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雑誌目次

雑誌文献

公衆衛生57巻11号

1993年11月発行

雑誌目次

特集 産業保健と専門職の役割

産業保健と専門職の役割

著者: 島正吾

ページ範囲:P.756 - P.760

■はじめに
 産業保健は労働安全衛生法に準拠して,産業現場における環境管理,作業管理,健康管理の3管理と,これらを統括するための総括管理によって構成されている.近年激しく複雑多様化する産業社会の変容をふまえて,こうした一連の健康管理業務を円滑に行い,産業保健マンパワーがより高次の管理成果をあげるためには,各関連部門において専門職としての役割分担の明確化を計り,管理全体の流れの有機的連動を可能にするような,職務能力の充実が計られねばならない.そのためには,まずもって労働者の健康上の歪みを的確に把握し,それらがどのように職場労働環境や日常作業態様によって影響されているかがチェックできるよう,個々の職能や管理体制を確立することが肝要である.すなわち産業保健の原点とは,つねに「労働者の健康を守る」ために,健康問題と労働実態との関連性を問い,それを基本として労働者個人や職場集団の健康に対する,医学的影響を解明するところにある.
 ところで,以下にいう産業保健の「専門職」とは,単に企業内で特定の業務に,もっぱら従事している者を指すのではない.

産業医,学会専門医および指導医

著者: 高田和美

ページ範囲:P.761 - P.764

■はじめに
 急速な高度技術化,国際化,人口の高齢化など最近の健康問題に対応する産業医の職務は,質量ともに大きく変化しつつある.また,昭和47年に施行された労働安全衛生法によって初めて法制化された産業医制度が,昭和63年に一部改正されたこともあって,産業医活動は一転換期を迎えたといっていい.日本医師会の産業医認定制度,日本産業衛生学会の専門医制度および産業医部会などの動きも活発になってきている.以下,産業医,学会専門医および指導医の現状とその役割について述べる.

労働安全衛生コンサルタント

著者: 高田勗

ページ範囲:P.765 - P.768

■労働安全および労働衛生コンサルタント制度
 わが国の労働災害の発生状況は,新しい生産技術や原材料の導入に伴って新しい型の災害や職業性疾病がみられたこと,設備の大型化,生産条件の高温,高圧,高速化などに伴い,災害の規模が大型化してきたこと,未熟練や高年齢の労働力に依存する度合が年ごとに高まってきたこと,加えて,中小企業や下請事業において災害の多発傾向が認められている.
 このような状況の下で,各企業では,安全衛生についてのスタッフ部門が設けられているが,中小企業などにおいては,スタッフ部門が弱体であり,みずから安全衛生の問題点を把握し,その対策を検討する能力を備えていないといっても過言ではない.このような場合には,外部の専門家が,これら事業場を診断し,その結果に基づいて必要な安全衛生の処方箋を作成し,しかるべき対策がなされる必要がある.一方,大規模事業場においても,新しい生産方式や工法の導入などに際して,安全衛生対策に関して外部の専門家の検討と援助が求められる必要も生じてきている.

産業看護職—期待と責務

著者: 前田和子

ページ範囲:P.769 - P.773

■はじめに
 日本産業衛生学会の中に平成3年4月,産業医会とともに産業看護部会が発足した.部会発足については,学会の定款の見直しが必要であり,それを改正するという大改革を経ての賜物である.この稿を手がけるに当たり,学会としてこれら作業の大英断を下された産業衛生学会前近藤東郎理事長,およびその必要性を着実に検討され実らせるために全力を投入された現島正吾理事長へ心より感謝申し上げる.もちろん産業の場で勤労者の健康支援に当たってきた多くの看護職諸姉が,事業所保健婦研究会,産業看護自由集会,さらにはそれを研究会へと発展させ,その他にも多くの産業看護セミナー,産業看護講座等様々な場で熱心に学び活動されて来たことによるものである.特に深澤くにへ名誉会員の情熱の晶あってのものといえる,それら活動を陰ながら見つめ支えて下さったご理解ある諸先生によるものと改めて敬意の念をもって認識している次第である.

