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雑誌目次

雑誌文献

公衆衛生57巻3号

1993年03月発行

雑誌目次

特集 結核対策の最近の動向

90年代の結核対策および研究について

著者: 山本正彦

ページ範囲:P.156 - P.161

◆はじめに
 わが国の結核は低まん延期に入り,「結核はすでに克服された病気」との意識が,多くの国民はじめ,医療関係者の間に広がっている.しかし現在なお年間5万3千人の新たな結核患者と,3千人を越える死亡者が発生しており,先進工業国の中では最も遅れた状況で,わが国では結核は決して克服された病気ではない.
 さらに加えて,わが国の結核には,患者の高齢化,罹患率の減少速度の鈍化,重症化,集団感染事例の増加など新たに解決を要する問題が露呈し始めている.また結核患者は老齢者,患者家族,経済的弱者,エイズをはじめとするcompromised host,在日外国人など特定な集団に偏在しており,地域差も解消されていない.
 一方,最近の結核に関連する分子生物学や疫学的研究の進歩にもみるべきものがある.

結核菌(抗酸菌)の迅速診断法

著者: 齋藤肇

ページ範囲:P.162 - P.166

◆はじめに
 抗酸菌,なかんずく結核菌は発育が遅く,わが国で広く用いられている小川法による初代分離培養では集落初発までに少なくとも3週間を要し,最終判定は8週間とされており,発育に極めて長期間を要する.近年,世界的に結核が漸増傾向にあること,また米国において,HIV陽性あるいはAIDSにおける多剤耐性結核の集団発生があり,結核と診断されてから死に至るまでの経過が極めて速いことなどのため,結核の迅速診断,患者の早期治療が強く望まれている.
 ところで,最近の分子生物学的研究の進歩により,抗酸菌分野にもDNAプローブ,単クローン抗体,あるいはpolymerase chain reaction(PCR)により菌を迅速に検出・同定し,患者の早期診断・治療,周囲への感染防止に役立てようとする研究が鋭意進められている.以下,これらによる結核菌(抗酸菌)の迅速診断法についての現況を紹介したい.

結核治療の現状

著者: 亀田和彦

ページ範囲:P.167 - P.171

◆はじめに
 結核の化学療法は歴史的に3つの大きな段階を経て今日に至った.周知のごとく第1は1950年前後のSM(ストレプトマイシン)の出現であった.SMはそれのみでは耐性出現により肺結核の治療には限界があったが,当時若年成人の結核の最大死因であった腸結核に著効を示したため死亡を激減させた.薬剤により患者を救いうる結核の化学療法というものの可能性を確立した段階であった.
 第2の段階は1952年からのINH(イソニコチン酸ヒドラジド)の出現であって,それまでのSM,PAS(パラアミノサリチル酸)にINHを加かえた3者併用により耐性の出現を阻止できることら,治療期間は非空洞例は2〜3年,空洞残存例は3〜4年が適正な期間とされた.しかしこの時代にあっても結核を治すためには,大気・栄養・安静を基盤とした入院治療を必要とした.SM,PAS,INHの効果が不十分とみるや,相次いで登場したKM(カナマイシン),EB(エタンブトール),CS(サイクロセリン),TH(エチオナマイド)等のminor drugの併用療法に変更し,空洞残存例は外科療法の適応とされ,1970年頃までは肺切除術が盛んに行われた.

非定型抗酸菌症の現状

著者: 坂谷光則

ページ範囲:P.172 - P.175

◆はじめに
 非定型抗酸菌(atypical mycobacteria)とは結核菌群(M. tuberculosis complex)以外の抗酸菌を一括した呼称であり,これらの菌による感染症を本邦では非定型抗酸菌症(atypical mycobacterial diseases:AM症)と呼び習わしている1,3).しかし,atypicalという形容は不適当であるとして,欧米ではnontuberculous mycobacterial diseases(NTM症)あるいは,diseases due to mycobacteria other than M. tuberculosis(MOTT症)と呼ばれることも多い2,4-8)のであるが,未だ適当な日本語訳がない.各症例での菌種が判明していれば,各菌種ごとにM. avium症あるいはM. kansasii症などと命名(診断)するのが最も正確であろう.

