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雑誌目次

雑誌文献

公衆衛生56巻7号

1992年07月発行

雑誌目次

特集 職場環境と健康管理—産業看護の課題

職場の環境要因—物理的要因

著者: 岩田弘敏

ページ範囲:P.452 - P.455

■はじめに
 産業看護職は,環境管理,作業管理,健康管理の3管理のうち健康管理に限って考える傾向があったが,今日では産業看護職が学際的な産業保健チームの一員として活動するためには,程度の差はともかく労働衛生管理のすべてに関わりをもたねばならないと考えるようになってきた.したがって,職場の環境要因の理解も必要となってきている.
 宇宙,太陽系,地殻などの自然的エネルギーが物理的要因である.産業社会には,こうした熱,圧,音,振動,光,磁気などの人為的エネルギーが生産活動の工程で発生し,そこで働いている労働者に少なからず影響を与えることがある.つまり,温熱,高気圧,騒音,振動,電離放射線,紫外線,赤外線,可視光線,レーザー光線,磁場などの有害エネルギーが職場での物理的要因である.

職場の環境要因—化学的要因

著者: 東敏昭

ページ範囲:P.456 - P.460

■化学的環境因子の概略
 産業医学において化学的環境因子あるいは“化学物質”とは,気体,液体,個体の存在様式を持つ生体の健康に影響を及ぼす物質をさすものとここでは定義する.

職場の環境要因—生物学的要因

著者: 岡崎勲 ,   村田友紀 ,   和田則仁

ページ範囲:P.461 - P.464

 職場の環境要因を生物学的hazardの面から述べる.今どこの職場でも問題となっているのは,若い世代にγ-GTP高値を示す者が多くみられることと,各種アレルギー症状を訴える人が多いことである.結核とAIDSは変わらず油断できず重要である,海外勤務者,海外からの出稼ぎ労働者,ウイルス性疾患に罹患しやすい高危険度群である医療従事者,その他職業内容から動物,植物,微生物などに接する従事者など,職場の特異性による健康障害をきたす問題がある.ここでは誌面の都合から肝機能検査異常者の問題,アレルギー症状を訴える人の問題,その他の3つに分けて述べる.

職場の環境要因—社会心理的要因

著者: 相澤好治

ページ範囲:P.465 - P.468

 ■はじめに 近年,ストレスという言葉が産業衛生の面でよく使われるように,職場の健康問題の中で,社会心理的要因は無視できないものとなっている.その理由を考えると,かつて身体的な労働が主であった職場において,現在は頭脳あるいは感覚器を使う労働の比重が増えてきたり,企業規模の拡大,多角化,国際化の進行により,人事面での移動が激しくなり,労働人口の高齢化により,適応能力の低下した中高年齢者にしわよせがきているなど,複数の要素をあげることができる.
 職場の中で精神的緊張をもたらす大きなものは,一つは仕事に関すること,もう一つは職場の人間関係である.しかし両者は完全に分離することは出来ない関係にある.仕事の成功や失敗の個人に対する影響は,上司や同僚の評価に大きく依存するからである.特に仕事に失敗したり,過度に疲労した状態で心理的にサポートしてくれる人がまわりにいるかいないかでは,非常に異なる結果を生じる.

職場巡視

著者: 柳下澄江

ページ範囲:P.469 - P.472

■はじめに
 職域の看護職として,労働衛生管理をすすめるには,作業環境管理,作業管理そして健康管理が当然必要であることは言うまでもない.さらにこの3本柱を円滑に運営するためには,総括衛生管理と労働衛生教育が必須である.「職場巡視」を実施するにはこの5管理が基本となり,作業場所の環境,作業姿勢,材料製品等の運搬など,または有害物取り扱い作業者の健康障害を防止するため必要な措置を講じなければならない.実施は定期的に計画することはもちろんであるが,必要に応じて不定期に行うこともある.また,巡視の後措置として,作業環境を快適にする局所排気装置の改善や,作業者の負荷を少なくするための改善処置に参画するようにすべきと考える.
 産業医が嘱託産業医の事業場の産業看護職は,労働衛生の業務をしっかり身に付け,産業医の代行をしなければならない.