作業環境測定士

著者: 木村菊二

ページ範囲:P.774 - P.776

■はじめに
 労働安全衛生法第65条では,有害な業務を行う屋内作業場など一定の作業場について作業環境測定を行うべきこと,およびその測定を労働大臣が定めた作業環境測定基準に従って行うべきことを定めている.この測定基準に従って適正に作業環境測定を行うためには,施設と労働者との関係を考慮に入れながら,単位作業場所の範囲,測定点,測定時間帯などを適正に設定することが必要なことであり,また,分析の実務に当たっては高度の知識と技術を持った者がこれを行うことが不可欠なことである.
 この測定技術の質を一定のもの以上に保つため,作業環境測定法では作業環境測定士という資格を定め,一定の技術水準を有する作業環境測定士に測定を行わせることにより,個々の測定の質を確保することにしているのである.

衛生管理者

著者: 河野慶三

ページ範囲:P.777 - P.780

■事業場の衛生管理体制
 働く人の健康を守るための原則は,作業環境管理,作業管理,健康管理の3方向からの対策を労働の場で実施し,これに加えて労働衛生教育を行うことである.労働安全衛生法では,事業者に対してそのための体制づくりを義務づけ,それを「衛生管理体制」とよんでいる.衛生管理体制は,ヒューマン・リソースと組織に分けられるがヒューマン・リソースの主なものとしては,
(1)総括安全衛生管理者(第10条)
(2)衛生管理者(第12条)
(3)安全衛生推進者または衛生推進者(第12条の2)
(4)産業医(第13条)
(5)作業主任者(第14条)
 があげられる.
 総括安全衛生管理者の職務は,安全管理者,衛生管理者などを指揮することと,表1に示した事項を統括管理することである.「統括管理する」とは,表1の各事項が,「適切かつ円滑に実施されるよう所要の措置を講じ,かつ,その実施状況を監督する等当該業務について責任をもってとりまとめること」であると説明されている.そのため,労働安全衛生法は事業者に対して,工場長,作業所長,支店長などその事業場の管理責任をもつ者を総括安全衛生管理者として選任することを義務づけているのである.

THPの6人の侍—産業医,ヘルスケア・トレーナー,ヘルスケア・リーダー,心理相談員,産業栄養指導者,産業保健指導者

著者: 福渡靖 ,   木村康一 ,   西田美佐 ,   小野田薫

ページ範囲:P.781 - P.785

■はじめに
 わが国の人口の高齢化の進行と職場における労働衛生管理の充実により,職場では,高血圧,動脈硬化,がん,糖尿病,肝疾患等のいわゆる成人病を有する労働者が増加してきている.これに加えて,急速な労働技術の進展と労働組織の変化などによる,労働者の心理的負担とストレスの増加がみられてきた.こうした状況に対して,労働省は,昭和54年より「中高年労働者の健康づくり運動(シルバー・ヘルス・プラン=SHP)」を,昭和60年から,すべての労働者を対象とした「メンタルヘルスケア」を,さらに昭和63年からは,これらの事業を発展させて,全労働者に対する「心とからだの健康づくり運動(トータル・ヘルス・プロモーション・プラン=THP)」を推進している.
 ここでは,このTHPの趣旨とこの事業を支えている人たちについて解説する.

講座 10代のこころを診る—思春期相談のために・11

早期発症の精神分裂病

著者: 武石恭一

ページ範囲:P.786 - P.788

1.3つの疑問
 早期発症の精神分裂病(以下分裂病と略す)に触れるとき,必ず問題になる点が3つある.
(1)子どもに分裂病はあるのか?
(2)もしあるとすれば,大人と違いはあるの  か?
(3)対処,治療に違いはあるのか?

トピックス

地域保健の総合的見直しを考える

著者: 宇田英典

ページ範囲:P.789 - P.791

 本年1月から,地域保健基本問題研究会で検討が進められていた地域保健の見直し案がまとまり,公衆衛生審議会総合部会の意見具申として厚生大臣に提出された.これを受け,厚生省では地域保健法制定と保健所法改正等の周辺法の手直しに向けて準備が進むことになった.
 もっとも,この地域保健の総合的見直しも,半永久的なシステムを想定して行われるわけでなく,当座の(おおかた15年くらい?)時代にマッチし,これからのわが国の方向性に見合った活動が可能かという視点でなされるものであろう,その後も,何回かの見直しを経て国や県,市町村の枠組みの変化とともに地域保健の姿も現在とは形も内容も変わっていくのかも知れない.

