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雑誌目次

雑誌文献

公衆衛生57巻6号

1993年06月発行

雑誌目次

特集 明日の医師像と医学教育

“明日”の医師像

著者: 垂井清一郎

ページ範囲:P.379 - P.382

◆歴史的な—考察
 医療は,人類とともに古い人間の営みであり,さらにその原初的な行動は高等動物においてさえ認められる.医師の進むべき道を説いたいわゆる「ヒポクラテスの誓い」にまで,進歩洗練されるに至った気の遠くなるほど長い過程を考えるならば,「あるべき医師像」が突然変貌を遂げるなどとは到底考えられない.過去の医師たちの営々とした努力の結果築かれた多くの規範は,今日といえども,大部分正しさを保っている.例えば,「ヒポクラテスの誓い」の中にある次のようなくだり,「…書きものや講義その他あらゆる方法で私のもつ医術の知識をわが息子,わが師の息子,また医の規則にもとづき約束と誓いで結ばれている弟子どもに分かち与える.…私は能力と判断の限り患者に利益するとおもう養生法をとり,悪くて有害と知る方法を決してとらない.…女と男,自由人と奴隷のちがいを考慮しない.医に関すると否とにかかわらず他人の生活について秘密を守る」.などは,思想としてのレベルも高く,ほとんど千古不易といっても過言ではないであろう.

医学教育の新たな展開

著者: 門奈丈之

ページ範囲:P.383 - P.386

◆はじめに
 大学設置基準の大綱化に伴って,各大学は自らの教育理念を明確にし,それに相応した教育課程を編成する必要性がある.
 新しい教育理念を掲げるための基本的な最重要課題は,大学における教育,研究の普遍的な達成目標とそれが現実に行われている特定の時代,場所(特に公立大学では)の社会的な要請といかに整合するかという点にあろう.

臨床教育の課題と展望

著者: 井形昭弘

ページ範囲:P.387 - P.389

◆はじめに
 臨床教育は,医療の本質にかかわる大問題である.医学発祥の頃は教育は徒弟制度に委ねられていた.しかし医学の進歩に従い,臨床医に要求される能力には極めて広範かつ高度の専門性が要求されるようになり,医学教育は社会的課題となってきている.現代の臨床教育のカリキュラムは国民の関心の的でもあり,かつ未来の医学を左右するといっても過言ではない.ここでは筆者の経験を基に医学教育に関する若干の問題を論じてみたい.

公衆衛生教育の課題と展望

著者: 上島弘嗣

ページ範囲:P.390 - P.393

◆はじめに
 公衆衛生の主たる対象となる課題は,時代とともに移り変わる.感染症の時代から,慢性疾患への対策の時代,さらには老人の生命の充実の時代へと推移してきた.そして,一時期,感染症の時代は終わったと考えられたりしたが,エイズの問題が現れ,感染症対策の問題は形を変えて再来した.慢性疾患の代表である脳卒中も,死亡率が最も高かった時期より70%も低下したとはいえ,高齢での発症といわゆる「寝たきり」問題が新たに生じてきた1).そして,世界の長寿国のトップに立った高齢化社会においては,単なる疾病の予防と死の先送りではなく,生命の充実(quality of life)の問題が生じてきた.このように,目先の課題は時代と共に移り変わったが,従来の課題がなくなったのではなく,むしろ従来の課題に加えて,新たなる広がりを見せたのだといえる.
 ここでは,上述のような状況の中,まず,公衆衛生教育の一般的な課題として,学生に公衆衛生への興味をいかに引き出すか,また,それと関連して能動的学習の方法の重要性について述べる.そして次に,時代が高齢化社会へ急速に推移する中での,公衆衛生の個別的な課題について述べたい.

衛生学教育の新たな工夫—新しい革袋には新しい酒を

著者: 土井陸雄

ページ範囲:P.394 - P.396

◆医学教育システムと教育内容
 医学教育については,東京女子医科大学におけるチュートリアル・システムの導入,卒前臨床実習におけるクリニカル・クラークシップの導入,社会医学領域では保健所実習等への国費補助(国立大学のみ)など様々な取り組みがなされつつある.チュートリアル・システムの導入は,小中学校から始まる受験競争に慣らされてきた医学生を,教師からの一方的な知識伝達に受動的に従うことから能動的な学習に誘導し,医学への積極的な動機付けを獲得させることに,そしてクリニカル・クラークシップの導入は,より早期に臨床技術・手技に触れさせ,医師としての責任を伴う患者との交流を経験させることに最大の眼目があるものと思われる.
 ところで,これらはいずれも教育システムに関するものであり,現代医学教育におけるその重要性については多言を要しないであろう.しかし,医学教育はシステムだけで行えるものではなく,「何を教えるか」,つまり教育内容と一体になって初めて意味を持ち得るものである.教育システムを革袋とすれば,教育内容はそれに盛る酒の関係と言えるのではなかろうか.「新しい酒は新しい革袋に」というが,革袋だけ新しくしても,中味の酒が新しくなければ本当の教育効果を期待することは出来ないであろう.

