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雑誌目次

雑誌文献

公衆衛生56巻9号

1992年09月発行

雑誌目次

特集 性感染症(Sexually Transmitted Diseases)

性意識の変貌と性感染症

著者: 熊本悦明 ,   西村昌宏 ,   岩沢晶彦 ,   林謙治 ,   広瀬崇興

ページ範囲:P.596 - P.601

〔はじめに〕
 最近までは,麻薬患者やHomosexualの人々といったごく限られた人の疾患と考えられていたAIDSが,次第に異性間感染による場合が主流となりつつあり,性感染症としての性格を強めている現在,もはや対岸の火事として遠くから眺めている場合ではない.しかし本邦においては未だ身近な問題として認識し,危機感を持っている人は少ないように考えられる.今や,本邦における各種性感染症の流行は欧米先進諸国並みであり,その感染ルートに乗って無自覚のままにAIDSが広がって行く可能性を考えると,近い将来に大問題となることは,まさに火を見るよりも明らかである.
 そのような観点から,本邦における性感染症流行の現状を的確にとらえ,人々の意識改革を含めた適切な予防措置をとることが急務であると考える.そこで本邦における性感染症の現状を解説し,少しでも多くの人々に,性感染症に対する危機感を喚起せしめる一助となることを願うものである.

性感染症の臨床—梅毒・淋病・軟性下疳・そけいリンパ肉芽腫症

著者: 津上久弥

ページ範囲:P.602 - P.605

〔はじめに〕
 性病は性的接触によって感染する疾患で,従来性病予防法では梅毒,淋病,軟性下疳,そけいリンパ肉芽腫症の4疾患が指定されている.近年この枠に収まらない多くの疾患が注目されるようになり,国際的にSexually Transmitted Diseases(STD)という概念が1975年ごろから定着してきた.本稿では,従来の4疾患の臨床的な事項の要点を述べる.

新たな性感染症の臨床

著者: 川名尚 ,   小泉佳男

ページ範囲:P.606 - P.610

 性行為によって感染する疾患群を従来は性病と称していた.この時代は,性病としては淋病,梅毒,軟性下疳,そけいリンパ肉芽腫の4つの疾患にしか目が向いていなかった.
 ところが,性行為によってうつる感染微生物はこの他にも数多くあることが判明し,それらを総称してSexually Transmitted Diseases(STD),性感染症と呼ぶようになった.このようになってきた背景には,1960年代からの性の自由化への社会的な変革とそれに伴うSTDの増加と,学問の著しい進歩によるウイルス・クラミジアなどの従来は不可能であった感染微生物の検出が可能になった点が挙げられる.

エイズの臨床

著者: 味澤篤

ページ範囲:P.611 - P.613

〔はじめに〕
 エイズ(AIDS)はAcquired immunodeficiencysyndromeの略で日本語では後天性免疫不全症候群と訳される.1981年にアメリカ合衆国で報告されてから10年もたたないうちに世界的に蔓延し,特に近年は東南アジア〜インド亜大陸にかけて急速に広がりつつある.

性感染症の疫学

著者: 岡崎武二郎

ページ範囲:P.614 - P.618

〔はじめに〕
 性病予防法により届出が必要である性病は梅毒,淋病,軟性下疳,そけいリンパ肉芽腫の4つである.最近は性病の概念が拡大し,性行為によって発症するすべての疾患を性行為感染症(sexuallytransmitted diseases;STD)と呼称するようになり,上記4つの性病の他にクラミジア感染症,性器ヘルペス,尖形コンジローマなど,STDの種類は20種以上にもなる.STDは,時代の変遷,世の中の変化とともに推移していく.今回,STDの動向を疫学的に検討・考察した.

売春防止法と東京都における性病健診

著者: 中村清純

ページ範囲:P.619 - P.621

〔はじめに〕
 世界で最も古代から存在してきた職業といわれている売春は,不特定多数の相手と性交渉をもつことから,性感染症の感染媒体として重要な要素の一つである.売春行為に関連する性感染症対策上の規定は,昭和初期制定の花柳病予防法に盛り込まれ,さらに第二次大戦後は性病予防法に引き継がれて現在に至っている.また,売春防止法(以後,売防法と略)が制定されたことは,当時の性感染症対策上も画期的なことといってよかった.
 東京都内において検挙された売春婦(いわゆる街娼)数は,売防法施行以来,ほぼ一貫して減少してきたが,日本の急激な経済発展と国際化により,ここ1,2年の外国人売春婦の検挙数が急増している.
 一方,組織的売春行為については,売防法等の法の網をかいくぐって存続し,30年間にむしろ多様な形態へと広がりを見せている.風俗産業の中でもかなりの部分を占めていると推測され,憂慮すべき問題である.
 本稿では特に,東京都内において急増し,社会問題化しつつある街娼と性病対策の現状について,売防法と性病予防法とを比較しながら述べてみたい.

