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雑誌目次

雑誌文献

公衆衛生57巻1号

1993年01月発行

雑誌目次

特集 提言—あすの公衆衛生

地域保健・医療・福祉のシステム指向

著者: 石川澄 ,   大須賀桂子

ページ範囲:P.4 - P.6

◆はじめに
 公衆衛生の概念はきわめて広く,その守備範囲も多様である.ここでは「保健」,「医療」のみならず「福祉」を含む包括概念と解釈しているが,筆者の出身である「医療」に偏したアプローチをお許し願いたい.
 「包括医療」の概念は,公衆衛生のありかたを示すキーワードとして一般化して久しいが,依然として継続的な実践の効果がみえない.それを実現する柱のひとつが「情報のシステム化」であることも総論的には理解されているように見えるが,医療情報が十分活用されているとはいいがたい.果たして,医療サービスに従事する者,受ける者がどこまで包括医療の意義を理解し,地域医療のシステム化の必要性を感じているのか.その前に現在の体制は「住民から期待されているか?」,「クライアントから満足されているか?」,「医療従事者に充足感があるか?」を,私たちは問い直さなければならない.

保健所の将来に向けて

著者: 犬塚君雄

ページ範囲:P.7 - P.9

◆はじめに
 高齢化が着実に進む中で,地域保健活動の中核的な役割を果たしてきた保健所を取り巻く環境が大きく変化してきている.
 高齢者のニーズの高度化,複雑化に対応し,在宅ケアを推進するなど,効率的な高齢者対策を推進するためのいろいろな方策が検討されている.高齢者対策を市町村で一元的に実施するため福祉関係八法の改正が行われ,老人保健法と歩調を合わせて市町村がその実施主体となった.母子保健法の改正も,身近なサービスは住民により身近な市町村で,という潮流に乗って,市町村での一元的な実施が,3歳児健診の都道府県保健所からの移管を含めて検討中と聞いている.
 これらの直接的な対人保健サービスの市町村実施を契機として,都道府県の保健所と市町村のあり方の検討が,保健と福祉の連携という観点と絡み合いながら新たな局面を迎えている.今後,保健所が果たすべき役割について,全国保健所長会が会員を対象に行ったアンケート調査を紹介しながら,若干の私見も交えて述べたい.

今,再び「公衆衛生の時代」に

著者: 前田秀雄

ページ範囲:P.10 - P.11

◆はじめに
 WHOがHealth for allの目標に掲げた西暦2000年まで後わずか7年となった.ただ,保健医療基盤が整備され,各種の健康水準も欧米並みになった日本では,すでにHealth for allは達成され,もはや必要なのはサービスの充実のみであるとする声がある.このため,公衆衛生活動はもはや必要なく,いかに保健医療サービスを民間(商業)ベースで効率的に供給するかを検討すればよいとする意見がある.
 しかしながら,最近保健医療の焦点が,成人病一辺倒から,地球環境エイズ,高齢化社会といった未知の課題にうつるにつれ,その考え方もまた揺らぎ始めている.今後の新たな保健問題の解決を担うのは誰なのかという点について,日本の公衆衛生の原点ともいえる戦後の公衆衛生活動との比較を行いながら,若干の検討を試みた.

健やかな老いを支える保健婦活動

著者: 佐々木順子

ページ範囲:P.12 - P.15

◆健やかに老いる時代
 人生80年時代を迎え,「健やか」という響きのよい言葉が好んで使われるようになった.「健やかに老いる」というと,健康に老いるというより,ゆとりと豊かさを感じるのは私だけであろうか.江戸川区の「すこやか熟年課」,伊勢原市の「すこやかカード」また,健康だより「すこやか」等々,健康を疾病と対比させるのでなく,家族もしくは地域社会の人と人とのつながりの中で健康な充実した人生を送るといった意味が,「健やか」には含まれていると思う.80歳,90歳になっても身体に全く異常がないという人は極くまれである.多くの人々は,高血圧,糖尿病等の慢性疾患や,低下する身体の様々な機能や条件をもちながらも,それぞれに満足できる生活をすることができれば,「健やかに老いる」ことになるのではなかろうか.ルネ・デュボスは1),「人々が望む健康とは,必ずしも身体的な活力と健康感あふれた状態ではないし,単に長生きするだけのものではない.人々が毎日の生活で出会う様々なことに対して,一人ひとりが頑張って生きていこうという生き様の中にこそ,健康で幸せなくらしがある」と述べているが,まさに,こうした一人ひとりを大切にした生活の実現が,今求められているのである.

