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現代の環境問題・25
大気汚染—アスベストとその対策
著者: 神山宣彦1
所属機関: 1労働省産業医学総合研究所職業病研究部
ページ範囲:P.345 - P.348
文献購入ページに移動アスベストが広く一般に用いられるようになったのは,前世紀末の工業化時代になってからで,大量使用に伴って多数の労働者がアスベスト粉塵を吸入して石綿肺などの職業病になった.1935年に,初めてアスベスト労働者の肺癌例が報告されたがまだ一部の研究者に注目されたに過ぎなかった.戦後,さらに生産と消費が伸び各国の労働者に肺癌の発生が目立ち始め,1960年には南ア共和国でアスベストによる胸膜と腹膜の悪性中皮腫が発見された.アスベストが発癌物質であることが徐々に明らかにされると,「一本のアスベストが人を殺す」といった極端な恐怖感が,1970〜80年にかけて欧米で広がっていた.こうして,アスベスト労働者の労働衛生問題は,一般環境のいわゆる低濃度のアスベスト曝露による発癌の危険性にも大きな注意が向けられるようになり,アスベストの大気汚染問題へと広がった.
わが国でも,狭い国で大量にアスベストを消費していることから,欧米よりも高い濃度のアスベストが一般環境中に浮遊しているのではないかと懸念されていた1)。環境庁は1982年頃から実態調査を始め,1984年に一般環境中に浮遊しているアスベストの調査結果を報告した2).
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