性感染症と人権

著者: 森田明

ページ範囲:P.622 - P.626

〔エイズ予防法の波紋〕
 性感染症対策と人権の問題が大きく取り上げられるようになったのは,いわゆるエイズ予防法(後天性免疫不全症候群の予防に関する法律)の成立をめぐる論議においてであった.
 東京弁護士会などいくつかの法律家団体が,人権侵害のおそれからこの法案に批判的な意見を述べた.筆者自身は(社)自由人権協会(自由人権協会は弁護士・学者・市民らで構成される人権擁護団体)「エイズと人権小委員会」のメンバーとして,法案に対する同委員会の論議に加わった.

性感染症に対する保健所の役割

著者: 藤島弘道

ページ範囲:P.627 - P.629

〔保健所機能〕
 保健所は何をする所かと聞かれた時,教科書にあるように,「保健所は地方における公衆衛生の中心機関として,管内におけるあらゆる公衆衛生の向上および増進に関する事項につき,指導および必要な事業を行う」としてその主な事業を列挙することもあるし,保健所の機構の説明,一般的には総務課・保健予防課・環境衛生課があって,各課の業務について説明することもあるが,筆者は次の3つの仕事があると答えることにしている.「第1には衛生行政を行う.第2には公衆衛生サービスを行う.第3は衛生教育を行う」.
 第1の衛生行政を行うというのは,法律に基づいた業務を行うということである.医事・薬事・保健衛生・環境衛生と法治国家らしく,産まれる前から墓場まで,幅広く法律によって保護されている.策2の公衆衛生サービスは,医療サービスといったほうが説明しやすい.そのうちの1つは,医療費負担である,難病・小児慢性特定疾患・結核・精神障害などの医療費公費負担がこれである.もう1つは医療の現物給付といえる.結核のX線検診・血圧測定・乳児検診など直接医療行為を行うことである.第3の衛生教育は,ある意味では保健所活動の基本だと考えている.

トピックス

これからの保健・福祉活動—広島県の動向を含めて

著者: 草野文嗣

ページ範囲:P.630 - P.633

1.保健・福祉の連携の必要性
 わが国には,保健所と福祉事務所が存在し,保健サービス・保健活動にかかわる企画立案等は主として保健所サイドで,福祉にかかわる同様のことは主として福祉事務所サイドで行われている.ところが,各種の障害を持った人々や,生活保護世帯の人々は,福祉サービスの他に,それに起因する保健・医療からのサービスを同時に必要とする人々が非常に多い.これらの人々への保健・医療・福祉サービスは,必要な時に,必要なものが,質と量とを整えられて提供されることが望ましい.しかし,これらのサービスの提供者は,言うまでもなく,保健・医療・福祉機関とそれぞれ別個の機関に所属している.そのため,上記のように必要なサービスが,必要なときに適切に提供されることは非常に難しく,現実には,抜けた所が多かったり,重なり合ったり,事の後先が逆になったりという,不統一なサービスの提供の仕方になっていることが多い.

活動レポート

小規模事業場の健康診断

著者: 板野龍光 ,   嶋崎昌浩 ,   中井一男 ,   下村与七郎

ページ範囲:P.634 - P.637

1.はじめに
 わが国では,昭和47年の労働安全衛生法によって,常時50人以上の労働者を使用する事業場に,産業医の専任が義務付けられている.現実としては産業医制度と無縁の小規模事業場の労働者が全労働者の2/3を占め,大企業に比べこれらの人々の健康の低位性が憂慮されている.一方,小規模事業場では定期健康診断に報告義務がないことや,経済的な理由から健診の実施率は低く,たとえ健診が実施されたとしても小企業を対象にした健診報告は少なく,健康の実態が十分把握されていないのが実情であろう.
 奈良市医師会臨床検査センターは,診療所・病院から寄せられる臨床検査ばかりでなく,学校・地域・職域等の各種健診にも取り組んでいる.今回はそのうち,平成2年度に行った小規模事業場の健康診断について報告する.