医師国家試験制度のあり方

著者: 糸川嘉則

ページ範囲:P.397 - P.400

 医師国家試験の目的は医師法に規定されている「臨床上必要な医学及び公衆衛生に関して医師として具有すべき知識及び技能」を医師を志す者が確かに備えているか否かを判定することである.この目的をもって昭和21年に第1回医師国家試験が実施されてから,現在に至るまでにその制度は数回の改革が行われている.すなわち,初期には基礎医学科目も対象とされたり,論述形式の試験が行われたりした.また一時,口答試問が行われたりしたことがあった.しかし,これらは現在の国家試験では廃止されている.これは,図1に示すような受験人員の増加傾向に対応したり,できるだけ客観的な評価をしようという考え方や臨床実地を重視するという考え方が導入されたことなどの理由から,試行錯誤的に検討が行われた結果であると思われる.
 筆者は現在実施されている医師国家試験の方式は,かなり優れたものになっていると一応の評価はしているが,しばしば国家試験に関する論議の中で一度廃止された方式を採用した方がよいのではないかという意見を出す人もある.また,現在の医師国家試験制度に対してはまだ改良の余地があると多くの人が考えていることも確かである.

講座 10代のこころを診る—思春期相談のために・6

境界人格障害

著者: 齊藤万比古

ページ範囲:P.401 - P.404

1.はじめに
 十代の青少年を児童思春期精神医学的な観点からみた時,現象的にも治療的にもとらえにくさを持った特異な一群の子どもたちに注目せざるをえない.それは以前から“境界的青年”あるいは“境界例”と呼ばれてきた子どもたちであるが,1980年米国精神医学会がその診断分類DSM-ⅢのAxis Ⅱ診断における「人格障害」の項目で初めて“境界人格障害”という用語を提唱して以来,境界人格障害と呼ぶことが一般的となっている.しかし,未だその概念は明確にされたとは言い難い面もあり,ここではDSM-Ⅲの改定版であるDSM-Ⅲ-Rにおける他の2,3の人格障害にまたがったやや広い概念として“境界人格障害”をイメージし,それを仮に“ボーダーライン”と呼んでおきたい.

トピックス

エイズの相談・指導体制の整備について

著者: 久保定弘

ページ範囲:P.406 - P.407

●はじめに
 エイズは特定の人の病気ではなく,誰もが感染の可能性がある病気である.しかし最近,新聞・テレビ等マスコミで頻繁に取り上げられているものの,一般には,未だにエイズが自分には全く関係のない病気であるという意識があるなど,エイズに対する認識は,まだまだ高いとはいえないものがある.そこで,大阪府におけるエイズ対策に携わってきた一人として,エイズの相談体制を中心として若干の私見も交えて述べたいと思う.

原著

健康の重視度,保健行動および健康状態の構造解析—“健康づくり推進事業”地域の婦人を対象として

著者: 佐藤元 ,   荒記俊一

ページ範囲:P.427 - P.433

 宮城県の11市町(主として農業地域)で行われた婦人の健康づくり推進事業への参加者のうち,20歳以上6,045人の婦人に対するアンケート調査結果をもとに,健康の重視度・保健行動・健康状態の間にどのような関係があるかを検討した。主な結果は以下のとおりであった。
 1)健康の重視度と保健行動の間には,限られた項目でのみ有意な関係が認められ,30代の節煙と20代の節酒行動について,健康重視度が高い群に実行者の割合が少ないという傾向が認められたが,多重有意性検定の結果,これらの傾向の有意性は否定された。2)健康重視度と体調の間には,40歳代で,健康重視度の高い群のほうに体調がよい者が多いという関係がみられた。3)持病と健康重視度との間には,全体として,疾患のない群に健康を重視する者が多いという傾向が認められた。4)保健行動と体調の間には,保健行動を行っている群のほうが,体調が良い者が多いという関係がみられた。保健行動の種類により,体調との関連の有意性が強いと考えられるものと,弱いと考えられるものがみられた。