愛知県のエイズ電話相談

著者: 藤岡正信

ページ範囲:P.792 - P.794

●はじめに
 愛知県(名古屋市を除く)のエイズ電話相談は,記録によるとエイズが社会問題化し始めた,1985年7月に衛生部環境衛生課に相談窓口が開設されたのに始まる.当初は相談件数は限られていたが,1986年のエイズ患者騒動によって増加し,全保健所に相談窓口が開設され,今日に至っている.この当時の内容は記録されていないが,エイズの知識や情報も十分でなく,一般の人からの理由のない不安の解消が主な目的として実施されていたと思われる.しかし,現在ではエイズに関する知識や情報も豊富に得られるようになり,さらに,患者や感染者の増加も加わって,相談内容も変化してきている.
 このような中での愛知県におけるエイズ電話相談の現状と問題点を考えてみたい.

調査報告

窯業地域における肺結核とじん肺の検討

著者: 大山昭男 ,   田口るり子 ,   野倉敏久 ,   望月朝味 ,   近藤義之

ページ範囲:P.813 - P.816

●はじめに
 岐阜県多治見保健所管内(3市1町,平成3年10月1日現在の人口215,743人)は,長年,結核の登録率,り患率,有病率等が高い1)ため,各種の結核対策特別促進事業を行って来た.
 平成元年度に,過去5年間の新登録患者の疫学調査を行い,その分析を(財)結核予防会結核研究所に依頼した結果,地場産業の窯業に起因するじん肺と深くかかわっている2)として,じん肺の管理システムの必要性が指摘された.
 管内は,古くからの美濃焼陶磁器の生産地で,原料採取から製品出荷までのさまざまな生産工程の中で,粉じんを吸入する作業が多く,地域住民の多くが従事しているため,じん肺有所見者が多い地域特徴がある.
 じん肺については,管内にある(財)岐阜県産業保健センターが,窯業関係事業所の定期検診と管理区分決定者の管理検診により,発見と健康管理を行っているが,管理区分決定者以外の退職者と小規模事業所や自営業の従事者の大半はこの検診に加わっていない.これらをふまえて,肺結核とじん肺の関係を検討するための調査をしたので報告する.

研究ノート

最終臥床期間と初回検診時所見との関連に関する疫学的研究—賀茂村検診コホート20年の成績より

著者: 野尻雅美 ,   中野正孝 ,   佐藤有紀子

ページ範囲:P.804 - P.808

1.はじめに
 長年にわたり高血圧検診が実施されている静岡県西伊豆地区の一農漁村である賀茂村において,20年間にわたり観察できた検診コホート1〜2)(賀茂村検診コホート20年)より,この間に死亡した者の最終臥床期間についてその実態を明らかにし,さらにそれらに関連する要因を検討したので報告する.

住民参加評価指標を用いたインドネシアのプロジェクト活動評価

著者: 中村安秀

ページ範囲:P.809 - P.812

 インドネシア・北スマトラ州地域保健対策プロジェクトのモデル村において,住民参加を理念とした乳幼児保健改善活動を行った.その活動評価に関して,5項目ごとに5段階評価を設定することにより,活動開始前と終了時の住民参加の質的評価を行うことができた.この質的評価法はわが国の住民参加活動にも援用できると思われた.

活動レポート

和歌山県の僻地における地域精神保健活動

著者: 朝井忠 ,   馬島將行 ,   角前修二 ,   中谷好宏

ページ範囲:P.795 - P.798

●はじめに
 昭和39年3月24日,アメリカ大使ライシャワーが精神障害者の一少年に刺傷された事件は,私たち精神科医に大きな衝撃を与えただけでなく,アメリカ国民にも悪い印象を大きく与えたに違いない.マスコミは精神障害者「野放し批判」を展開し,治安当局による精神障害老監視がなされ,精神病院への収容が図られた.実際昭和38年の全国の措置患者数は53,925人であったが,昭和39年には62,719人,昭和40年65,829人,昭和41年は68,755人と急上昇を示した.精神科医たちは精神障害者家族会,精神医学関係諸学会,諸団体を巻きこんで抵抗したが措置患者数の急増は防げなかったのである.昭和39年より措置入院費は考えられないような額で増えていった(表1)1)
 後年,J.F.ケネディは大統領就任の記念演説の中で「私たちは国家として精神病者および精神薄弱者を長い間無視してきた.この無視は終わらなければならない」と述べた.わが国も精神障害者を取り締まるだけでなく,アメリカにならって精神衛生センターを各都道府県に配置し,地域活動を行うようになった2)