職場の健康管理—健康教育

著者: 高橋明美

ページ範囲:P.473 - P.476

■はじめに
 総合的な労働衛生管理を進めるに当たっては,三管理(作業環境管理,作業管理,健康管理)についての正しい理解が大切である.と同時に,これらをスムーズに進めるためには,その管理体制と教育が大切であるといわれている.
 私たち労働衛生コンサルタントの業務の中でも全業務に対し,教育訓練,教育指導,講演など,広く“教育”に関する業務をすえると30%にものぼる.また事業所の衛生管理者が重点的に取り組んでいる事項としては,“衛生教育等”を24.5%があげている.一方,事業所側が衛生管理者に望む職務として“労働衛生教育”をあげるものは38.1%で,もっと労働衛生教育に力を注いでほしいと,事業所側では望んでいる.急激な技術革新,老齢化に伴う就業形態の多様化等による労働災害増加への対応として当然といえる.
 さて,職域における健康教育とは何かを考えると2つの面があるといわれている.

職場の健康管理—健康診断

著者: 荒記俊一 ,   横山和仁

ページ範囲:P.477 - P.481

■健康診断の概念
 産業保健の目的は働く人々の健康を守り育てることにある.健康障害の所在の認知・評価・診断と同定された健康障害のコントロールは産業保健活動の基本である.健康診断(health examination)は,環境管理,健康教育,健康相談,臨床サービスとならんで,産業保健の主要な実践活動を構成する.
 健康診断は,集団の中からあるレベル以上の健康障害をもった人々をできるだけ早期にえり分ける操作(スクリーニング)である.健康診断は個人を対象に行われることもあるが,この場合でも通常対象者の多くは「健康」な人々である.健康診断は,質問紙,面接,医師の診察,臨床検査などによって行われる.

職場の健康管理—健康相談

著者: 岡田治子

ページ範囲:P.482 - P.484

■健康管理体制の中での健康相談の意義
 健康診断・作業環境測定・職場巡視等から入手出来にくい健康情報(働く人々のあらゆる生活場面:職場環境・勤務体制・職場の人間関係・家庭生活での心身の健康問題)は,「健康相談」によって,担当者のもとへ持ち込まれる.そのために「健康相談」は,産業保健の目標を達成するための重要な手段の一つとして位置付けられる1)

職場での生活改善指導

著者: 飯島美世子

ページ範囲:P.485 - P.489

■はじめに
 近年,健康に関する情報はテレビや新聞,雑誌などを通じて世間に溢れているが,これらの健康情報を一人ひとりの従業員が自分のこととしてとらえているとは言い難い.また,現在の不健康な生活を改めたほうが良いとわかっていても,不適切なライフスタイルを改めるには我慢と根気,強い意志などが必要なところから,ともすると自分の生活習慣を擁護しがちである.
 そこで,産業看護に従事するものとしては,公式論でなく,対象者にとって改善が必要な事柄は何であるのか,何が最も優先するのかを見定め,その人の意思を尊重しながら勤務態様や労働環境,職場風土・従業員気質などを考慮し,改善可能となるようにモディファイした文援をすることが大切と思われる.そしてさらに,良いライフスタイルが維持できるように,個人を対象として教育・相談・指導を行うほかに,集団や組織に対してあらゆる機会を利用して働きかけていくことが必要と思われる.
 本稿では,これからますます中高年者の割合が増すであろう企業の中で実施してきた,健康管理の一環としての保健指導・健康教育の実情を述べてみたい.

研究ノート

長期にわたる疫学調査成績からみた循環器疾患の動向

著者: 谷垣正人 ,   飯田稔 ,   嶋本喬 ,   小町喜男 ,   内藤義彦 ,   土屋寛泰 ,   佐藤眞一 ,   木山昌彦 ,   北村明彦 ,   磯博康 ,   山海知子

ページ範囲:P.507 - P.512

●はじめに
 われわれは20数年前から秋田,大阪などの地域・職域を異にする集団で循環器疾患の疫学調査を続け,在来の農村型の集団では脳卒中が多く,都市の集団では脳卒中も虚血性心疾患も少なく,そして,大企業の管理職などのように都市化が進み過ぎた集団では虚血性心疾患が多いこと,したがって,循環器疾患は生活環境の影響を強く受け,ある程度の生活環境の都市化は脳卒中と虚血性心疾患の両方を少なくするために望ましい,ということを明らかにしてきた1)
 ところが日本は,この数十年間に著しい経済成長を遂げ,日本人の生活環境は全体として,在来の農村型から都市型のほうへ大きくシフトした.この結果,前述した各集団の循環器疾患がどう変化したかを追跡することは,現在もなお都市化が進行中の日本全体の循環器疾患対策のあり方を考える上で,極めて重要と考える.
 そこでこの報告では,前述した秋田,大阪の集団の,その後の脳卒中と心筋梗塞の動向および循環器検診所見の推移を検討することにより,生活環境の変化が循環器疾患に及ぼした影響を明らかにするとともに,そのことを通じて,今後の循環器疾患対策のあり方を考えたい.

