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雑誌目次

雑誌文献

公衆衛生56巻3号

1992年03月発行

雑誌目次

特集 産業保健への免疫学の応用

産業保健への免疫学の応用

著者: 島村忠勝

ページ範囲:P.148 - P.151

■はじめに
 われわれは日常生活において,食品,飲料水,大気をはじめ,医薬品,化粧品,農薬,工業生産物などに含まれる,多数の化学物質に常にさらされている.その中には有害なものも少なくないが,それから逃れるわけにもいかず,共存していかなければならない場合もある.健康保持のためには,化学物質の生体に対する有害な作用(毒性)を評価し,化学物質を取捨選択しなければならないことは言うまでもない.
 産業現場における健康管理のためにもこのことはあてはまる.かつて産業医学においては,有害物質の大量暴露によって生じる急性中毒が問題であったが,職場環境の改善などによって急性中毒はほとんど見られなくなり,微量暴露による慢性中毒が問題になってきた.その早期発見のために生物学的モニタリングが行われているが,それにも限界があり,より感度の良い毒性評価方法が求められている.最近,微量の化学物質でも免疫応答に異常の発生することがわかり,化学物質の毒性評価を免疫毒性という画からとらえようという研究が進展しつつある1,2)

免疫学の方法と技術—フローサイトメトリーの応用

著者: 相澤好治

ページ範囲:P.152 - P.154

■はじめに
 特定の抗原と特異的に反応する抗体をハイブリドーマ法によって,単一の抗体細胞のクローンから作らせる技術が,1975年KöhlerとMilstein1)により開発され,ヒトのリンパ球や他の血液細胞の膜抗原に対するモノクローナル抗体が作製されるようになった.従来の,抗原で動物を免疫して得られる抗血清に比べ,モノクローナル抗体は,単一の免疫グロブリンであるため,特異性,親和性ともに高く,細胞膜抗原の分析に有用である.
 したがって,種々のモノクローナル抗体を用いて,ヒト末梢血リンパ球とくにTリンパ球との反応性により,機能の異なるサブセット(亜群)を分析することが可能になった.
 リンパ球とモノクローナル抗体との反応性は,抗体に蛍光色素をラベルして蛍光顕微鏡でカウントしていたが,工学的に測定できるフローサイトメトリーが開発され,高い精度で迅速に,しかも再現性よく分析できるようになった2).これにより,産業衛生分野でも,各種有害環境要因の暴露による免疫学的影響を,集団で評価することが可能になった.

免疫学の方法と技術—免疫毒性の評価

著者: 吉田貴彦

ページ範囲:P.155 - P.159

■はじめに
 かつて産業現場で見られた健康障害は,有害物質への大量暴露による急性中毒が主であり,症状も劇的かつ特徴的で,すぐにそれと分かるものであった.しかし,今では労働衛生概念の徹底や職場環境の改善などによって急性中毒はほとんど無くなった.代わって,長期微量暴露によって起こる慢性中毒が問題となってきた.慢性中毒は典型的な症状を呈さない場合も多く,悪性腫瘍といった深刻な健康障害として発症して来るものもある.この慢性中毒の把握法の一つとして免疫毒性が取り上げられている1,2).これは免疫毒性の評価法が,生体への影響を感度良く検出できる方法と考えられているからである.
 今まで動物実験において様々な物質による免疫毒性が研究されてきた.一方,環境あるいは労働現場で,ある物質に暴露されているヒトにも免疫毒性が観察され報告されるようになってきた.また作業者に行う免疫学的検査を健康影響指標として健康管理に応用しようとの試みもある.ここでは免疫毒性の研究の手段となる免疫学的検査法について細かく述べるには到底誌面が足りないので,免疫毒性の実験の行い方とその評価の仕方を中心に述べ,産業保健への免疫毒性学の応用について考察する.