新しい保健活動の視点

高槻保健所における保健福祉推進室活動—保健と福祉の連携に向けた試み

著者: 真野元四郎

ページ範囲:P.799 - P.803

◇はじめに
 高齢化社会の進展や府民の生活様式の変化などから,複合化する府民のニーズに的確に対応するべく,大阪府では,民生部と衛生部を再編し,行政機構の改革を行った.この行政機構の改革に伴い,昭和62年11月,「保健福祉医療監」および「保健福祉政策室」を設置した.そして,福祉施策を所管する福祉部および保健・医療施策を所管する環境保健部の両部にまたがる横断的調整機能を「保健福祉医療監」および「保健福祉政策室」に持たせた.
 社会経済,人口,生活,さらには疾病等の構造変化に伴い,(1)保健,医療,福祉の連携による政策課題への積極的対応,(2)保健,医療,福祉に関する情報の府民への総合的提供,(3)地域における保健,福祉,医療サービスの総合的展開等を行政課題としてあげ,これらの政策推進拠点を保健所に求め,昭和63年4月,保健福祉推進室を大阪府下22保健所に設置した.
 保健福祉推進室業務の展開も6年目を迎えている.保健福祉推進室の業務内容は,当然のことながら全保健所共通ではあるが,その展開の方法や形態あるいは重点課題等については府下22保健所様々である.

発言あり

お酒の効用

著者: 植田和子 ,   吉川武彦 ,   滝澤行雄

ページ範囲:P.753 - P.755

「人と人との接着因子」
 高知県では県民の健康対策上,アルコールは切り放せない問題として常に取り上げられています.全国に比べて死亡率の高いものとして事故,自殺,肝疾患,糖尿病など,人口動態統計が公表されるたびに話題になります.いずれもアルコールが後ろに大きく控えているのです.県下の救急車に乗務する消防隊員の方々に,この死亡率の高さ,特に働き盛りの男性に顕著であるという話をしますと,死んだ人の何倍もお世話をしているからうなずけることだと賛同を得ました.
 男性のアルコール依存症患者の入院率が全国の約3倍にもなり,断酒会発祥の地でもあります.県民栄養調査の結果では酒類の摂取量が全国の1.8倍という高さでした.老人の比率が高く,若者が県外に流出していることを考慮すると,飲む人だけの平均飲酒量はもっと多いでしょう.

わが町の保健・福祉施設

信楽町保健センター—「健幸」なまちづくりをめざして

著者: 野崎昭彦 ,   山本敏史 ,   平尾勝代

ページ範囲:P.818 - P.819

1.信楽町の概要
 信楽町は,滋賀県の最南部に位置し,京都府,三重県に隣接した標高300m前後の高原性の盆地にある.面積164.21km2のうち山林が85%を占め,人口約14,500人,19の集落が散在し,住居地の四方が緑に囲まれた自然豊かな町である.地場産業には,「信楽焼」と「朝宮茶」があり,伝統産業であるとともに経済の中心となっている.

保健行政スコープ

産業保健センター構想のねらい

著者: 原徳壽

ページ範囲:P.821 - P.823

1.はじめに
 労働者の健康を守るために,「常時50人以上の労働者を使用する事業場においては,医師の中から産業医を選任する」制度が定められている.この産業医の歴史は,法制的には昭和47年の労働安全衛生法の制定に始まるが,実質的には戦後の労働基準法時代(医師である衛生管理者),さらに戦前の工場法時代(工場医)に遡ることが出来る.この歴史の中で,産業医が対応する主要なテーマは結核であり,有害業務であった.これは社会全般の状況とも並行した課題であったといえる.
 近年,産業構造の変化は,第3次産業に従事する労働者の数を飛躍的に増大させるとともに,作業環境の大きな改善をもたらした.また,国民全体の高齢化が進むとともに,労働者の高齢化も著しく進んできている.さらに,社会環境の変化とも併せて,女性の職場進出も大きなものとなってきている.
 このような状況の下で,労働者の健康に関するテーマも大きく変化してきているといえよう,すなわち,有害業務に従事する労働者の健康管理はもちろんゆるがせに出来ない問題であるが,新たに,精神的なストレスの問題,高血圧や糖尿病などの成人病の問題などが大きな課題となってきている.

基本情報

公衆衛生

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1170

印刷版ISSN 0368-5187

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