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雑誌目次

雑誌文献

公衆衛生56巻12号

1992年12月発行

雑誌目次

特集 保健所における監視業務

保健所における監視指導業務の歩みと体制

著者: 長岡常雄

ページ範囲:P.816 - P.819

◆はじめに
 保健所の業務形態の一つとして,監視指導業務がある.この業務は環境衛生や食品衛生,あるいは医事・薬事衛生などの分野で,事業者が利用者に提供する保健サービスの質を一定以上に保ち,これによる健康被害を未然に防ぐための行政施策の一つとして行われている.
 監視指導の権限は,関係衛生法令によって都道府県知事に機関委任され,さらに知事から保健所長に再委任されている業務なので,知事の再委任の仕方に差があるため,全国どの保健所でも同様な監視指導業務を行っているわけではない1).また各法令ごとに監視指導の方法も異なり,同一に述べることは困難であるが,それぞれの法令ごとの監視指導業務の実践については,別の筆者によって述べられるので,ここでは保健所における監視指導業務にある程度共通な問題について,いくつか述べてみたい.

監視業務の実践—食品衛生監視の現状と課題

著者: 古川博輝

ページ範囲:P.820 - P.823

◆はじめに
 近年,食品の製造加工技術の高度化,消費者ニーズの多様化に伴い,食品の多様化,流通の広域・長期化等が進み,さらに輸入食品の増大,バイオテクノロジー応用食品の研究等により,食品にかかわる問題は複雑化している.
 一方,国民の健康志向の高まりとともに,ポストハーベスト農薬をはじめとして食品の安全性への関心が高まっており,また特定保健用食品のような新たなニーズも生じている.
 さらに本県においては,県内各地域で「産地づくり運動」の一環として1次産品依存から1.5次化へといった,農水産物の加工販売意欲が高まってきている.
 このような食品をめぐる環境の変化が進むなかで,食中毒をはじめとする食品などによる危害の発生を未然に防止し,食品衛生の確保・向上を図るため,食品衛生監視員による監視指導の強化と,営業者による自主衛生管理の徹底は一段と重要性を増してきている.

監視業務の実践—薬事監視

著者: 柳原義彦

ページ範囲:P.824 - P.829

◆はじめに
 薬事監視の基本は医薬品等の品質,有効性および安全性を確保し,その安定供給を図ることにあるが,医療との関わりを切り離して考えることはできない.
 6年前,筆者が病院薬剤師として調剤の実務に従事していた頃,臨床医の先生から次のようなお話を聞いたことがあった.「海外のある病院で,医師がいつもと同じようにフェニトイン散を患者に投与したところ,突然,運動失調・眼振等の副作用が現れた.TDM(Therapeutic Drug Monitoring)など調査の結果,原因は“この製剤の賦形剤が硫酸カルシウムから乳糖に変更された”ことによるものであることが分かった.」
 「すなわち,有効成分の1包中の量は一定であったが,賦形剤が乳糖に変わったことによりバイオアベイラビリティーが向上し,フェニトインの血中濃度が急激に上昇したため,副作用が現れたわけである.単品では何ら薬理作用をもたない賦形剤が生体内においては,有効成分の吸収に何らかの影響を及ぼした」という医療現場からの生の声として,深く筆者の心の中に残っている.

監視業務の実践—環境監視

著者: 大草信行

ページ範囲:P.830 - P.833

◆はじめに
 近年,生活の多様化,高度化などによって,住民の環境衛生に対する関心が高まってきている.
 日常生活に密接に関係する,いわゆる営業六法関係の営業施設の衛生や,年ごとに増大し質的変化をしている廃棄物の問題,さらには各種公害に関するものなど,生活環境を保全するために的確な対応が望まれており,衛生行政の第一線機関である保健所の環境衛生監視員に課せられた使命は非常に大きいものがあるように思う.
 そこで今回は,出雲保健所環境衛生監視員の過去の実績の一端と現状をご報告し,ご意見をいただきたいと思う.

