年9月にCDC(Centers for Disease Control)によりエイズと名付けられたことに始まる2).HIV-1(Human immunodeficiency virus type-1)3)とHIV-2(type-2)4)が少なくともエイズの原因ウイルスとして確認され,前者はアフリカ中央部および東部を中心に,後者はアフリカ西部を中心にして流行している.現在アメリカ合衆国ではエイズ報告数が15万人にもなり,死亡数も10万人を越えた5.HIV-1感染者はその10数倍とも言われており,HIV-2感染も20例近く確認されている6)

活動レポート

「区民と医師との会」—15年のあゆみ

著者: 大山幸徳 ,   楠原正一 ,   井上賢太郎 ,   村山栄一 ,   椿原道昭 ,   良永拓国 ,   太田黒栞 ,   山崎節

ページ範囲:P.39 - P.41

●はじめに
 福岡市が区制を実施し,市医師会の中に新しく発足した南区医師会の山崎初代会長の時代に,区民と医師との対話や接触を通じ,医師に対する信頼を高める目的で,健康教育の場である「区民と医師との会」を発足させたのが昭和51年である.以来,15年間,会員,行政そして区民が一体となって会を運営し,今では年中行事の一つに発展している.このたび,地域医療活動としての15年間のあゆみをまとめたので,活動状況をご報告する.

地域リハビリテーションと機能訓練事業 パネルディスカッション:地域リハビリデーションとネットワークづくり・4

基調講演,実践報告のまとめ

著者: 柳尚夫 ,   浜村明徳

ページ範囲:P.42 - P.45

〈はじめに〉
 最後にまとめをします.牛津先生の整理された講演と,4人の実践家の報告とで,十分な内容があると思いますが,今回のセミナーのねらいの「ネットワークづくりの基本的考え方」をより明確にできるように,違った視点から全体をまとめてみたいと思います.

保健所機能の新たな展開—飛躍する保健所

遠野保健所の在宅ケア支援の現状について

著者: 菊池宣博

ページ範囲:P.46 - P.48

◆はじめに
 みちのく盛岡市で,去る平成3年10月16日〜18日の3日間,第50回日本公衆衛生学会が盛会に開催されたところである.
 当学会の関連付随行事である第48回全国保健所長総会も開催され,今回から提案事項も絞り,第1分科会「ニュー保健所構想」,第2分科会「精神保健対策等」,第3分科会「廃棄物対策等」に分かれて討議したところである.協議事項の中で全国の実情を聞きたい,全国的な調査を願いたい,また国へ要望してほしいといった積極的な討論であった.
 当保健所管内の遠野市は,「民話のふる里」として全国に知られ,「大自然に息吹く永遠の田園都市・トオノピア」の建設をめざしている.特に急速に進む高齢化社会に対応するため,国に先駆けて在宅ケアサービス「寝たきり老人訪問診療及び訪問看護」を実施し,充実を図っている.
 保健所もこれらを発展させるため,平成2年度から「在宅医療推進事業」をモデルとして実施している.今回は,当保健所管内の在宅ケア支援の現状について述べたい.

エスキュレピウスの杖

(22)WHO職員の待遇

著者: 麦谷眞里

ページ範囲:P.50 - P.51

1.給与
 今回から,いただいたいくつかの質問にお答えしていきたい.まず,WHOに就職したいが,どうすればよいか,という質問を沢山いただいた.これには,すでに第8回(54巻11号)と第9回(55巻12号)で概要を説明してあるので,できれば,そちらのバック・ナンバーを参照されたい.
 これに関連して,待遇のことをかなり具体的に教えて欲しい,という要望があった.日本人は,あまりお金のことを書いたり述べたりしないが,大事な関心事であるので,少し詳しく書くことにする.

保健婦活動—こころに残るこの1例

コミュニケーション障害のある児と母親への支援

著者: 渡部一恵

ページ範囲:P.52 - P.52

 最近,言語発達の遅れ,行動面に問題のある児が増えている.その原因として本児自身の問題ばかりでなく,保育環境上の問題が関与していることが多い.鳥取県でも昨年より「すこやか発達教室」と称して,4回を1クールとしたことばの教室を開始した.ここに紹介するケースは,本児自身は伸びる力はあると予測されるが,保育環境上の問題が大きく関与して,コミュニケーションの障害と聴く力の弱さ,多動等の問題を指摘された児である.その児と母親へのかかわりの中で,母親自身がその問題に気づき始め,努力しようと行動を起こし始めた事例である.

発言あり

初もうで

著者: 加藤邦夫 ,   園田真人 ,   橋本美知子

ページ範囲:P.1 - P.3

「宇宙船・地球号と生存科学」
 お正月を迎えると毎年思い出すことがある.それは幼少年期の“元朝参り”である.元日の午前0時の時報が鳴ると,父を先頭にして家族が揃って近くの神社に“初もうで”をする習わしがあった.
 年頭に当たり向こう1年間の一家の無病息災と繁栄,五穀豊穣,そして平和が祈願され,さらに各自はそれぞれの将来の夢と1年間の目標が達成されることを祈願するのであった.

保健行政スコープ

「寝たきり度」判定基準のできるまで

著者: 石塚正敏

ページ範囲:P.69 - P.71

 平成3年10月7日,「障害老人の日常生活自立度(寝たきり度)判定基準」作成検討会(座長=竹中浩治・社会福祉医療事業団副理事長,委員10人)より,判定基準に関する報告書が提出された.この判定基準は,従来統一的な基準がなかったため現場で混乱を起こしていた,いわゆる「寝たきり老人」の把握に使用することを目的としたものであるが,これの普及によって寝たきり老人ゼロ作戦の効果的な推進,あるいは地方老人保健福祉計画の円滑な策定・実施を目指すものである.
 本稿では,この基準が作成されるに至った背景や,作成の経過等を紹介するとともに,社会的現象ともいえる「寝たきり」とは何かを考察してみた.

基本情報

公衆衛生

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1170

印刷版ISSN 0368-5187

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