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雑誌目次

雑誌文献

公衆衛生56巻6号

1992年06月発行

雑誌目次

特集 地域における看護と介護

地域における看護と介護

著者: 佐々木順子

ページ範囲:P.380 - P.384

■はじめに
 保健・医療・福祉の連携といわれる.何も目新しいことではなく,保健・医療・福祉の分野で働く人は,各々の現場での問題解決をするために日常的に行ってきたことである.では,なぜ今大きな話題性をよんでいるか.それは,問題を解決するための保健・医療・福祉のかかわり方に,従来にも増してより密接な連携をもつ必要性が求められるようになったことによる.ひとつには,高齢者の増加による対象数の増加,豊かな生活(QOLの向上)への要求があろう.また一方には,医療費の増大に対する危機感が引き金になっていたことも見逃せない.保健・医療・福祉は,ともに人々の健康な生活を保証するシステムである.その強力な後ろ盾になるものが医療であり,基盤となる生活,しかも質のよい社会生活を支えるものが福祉であり,保健は全体活動の推進力となる.そして,保健・医療・福祉に共通する理念がケア(世話をする)であり,共通する機能が看護・介護といえよう.まず,医療の視点からこれを考えることにする.

在宅要介護老人へのアプローチ—コミュニティ心理学の視点から

著者: 久田満

ページ範囲:P.385 - P.389

■はじめに
 コミュニティ心理学とは,1960年代のアメリカにおいて,「第三の精神衛生革命」と呼ばれた地域精神衛生運動の中,従来の臨床心理学に対するアンチテーゼとして登場した応用心理学の一領域である1).その目指すところは,臨床心理学と同様,個人や集団の精神的健康を高め,より適応的に生活できるようにすることであるが,その視点や方法論には大きな違いがある.
 本稿では,コミュニティ心理学注)の視点から,地域における老人看護ないし介護の在り方を考える際に必要なフレームワークを提示してみたい.心理学の扱う問題は基本約には心の問題ではあるが,様々な障害を抱えながら在宅で過ごす高齢者のケアの在り方を考える際に参考になる点が少なくないように思われる.

訪問看護婦の現状とその教育—岩手県看護協会の活動から

著者: 成澤良子

ページ範囲:P.390 - P.393

◆はじめに
 岩手県看護協会は,昭和57年度から平成元年度まで毎年「老人在宅ケア」に関する各種の実態調査を継続してきた.顧みると,昭和57年当時は,自治体からの訪問看護の主たる対象は訪問指導を除けば「老人保健法」による“寝たきり老人”であったものが,高齢化の波が急連に進み,寝たきり老人に加えて,“医療依存度”の高い人口の増加,家族介護の弱体化,さらには,保健,医療,福祉に対する地域住民のニーズの高まりなど,ここ8〜9年の間に訪問看護サービスへの期待が次第に広がりをみせてきている.
 一方,国や自治体は,長寿社会への対応として「訪問看護」の有効性を評価し,様々な具体策を打ち出してきた.われわれはこの機会に訪問看護の提供者の質や量の確保と共に,ケアの受け手の実情を把握し,訪問看護の基盤整備を図るべく,平成元年度に改めて実態調査をした.その中から,訪問看護婦の現状とその教育について,部分抽出して紹介する.

在宅要介護者と家族介護者への援助態勢

著者: 村山正子

ページ範囲:P.394 - P.398

◆はじめに
 老齢人口の急速な伸びに伴い,何らかの援助を要する高齢者もここにきて急増している.ことに,後期高齢者人口の増加が著しく,それだけ介護を要する高齢者の割合が増え,介護の量と新しい種類の介護内容とが求められている.このように急激に変化しつつ増大するニーズに対して,国は様々な対策を矢継ぎ早に打ち出し,それを受けた実践現場では混乱しつつも,全国的にエネルギッシュな取り組みが始まった.筆者に与えられたテーマを在宅の介護を要する人々とその家族に関する現状および援助の課題と受け止め,東京都の老人訪問看護の実態を通して考えてみたい.
 東京都では昭和50年代前半に,寝たきり老人に対する訪問看護事業が大半の区や市で開始されていた.老人保健法の成立を契機に,より体制を整え発展してきている1).また,在宅高齢者を支える様々な福祉サービスも充実しつつある.