現代の環境問題・27

地球規模汚染—フロンによるオゾン層破壊

著者: 富永健

ページ範囲:P.490 - P.492

1.はじめに
 これまでは,環境問題といえば排水中の重金属や,大気中の工場・自動車排ガスなどがもたらす「公害」が中心であり,これらの問題の多くは,その後の対策によって改善されて来た.一方では,産業や生活の様態の変遷とともに,新たに発生した公害も少なくない.このような従来の「公害」に共通していることは,影響の及ぶ範囲が局地的な,地域環境の問題であるという点である.
 数年前から,このような地域環境問題とはまったく異なったタイプの問題が世界的に注目を集めるようになった.フロンによるオゾン層破壊や,二酸化炭素などによる地球温暖化のような地球規模の環境問題である.これらは,原因となるフロンや二酸化炭素がどこで放出されても,最終的には地球大気全体に拡散して影響を生ずるために,地球環境問題と呼ばれている.このような問題では,原因となるフロンや二酸化炭素は生物に直接有害な物質なのではなく,複雑な地球システムのバランスを乱すことによって,結局は生物の生活環境を破壊することになる.

保健所機能の新たな展開—飛躍する保健所

保健所の対人行政の推移と課題

著者: 翠川洋子

ページ範囲:P.493 - P.495

 昭和13年に保健所が誕生してから50年余が経過した.50周年を祝って記念行事等を計画した保健所もある昨今である.この50年,日本は戦争,それに続く終戦後の経済的発展,豊かな社会になるとともに成人病,高齢化社会の到来とめまぐるしく変化して来た.保健所もその時代の変遷に対応して変化し,今日の世界一の長寿社会,また世界一低い乳児死亡率を誇る健康国となり,従来の保健所の果たしてきた役割は大きい.
 高齢化,国際化,福祉化の時代,昭和62年に総務庁は行政監察の結果,保健所の業務運営の合理化,効率化を図る必要があると勧告を行った.平成元年6月,厚生省の地域保健将来構想検討会は将来の「保健所のあり方」について報告を行った.それらに基づいて,各都道府県では保健所のあり方について具体的に検討しており,すでに新しい体制に踏み出しつつある地域もあると聞いている.筆者は公衆衛生に働くこと10数年でまだ浅薄な身ではあるが,保健所のあり方について,対人行政に私見を述べてみたい.

データにみる健康戦略 21世紀への健康戦略—データにみるその目標・1

死の経緯

著者: 倉科周介

ページ範囲:P.496 - P.499

 近ごろ病気の姿が変わってきてはいないだろうか.なによりもわれわれの身近から病気の影が薄くなってきてはいないだろうか.医療費の増大やある種の医療従事者の不足や,とりわけ高齢化傾向にともなう多病人口の増加など,病気にまつわる不安は募りこそすれ,間違っても弱まることだけはないような雰囲気である.だが少し落ち着いてあたりを眺めてみよう.すると案外脅えていない自分に気がつくだろう.早い話が,病気や死の不安は健康な多数にとって他人事になりつつある.それは病気や死と社会との関係に大きな変化が起こっている証拠である.20世紀も終わりに近い今は,その変化の過程を的確につかんで次の世紀への対策を練る好機といえよう.
 そもそも死とは,今までどんな姿をしていたのだろうか.

進展する地域医師会の公衆衛生活動

神戸市兵庫区医師会の在宅ケア連絡会・1

著者: 松本憲一郎 ,   森本祐二郎

ページ範囲:P.500 - P.501

 神戸市兵庫区は人口121,175名で,「ひよどり越え」で知られる湊川の戦場地の地域で,福原や平野など神戸市内では下町の雰囲気が残っている.老人が多く,老年人口は16.8%と神戸市で最も高く,ひとり暮らしの老人が14.1%,高齢者夫婦世帯は16.8%を示している(平成2年国勢調査による).兵庫区医師会の事務局は福原の近くのビルの2階にあり,現在の会員数は260名(うちA会員187名)である.