調査報告

在日朝鮮人中学生の喫煙状況と禁煙教育について

著者: 金桂香 ,   生方享司

ページ範囲:P.649 - P.652

1.はじめに
 喫煙習慣は容易に形成されるがそれを断つのは難しく,また喫煙開始年齢が低いほど健康への影響が大きいとされている.
 在日朝鮮人の喫煙率は男で65.9%,女で16.7%と,いずれも日本人よりも高いことが報告1)されている.今回,我々は在日朝鮮人民族学校における保健教育の一環としての禁煙教育の導入に際し,本調査を試みた.まず,教育介入前にアンケート調査を行い中学生の喫煙行動,知識および意識の程度について調べてみた.その後に教育介入を試み,その効果判定を行い,教育内容の検討資料とした.

年齢階級別麻しんの発生状況—名古屋市の1982年から1989年

著者: 神谷三千緒 ,   臼井利夫 ,   山中克己 ,   磯谷晋作

ページ範囲:P.653 - P.655

1.はじめに
 名古屋市の定期麻しん予防接種は,生後18カ月からを対象として,80%以上の接種率を維持してきたが,0〜1歳児を中心とする発生が年間を通して続き,その中で流行が繰り返されてきた.全市の0歳児の年次別罹患率は最高が5.3%,最低1.8%であったが,市内の麻しん発生持続は0〜1歳児を中心とする発生ピークの地域間の連続によっていた.

報告 公衆衛生学教育のあり方に関する一考察・2

米国の現状と今後の展望を中心に

著者: 山本光昭 ,   山本尚子 ,   青山英康

ページ範囲:P.656 - P.660

4.米国における公衆衛生専門家の質の確保システム
 専門性の質の確保のシステムとしては,(1)専門性に関する基準を定め,その基準を満たす個人や教育プログラムに対して「認定」を行うこと,(2)調査・研究などを通じて,専門性に関する提言や方針を示すこと(以下,「協会活動」と呼ぶ),(3)雑誌や学会などを通じて情報の伝達,討論などを行うことによって,専門分野の知識や技術の向上および普及を行うこと(以下,「広報活動」と呼ぶ)が考えられる.このうち,(2)の協会活動と(3)の広報活動は一体化して行われることも多い.
 公衆衛生専門家の質の確保に関係している主な公衆衛生関係団体を,①認定業務を主体とする団体と②協会・広報活動を主体とする団体とに分類した(表3).また,認定には,教育プログラムに対する認定(Accreditation)と個人に対する資格認定(Certification)とがある.以下,主な団体について紹介した上で,公衆衛生学教育評議会(CEPH)の認定業務について述べることとする.

保健所機能の新たな展開—飛躍する保健所

自由な予算と保健所間のネットワークで活性化を

著者: 田沢光正

ページ範囲:P.638 - P.639

 保健所職員の一人ひとりの活性化や成長なくしては,保健所の活性化も成長もありえないだろう.筆者は平成元年4月から平成3年3月までの3年間,岩手県久慈保健所に勤務した.大学の研究室(歯学部・口腔衛生)に11年間,県庁の保健予防課に2年勤務した後の初めての保健所経験(保健予防課長)であった.久慈保健所への異動が決まった時,「現場は楽しいですよ」(保健所保健婦),「保健所の役割は終わったと思いますが…」(市町村保健婦),「本庁はきつかったでしょ,少し骨休みして下さい」(県庁事務職員)等々,周囲より様々なコメントをもらったが,結論から言えば,筆者の久慈保健所の3年間は,非常に忙しく,楽しく,專門職としてやりがいのあるものであった.

データにみる健康戦略 21世紀への健康戦略—データにみるその目標・3

自殺の風景

著者: 倉科周介

ページ範囲:P.640 - P.643

 自殺は死因順位ベストテンのレギュラーメンバーである.だが医療や公衆衛生の観点から自殺が取り扱われることはめったになかった.病気とそれにつながる死ならともかく,自殺はどうも医学医療の手に余る代物だと感じられるからだろう.そういえば,いまも古典とされる大著『自殺論』をものしたのも,医学者ではなくて社会学者のデュルケム(Durkheim, E)だった.だが自殺は社会の苦味や酸味の度合いを示すリトマス試験紙といってもよい.その原因がいろいろな意味で社会の暮らし難さに求められるからである.そして暮らし難い社会では,人間は病気にもかかりやすくなる.だから自殺の原風景はどこかで病気のそれと交錯するのではなかろうか.