産業保健におけるアレルギー学的対応

著者: 中村晋

ページ範囲:P.160 - P.166

■日常生活環境における感作性物質の意義
 われわれの生活環境には種々の感作性物質が存在する.生体がかかる感作性物質(抗原)に一定期間繰返し曝露されているうちにマクロファージがこれを取り込み,非自己と認識すると免疫情報はまず胸腺由来のリンパ球(T細胞)へ伝えられる.これはさらに骨髄由来のリンパ球(B細胞)へ伝えられ,B細胞はT細胞との間における促進と抑制のコントロールの下に分裂増殖を繰り返し,免疫グロブリンに属する液性抗体(IgA,IgG,IgM,IgE)を生ずる.以前から即時型アレルギーを惹起することで知られた感作抗体reaginはIgEに属し,鼻粘膜,気管—気管支粘膜,消化管粘膜,皮膚など反応標的臓器の肥満細胞表面に固着し,一部は流血中好塩基球表面に分布する.一方T細胞からは細胞抗体として働く感作リンパ球が産生され,遅延型アレルギー発現に関与する.このような抗原物質の一次刺戟によって抗原特異性をもった抗体が産生され,免疫応答の準備が完了した状態を感作sensitizationと呼ぶ.

有害物質暴露者の免疫学的特性—コバルト,ニッケル

著者: 日下幸則

ページ範囲:P.167 - P.170

■鉄とコバルト,ニッケル
 コバルト,ニッケルは鉄と同じく,周期表第8族の第4周期に属する金属である.鉄は,たとえばヘモグロビンの構成元素として必須金属であり,コバルトもビタミンB12の構成元素として必須金属である.鉄,コバルト共に血液系に不可欠な金属であることは興味深い.
 ところで,鉄がアレルギーを起こしたとの話は聞いたことがない.

有害物質暴露者の免疫学的特性—ベリリウム

著者: 工藤吉郎 ,   坂口武洋

ページ範囲:P.171 - P.173

■はじめに
 ベリリウム(beryllium:Be)は原子番号4,原子量9.01のアルカリ土類金属元素で,1798年Vauquelin(フランス)によって緑柱石(比重:2.6〜2.8,硬度:7.5〜8.0)から発見された.Beおよびその化合物は,軽量で電気や熱の伝導性に優れているため,近代産業の発展に寄与してきた.例えば,原子量が小さいので,核分裂中性子の減速材や反射材として原子力産業,軽く耐熱性であるので宇宙航空関係産業,また銅などとのBe母合金は,非磁性・絶縁性・低融点・強硬度の点から電子産業で利用されている.さらに釣竿,歯科用プレート,セラミック製品などの日常生活用品としても浸透してきている1)
 一方優れた有用性とは反対に,Beおよびその化合物の人や動物に対する健康障害は,中毒性・感作性・発癌性・催奇性・線維原性の様々な報告がなされている2).Beによる初期の健康障害は,工業的に利用され始めた1930年代から散発的にみられており,Be精錬作業者に急性肺炎,蛍光灯製造作業者に慢性ベリリウム症が多発し問題となった.以後,アメリカではBe使用の規制が強化され,作業環境濃度は2μg/m3以下とされた.

有害物質暴露者の免疫学的特性—鉛

著者: 堀口俊一

ページ範囲:P.174 - P.177

■はじめに
 免疫系は化学物質の暴露に対しても誘導される防御系統の一つであることが明らかにされてきている.有害化学物質のうち,鉛が生体の免疫現象とその機序へ及ぼす影響に関しては,比較的多数の動物実験が報告されている.しかし,鉛暴露を受けたヒトにおける観察例は少ない.本稿ではヒト,とくに鉛作業者を対象とした研究を通覧し,筆者の教室における研究をやや詳しく紹介して記述を進めることにする.