地域における結核への取り組み—愛知県

著者: 五十里明

ページ範囲:P.176 - P.179

◆はじめに
 愛知県(名古屋市を除く)の結核対策は,昭和52年度から開始された結核サーベイランス事業を中心に各種の事業を推進している1).当初,衛生部保健予防課の結核管理担当に「結核管理センター」を設置し,以下の業務を行っていた.
 ①結核患者の情報管理(患者の情報集積)
 ②結核菌検査(保健所実施培養の高度検査)
 ③定期外検診の対応(保健所への技術援助)
 ④結核技術担当者の研修・教育の企画,実施
 ⑤エックス線車による集団検診(過疎地域)
 これらの業務のうち,①では昭和55年1月から県独自のコンピュータの導入によるサーベイランスシステムを採用し,7年間の結核に関する県内情報の把握とその活用に努めてきたが,昭和62年1月からは,国レベルのサーベイランスシステムの開始に伴い発展解消された.また,②〜④は,民間活力の導入を重視することにより,昭和61年4月に設立された財団法人愛知県健康づくり振興事業団(結核・成人病健診部,旧(財)結核予防会愛知県支部)に対し業務の委託化がなされた.さらに,⑤は該当保健所の業務として委任がなされている.

地域における結核への取り組み—大阪府

著者: 寺尾祐輔

ページ範囲:P.180 - P.182

◆はじめに
 大阪府においては,平成3年(1992)末現在約2万5千人の登録者,約9千人の要治療者を数え,平成3年の1年間で約6千人の新発生患者を数えている.また,結核による死亡者数は,平成3年は273人となり着実に減少してきたが,図1で見ると死亡率(人口10万対)は3.1で全国平均(2.7)を上回っている(ただし,大阪府の統計の数字は,大阪市を含めた全体の数字である).

地域における結核への取り組み—札幌市における実態調査から

著者: 浜島泉

ページ範囲:P.183 - P.185

◆はじめに
 2000年までに全結核の半減および小児結核の絶滅をめざした取り組みが全国で展開されている.これらの課題の当面の中心的課題として家族内感染が注目されている.保健所に患者が登録されると,家族健康診断(以下,家族健診)が行われる.保健所の管理下での発病はぜひとも防がなければならない.
 1987年から1991年まで,札幌市における家族内感染について保健所で実態調査を行った.感染者のうち,治療を行った者を治療群,化学予防(予防内服)を行った者を予防群とする.5年間の感染源は男125人,女55人で計180人,治療群が86人,予防群が200人であり,このうち患者数(感染源+治療群)266人を同時期の登録患者数2,985人と較べると約1:11,同じく感染性肺結核患者数1,241人と較べると約1:5であった.この時期は結核病学会(1985年)と厚生省(1989年)から化学予防に関する新基準が示され定着しつつある時期と一致している.本稿では,この実態調査の結果から,新基準に基づいた予防対策により,どのように予防効果が表れているか,また,一層効果を上げるポイントは何か,を読み取ることに努めたい.

世界の結核の動向

著者: 青木正和

ページ範囲:P.186 - P.190

◆世界の結核の現状
 1991年のWorld Health Statisticsによれば,WHOに加盟している170カ国のうち,死因統計が掲載されている国は32カ国のみであり,その大部分は先進国である.死亡統計さえこの状況なので,公式統計からは世界の結核の状況は得られない.
 結核罹患数,患者数の推計は,結核感染危険率から間接的に計算されている.この方法は,①BCG未接種の小児,若年者のツベルクリン反応検査の結果から,1年間に結核に感染する確率を推定し,その歴年推移を計算する,②感染危険率と塗抹陽性肺結核罹患率との間には直線的相関関係があり,感染危険率1%は塗抹陽性肺結核罹患率10万対49(39〜59)に相当する,という2段階の推定で行われている1).この方法は,(a)感染危険率の正確な推定自体が極めて難しく,(b)感染危険率と罹患率との関係は結核まん延の歴史的状況に応じて変わり2),(c)社会・経済的状況でも変わるので,必ずしも正確とは言い難いだろう.しかし,現在,これ以外の推定方法はないので,もっぱらこの方法による推定が用いられている.