獣医師としての役割

著者: 小宮倶子

ページ範囲:P.16 - P.17

◆はじめに
 国民経済が順調な発展を続け,生活の質が次第に向上し食生活が多様化するなかで,獣医師をめぐる社会的役割も多様化している.国民の間には“ゆとり,ふれあい”といった精神的な豊かさを求める傾向が強まり,今まで置き去りにしてきた「生活環境」に目を向けつつあり,この分野での獣医師のニーズは高まり,活躍が期待されるところである.さらに,女性獣医師の増加,獣医療の技術の拡大発達に伴い,獣医師の業務は質的・量的にも拡大し,変換期を迎えている.複雑な社会的要請に応え,いかに的確に獣医としてのマンパワーを提供し活躍していくかが,われわれ獣医師の21世紀に向けての大きな課題となっている.
 食鳥検査体制の発足に伴い獣医師不足が懸念されるなか,獣医師確保の手段も考え,適切なサービスの確保を図ることが課題とされるなかで,埼玉県の公衆衛生行政に携わってきた一人として,抱負を述べてみたい.

疫学

著者: 祖父江友孝

ページ範囲:P.18 - P.19

◆最近の疫学の潮流
 疫学は,集団における疾病の発生率を測定し,種々の要因との関連性を定量的に評価し,さらに,その因果関係を検討する学問である.その方法論は,疫学固有のものというよりは,種々の分野にも応用が可能であるため,最近では臨床疫学,薬剤疫学などの学際的な分野にも広がっている.また,疫学者自身が行う研究についても,基礎や臨床で開発された種々の生体指標を利用した血清疫学,遺伝子疫学などが盛んに行われ,今後もこのような傾向はますます強くなると思われる.
 こうした暴露あるいは疾病の測定系についての進歩に対して,疫学そのものの考え方は,変化の少ない古典的なものと思われがちだが,実際には,ここ10年くらいの間に相当の変化があった.これは,疫学自身における変化というよりは,生物統計学の発展の影響を強く受けたといったほうがよいかもしれない.特に,多変量解析を中心とした新しい解析方法が,近年大きく進展を遂げ,いくつかのsemiparametricな解析方法に関してはほぼ評価が確立し,すでに標準的な解析法となっている.

循環器疾患予防の観点から

著者: 小西正光

ページ範囲:P.20 - P.21

◆はじめに
 わが国においては,昭和30年代後半から循環器疾患の疫学調査が実施され,わが国に多い脳卒中の成因について検討がなされた.それと同時に,疫学的な検討成績をもとに,予防対策がモデル地区を中心に行われてきた.対策の当初は,循環器検診により発見されたハイリスク者に対して重点的に指導を行い,ライフスタイルを改善することと,要治療者に対する受療の勧奨が対策の基本方針であった(2次予防対策).その後,対策が浸透していくにつれて,ハイリスク者に重点をおいた指導から,受診者全員に対する生活指導,栄養改善指導を取り入れ,1次予防活動が検診データを基盤として実施されるようになった.すなわち,2次予防から1次予防へ,医療から保健への転換であり,疾患予防から積極的な健康づくりへと展開していった.このようなモデル地区を中心とした循環器疾患対策は,実施地区における脳卒中発生率の減少,さらには寝たきり者数の減少という3次予防につながる成果を上げるとともに,わが国全体としての予防対策として,脳卒中予防特別対策,ついで老人保健法の制定など全国的な施策へと発展していった.

