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雑誌目次

雑誌文献

公衆衛生56巻4号

1992年04月発行

雑誌目次

特集 保健医療計画における地域精神保健システム

地域精神保健の理念とシステムづくり

著者: 村田信男

ページ範囲:P.228 - P.233

◆はじめに
 筆者は精神科医であり,公衆衛生を専門としていない.したがって,公衆衛生の立場からみていささか的外れな内容になるかもしれないという危惧の念を抱いている.精神科医として今まで感じてきたことを記すことになる.
 第2に,精神科医である前に地域で生活する一市民としての生活実感が大切であると考えるが,筆者の場合その地域とは東京である.東京のような大都市から地方の中小都市,さらに過疎地など,それぞれの地域特性があると思うので,それを一般化して述べることはなかなか難しい問題である.東京で生活する一市民,ユーザーの立場からという前提の上で,この問題を考えてみたいと思う.

地域精神保健推進の課題

著者: 廣瀬省

ページ範囲:P.234 - P.238

◆はじめに
 昭和63年7月施行の「精神保健法」の目的は(1)精神障害者等の医療および保護を行い,その社会復帰の促進並びに発生の予防その他国民の精神的健康の保持および増進に努めることによって,精神障害者等の福祉の増進および国民の精神保健の向上を図ることとし,(2)国および地方公共団体の義務に,社会復帰施設を充実すること,精神保健に関する調査研究を推進することおよび国民の精神保健の向上のための施策を講じることを加え,(3)国民は,精神的健康の保持および増進に努めることとともに,精神障害者等に対する理解を深め,精神障害者等がその障害を克服し,社会復帰しようとする努力に対し,協力するように努めなければならないこととした.
 平成3年7月15日公衆衛生審議会精神保健部会が「地域精神保健対策に関する中間意見」を厚生大臣に具申した.

地域精神保健システム構築の視点—精神分裂病圏の障害者を中心に

著者: 伊東嘉弘

ページ範囲:P.239 - P.242

◆地域精神保健の社会的圧力
 社会が何によって変わるか,といった根源的な問いかけをするつもりはないが,社会のあり方に何か変革が起きるにはそれなりの社会的圧力があってのことであろう.さきに入院患者の人権と精神障害者の社会復帰を主な課題とした精神保健法の改正を終え,まもなく改正5年後の見直しの時期を迎えようとしているいま,改めて地域精神保健が課題となる社会的圧力について考えてみたい.しかし,このことは精神保健の理念に関わることであり,精神保健法や公衆衛生審議会の中間意見との関連で他に論じられると思うので,ここではいささか恣意的であるが,いま精神保健の改革に着手すべき時が熟している状況について述べてみたい.
 わが国の入院患者の約30%がいわゆる社会的入院であるという報告1)と,一方米国においては脱施設化政策が押し進められた結果,都市におけるホームレスの約3分の1を精神障害者が占めるにいたったという報告2,3)は,わが国においてはしっかりした地域システムを構築することが肝要であり,急務であることを否応なく明示している.

保健所からのアプローチ

著者: 田中康雄

ページ範囲:P.243 - P.246

◆千葉県保健医療計画
 千葉県では,県民の保健医療需要に対応し,医療機関の適正な配置を図り,健康増進から疾病の予防,診断,治療およびリハビリテーションに至る総合的な保健医療体制を確立するため,昭和63年に「千葉県保健医療計画」を策定した.その後,高齢者人口の急増等保健医療を取り巻く諸条件の変化により,保健医療サービスに遅れを生じさせないため全面的な見直しを行い,平成3年4月に新たな「千葉県保健医療計画」を公示した.
 新しい計画は,本格的な高齢化社会が到来する21世紀に向けて「すべての県民が生涯健康で安心して暮らせる千葉県づくり」を基本理念に,(1)県民の健康づくりの積極的な支援(2)地域の実情に即した保健医療資源の適正な配置と効率的な活用(3)関係施設間の機能分担と連携による総合的な保健医療供給体制の確立(4)来たるべき超高齢化社会に向け老人保健医療体制のより一層の充実(5)医療の分野における重要かつ新たな課題に対応し,行政の施策を側面から支援する「千葉ヘルス財団」の設立の5つを基本的方策とし「さわやかハートちば5か年計画」との整合を図りながら平成12年度を目標年度に,計画を推進していくものである.