有害物質暴露者の免疫学的特性—エポキシ化合物,エポキシ樹脂

著者: 山田裕一

ページ範囲:P.178 - P.181

■はじめに
 エポキシ化合物とは,図1aに示すような,1個あるいは複数個のオキシレン環(エポキシ基)を持つ化合物の総称である.このエポキシ基は通常,不飽和炭化水素類の化学反応により生ずるが,非常に反応性が高く,酸や水,アミンやアルデヒド,アルコール類の作用を受けて容易に開環し,別の化合物へと転化する.このような性質を利用して,エポキシ化合物は多くの合成化学物質製造工程で中間物質として生成される.図1に主なエポキシ化合物を示した.
 エチレンオキサイド(以下EtO)とプロピレンオキサイドは,医療用機材の消毒剤や穀物,果物のくん蒸剤としても使われているが,この2つを含めて,比較的低分子のモノあるいはジ・エポキシ化合物は合成化学工業で主に使用されている.しかし,エポキシ化合物の最も一般的なものは様様な形状の高分子のエポキシ樹脂であり,これは被覆材,接着剤,包埋材などとして非常に広い産業分野で用いられている.図2にエピクロルヒドリン(以下EpH)とビスフェノールから合成される代表的なエポキシ樹脂の構造を示した.高分子の樹脂はアミン類などの硬化剤を加えて生成される.

職業癌の免疫学的アプローチ

著者: 荒記俊一 ,   谷川武

ページ範囲:P.182 - P.187

■はじめに
 近年の免疫学の進歩に伴って,職業癌のハイリスクグループで免疫学的諸変化が報告されるようになった.本稿では,過去にアゾ染料,アスベスト,マスタードガス,クロムおよびダイオキシンに暴露した作業者集団とプラスチック,エポキシ樹脂,有機溶剤ほかの混合暴露がある自動車工場の模型製造者に関する研究を紹介する.さらに喫煙が交絡因子として重要であること,および免疫学的変化の評価にあたっては,測定値の単位に留意すべきことを筆者らの知見をもとに述べる.

アニュアル・レポート

公衆衛生学会—第50回日本公衆衛生学会を中心に

著者: 角田文男

ページ範囲:P.188 - P.190

◆はじめに
 平成3年度の日本公衆衛生学会総会は第50回を迎えて,10月16日から3日間の会期をもって岩手県盛岡市にて開催した.本総会は学会にとって正に節目に当たる第50回総会であるため,学会員から寄せられた多くの要望に応えて各種の記念行事を催した.一方,学術面では来るべき21世紀に備えて近未来の公衆衛生問題を予測できるような総会とすべく構想を練った.幸い,学会役員はじめ多数の学会員が当方の意図するところを汲んで,その実現に全面的な協力と支援をいただいた.その結果,中央より遠隔の地方都市での開催にもかかわらず,四千百余名もの会員の参加をえて,記念講演3題と記念シンポジウム1題,総会シンポジウム6題と教育講演3題,そして一般講演が1,034題という本学会史上最大規模の総会をみることとなった.
 そこで,これらの学術講演の課題と内容等を通して,以下に平成3年度における公衆衛生学会の特徴を紹介したい.

衛生学の動向

著者: 糸川嘉則

ページ範囲:P.191 - P.193

◆日本衛生学会の沿革
 日本衛生学会の歴史は古く,その起源は明治23年の第1回日本医学会にさかのぼる.しかし,衛生学を専門とする研究者が全国的な規模で学術集会を持つようになったのは昭和4年,衛生学,細菌学,伝染病学が連合した連合衛生学会として,東京帝国大学横手千代乃助教授を会長として発足した時が最初である.以後,終戦後の昭和20,21年の両年に中止された以外は毎年1回開催されている.そして昭和24年より細菌学会.伝染病学会から分かれて,日本衛生学会として独立した学会となった.
 一方,本学会と関連の深い日本公衆衛生学会は,昭和22年に発足している.この両学会は,これまで極めて協調的に運営されてきたと思われる.すなわち,学会の開催時期は原則として衛生学会は春期に開催され,公衆衛生学会は秋季に開催される.そして,日本衛生学会が主として全国大学医学部や医科大学の衛生学,公衆衛生学講座に在籍する研究者の業績発表の場となっているのに対して,日本公衆衛生学会はこれのみでなく,衛生行政関係者の研究を発表する場にもなっていて,それぞれ特徴を持った学会運営が行われている.