監視業務の実践—医療監視

著者: 齊藤稔

ページ範囲:P.834 - P.837

◆はじめに
 医療監視については,昭和23年の医療法の制定とともに,医療監視員制度が発足して以来,43年が経過している.
 この間,近年の医学・医術の進歩と相まって,「医療を提供する体制の確保を図り,もって,国民の健康の保持に寄与する」という医療法の目的は大きな前進がみられている.
 しかし,一部の医療機関ではあるが,医療機関として当然守らなければならない最低の基準が遵守されないため,住民の医療に対する信頼を欠く原因の一つとなっていることも否定できず,住民の医療監視に対する期待と関心も高くなってきている.
 このような中で,医療の現場に行政が直接・系統的に立入りができるのは,医療監視以外にはなく,我々,医療監視員の果たす役割は極めて大きいものがあるといえる.
 ここでは,岩手県盛岡保健所における医療監視業務を中心に医療監視の現状と課題について述べてみたい.

地方衛生研究所との連携

著者: 井上博雄

ページ範囲:P.838 - P.842

◆はじめに
 保健所は第一線の公衆衛生活動の中心的機関であり,一方,地方衛生研究所(以下,衛研と略)は科学技術を基盤とする公衆衛生行政の基本を支える機関として,各都道府県,指定都市および一部の政令市等によって,現在71ヵ所が設置されている.保健所の活動は保健所法によって,その地域の公衆衛生全般にわたる指導および事業を行うことが規定されているが,衛研の存立基盤あるいは活動根拠には法的規定はなく,昭和51年,厚生事務次官通達(地方衛生研究所の強化について,厚生省発衛第173号,昭和51年9月10日,以下51年次官通達と略)に求められ,各自治体の特徴を出しつつ,今日に至っている.
 保健所と衛研は自治体ごとの若干の違いはあるにせよ,監観業務に限らず,諸分野において協力連携をとり,地域の公衆衛生活動を担ってきた.本題においては保健所と衛研の連携の現状につき論じる.
 本論に入る前に,衛研については県民,市民はもとより,公衆衛生関係者においてさえ,その業務内容等の理解が薄く,その理解を深めるため,まず,活動根拠となる51年次官通達における設置要綱を引用したい.

保健所における監視業務の課題と展望

著者: 織田肇

ページ範囲:P.843 - P.845

◆はじめに
 保健所は,地域における公衆衛生活動の第一線機関であり,施策の実施にとどまらず,地域保健医療計画の策定にみられるように,企画立案や市町村に対する指導が重要な役割となりつつある.このような状況の中で監視業務をどのように位置づけるかが,まずもって十分に意識されなければならない.法令の遵守状況の監視という面での意義は無論のことであるが,保健所における企画立案,実行,その検証という業務の流れの中で,企画あるいは計画立案のための実態把握のためにも活用されねばならない.また,施策と現実との齟齬がある場合は,施策の修正ということも要請されよう.
 監視のマンパワーという点では未だ十分でない面もあると考えられるが,上記のような点を満足するためには,①計画的な監視,②重点的な監視,③年次的なトレンドの把握,④企画立案等への活用等が考慮されなければならない.また,緊急時に対処するための機動的な体制をも整えておくことが必要である.
 本稿ではできるだけ総論として述べるが,筆者の仕事柄,実例等については食品の分野に偏ったことはお許し願いたい.

トピックス

C型肝炎の疫学と予防

著者: 吉澤浩司 ,   田中純子 ,   長神英聖 ,   水井正明

ページ範囲:P.846 - P.850

●はじめに
 わが国では1989年11月より,輸血後非A非B型肝炎の予防を目指したC100-3抗体測定による供血者血液のスクリーニングが日赤血液センターによって導入された.
 このことは,わが国の輸血後肝炎の発生率を大幅に減少させる1)とともに,その後のC型肝炎の研究を推進する原動力となるという大きな副次的効果をももたらした.
 1992年2月からは,その後の研究の成果をふまえて,いわゆる第2世代のHCV関連マーカーの測定系(HCVPHA法)2)が供血者血液のスクリーニングのために新しく採用され,輸血後肝炎の発生率はさらに減少することが期待されるとともに,C型肝炎の疫学についても,その全体像をより鮮明な形でとらえることが可能になりつつある.
 本稿では与えられた主題に従って,これまでに明らかになった事項について述べてみたい.