保健婦活動—こころに残るこの1例

精神障害者へのかかわり方を学ぶ

著者: 藤本準子

ページ範囲:P.505 - P.505

 精神保健相談員の資格を取得し,7年目になる.当時は,やらなければいけない,しかしどのようなところから取り組めばいいのか,気負いばかりが先に立ち,いろいろな事例と出会うごとに悩むことが多かった.しかし,それをバネにして頑張っているこの頃である.保健婦業務の多様化,複雑化により,個々とのかかわりも薄くなっている現在,目の前の業務に追われ,自分をふり返ることができていなかったと思う.今回の事例を通し,ケースの表面に出た現象を問題点ととらえ,言動に振り回されていたが,本音でぶつかっていくことにより,問題の本質を見失っていた自分に気づいた.冷静に受容し,待つことの大切さを学んだので紹介する.

発言あり

土用の丑の日

著者: 菅野広一 ,   小町喜男 ,   吉村健清

ページ範囲:P.449 - P.451

「先人の生活の知恵を見直す日」
 「土用の丑の日」になると,何となくウナギを食べないといけない気持ちになってしまいます.この風習はいつごろから始まり,どんな起源があるのだろうか.
 万葉集の中に大伴家持が詠んだ和歌で「石麻呂に 我れ物申す 夏やせによしというものぞ むなぎ(ウナギ)取り召せ」とあります.夏やせによいウナギを食べて,健康を保持しようという生活の知恵で,奈良時代より引き続いているものです.しかし,この時代には「土用の丑の日」という言葉はなく,これができたのは江戸時代だといわれています.この説の一番確からしいのは,『雑学大百科』(三公社)によると「江戸買物案内」の「う」の部に出てくる話.

公衆衛生人国記

東京都—公衆衛生のお雇い外国人バートン

著者: 酒井シヅ

ページ範囲:P.502 - P.504

 ここに1冊のアルバムがある.駿河台のニコライ堂の鐘塔の上から360度カメラを回して,東京市を13枚に分けて写したものである.時は明治21年(1888)の暮れに近い冬のある日であった.建築中であったニコライ堂の足場から撮ったものである.高くて大きな建物といえばお寺しかなかった時代にニコライ堂の鐘塔はけた外れに高かった.ぐるりと見回したパノラマ写真は壮観である.この写真を撮ったのがWilliam KinnimondBurton(1856-99)であったといわれる.
 バートンは日本に衛生工学という学問をもたらした英国人であり,東京をはじめ日本の主要都市の上下水道の調査ならびに設計を指導した人物である.1856年5月11日にエディンバラに生まれた.父は歴史学者で,スコットランド史で有名な人である.エディンバラ工業専門学校を卒業(一説にケンブリッジ大学のキングスカレッジを出たとある).1873年から5年間,エディンバラ市内のブラウン社に勤務,その後,母方の叔父と一緒にロンドンに衛生工事の事務所を開き,1882年から叔父が代表になった衛生保健委員会の専任技師を勤め,市民工学研究所の協力会員でもあったときに,東京行きの誘いを受けたのであった.

保健行政スコープ

老人診療報酬の改定と在宅医療の新展開

著者: 石塚正敏

ページ範囲:P.513 - P.516

1.はじめに
 平成2年4月から2年ぶりに診療報酬の改定が行われ,この4月1日から実施された.マスコミ等で周知のとおり,今回の診療報酬の改定率は平均5.0%の引き上げ(薬価の引き下げ分を差し引いた実質引き上げ率で2.5%)という,昭和56年以降では最高の引き上げ幅となっている.
 老人診療報酬は,社会保険診療報酬の仕組みの中で特に老人医療において政策的に取り上げるべき事項について特掲して点数を定めているものであり,昭和58年の老人保健法の施行以来,この点数体系がとられているが,特掲項目以外については社会保険診療報酬に従って支払いが行われている.
 今回の老人診療報酬の改定においては,公衆衛生活動と密接な関連を有する在宅医療に関する事項も多く含まれているので,これを中心に改定の概要を紹介する.

基本情報

公衆衛生

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1170

印刷版ISSN 0368-5187

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