障害者・家族からのアプローチ

著者: 滝沢武久

ページ範囲:P.247 - P.250

◆当事者運動の立場から日本の精神医療を考える
 筆者は個人的に精神障害者の家族としての立場から,その精神医療,社会復帰,福祉についての技術やシステムを体験的に知るべく民間精神病院,保健所そして精神科リハビリテーション医療センターなどで13年半のソーシャルワーカー経歴を持った.折しも,昭和40年の精神衛生法改正が行われ,地域精神医療の合唱期に神奈川県内の三崎保健所勤務でスタートをきった.法改正による精神衛生相談員(医療社会事業員)として,文字どおり精神保健センターの研修を受け,保健婦さんと共に地域精神衛生活動展開に向けて訪問,相談,断酒会,カンファレンス(研修)等と,それなりに精力的に活動したものだ.
 数年後,日本精神神経学会および地域精神医学会などでイデオロギーを含む論争や内ゲバ,果ては病院告発がある一方,実験的開放病院づくりなどもありながら,他方,行政内部の財政的事情という御都合主義で,生保患者が措置入院患者に切り替わるなど精神保健行政には適切な指針や先見性がないまま,単に精神病床増床と閉鎖病院長期収容という現在の病根の時代でもあった.振り返ってみると,このように技術やリハビリテーションサービスが伴わない場合,地域管理網という批判はあながち的外れではなかった.

医療機関からのアプローチ

著者: 浅井邦彦

ページ範囲:P.251 - P.254

◆はじめに
 公衆衛生審議会精神保健部会が,平成3年7月「地域精神保健対策に関する中間意見」を厚生大臣に対して行った.
 これによると今後都道府県が地域保健医療計画を作成する場合,医療法による二次医療圏ごとに,精神保健に関連する社会資源の把握,ニーズの評価を行い,必要な社会資源の整備にも配慮しつつ,精神保健に関して,保健・医療・福祉が一体となった計画を策定していくべきであると提言している.
 この提言が,具体化していくには,地域精神保健医療圏—フランスなどで言うセクトリゼーションの設定と精神保健の社会資源を医療圏ごとに見直し,それを担うマンパワー配置計画の作成を行っていくことが必要である.
 そしてキー・ステーションとして,地域における社会資源のシステム化の調整機能を持った機関を設置していかねばならない.

医療計画の中での地域精神医療

著者: 多田羅浩三

ページ範囲:P.255 - P.258

◆はじめに
 改正された昭和60年の医療法では,周知のとおり各都道府県において医療計画が策定され,計画では二次医療圏が設定され,各医療圏ごとに一般病床について必要病床数が公示されることが定められた.これは人々の医療の形に一定の区域を設定することによって,地域における計画的で,多様かつ質の高い医療資源の成長を目指したものであるとみることができる.
 二次医療圏では,原則として入院医療の需要に対応することとし,あわせて健康増進から疾病の予防,治療,リハビリテーションにいたるまでの包括的な医療の供給体制が確保されることが期待されている.
 精神分裂病に限らず精神科の疾患の多くは,日頃の疾病の管理は日常生活の営みと切り離すことができないものである.しかし現在の医療法下では,精神病床については二次医療圏ではなく,都道府県の区域ごとに必要病床数を算定することとされている.

トピックス

地域保健医療計画と保健所—高知県

著者: 元吉喜志男

ページ範囲:P.259 - P.262

●はじめに
 本格的な長寿社会の到来の中で,高知県は県民一人ひとりが真に長生きするに値する県土づくりをめざし,昭和62年2月「いきいき ながいきなごやか高知」を合言葉に『高知県長寿県づくり構想』を策定し,県政の大きな施策の柱の一つとして全庁横断的な取り組みを進めている.医療法に基づく「高知県地域保健医療計画」が作成されたのは,この構想が出てちょうど1年余を経過した昭和63年3月であった.その後,この県の保健医療計画にさらに具体性をもたせ,これを計画的に推進することを目的として,二次医療圏ごとに地域保健医療計画を作成することとなった.
 このため本県においても,国の指針に基づき平成3年3月に県下の各二次保健医療圏ごとに地域保健医療協議会を発足させ,それぞれの保健所を事務局として計画策定作業に入った.そして,現在(平成3年11月)本年度内には作業を完了すべく取り組みを進めている.
 本稿では,いただいたテーマに基づき地域保健医療計画と保健所の関わりを中心に,これまでの計画策定作業を振り返りながら,本県の地域特性を踏まえた保健所のあり方などについて一考してみることとする.