母子・小児保健を中心に

著者: 平尾敬男

ページ範囲:P.22 - P.24

◆はじめに
 かつての母子・小児保健は,乳幼児や妊産婦の死亡の減少や病気の予防という,いわゆる肉体的に健康な子どもの育成を目指していたと思われる.しかし,その地域の保健衛生状態のレベルを反映するとされる乳児死亡率は,わが国では1947年(昭和22年)の出生1000に対し76.7から,以後急速に低下し,1990年(平成2年)には4.6となって,世界最低の乳児死亡率を維持している.一方,現在わが国の小児の死因の1位は損傷および中毒,すなわち不慮の事故および有害作用で,全死亡の約1/3を占めている.以下,先天異常,周産期に発生した主要病態,悪性新生物,循環器の疾患と続き,この5位までで全死亡の80%となっている.このことは,現在のわが国の小児保健および医療レベルでは,克服されるべき病気ではもうあまり死亡しないということを示している.したがって,これからのわが国の小児の医療・保健の方向は,単に病気から生命を守る,ということだけではなく,さらに病気の予防あるいは早期発見による疾患対策に加え,次代を担う心身ともに健全な小児を育成するという視点で考えられなければならない.

口腔保健

著者: 飯島洋一

ページ範囲:P.25 - P.27

◆社会の変動と安定
 口腔領域の4大主要疾患(う蝕・歯周疾患・不正咬合・顎関節症)のうち,う蝕ならびに歯周疾患の発現には日常生活習慣との関連が強く認められている.この普遍的な2大疾患は,いわゆる習慣病の一種である.すなわち,う蝕の発現と進行に直接的に関与する糖質の摂取は,間食さらには食生活が,歯周疾患の発現と進行には日常の歯口清掃習慣の良否が,ポイントとなる.この意味において,小児を中心としたう蝕予防と,成人を中心とした歯周疾患の予防は,歯科公衆衛生の重要なテーマであり続けると思われる.習慣病である2大疾患の予防という面から将来の公衆衛生の方向性を考える時,変化しつつある今の社会を念頭におく必要がある.と同時に,社会には安定への根強い願望もある.これら両面から明日の歯科公衆衛生のあり方について考察をする.

公衆栄養からみた明日の公衆衛生

著者: 梶本雅俊

ページ範囲:P.28 - P.29

 公衆衛生問題の取り組み方には,様々な切り口がある.今回は3つの標準的な切込みかたを踏まえて公衆栄養の立場から提言をしたい.手前味噌な表現はお許し頂くとして,まず健康づくりを考えると,医療中心の考えだけでは無理がある.

難病の人々の支援システム

著者: 牛込三和子

ページ範囲:P.30 - P.31

◆難病対策の現状
 国の難病対策は昭和47年7月厚生省に特定疾患対策室が設置されたときに始まり,現在まで20年経過している.国の難病対策には3本の柱がある.中心は調査研究事業であり,その対象に指定された疾患に対して研究協力謝金として医療費助成が実施されている.昭和47年のスモン,重症筋無力症,全身性エリテマトーデス,ベーチェット病の指定をはじめとして,平成4年3月現在33疾患が指定されている.また平成元年度に相談事業として難病患者医療相談モデル事業が,平成2年度に都道府県を実施主体とする訪問診療モデル事業が開始されている.前者は専門医師,看護婦,ケースワーカーなどによる総合的・専門的な相談班が,保健所や医師会館,その他適当なところに出向き,訪れた難病患者や家族の相談に応えるというものである.後者は寝たきり等で受療が困難な在宅の難病患者に対し,専門医,主治医,保健婦,看護婦等により構成された診療班が患者宅を訪問して患者の病状に応じた診療,看護および療養上の指導を行うものである.