訪問看護ステーションヘの取り組み

著者: 中島悦子

ページ範囲:P.399 - P.402

◆はじめに
 箕面市は昭和63年,厚生省の「訪問看護等在宅ケア総合推進モデル事業」の指定を全国11市町の1つとして受けた.モデル事業は平成2年3月で終了したが,平成2年度からは市の事業として引き続き継続し,保健・医療・福祉との連携による在宅ケアの充実を図ってきた.この4年間の実績を基盤に,平成4年4月1日,老人保健法に基づく「箕面市老人訪問看護ステーション」の指定を受け,大阪府および箕面市医師会の指導協力のもとに指定老人訪問看護事業を開始し,在宅ケアの推進を図っている.
 現在市においては,これからの高齢化社会への積極的な対応として在宅を支援する保健福祉総合施設(ライフプラザ)計画を推進しており,箕面市老人訪問看護ステーションはこの計画における本市在宅サービス供給ステーションの中核的役割を果たす訪問看護部門として子定している.

在宅ケアの福祉情報システム

著者: 武下英二

ページ範囲:P.403 - P.407

◆はじめに
 21世紀の超高齢社会の到来を目前に,誰もが安心して暮らせる地域社会を実現するため,福祉関係機関においては,地域事情に即した素晴らしい福祉サービスシステムづくりに取り組まれていることと思う.中津市社会福祉協議会(以下,社協)でも昭和60年の中津福祉ネットワークシステムの開発を手始めに,昭和62年の地域老人福祉システム開発育成事業では,社会連携情報システム(緊急通報システム・手動声かけ電話システム・自動声かけ電話システム)を稼働させるとともに,シルバーライフ総合支援システムの理論構築を行政と共に取り組み,現在,その実践に向けて試行錯誤を繰り返している.また,本年度においては,光ファイルとファクシミリを活用し画像情報を提供する,イメージ情報ネットワークシステムづくりに取り組んでいる.ついては,昭和60年からオフコン,パソコン,多機能電話や光ファイルなど,ニューメディアを活用して取り組んで来た福祉情報システムづくりについて報告する.

在宅ケアについて—福祉のサイドから考える

著者: 中村秀一

ページ範囲:P.408 - P.413

◆在宅福祉の歩み
 わが国の人口の高齢化は,今後30年続く.高齢者対策もこれから30年の大きな事業である.福祉対策は,所得保障=年金,医療・保健と並んで高齢者対策の基本となるものである.高齢者福祉において在宅ケアがどのような位置にあるかから,説明してみたい.わが国の高齢者福祉は,1963年の老人福祉法の制定に始まり,ほぼ30年の歴史を有する.しかし,その歩みの大部分は,特別養護老人ホームの整備を中心とする施設対策に重点が置かれ,在宅福祉は立ち遅れてきた.
 在宅福祉のメニューの中では,唯一ホームヘルプ事業が「家庭奉仕員事業」として昭和38年に老人福祉法が制定された際に法定化されている.だが,1982年まで派遣対象世帯が低所得者に限られていたり,ホームヘルプ事業に対する国の補助率が1989年まで1/3と施設対策に対する補助率(1/2)より低かったことなどから,ホームヘルプ事業の定着は十分ではなかった.ホームヘルプ事業以外の在宅福祉対策としては,1978年にショートステイ事業が,翌1979年にはデイサービス事業が創設されている.1986年には,この2事業は老人福祉法に盛り込まれ,法定化されている.

トピックス

医療機関での放射線被曝と汚染

著者: 赤沼篤夫 ,   青木幸昌 ,   中川恵一

ページ範囲:P.414 - P.417

1.放射線の被曝
 医療をはじめ放射線は,社会において発電,非破壊検査,トレーサ等,多くの所で利用されている.同時にこのことは人々に放射線被曝の可能性をもたらしている.放射線は人体に有害な要因の一つであるが,一方で,医療の場合放射線の利用により,各個人の,また,社会の受けている恩恵は計り知れないものがある.それゆえ,放射線は効率的に利用されるように研究が行われている.
 医療機関での放射線被曝の問題は,医療従事者の被曝の問題と患者の被曝および地域住民の問題がある.医療に放射線を利用することによる被曝対象者を区分すると,一般に次の3区分が考えられる.