アニュアル・レポート

公衆衛生学の動向—第51回日本公衆衛生学会を中心に

著者: 髙石昌弘

ページ範囲:P.191 - P.193

◆公衆衛生活動の動向
 疾病構造の変化とともに,健康にかかわる中心的課題が大きな変遷をとげ今日に至っていることはいうまでもない.しかし,それは,わが国を含むいわゆる先進国の話であって,地球上の多くの途上国では,なお低栄養や感染症の課題が中心を占めていることも良く知られている.健康問題においても南北間格差は重要な課題なのである.
 1978年のアルマ・アタ宣言では,プライマリ・ヘルス・ケアの充実を命題として,「2000年までに全ての人に健康を」という目標への具体的健康政策が明らかにされた.ついで1986年のオタワ憲章で明らかにされたヘルス・プロモーションの新しい考え方は,人々のライフスタイルについて望ましい方策を示すとともに,それらを推進するための健康政策の確立や生活環境の整備を含む広範な社会環境の充実を強調した.プライマリ・ヘルス・ケアが主に途上国を対象としたものと考えることができるように,ヘルス・プロモーションは先進国を意識したものと考えることができるといわれている.

衛生学の動向

著者: 渡辺孟 ,   新開省二

ページ範囲:P.194 - P.197

◆はじめに
 日本衛生学会の沿革および近年の動向については,昨年のアニュアル・レポートの糸川嘉則京都大学教授の報告に詳しい.そこで,本レポートでは平成4年3月25日から27日の3日間にわたって,愛媛県松山市で開催された策62回日木衛生学会総会と,木学会が助成金を交付しているワークショップの概況を報告したいと思う.
 第62回日本衛生学会総会は,愛媛大学教養部講義棟および愛媛県民文化会館の2施設を会場とし,上述の日程で開催された.本総会が四国で開催されるのは31年ぶり,愛媛の地においては初めてのことであり,地元の会員はもちろん各関係機関からも開催が待望されていたものである.
 本総会での学会行事は一般演題発表に,総会行事として行われた次期会長講演および学会奨励賞受賞講演を加えたもので構成され,会員相互の学問的討議を中心とする本総会の特徴を引き継いだものとなった.一般演題としては457題の発表があり,参加人数は800名を超えた,前年の京都での本総会では496題を数えていたのでやや減少したことになるが,ここ数年は450〜500題でほぼ安定している.

産業衛生学の動向

著者: 三好保

ページ範囲:P.198 - P.200

◆はじめに
 本年の産業衛生学の動向を,第65回の日本産業衛生学会総会を開催した立場から,日本産業衛生学会の学会活動の中にみられる研究の動向を中心に眺めることにしたい.
 第65回日本産業衛生学会は,平成4年3月29日から4月1日までの4日間徳島大学医学部を会場として開催された.展示会場を加えると10会場の設営が行われ,同時進行の形で講演が進行した.本年度から今まで併催の形をとっていた産業医協議会が,産業看護部会と共に部会に衣替えして秋に大会を開催することになったので,1972年に定款変更により合催されるようになってから20年ぶりに学会単独の名称に還った.日医認定産業医制度が発足して,学会出席が基礎研修および生涯研修の研修単位に認められるようになっているので,勤務医,開業医の先生方の参加も次第に増えてきて活況を呈するようになっている.

講座 10代のこころを診る—思春期相談のために・3

家庭内暴力

著者: 武石恭一

ページ範囲:P.201 - P.204

1.はじめに
 「家庭内暴力」は思春期の精神保健相談のなかでも対応に苦慮する問題の一つである.初回面接から,この問題の困難さが表れていることが多い.来所するのは親のみで,本人が来所することはほとんどない.本人の来所を求めれば,それが出来るならば,当の「家庭内暴力」の問題は起きていないはずだと,述べたてる親もいる.相談を受ける側は,いわば,火元を見ずに火を消すことを求められているのと同じになってしまう.
 第二の困難さは,問題そのものが家庭内でしか起きていないことにある.しばしば,家庭内の,それも特定の一人にしか「暴力」が向けられていない.母親であったり,祖母であったり,弟や妹など家庭内の弱者であることが多く,自分からはその暴力に対抗できない.そのために,家庭訪問という方法をとることが出来なくなってしまう.訪問したあと,誰が頼んだのだ,と大暴れになることを恐れて家族は家庭訪問を断ってしまう.
 相談を受けている側も,気がつくと,口をきいたと言っては子に殴られ,黙っていると言っては蹴られている親と同じように,板ばさみとなり身動き出来なくなってしまっていることがある.