研究

わが国における保健医療計画の基本的問題についての検討(その2)—保健と計画性

著者: 中俣和幸 ,   郡司篤晃

ページ範囲:P.856 - P.862

 前号で,計画一般に関すること,および行政と計画の関わりについて,合理主義的計画,社会計画,そして計画の評価,等について述べた.今号は,これらをふまえた上での保健計画について,整理した.

調査報告

軽度肝機能異常者の生活習慣の特徴

著者: 石井英子 ,   鈴木貞夫 ,   佐々木隆一郎 ,   市川啓一 ,   中島芳子 ,   原田憲子 ,   八木俊光 ,   太田之夫

ページ範囲:P.870 - P.874

●はじめに
 戦後にみられる日本人の生活習慣の急変は疾病構造の変化を導き,悪性新生物,虚血性心疾患,脳血管疾患などの慢性非炎症性疾患による死亡が死因の主座を占めるに至っている1).こうした疾病構造の変化の中で,慢性肝臓疾患の増加は著しく,来世紀における問題の大きさが憂慮されているところである2)
 慢性肝臓疾患の発生要因は,肝炎ウイルスなどの感染性要因と肝毒性物質の慢性暴露に大別される.前者に対する対策は,国レベルで系統的に行われており,近い将来ほぼ確立されるといっても過言ではない.後者の要因の中で大きな比重を占めるアルコール摂取の状況は,楽観できるものではない3).アルコールの持続的大量摂取者の増加は,神経・精神系の障害とともに,肝臓の急性・慢性障害を伴う病人の増加が危惧されるからである.
 一方,平成元年に行われた労働安全衛生法施行規則の改正では,雇用者に35歳および40歳以上の全従業員の肝機能を定期的にチェックすることが義務づけられた4).この改正によって,これまで地域住民を対象として行われてきたスクリーニング事業とあいまって,自覚障害に乏しい軽度の肝機能障害を医療機関以外で発見する機会が飛躍的に増大することとなった.

全国の医,歯科系大学における保健所実習に関する調査

著者: 作野功典 ,   和田文明 ,   五十里明 ,   金田誠一

ページ範囲:P.875 - P.878

●はじめに
 保健所をはじめとする衛生行政の現場において,中心となるべき医師および歯科医師の不足は深刻である.
 この問題を考える上で,医,歯学部における保健所実習や学生に対する衛生行政への進路指導の実態を把握することは重要である.そこで,私たち愛知,岐阜,三重の3県と名古屋,岐阜市の2市の保健所や衛生担当部局の若手の医師,歯科医師で組織する東海衛生行政研究会では,全国の医,歯科系大学における衛生学,公衆衛生学の講義時間数や保健所実習の有無とその方法,保健所実習に対する考え,衛生行政への進路指導,衛生行政との交流の実態を調査することにより,医,歯学生が衛生行政に進む環境の実態を把握し,検討を行った.

報告

精神障害者の体力と社会復帰の関連性—精神科デイケア通所生の体力テスト

著者: 境美津枝 ,   大井和子 ,   三角順美 ,   中河原由美子 ,   高原利明 ,   山下秀一

ページ範囲:P.879 - P.882

1.はじめに
 精神障害者は医療を要する病者であるとともに,日常生活上に種々の困難をきたしている障害者でもある.しかしながら,彼らの障害は一般には理解されにくいのが現状である.かれらの怠惰としか見えない反応が心理的側面のみならず,その背景にある体力のなさや,精神的脆弱性によるものであることを明らかにすることは,精神障害者が地域において生活し,住民に受け入れられるために必要と考える.そこで,障害の見え難さを視覚化し,障害の受容を共有しやすくするひとつの指標として我々は体力テストを活用している.精神障害者の多くは自分のあるがままの能力を受け入れられず非現実的な目標を掲げやすいという傾向を一般にもっている.そのためデイ・ケア活動を通じて,自己の能力の限界を受け入れるという現実性獲得を促す援助のひとつとして,体力テストは活用できるものと考える.精神障害者の体力については「慢性分裂病者の体力」として本誌(55巻2月号)で報告をした.今回,体力と社会復帰の関連性について体力テストの結果をもとに考えてみた.また,現実性獲得と体力評価について検討してみた.