産業衛生の動向

著者: 堀口俊一

ページ範囲:P.194 - P.197

◆はじめに
 ソ連邦の崩壊をはじめとして,1991年の世界情勢の変動はめまぐるしく,これに伴ってわが国は政治的にも経済的にも国際的視野に立った対応が求められている.しかし,自然科学の分野においては,学問に国境なく進歩発展してきている.
 ところで,わが国の産業衛生の動向は,一つは労働衛生行政(統計,施策など)の面から,他の一つは学会活動,とくに日本産業衛生学会の活動状況からうかがうことができよう.

トピックス

「地域保健医療計画と保健所の機能・役割」

著者: 逢坂隆子

ページ範囲:P.198 - P.203

●はじめに
 医療法の一部改正により昭和61年8月より,各都道府県における医療を供給する体制の確保に関する計画として,都道府県が医療計画を定めるものとされた.さらに「医療計画作成指針」1)により「任意的記載事項」については都道府県レベルだけでなく二次医療圏ごとにも「健康増進から疾病の予防,治療,リハビリテーションに至るまでの包括的な医療の供給体制が確保されるように方策」を記した「地域保健医療計画」を策定することとされ,その試案策定を圏域内の特定の保健所がすることになった2)
 高齢化社会をひかえての医療費対策に端を発したもの3)とはいえ,行政の他の部門に比して無計画に近いこれまでの保健医療供給体制のありかたが見直され,「圏域内の市町村,保健医療関係機関・団体等が実施する方策等をも幅広く盛り込み,その基本的方向・施策推進の方向性を示す」ものとして地域保健医療計画が位置づけられたのである.
 ここでは,大阪府,ことに筆者が勤務する保健所の管轄地域が含まれる北河内基本保健医療圏における経験を踏まえて,地域保健医療計画策定に関わる保健所の役割を「保健所機能」の面から考察してみたい.

研究ノート

東京都における老人給食サービスの実態について

著者: 清水詩子 ,   里見宏 ,   簑輪眞澄

ページ範囲:P.216 - P.220

◆はじめに
 高齢化社会に備えて各自治体では,福祉サービスの充実,特に「在宅福祉」を推進すべく様々な試みがなされている1)
 老人の健康を食生活から支えている福祉サービスとして,老人給食サービス(以下老人給食)が行われている.その一部は新聞でも取り上げられ,その効果についての報告等もされているが,現在東京都内ではどのような老人給食がどのくらいの規模で実施されているのか,その内容についての研究報告はほとんど無いのが現状である2〜4)
 そこで今回東京都全区市町村を対象として,より良い老人給食とは何かを検討する目的で,老人給食の実態調査および事例調査を行った.

現代の環境問題・24

広域汚染—酸性雨

著者: 原宏

ページ範囲:P.204 - P.208

1.酸性雨とは何か?
 1)酸性雨は「酸性」の「雨」ではない
 国語辞典で酸性雨を引いてみよう.「大気汚染物質の窒素酸化物や硫黄酸化物が溶けこんで降る酸性の雨.水素イオン指数が5.6以下.土壌・森林・湖沼などに深刻な被害を与える」とある1).似たような記述を専門雑誌でも見かけることがあるが,大気化学の研究者の間の認識とはかなり異なる.まず,窒素酸化物はほとんど溶けず,硫黄酸化物は溶けてもわずかであり,またかなり溶けたとしても,問題になるほどの酸性にはならない.これらの汚染物質が酸化した硫酸や硝酸が雨を酸性にするのである.
 ここで注意したいのは,酸性雨は「酸性」の「雨」と考えてはいけないということである.まして,pHの値だけで判断すると,酸性雨の問題の半分以上を始めからスッポリと落とすことになる.

保健所機能の新たな展開—飛躍する保健所

地域保健医療計画の機能と保健所の展望

著者: 前田博明

ページ範囲:P.209 - P.211

◆はじめに
 今回は,保健所,特に知事設置の保健所が,今後地域で期待され役割を果たせるための課題について,大津保健所の事業などを通して考えてみたいと思う.