報告

アルコール依存症に関する医師へのアンケート調査

著者: 野田哲朗 ,   香西孝純 ,   河原和夫 ,   佐藤滋

ページ範囲:P.217 - P.221

1.はじめに
 われわれは,日常の公衆衛生活動のなかで住民の健康に及ぼすアルコールの影響が無視しえない状況になっていることを実感している.
 大阪府保健所が行っている中小企業従業員を対象とした循環器検診では,アルコール性の肝疾患が40〜50歳台男性の約10%に認められているし1),平成元年に救急医療の問題点を探るためにわれわれが中年期男性の循環器疾患死亡者の調査を実施したところ,調査対象者の約20%にアルコール関連問題が認められている2).また,家庭崩壊に陥ったアルコール依存症者や児童虐待の背景に,親のアルコール依存症が潜んでいたケースなどの相談を受ける度に,1次,2次予防を重視したアルコール関連問題対策の必要性を痛感する.
 1985年の日米共同研究ではわが国のアルコール依存者数を220万人と推計しているが3),実際にアルコール依存症治療を受けている患者は,年間高々2万人程度4)と極めて少なく,その大半はアルコール関連疾患のために内科等の医療機関を受診していると推測される5,6)

新しい保健活動の視点

走りながら考えよう—輪島保健所の喫煙教育

著者: 川島ひろ子

ページ範囲:P.205 - P.208

◇はじめに
 ちょうど今から4年前,臨床から保健所へとトラバーユした.小児科を専門にしていたので母子保健にはそれほど抵抗を感じなかったが,その他の業務はほとんど初めてのことばかりで,ビックリした.学生時代に公衆衛生の講義を受けたはずだが,すべて忘れ去っており,頭の中は空っぽであった.そこで書店に行き,何冊かの本を買いこんで読んでみた.そこには公衆衛生とは何か,あるべき姿,方法論等が書かれていたが,本を何十冊読んだところで現場を経験しなければ何一つ身につくはずがないという結論に達した.これまで,一応小児科医として20年近くやってきたのだから,専門的な難しい知識がなくても常識があれば何とかなるだろうと,開き直ることにした.
 あれからすでに4年がたった,「石の上にも3年」と言うが,本当に3年が過ぎたあたりから,保健所のことが何となく分かってきたような気がする.この間おたおたしながら,いろいろなことを経験してみた.何かをするたびに,それがたとえうまくいかなくても,“なるほど”と思うことが一つ二つ必ずあった.全く子供と同じで,毎日毎日新しいことを経験しながら,少しずつ何かが身についてきたような気がする.

活動レポート

保健所における糖尿病教室の取り組み

著者: 垣内孝子 ,   萩原千佳子 ,   大森美千代 ,   藍口陽子 ,   川越久美子 ,   小西ゆかり ,   表とし美 ,   土井ちえ子 ,   高柳礼子 ,   横川博

ページ範囲:P.209 - P.212

●はじめに
 富山県小杉保健所は1市3町1村を有する人口約9万2千人のUR型保健所であり,近年は県内2大都市に隣接するベッドタウンとして発達している.医療施設は,市に公立病院が1つあるが,他は開業病院,開業診療所で占められている.
 当保健所では,市町村から老人保健法に基づく一般健康診査の精密診査の一部を受託し,昭和61年度から糖尿病患者のみならず耐糖能障害(IGT)とみられるものも対象とした糖尿病教室を開催してきた.しかし最近は,老人基本健康診査に血糖関連検査が導入されたり,健診の医療機関委託がふえる状況にあり,血糖関連検査の事後管理体制づくりが急務となっている.そこで今回は,保健所糖尿病教室のあり方を検討するために,これまでの糖尿病教室受講者について,受講時の状況を整理するとともに受講後の状況についてアンケート調査を行い,若干の知見を得たので報告する.