シンポジウム 第50回日本公衆衛生学会総会記念特別シンポジウム

日本の公衆衛生—その科学と行政

著者: 角田文男 ,   内山充 ,   多田羅浩三 ,   郡司篤晃 ,   伊田八洲雄 ,   谷修一 ,   鈴木継美

ページ範囲:P.263 - P.278

シンポジウムのはじめに
 45年前の昭和22年に第1回総会を持った日本公衆衛生学会は,平成3年度に早くも第50回総会を迎えるに至った.前々回の第48回総会において,この意義深い本総会をお世話するようにと指名を受けて以来,多くの会員から本総会の企画に数々の期待や要望が寄せられて,いやがうえにも第50回に相応しい記念行事も盛り込んだ総会を企画せざるをえなくなった.
 筆者自身も,本学会には早い時期から参加してもっとも愛着を感じてきただけに,参加した会員の誰もが慶祝し合いうるような,そんな総会を企画したかった.また,かなり長い会員歴をもつ研究者のなかにさえも,本学会を公衆衛生大会と呼んで憚らぬ会員が少なくないような風潮にも反発を覚えていたので,学術的にも質の高い内容の総会を企画せねばならぬと思った.彼是と考えた末に,この記念シンポジウム「日本の公衆衛生一その科学と行政」を発想した.

調査報告

豊川水系流域における横川吸虫の中間宿主寄生状況調査

著者: 山田靖治 ,   奥村正直 ,   石川直久 ,   磯村思无 ,   藤平昇 ,   木村正雄 ,   寺尾允宏 ,   對尾征彦 ,   伊藤正夫

ページ範囲:P.290 - P.294

◆はじめに
 寄生虫卵保有率は,学校検診の結果を見ても受検者中の1%を越えることがまれとなってきている.愛知県でも昭和51年の0.8%から昭和62年には0.3%と虫卵保有率が減少した.しかしながら,昭和58〜61年における寄生虫卵保有率の調査によれば,設楽,新城保健所管内で虫卵保有率が非常に高く(図1A),横川吸虫卵は鞭虫卵に次ぎ高い割合で検出された(図1B).この地区は三河山間部,豊川流域に位置している,加藤(1955)1)によれば豊川流域は,愛知県下の河川流域のなかで淡水魚に対する横川吸虫メタセルカリア寄生の濃厚感染地であることが指摘されている.近年,長瀬ら(1979)2)は豊川水系を中心として,その中間宿主である淡水魚について調査し,一尾あたりのメタセルカリア平均寄生密度が,ウグイ324隻を最高に,ついでアブラハヤ167隻,カワムツ94隻,オイカワ91隻,アユ11隻であったと報告している.

現代の環境問題・24

室内汚染—室内空気の汚れ

著者: 入江建久

ページ範囲:P.279 - P.282

1.はじめに
 わが国の国民生活時間調査によれば,住宅,オフィス,学校,駅舎,地下街などの建物内部だけでなく,自動車,電車などの乗り物も含め,いわゆる外界と切りはなされた広義の屋内空間で過ごす時間の合計が,平均的に全生活時間の85〜95パーセントに達するという.
 一方,建物や諸施設の構造が気密化し,外界との隔絶度が高まって来,その内部の空気の性質も,外気とは自ずから異なったものになって来ている.
 この両者が室内空間を独自の環境と考え,その汚染問題についても真剣に取り組まなければならない理由である.
 20〜30年前までは,住宅はもとより一般のビルでも空気調和がほとんど行われておらず,ドアや窓や換気口(開口部という)の開閉による自然換気によっていたため,冬季の暖房時を除いて,室内空気を環境大気と別個に考える必要はなく,人間のための空気を考える上では,大気汚染の制御で十分であると考えられていた.