調査報告

手拭きタオル共用方式の問題点

著者: 高濱清子 ,   杉浦保男 ,   尾家重治 ,   神谷晃

ページ範囲:P.434 - P.436

●はじめに
 健康上障害のある養護学校の児童生徒に手洗いを習慣づけ,手の衛生について関心をもたせることは,保健教育上意義のあることといえる.このため,養護学校ではハンカチやタオルを個人に携帯させたり,トイレなどへタオルを備え付けることが積極的に行われている.しかし十分な手洗いを励行しても,共用の手拭きタオルなどが清潔でなければ,かえって手が汚れて衛生的でなくなる場合も考えられる.そこで,養護学校内で使用されている手拭きタオルの汚染状況について調査した.

海外事情

中国農村地域未成年者の喫煙実態に関する調査

著者: 胡伊拉

ページ範囲:P.437 - P.440

 中国東北地方で古くから「三大奇観」とされたものの一つが「煙管をくわえた少女」であることからして,中国のこの地方の未成年者喫煙問題の根深さが知られよう.
 1987年に中国のある地域の都市と農村で行われた比較調査によると,原因別死亡順位が呼吸器疾患は,都市では第4位(人口10万比91.83),農村では第1位(同143.06)であった(表1を参照)1).また1985年の中国衛生部で実施した農村部の保健医療サービスの実態に関する調査では,農村地域の慢性疾患罹病率順位は慢性気管支炎は1位(人口千対11.4)を占めた(表2を参照)2).その主要原因の一つとして農村地域住民,特に若年喫煙が考えられる.こうした問題意識から,中国黒龍江省農村地域での未成年者の喫煙実態について,筆者は調査を企画し,省衛生庁の賛同で実施した.それを要約報告して管見を述べたい.

活動レポート

西土佐村の健康づくり

著者: 宮原伸二

ページ範囲:P.408 - P.412

●はじめに
 健康づくり活動にとっては,「住民参加」があり「保健・医療・福祉の連携」がとれた活動が大切だということはよく聞く.
 しかし,現実は住民に行政の下働きをさせて,それを「住民参加」と称したり,「保健・医療・福祉の連携」が縦割り行政の中でかけ声だけになってしまっている市町村が多い.
 今回は,昭和60年以来,真の「住民参加」にせまり,「保健・医療・福祉の連携」をはかりながら健康づくり活動を推進している高知県西土佐村の活動を,評価をふくめ紹介する.一部,在宅ケアについてもふれる.

耐糖能異常者に対する糖尿病予防教室の効果

著者: 友岡裕治 ,   藤洋吐 ,   鳥巣要道 ,   今村英夫 ,   中村はま子 ,   森山善信

ページ範囲:P.413 - P.417

●はじめに
 食生活や生活環境の欧米化に伴い,糖尿病が増加傾向にあることが判明してきた1).これに伴い糖尿病の予備軍と考えられる耐糖能異常者(IGT:Impaired Glucose Tolerance)も急増していることは,あまり知られていない.そこで我々は,福岡県三井保健所主催の健康増進教室の一環として,福岡県小郡市および中村学園大学の協力を得て,IGTに対する糖尿病進展予防目的の教室を実施した.
 本教室は生活スタイルの変容を目指し,運動療法を中心に栄養指導を加味し,従来の体重測定や自覚的な効果判定に加え,最大酸素摂取量や75g経口糖負荷試験および血液検査などの検査項目を取り入れ,科学的に効果を判定し,効率的な教室運営を試みたので報告する.

新しい保健活動の視点

秋田保健所の保健活動

著者: 伊藤善信

ページ範囲:P.418 - P.422

◇活動の背景と概況
 秋田県秋田保健所は,秋田市の中心に位置し,東側は太平山を中心とする出羽山地に囲まれ,県立自然公園などのスポーツ・レクリエーションゾーンとして親しまれている.西側は日本海に面して北西に男鹿半島を望み,男鹿支所を配している.さらに北側には八郎潟の干拓により生まれた大潟村を中心に田園地帯が開け,五城目支所を配している.全体では,URI型の中間型(都市,農村,漁村)保健所で,管轄区域は2市9町1村であり,人口は430,784人で秋田県の総人口の約35%を占めている.
 男鹿支所,五城目支所の所掌業務はいわゆる対人保健サービスのみで,いわゆる対物保健サービスについては本所で対応している.秋田保健所の組織は図1のようになっており,平成4年度から保健等サービスの多様化・質的変化に対応するため,企画調整係を設置している.当所の職員は総数91名である.