進展する地域医師会の公衆衛生活動 熊本市医師会の在宅ケアセンターの活動・2

在宅ケアセンター開設まで

著者: 鶴田克明

ページ範囲:P.214 - P.215

 ■昭和60年に熊本市医師会を中心に地域リハビリテーションに取り組むために協議会を組織されたとお聞きしましたが,当時,先進的に地域リハビリテーションに取り組んでいた地域あるいは組織はいくつかあった中で医師会が中心的役割を果たしたとのことですが,どのような活動をされたのですか.
 鶴田 昭和60年,熊本市医師会を中心として熊本市老人地域リハビリテーション協議会を組織しましたが,これには「医専連」と学識経験者,熊木市保健衛生局および市民局老人福祉課,保健所,保健センター,社会福祉協議会などが参加しています.会長は熊本帯医師会長,副会長に市の保健衛生局長と市医師会副会長が就任しました.

保健活動—心に残るこの1例

障害をもつ子どもたちの就学を共に考える

著者: 石川栄子

ページ範囲:P.216 - P.216

 私は,これまでの職場でも,口蓋裂の子供さんや脳性マヒの子供さんとの出会いの中から,お母さん方が悩みながらも親子ともに前向きに一生懸命生きていく姿をみつめさせて頂きました.今の職場へ転勤してきた年の夏頃でした.教育委員会の方から,障害をもつ子供たちが,適切な就学をするために情報がほしいと働きかけがありました.保健と教育という立場の違い,秘密保持という壁があり,情報を提供することさえ簡単にできることではありませんでした.しかし,乳幼児からかかわって支援してきた子供たちが,“適切な就学をして卒業後も安定した生活をおくるための支援ができるのなら”との思いがあり,試行錯誤の中で,12月に保健所保健・福祉サービス調整推進事業の処遇検討部会として,就学前の子供たちの会議を開催しました.保護者の了解を得た21例のケースについて,今までの経過と就学への親の要望などを担当保健婦より報告し,保健・教育・福祉・医療の関係者で検討しました.
 プラダーウィリー症候群のAちゃんは,3歳児健診後に訪問したケースでした.生後まもなくから哺乳力が悪く,入退院を繰り返していました.

発言あり

同居

著者: 可児和子 ,   張知夫 ,   安田千代子

ページ範囲:P.153 - P.155

「2人から5人へ,そして……」
 私たちが「同居」を始めてからもう20数年たつ.一緒に生活するが普通の結婚,入籍という形をとりたくない,というのが二人の一致した意見だった.「今までの名前を捨てて相手の名前を名のることは,相手の所有物になるようだ.自分は自分の名前で生活し仕事をしてきたし,これからもそうしたい.対等な関係を築きたい」という気持ちだった.このような考え方に至ったのは,当時の大学闘争の影響が大きかったのかもしれない.
 彼は保健所の心理相談員などの仕事,私は障害児収容施設の職員として,二人とも変則的な仕事のため,すれちがいの多いスタートだった.

保健行政スコープ

わが国の在郷軍人病対策

著者: 大井田隆

ページ範囲:P.222 - P.223

1.はじめに
 1976年米国フィラデルフィアのホテルで,米国在郷軍人会(The Legion)が開催され,その時に,ホテル宿泊客およびホテル付近の通行人に原因不明の重症肺炎が集団発生したのであった.患者の発生状況は,宿泊客182人と通行人39人が発病し,うち29人が死亡した.患者の大部分が,米国在郷軍人とその家族であったことから,この病気は在郷軍人病(Legionnares' disease)と命名され,在郷軍人会会員とその家族の罹患率は6.6%にも達した.その原因究明のために米国CDCは調査を開始し,ようやく半年後に原因菌を発見した.その間に投じられた費用は200万ドルに達したという.病原菌はLegionella pneumophilaと命名され,この細菌が属する一群をレジオネラ属菌と総称し,以後これらの細菌による肺炎をレジオネラ症と呼んでいる.
 また,英国などの各国からもレジオネラ症の報告例が発表された.英国では1982年からレジオネラ症のサーベイランスを実施し,1989年までの7年間に毎年約200人の患者の報告があり,その40%は旅行関係患者で,その9割がスペイン,イタリア等の海外旅行者であった.

基本情報

公衆衛生

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1170

印刷版ISSN 0368-5187

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