エスキュレピウスの杖

(24)官僚の本質・1

著者: 麦谷眞里

ページ範囲:P.212 - P.213

1.コモン・センス
 「常識」というのか「共通の意識」というのか,大方そんな意味あいをもった英単語だが,改めて言うまでもなく,人類共通の常識というのは,存在しない.研究社の「英和中辞典第5版」には,「人生の経験から身についた思慮分別」とある.しかし,現実の世界では,一方の常識が他方の常識でない例は,枚挙に暇がない.そんな大袈裟な話でなくとも,たとえばWHOの東地中海事務局は,エジプトのアレキサンドリアにあるが,ここの勤務時間は,朝7時半から午後2時半までである.この間,職員は,原則として体憩をとらずに働く.金曜と土曜が休みで,日曜は出勤日である.このままだと,週40時間の労働規定に足らなくなるので,火曜日の午後だけ夕方7時半まで働く.これが,彼らの常識である.したがって,アレキサンドリアに出張すると,一日の時間配分に困ってしまう.朝6時半ごろホテルで朝食を摂ったあと,7時半に事務局へ行き,会議なり協議なり行うが,そのまま午後2時半までデス・マッチなのである.その間,例のどろどろのトルコ・コーヒー(もっとも私は,これが好きだが)しか喫まない.

保健婦活動—こころに残るこの1例

予期せぬAさんの思い

著者: 永山さなえ

ページ範囲:P.214 - P.214

昭和57年,私は保健婦になって4年目に,人口12,000人の歴史の古いS町を担当することになった.そこは歴代の保健婦が精神保健活動に力を入れており,家族や関係者の交流の場として,デイケアの基盤ができつつあった.それまで離島勤務で精神障害者との関わりの少なかった私にとって,デイケアへの関わりは初めての挑戦であり,デイケアの中でケースと共に私が大きく成長したように思う.そんな中で,Aさんが恋愛感情を抱いているのに気づかず,事が起きて初めて慌ててしまい,そういう危険性のあることを身をもって学んだ.そのAさんとの出会いは…
 S町に赴任当日,5人の精神障害者の引き継ぎ訪問の中にAさんはいた.中学校の美術の教師をしていて発病したAさんは47歳.4人兄弟の2番目で,そのうちの3人が精神障害者である.弟と二人,生活保護を受けて暮らしていたため,前任保健婦は訪問計画を重点的に立てていた.しかし,関わりを持って7カ月ほどで「自分は病気ではない」と内服を中断し,弟に暴力を振るって警察の手を借り入院となった.その後私は1年間育児休業をとり,昭和59年職場復帰をした.そして初めてのデイケアに,Aさんも近所の民生委員に誘われ初めて参加していた.

発言あり

桃の節句と出生率

著者: 鬼頭宏 ,   関谷行子 ,   矢内原千鶴子

ページ範囲:P.145 - P.147

「女性の力に期待する」
  春ここに 生まるる朝の日をうけて 山河草木みな光りあり(信綱)
 雛祭りが近づくと心がうきうきしてくる.日の光はすっかり春であるし,大気もなごんでくるせいだろう.そしてなによりも,雛祭りの前日が私の誕生日だからでもある.世の中の女性がこぞってお祝いをしてくれているような気分になってしまうのだ.

保健行政スコープ

骨髄バンク事業の開始について

著者: 淺沼一成

ページ範囲:P.222 - P.223

1.はじめに
 一部の白血病や重症再生不良性貧血の治療法として,骨髄移植が近年行われており,その治療成績は確実に向上している.しかし,骨髄移植を行うためには,患者と一致するHLA型(白血球の型)を持つ骨髄提供者(ドナー)がいなければならない.HLA型は,血縁者の中で一致する確率が高い兄弟姉妹においても4分の1の確率にすぎず,兄弟姉妹の少ない現状では多くの場合,非血縁者に頼らなければ骨髄移植を受けることができない.そこで,広く国民一般から善意に基づいた非血縁者のドナーを募りHLA型を登録して頂き,そのデータに基づいてHLA型が適合する患者には誰にでも骨髄液を提供していただく方を探す骨髄バンク事業が,日本赤十字社の協力を得て(財)骨髄移植推進財団により開始されることとなった.本稿では厚生省および財団の骨髄バンク事業の取り組み状況についての概要を記す.

基本情報

公衆衛生

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1170

印刷版ISSN 0368-5187

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