研究ノート

生活行動の定量的評価方法の開発

著者: 木村朗

ページ範囲:P.432 - P.437

●緒言
 個々の人間の生活行動と疾病の罹患傾向の間に強い関連が存在することは,これまでにいろいろなデータで示されている.また,生活習慣が死亡率を変化させることも,データで示されている.
 生活行動の把握は,健康の保持・増進やリハビリテーションといった保健活動にとって必須である.しかし,いずれも生活行動を分類し,習慣の有無と,それらの関連を調査した調査研究が主であった.行動を運動学的に分類した上で算出された各行動の所要エネルギー消費量といった量的側面と,疾病や健康状態の関係を研究したものは少ない.最大の壁は,従来,生活行動を定最化するためには,大量な時間と計算が必要であり困難を生じていたためと考えられる.
 そこで筆者は,近年,発達普及の著しいコンピュータを利用し,大量の時間と計算の所要を排除し,個人や集団の健康管理に応用可能なデータを迅速に算出し,評価するための方法の開発を試行している.方針として,マニュアルを必要とせず,対話型で,コンピュータに初めて触れる者でもやさしく操作できるシステムの開発を進め,今回,新しい評価方法の開発を行った.

国立循環器病センター退院患者の追跡調査—脳卒中・心筋梗塞患者の生存率の推移

著者: 寺尾敦史 ,   馬場俊六 ,   萬代隆 ,   小西正光 ,   撫井賀代

ページ範囲:P.438 - P.442

●はじめに
 疾病罹患者の長期予後を観察分析することは,その疾病の予防対策をたてるうえに有用である.疾病の自然経過をみるためにもっとも望ましい研究方法は,地域を基盤とした前向きの疫学調査であると考えられる1)が,疾病羅患者の予後をみた検討成績の大部分は病院を基盤としたシステムに基づくものである.
 今回ここに紹介する国立循環器病センターの院内循環器疾患登録・追跡システムも本来病院をベースとした登録・追跡システムであり,地域をべースとしたシステムではないことに留意が必要である.私どもの部門では医師会と協同して吹田市全域を対象とした循環器疾患の登録・追跡を実施しており,その成績からみると,国立循環器病センターの入院患者は当地域における循環器疾患登録例の約半数を占めているが,比校的若年の軽症例が多いことが認められている2),当センターのシステムを通じて得られた結果を直接地域へ一般化することには無理があるが,対象選択の偏りを知って成績をみることにより,地域の実態を把握することは可能であると考えられる.このことが本研究の特色である.

栃木県南河内町における成人病検診受診者の死亡と関連する要因に関する研究

著者: 塚原太郎 ,   永井正規 ,   藤田委由 ,   小倉裕 ,   籾山喜久代 ,   鳥居みゆき ,   横山英明 ,   中村好一 ,   坂田清美 ,   柳川洋

ページ範囲:P.443 - P.446

●はじめに
 脳血管疾患による死亡は,1951年から1980年までわが国における死因の第1位であり1)最も大きな健康問題の一つであった.そのため,1960年代から1970年代にかけて,脳血管疾患の危険因子を明らかにすることを目的とした疫学研究が数多く行われ,その危険因子として高血圧,食塩の過剰摂取や動物性蛋白の不足等の食生活との関係が指摘されるようになった2).そして,食生活改善の普及や成人病検診等の保健予防対策が行われてきたことにより,脳血管疾患死亡は年々減少し,平成元年には脳血管疾患は死因の第3位となっている.
 わが国では,成人病対策の一環として1982年に老人保健法が制定され各種の保健事業が全国の市町村において実施されてきており,同法制定後9年が経過した今年度は,第2次5カ年計画の5年目である3)
 栃木県南河内町では,1978年から,老人保健法に先駆けて成人病検診(以下,検診)を実施しており,翌1979年からは検診対象者ごとに,検診の際に得られた既往歴,検査成績等の情報(以下,検診結果)を,経年的に管理している.

現代の環境問題・26

室内汚染—室内環境とアレルギー

著者: 松田良夫

ページ範囲:P.418 - P.421

1.はじめに
 真菌(約5,950属,約64,200種)による生活への危害は住環境の汚染,食品の変敗だけでなく,健康障害をももたらす.室内微生物汚染の有害性については各分野で多角的に検討されているが,その生態は複雑多岐にわたっており,その実態が把握されていないので的確な汚染防止対策が施されていないのが現状であろう.日本の住宅形態は気候風土に適した木造住宅から鉄筋コンクリート住宅に建築様式が変遷した.その住環境はあらゆる面で整備,改善され生活様式も一変し,快適な生活環境になった.その反面,暖房器具,加湿器具などによる室内温湿度の上昇から室内に非定常あるいは定常結露を発生させ,その結果,室内に存在している真菌の生育,増殖を促進している.
 室内の真菌について屋内性のダニと共にその挙動に注意せねばならないのは,アレルギー性疾患の病因的抗原として,真菌症の感染源として,また食品衛生上重要視されるマイコトキシンによる危害防止の面からも,生活環境における生態の解析が必要だからである.真菌はその多様な性状を環境に順応させながら存在しているが,いつも生育活性状態ではない.生育に不適な環境では静菌状態で,長期間にわたって細胞形態を萎縮し生存している.