広汎性発達障害の精神保健

著者: 栗田広

ページ範囲:P.32 - P.33

◆はじめに
 精神保健学(mental health)あるいは精神衛生学は,精神健康に関わる問題を研究し,精神健康の維持・増進に貢献する学問領域である.精神保健の実践は,公衆衛生活動の一環であるが,従来,それは精神分裂病患者の社会復帰などに重点が置かれていた.それは大切なことであるが,本論では,児童精神科医である筆者の20年近くの経験をもとに,広汎性発達障害の精神保健について述べる.

環境保健

著者: 兜真徳

ページ範囲:P.34 - P.35

◆環境保健問題の新たな動向
 近年の環境保健では,環境汚染による「四日市喘息」に代表される呼吸器系疾患,あるいは「水俣病」や「イタイイタイ病」などのすでに発生してしまった極端な健康影響に対する“後追い”対策から,さらに影響・リスクが示唆されている多種多様な汚染物質の影響に対する“前向き”対策が求められるようになっている.また,それら環境問題は「産業型」から「都市型」へ,さらには「地球型」へと移行してきている傾向もある.すなわち,環境保健の対象は,都市環境レベルでは,大気汚染のほか,日常的なストレスの原因となる騒音・振動,さらには有害廃棄物の問題が,また,地球環境レベルでは,地球規模の環境破壊(地球温暖化,オゾン層破壊,酸性雨,熱帯林の消失,砂漠化,海洋汚染など)が顕在化した今日,例えばオゾン層の破壊によって増加しつつある紫外線による影響・リスクの評価などが,緊急かつ重要な研究課題となっている.

産業保健

著者: 山本宗平

ページ範囲:P.36 - P.38

 戦後の産業保健関係の統計から明らかなようにわが国の労働災害および業務上疾病は,昭和37年をピークとしてそれ以後は着実に減少してきた.しかし最近はこの減少傾向が鈍化し,増加することもあると指摘されている.この原因として高齢化社会を迎えたこと,ME機器等が職場に導入されたこと,生活環境・生活条件が変化したことなどがあげられ,行政的にも新しい施策が打ち出されている.
 そこで,このような動向をふまえながら,産業保健の方向性を探ってみたい.

健康教育のBreakthrough

著者: 宗像恒次

ページ範囲:P.39 - P.42

◆健康概念の転換
 これまでの予防医学において健康は,病気になるリスクファクターを除去し,健康を維持するためにはどうすればよいかという視点でとらえられていた.リスクファクターとは,たばこの喫煙や食物摂取のアンバランス,運動不足,肥満,高血圧,予防接種をしていないこと,などといったリスク要因を除去するという方向で公衆衛生活動を行うというものである.しかしながら,なぜそのようなリスクファクターを持ってしまうのか,わかっていながらもどうしてそのリスクをとってしまうのかという,より根源的な背景にさかのぼって考えるよりも,リスクファクターの知識を与えて自分の意志で専門家に指示されたことを実行すればよいという含みがあった.本人がどう思おうが,「そのリスクファクターをとることがあなたの命を守る意味で大切だ」という一方的な善意があった.しかし,リスクファクターと分かりながらもそれを避けることができない自分,それはなぜなのかというところまでは踏み込めなかった.また病気をしてもただ症状がなくなればよいという観点での治療医学があった.

講座 10代のこころを診る—思春期相談のために・1

ティーンへの接近—ティーンの理解のために

著者: 上林靖子

ページ範囲:P.43 - P.45

 ティーンは児童期と成人期を結ぶ橋の上にいる.ある時は親や先生に守られ,仲間とたわむれた楽しく平和だった児童期をなつかしく振り返る.またある時には不安と期待の入り交じった思いで迫りくる大人の世界をながめる.大人と子どもの狭間にいるかれらは,いつの時代にもわれわれ大人たちにとって,やっかいで不可解な存在であった.
 現代のティーンは果たしてどうであろうか.登校拒否,ひきこもりと無気力,抑うつ状態,シンナー吸入,拒食症など,かれらをめぐる問題があいも変わらず続出している.青少年を対象にした各種の相談機関(保健所,精神保健センター,教育相談,児童相談所など)は,これらの問題をもって訪れる青年たちであふれている.ところがこれらの問題は,どれをとってもそのあらわれ,成因,経過,転帰が必ずしも一様でなく,精神保健相談のなかで難しいもののひとつとなっている.