保健婦活動—こころに残るこの1例

ALSのGさんとの出会い

著者: 垣内浩子

ページ範囲:P.644 - P.644

 大きな目で,大きな笑顔でベッドに横たわりながら,往診にいった私たちを迎えてくれたGさん.10年前のその出会いは私に大きな衝撃を与えた.この出会いは病院が在宅医療部を発足させ,私が専任で訪問看護を手探りで始めだした時だった.Gさん(54歳,女性)は難病中の難病といわれる筋萎縮性側索硬化症.その出会いの時,Gさんは発病後5年が経過しており,寝たきりの状態であった.病気は進行しており,手足はまったく自分で動かすことができず,全身の筋肉の萎縮は著明で,骨と皮ばかりだった.舌も萎縮し,構音障害が著明で口の動きでどうにか意思を感じとり,飲み込みも十分出来ず,食事や水分摂取も大変であった.こんな状態の人が地域にいる.家庭で,地域で生活している.それを知ったときの衝撃.今でも忘れることが出来ない.病院で,しかも通院していた人が,と通院されている患者さんのことも知らなかったと思い知らされた.
 Gさんの看護は,目の不自由な妹さんが昼間通って看護にあたっていた.その妹さんが事故で通うことができなくなり,保健所や福祉事務所からは,なぜこんな重症の障害のある人を入院させないのかと言われた.が,私たちは本人の希望にそっての援助を考えていった.

へき地で一人暮らしを続けるYさん

著者: 田中冨美子

ページ範囲:P.645 - P.645

 右上肢の先天性奇形を持つYさんの精神分裂病が発病したのは約42年前,中学校卒業後の事でした.当時は大学病院などに入退院を繰り返していましたが,医師から「治る見込みはない」と宣告され,両親の思いから帰郷しています.その後十数年間は治療もせず,家でブラブラと過ごす陰性症状が続き,遠くに住む姉や弟はたまにしか帰りませんでした.近くに住む従弟たちは,Yさんや高齢の両親の生活を気にかけていましたが,「弟がいるのだから何かあれば入院させるだろう」と積極的な関わりを避けていました.
 Yさんの精神症状は数年単位で一進一退し,私が初めて訪問した10年前も,47歳の彼は不眠・幻聴・独語などによる社会的不適応状態でしたが,すでに高齢の両親はYさんの治療や社会復帰に対する期待を失っていました.

進展する地域医師会の公衆衛生活動

神戸市兵庫区医師会の在宅ケア連絡会・3

著者: 松本憲一郎 ,   森本祐二郎

ページ範囲:P.646 - P.648

「ふれあいノート」
 1990年の2月,第49回の連絡会で「在宅ケアの連絡網および福祉マップ作成」をテーマに話し合いが持たれた.この時に在宅ケアに関係している患者・家族およびスタッフ間の連絡のために何らかの手段を持とうということになった.このための話し合いの中で種々の検討が行われ,ノート作成への気運が生まれた.
 このノートを作成するに当たって医師だけでなく歯科医,保健婦,ヘルパー.看護婦などのスタッフや家族も参加,「ふれあいノート」が作成された.

発言あり

一期一会

著者: 小泉直子 ,   染谷四郎 ,   丸山博

ページ範囲:P.593 - P.595

「保健・医療・福祉の連携」
 人と人との関わりの中で生まれた一期一会の倫理は,現代社会において最も必要とされる振舞いである.しかし,老人に対する尊敬意識の低下,核家族化,精神的なものから物質的なものへの価値観の変化などが急速に起こってきた時代に育ってきた者に,「高齢化社会に対応するためには,一期一会の気持ちで人と接するようにすべきである」という意識に変えることは至難の技である.
 現代の学生が特別養護老人ホームに実習に行くと,入浴,食事の介助,失禁交換などの介護に対して,機械化すべきであるという言葉が返ってくるのにびっくりさせられ,これは恐らく老人と暮らした経験がないため,話し掛けのチャンスや話題に苦慮した結果かもしれないと独り合点している.国は今後の高齢化社会に備えて,プライマリ・ケアを推進し,保健・医療・福祉の連携による包括的健康施策を打ち出しているが,そのための具体策はほとんど進行していないといえる.兵庫県医師会では,平成元年に痴呆性老人に対するこれら三者の連携状況に関する調査を行った.

保健行政スコープ

失禁対策のための住民調査結果について

著者: 滝川陽一

ページ範囲:P.661 - P.663

 失禁問題は,高齢社会において隠れた問題として存在しており,家庭や施設において密かに悩んでいる人は少なくないと思われる.先進諸国においてはこの問題に関して様々な対応がなされており,わが国においても失禁問題に対処するため,在宅および施設における医療,介護方法等についての問題点を明らかにし,医療従事者向けの「失禁ガイドライン」および患者,介護者向けの「在宅失禁マニュアル」を作成し関係者に配布することを予定しているが,その基礎資料を得るため失禁に関する実態調査を行った.

基本情報

公衆衛生

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1170

印刷版ISSN 0368-5187

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