保健所機能の新たな展開—飛躍する保健所

ユニークな保健所活動の条件—スリム&ボトムアップ

著者: 田上豊資

ページ範囲:P.422 - P.424

◆地域保健将来構想検討会の報告
 地域保健将来構想検討会から,保健所の情報・計画・調整機能などの充実強化と地域にあったユニークな活動を展開する必要性が強調され,厚生省計画課は,その推進を図るため地域保健医療計画や地域保健推進特別事業を新規事業化した.保健所にとっては,実に有り難い話であるが,残念ながら今一つ反応が鈍いように聞いている.
 確かに,全国的視野で見ると,縦割りの機関委任事務に慣れすぎたせいか,基礎体力を失って折角のチャンスにも食いつく力のない保健所が多いのも事実かもしれない.しかし,「なぜ基礎体力が弱まったのか?」,「どうすれば基礎体力づくりができるのか?」という議論と対策を十分にすれば,保健所は,来るべき21世紀の課題解決に大きく貢献できることを主張したい.

進展する地域医師会の公衆衛生活動 学童・生徒の心臓検診に取り組む宮崎市郡医師会・3

フォローアップと今後の課題

著者: 河野通 ,   福永克己 ,   日高祥久 ,   内田攻 ,   松本信儀 ,   押川公昭

ページ範囲:P.425 - P.428

 フォローアップは学校の協力がないとなかなか難しい.そこで学校長会などでは協力と理解を求めている.
 内田 「フォローアップは小学生の検診異常者に対して中学3年まで,心臓検診班が担当しています.高校生は入学の1年時に心臓検診を行っているわけですが,その後はまだできていません」.

発言あり

地球サミット

著者: 関雅楽子 ,   田原直廣 ,   山田信也

ページ範囲:P.377 - P.379

「葦(よし)の髄から」
 平成4年1月30日,世田谷区民ホールで,区民健康村縁組協定10周年記念の式典が行われた.世田谷区と川場村(群馬県)は,昭和56年に,区民健康村相互協力協定を結び,地域間交流の実績をあげて来た.'91年区政概要によれば,①りんごの木のオーナーになって,地元農家とのふれあいのもと,春の摘花,秋の収穫を楽しむなど,農作物に触れる,②豊富な素材ときれいな水を生かして,和紙づくり技術を習得する造形大学など,趣味を生かす,③世田谷美術館収蔵の美術品を,テーマを決めて毎年展示する,などの交流事業が記され,平成2年度の利用状況は延べ71,418人となっている.小学校5年生の移動教室や,一般の区民の利用の総計である.この中には,人数は少ないが,保健所デイケアメンバーの宿泊訓練も含まれている.
 そして10周年,この日を記念して,新たに友好の森事業に関する相互協力協定を結んだのである.その目的は,区民健康村を支える川場村の環境を保全育成し,自分たちの身近なところにある森林を,自分たちで守り育てることをとおして,環境問題の新しい取り組みのあり方を追求する,としている.

公衆衛生人国記

北海道—各地で活躍する公衆衛生人

著者: 佐藤章

ページ範囲:P.429 - P.431

はじめに
 例年2月頃は「札幌雪まつり」の開催時期であり,札幌は大いににぎわっている.この雪まつりは年々国際色豊かな一大イベントとなって観光北海道のシンボル化しつつある.期間中の札幌の人出は260万といわれ,交通は混雑するし,ホテルは容易に取れないことから,地元の我々は札幌に出かけるのを遠慮することにしている.北海道といえば,日本の北辺,寒冷積雪の地であり,日中物陰から熊公が顔見せするかもしれぬ物騒な僻地というイメージを持たれる人が多いのかもしれぬが,明治以来,国の政策もこれあり,120年余にわたる官民あげての開拓の結果,広大な原始林を沃野に変えて面目を一新した.JRの青函トンネルは昭和62年に開通し,高速道路網は次第に拡張されつつあり,海外への航空直通便は次々に開設されている.あとは新幹線の開設決定を待つばかりである.本道は,将来のわが国の食糧生産基地として,北方圏諸国との交流基地として発展が期待され,また残されている豊かな自然を武器に,観光開発には大きな可能性を秘めた地域である.ただし,かつて道内の主要産業であった石炭鉱業と水産業の衰退に伴い,過疎化の進行に悩んでいる市町村は多い.

基本情報

公衆衛生

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1170

印刷版ISSN 0368-5187

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