進展する地域医師会の公衆衛生活動 遠野方式在宅ケアシステムにおける遠野郡市医師会の役割と機能・2

評価と課題—21世紀の在宅ケアを目指して

著者: 貴田岡博史

ページ範囲:P.423 - P.425

 遠野市の在宅ケアは福祉と医療の連携により始まったが,その後の活動は医療—保健—福祉の連携により,その事業が拡大されてきている.
 1)訪問診療
 2)訪問看護
 3)訪問リハビリテーション
 4)保健婦による訪問指導
 5)在宅福祉サービス:入浴サービス,デイサービスセンター,ふれあいホーム事業(ボランティア活動),寝たきり老人介護者の会,など
 これらの事業は前号のシステム図で紹介したようにシステム化が図られ,さらに老人保健福祉計画の策定とともに次代に向けての構想づくりの検討が進められている.

保健活動—心に残るこの1例

素晴らしき出合い

著者: 桐山美紀子

ページ範囲:P.426 - P.426

 私は今,満21歳!人生80年代から換算すると何歳になるだろう…44歳? 花のフォーティズ.さあ,今こそスルメの味? を出す時だ!これからやるぞ,暦年齢もまさに中高年に突入,俗にスペクトル的な物の視方や行動を自然体で行うことが可能な時期となっている.今回,このテーマを頂き,時を止め,今まで自分と出逢いを頂いた数多くの人たちと会話をしてみることとした.1例にかかわらず,地域住民の方々,教え導いていただいた諸先輩,後輩すべてを対象に,当時の感動の一部分を再現し,初心に返ってみる….

発言あり

明日の医師像

著者: 鈴木弘之 ,   横沢せい子

ページ範囲:P.377 - P.378

「医学教育改革への序章」
 今回,医学教育の改革というテーマで発言できることは誠に光栄であります.筆者は哲学思想分野が専門で,現在はその学問的視野を拡大しかつ哲学思想を医学分野に応用しようと医学を学び研究しているところです.筆者にとって「教育」はいつも興味と研究の対象でありました.十数年来「日本の大学教育をどう立て直してゆくべきか」,そして医学部入学以来「日本の医学教育は今後どうあるべきか」という問題に取り組み,考え続けて来たように思います.日本医学教育学会の会員にもなり,全国の優れた医学部の先生方からも多くのことを学んで来ました.今回,医学教育に関して医学生の立場からの意見を聞いてみようという御趣旨で指名していただいたようですので,筆者なりの改革案の一部を紹介させていただくことにします.

わが町の保健・福祉施設

沖縄県総合健康増進センター

著者: 外間政典

ページ範囲:P.442 - P.443

 「健康は栄養・運動・休養の調和から」をモットーに,昭和56年2月に,「財団法人沖縄県保健医療福祉事業団 沖縄県総合健康増進センター」は開設したので,平成5年2月で満12年を迎えることになる.事業団(理事長 沖縄県知事)は健康増進の運営に関する事業を行っており,平成元年より腎臓バンク事業も行っている.また,平成3年11月には那覇市で第13回日本健康増進学会が,全国の会員参加のもと,盛大に開催された.
 当学会ではセンター長が代表して「いきいきスリム教室における減量効果」の学会長講演,また当センター職員の「運動習慣の健康観へのかかわり—生化学的・体力・自覚改善・生きがい・意欲へのかかわり」,「肥満教室終了後のアンケート結果について」,「大学野球部部員のトレーニング実施前後の体力測定」など,日頃の成果の発表が行われた.

保健行政スコープ

政管健保における健診事業について

著者: 安達一彦

ページ範囲:P.445 - P.447

1.はじめに
 政管健保(政府管掌健康保険)による成人病予防健診事業は,昭和39年以来健康保険法第23条に規定される保健福祉施設事業の一つとして実施されてきた.国という単一の実施主体が行う成人病健診としては最大のものであり(注:老人保健法によるものの実施主体は市町村,労働安全衛生法によるものは事業主),平成3年度においては230万人以上の方々が受診されている.
 このたび,現在実施している政管健保による成人病健診に一定の方向性と計画性を与えることを主な眼目として,今後の政管健保における健診事業のあり方について検討が行われ(検討会座長:竹中浩治((財)厚生年金事業振興財団常務理事),本年2月15日に報告書が提出された.筆者は本年3月まで社会保険庁において本報告書の作成に係わってきたので,本報告書をもとに今後の政管健保における健診事業のあり方について解説を加えてみたい.

基本情報

公衆衛生

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1170

印刷版ISSN 0368-5187

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