トピックス

看護婦等の人材確保の促進に関する法律の概要について

著者: 阿萬哲也

ページ範囲:P.46 - P.49

■はじめに
 わが国における急速な高齢化の進展および保健医療を取り巻く環境の変化等に伴い,保健医療サービスの重要な担い手である看護婦等の確保の重要性が著しく増大しているところであるが,そのような状況の下で,看護婦等の確保については量・質両面にわたる確保対策が講じられてきており,平成2年末には総就業者数は約83万5千人に到達したところである(図1,2).
 しかし,平成3年12月に,「高齢者保健福祉推進十か年戦略」,今後の勤務時間短縮等の勤務条件の改善等による新たな需要等を考慮して,平成12年までの期間を対象に「看護職員需給見通し」が取りまとめられたが,その結果を見ると,平成12年には必要な看護婦等の数は115万9千人に達すると見込まれており,若年齢層が減少していく中,より一層強力な確保対策を押し進めることが必要となってきているところである(表).

調査報告

喫煙の精神保健に及ぼす影響—ある総合大学での解析

著者: 渡辺登

ページ範囲:P.65 - P.69

1.はじめに
 喫煙はがんや虚血性心疾患をはじめとする諸疾患の危険因子であり,一方,受動喫煙は非喫煙者の健康をも害する可能性がある.そこで,米国ではたばこに有害性があるとし,たばこ製造物責任を問う裁判が行われている.しかしながら,わが国では将来に生ずるであろう喫煙による健康障害よりも,直ちに得られる心理的効果を重視するとの判断によって喫煙行動は容易に継続されており,喫煙防止対策は円滑にすすんでいない.
 ところで,喫煙習慣が定着しつつある成人前後の大学生の喫煙状況に関する報告7,8,11,12)はあるものの,精神健康の観点より大学生の喫煙を十分に把握するには至っていない.この度,3,000名に近い大学生の喫煙状況と精神健康について調査を行う機会を得たので報告し,さらに,精神保健の立場から喫煙防止対策にも言及してみたい.

報告

神戸市兵庫区における結核新登録患者の実態

著者: 岩佐幸男

ページ範囲:P.70 - P.75

●はじめに
 近年,結核予防対策,抗結核薬の開発および生活水準の向上等により,結核の蔓延状況は過去に比べ著しく改善しつつある.しかし,ここ数年は種々の結核に関する指標は横ばい状態であり,まだ数多くの問題が残されている.
 神戸市は昭和62年以降,結核患者の有病率,罹患率が全国2位と高く,神戸市の中でも兵庫区は昭和62年から新登録患者数および新登録患者の感染性患者数,罹患率,有病率のすべてにおいて最も高い値を示している.
 社会全体として,結核に対する関心が低下するなかで,保健所の結核対策を再検討するため,神戸市兵庫保健所では平成2年の新登録患者の実態調査を実施し,その実情をふまえた今後の進め方に参考となる結果を得たので報告する.

新しい保健活動の視点

二本松保健所の地域に開かれる精神保健活動

著者: 石下恭子

ページ範囲:P.50 - P.53

◇はじめに
 筆者は,15年の臨床医生活を経て,昭和58年9月に福島県保原保健所を経て昭和61年4月から二本松保健所に勤務し7年が過ぎた(表1).保健行政の第一線である保健所で働けると張り切って赴任したのも束の間,その保健所が“要らない役所”と評されていることがわかり愕然とした覚えがある.しかし昭和62年に地域保健医療計画を策定するなかで,「保健所の役割は,地域社会の健康問題はなにかを探り,その問題解決にはどのように対処するかを企画立案し,事業化することである」という保健所職員の一致した見解に達した.以来,“地域に必要なことをやろう”という姿勢で日常業務に携わることにした.今回はそのうちの一つ,精神保健業務について述べることとする.