進展する地域医師会の公衆衛生活動 学童・生徒の心臓検診に取り組む宮崎市郡医師会・1

心臓検診を開始する

著者: 河野通 ,   福永克己 ,   日高祥久 ,   内田攻 ,   松本信儀 ,   押川公昭

ページ範囲:P.284 - P.285

 河野 「ぼくが学校保健の理事をしていたころ,ある日竹下先生が突然自宅に“小学校入学時に心臓検診をやりましょう”と言って来られたのが始まりでしたね.それで,竹下先生に“委員長をやって率先して進めてくれ”と言いましたら,“ぼくはだめですから黒木先生にお願いしましょう”ということで,竹下先生と二人で黒木昌夫先生に頼みに行ったのです.
 昭和43年のことだった.当時はまだ心臓検診を行っている医師会は宮崎県内では延岡市医師会のみであった.宮崎市郡医師会の心臓検診のパイオニアとなったのが竹下博医師(現在は他県に在住)であった(当時は竹野融医師会長).

保健婦活動—こころに残るこの1例

痴呆性老人と家族への関わりを通じて

著者: 高橋美代子

ページ範囲:P.289 - P.289

 寝たきり老人や痴呆性老人の在宅ケアの中で,家族の果たす役割と苦労に,保健婦としてどうあればよいのかを考えさせられるこの頃である.
 ともすればケースへの思いが先立ち,家族に期待をかけすぎてあの方法がよい,この方法ではとお願いをし,家族の生活を乱してしまうことがある.在宅ケアのあり方,保健婦としてどうあるべきかを考える点で,大いに反省したり感じるところのあったSさんを紹介したい.

発言あり

生活大国

著者: 杉山太幹 ,   辻悦子 ,   平松守彦

ページ範囲:P.225 - P.227

「生活の豊かさの実現のために」
  「生活大国」という言葉が氾濫している.
 昨年11月に誕生した宮沢政権のキャッチ・フレーズは,「経済大国から生活大国への転換」であった.国民一人ひとりが豊かさを実感でき,多様な価値観を共有できる公平な社会にするため,これまでの生産・効率優先の社会から,生活優先への社会システムを構築しようとするものである.

公衆衛生人国記

宮崎県—衛生行政を中心に

著者: 石井和子

ページ範囲:P.286 - P.288

はじめに
 宮崎県の公衆衛生の発展を顧みるとき,多くの先達の英知と努力をうかがい知ることができる.黒木博前知事は,昭和34年就任以来20年にわたり,県民の健康と福祉の増進に深い関心を寄せ,県民生活最優先の諸施策を積極的に推進,なかでもアメニティ思想に根ざした全県公園化を推進し,昭和44年に全国初の「県沿道修景美化条例」を制定,人間と自然の調和のとれた県土美化に取り組み,「太陽と緑」のイメージ化を図った.昭和48年にはTLP(総合地域指標)を発表した.同年8月に全国初の健康増進センターを開所,毎年約1万人の利用者がある.昭和49年には多年の宿願であった宮崎医科大学の開学が実現した.魅力ある郷土の建設をモットーとした基本姿勢は,松形祐尭知事に受け継がれ,「日本一住みよい宮崎県」の創造をめざして着実な歩みをしている.その他,県医師会,国公立病院や関係機関団体などの多くの方々の功績もあるが,誌面の都合でここでは衛生行政に功績のあった方々を紹介する.

保健行政スコープ

看護職員等の確保対策について

著者: 服部悟

ページ範囲:P.295 - P.297

1.はじめに
 21世紀に向かって急速な人口の高齢化の進展とともに,保健医療福祉サービスの一層の充実が必要とされており,そのサービスの担い手である保健医療および福祉の分野のマンパワーの果たす役割は,質的にも量的にも,ますます重要なものとなっている.
 しかし,近年,経済が持続的に拡大する中で,若年労働力を中心に産業全般を通じて慢性的な人手不足が生じており,保健医療福祉のマンパワーにおいても地域によっては相当確保に困難をきたしている所もある.
 特に医療分野においては,看護職の不足感が強く,この確保が大きな問題となっている.
 行政における看護のマンパワー対策の最近の動きについて述べてみたい.

基本情報

公衆衛生

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1170

印刷版ISSN 0368-5187

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