現代の環境問題

地球環境の現状と課題—連載を終わるにあたって

著者: 松下秀鶴

ページ範囲:P.851 - P.855

1.はじめに
 1990年4月から開始された「現代の環境問題」に関する連載も最終回を迎えることになった.この間,水質汚染,海洋汚染,土壌汚染,食品汚染,廃棄物や化学物質による環境汚染,騒音・振動や悪臭を含む大気汚染,室内汚染,放射能汚染,酸性雨やオゾン層破壊などの広域汚染や地球規模汚染などについて,それぞれの専門分野の第一人者にご執筆いただき,わが国を中心とする環境問題を多面的に概観するのに極めて有効かつ貴重なものとなったことを本連載の企画にあたった一員として大変嬉しく思うと同時に,執筆者各位に心から感謝の意を表する次第である.
 本連載が始まった時点から今日までの約2年8ヵ月の間に,地球環境に関する社会的関心が急速に高まり,それらが環境政策にも強く反映されるようになってきた.そこで本連載の最終にあたり地球環境の汚染の原因,現状,対策について短く触れてみたいと思う.

データにみる健康戦略 21世紀への健康戦略—データにみるその目標・6

結核の凋落

著者: 倉科周介

ページ範囲:P.863 - P.866

 当節の日本では,結核で死ぬ人はまれになった.年間3,000名前後の死亡者のほとんどは,古い病巣の焼けぼっくいに火がついた老人性結核の犠牲者である.結核の診断が冥土行きの片道切符として恐れられた時代はたしかに過去のものとなった.結核が自然消滅するという見方が1970年代の大勢を占めた結果,WHOも結核部門の人員をなしくずしに削減してきた.だが,この予測は現段階では楽観的にすぎたようである.患者の増加や多剤耐性菌の出現など,近年,にわかに結核の動静が注目されつつある.デュボス(Dubos, L)いうところの「白いペスト(white plague)」との関係を人類が清算することは,はたして可能なのだろうか.

進展する地域医師会の公衆衛生活動 江津市医師会の小児成人病の予防調査・2

脂質調査の実施と予防対策

著者: 森正三

ページ範囲:P.867 - P.869

 平成元年5月の実施に向けて,まず教育委員会で実施方法を具体的に検討し,実施の計画づくりが行われた(実質的には各学校の養護教諭と森医師とが打ち合わせの上,実施時期や調査項目が決められている).
 小学1年生から中学3年生までの全児童・生徒を対象に,家族歴の調査から脂質検査,血圧測定,体位の測定(肥満度の調査),家庭における食事調査が調査項目としてピックアップされた.

発言あり

私の大晦日

著者: 大高道也 ,   砂田美津子 ,   坪井栄孝

ページ範囲:P.813 - P.815

「明天有法子」
 〈タイム・スリップ〉
 子どもたちと一緒に見た映画「となりのトトロ」のコピーでもないが,大晦日から元旦にかけては,「忘れものを,届けにきました」といった趣がある.
 ここ都心の近くでも,年越しそば,除夜の鐘,おせち料理,鏡もち,初もうで等々,日頃全く失念している日本古来の習わしが1年ぶりに戻って来る.

保健行政スコープ

住環境におけるアレルギー疾患対策

著者: 大井田隆

ページ範囲:P.884 - P.885

1.はじめに
 徒然草の中で兼好法師は「住宅は夏向きに作るべきである」と記しているが,なかなかこの言葉は味わい深いものと思えて来る.日本の気候は欧米先進国とは違って,夏の高温多湿は熱帯並みである.当然のことながら,このことは住宅内に発生し,アレルギーの原因となるダニやカビを増加させてしまうのであるが,近年の気密性の高い住宅は(特にマンション),ダニやカビの巣になるようで,古い昔の開放型住宅に住んでいたころとは違った問題が現在起こっている.このような意味からも兼好法師の言葉は実によく,現在の住宅問題を言い表している.
 しかしながら,今さら昔のように開放型住宅が増えるとも思えない.やはり,気密性の高く,保温性のある住宅は一度知ったら忘れられないものであり,特に老人には夏の暑さや冬の寒さは大変である.

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基本情報

公衆衛生

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1170

印刷版ISSN 0368-5187

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