活動レポート

北海道中標津保健所の活動から

著者: 山本長史

ページ範囲:P.54 - P.56

 保健所に入って4年,保健所長になってまだ3年目で,どういう特色ある活動をしているかと聞かれても,まだまだ手探りの状態である.しかし,アピールできる時はどんな機会でも大切にしなくてはと思い,この原稿を引き受けた.わずか2年半と短い期間ではあるが,ここ中標津での活動をまとめてみた.

データにみる健康戦略 21世紀への健康戦略—データにみるその目標・7

肝硬変の周辺

著者: 倉科周介

ページ範囲:P.57 - P.60

 結核が下火になった後を受けて,肝硬変が21世紀の国民病になると騒がれたことがあった.ふた昔ほど前の話である.世紀末を目前に,どうやらその予言は外れそうにみえる.だからといって安心するのはまだ早い.肝硬変は終末病変という指定席におとなしく座っているような代物ではないからである.このすこぶる物騒な病像をめぐる予想の根拠と誤算の理由は,ともに病気というものの本質とその対策の効果とを考えなおす格好の題材ではなかろうか.

保健活動—心に残るこの1例

山村,離島,農村での健康問題との出会い

著者: 山根俊夫

ページ範囲:P.61 - P.61

(はじめに)
 21世紀にあと数年という時代の曲がり角で,ますます多様で複雑化する地域社会のニーズに対応して,保健と福祉と医療さらには健康教育,社会教育を軸とした生涯教育との連携,さらに健康増進と環境保全との接近が具体的に志向される時代になった.
 私は,産婦人科の専門医から保健所に転身し,山村,離島,農村とそれぞれ地域の特性を異にする保健所に勤務してきた.臨床医学の場で心に残るのは,何といっても患者さんとその家族との出会いであり,公衆衛生では,地域の特性が異なる市町村における特徴的な健康問題との出会いであろう.

進展する地域医師会の公衆衛生活動 江津市医師会の小児成人病の予防調査・3

3年間の調査の結果と今後の課題

著者: 森正三

ページ範囲:P.62 - P.63

1)高コレステロール血症の頻度
 この3年間に検査を受けた児童・生徒の実数は表1のとおりである.児童・生徒数もわずかではあるが年々減少しており,この地域の若年者が減少していることを示している.受診者は小学生でほぼ100%,中学生でも100%近い数字を残している.また,1991年の管理区分別実数は表2のようになっている.以下に3年間にわたって行われた調査の結果を簡単に紹介しよう(「江津の学校保健第4号」より).
(1)血清総コレステロール値:加齢による変動は男女とも小学1年から小学6年にかけ上昇傾向を示し,中学に入り低下し,すべての学年で女子のほうが高い.とくに1991年の中学3年女子は異常に高い平均値を示している(179.4±24.3).血清コレステロールは小学生が中学生より平均値が高く,女子が男子より平均値が高くなっている.全国レベルの調査と比較すると10〜5mg/dlと高い(表3).

発言あり

週休2日制

著者: 緒方惟淳 ,   宮本政於 ,   若生正

ページ範囲:P.1 - P.3

「学校週5日制」
 昨年の9月12日(土)から月1回の学校週5日制がスタートしました.学校週5日制は,こどもにも週休2日制をと,これからの教育の在り方につながる大きな改革です.そこで,学校週5日制に対する本校の考え方について述べてみたいと思います.
 まず教育課程上の問題から入ります.9月から毎月の第二土曜日が休業日となることによる教育内容の量的低下に対する心配があります.本校は昭和60年に精神薄弱と肢体不自由の併置した養護学校として開校しました.本年は開校以来8年目になりますが,保護者の要望により,給食日数をふやし,短縮授業をこれ以上減らせないところまで改善してきました.そのために教員は授業の準備,指導計画,反省等に勤務時間を超えてがんばっています.

基本情報

公衆衛生

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1170

印刷版ISSN 0368-5187

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