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雑誌目次

雑誌文献

公衆衛生57巻9号

1993年09月発行

雑誌目次

特集 地域におけるターミナルケア

人はどのように死にたいか

著者: 籏野脩一

ページ範囲:P.604 - P.609

◆はじめに
 がんがわが国の死因の首位にあたることは誰でも知っている.私たちの4人に1人はがんにかかって死んでいくはずである.がんのために2分半おきに日本人は死んでいる.すべてのがん患者がひどい痛みを経験するわけではないが,がん患者の4人に3人は激しい痛みに悩む1).気も狂いそうな痛みにさいなまれた時,入院しても,主治医によっては,疼痛を十分に取ってもらえるとは限らない.終わり良ければすべて良しというが,人生の最期を平安に迎えたいと願わない人はいないだろう.山崎章郎氏の『病院で死ぬこと』2)や大熊一夫氏の『ルポ老人病棟』3)等には,人命を救うはずだった専門家の組織である病院が,初めの目的を見失って,弱い病人の自由を奪い,悲惨な最期を強いる光景が克明に描かれている.これらの死に方は,本人が望んだ死の迎え方では無かったはずだ.では私どもは,一体どのような死に方を望んでいるのだろうか? そしてそれを叶えることは難しいのだろうか? 死を迎える場所は病院が一番安心なのだろうか? まず高齢者に意見を聞いてみた.調査の結果の一部をここに紹介し,問題のありかを考えてみたい.

末期医療に臨む医師のあり方

著者: 千原明

ページ範囲:P.610 - P.613

◆はじめに
 これまでの医療のあり方の中では,あまりにも患者の意思・意見がないがしろにされ,医師・医療者主導のいわば一方的な医療行為が通例であった.しかし,一般市民生活の場における人権意識の芽生えとともに,医療の中においても,患者の権利意識が次算に育つところとなったが,とりわけ,すべての人間が必ず出会う問題であり,また最も人間的な要素に富む終末期医療において,人間性の回復が主張されるに至ったと思われる.終末期における医療のあり方が反省され,ここに真に人間的な温もりのある医療が展開されることによってはじめて,すべての医療現場における人間性の回復,患者の権利の回復が可能になるものと考える.
 本稿では終末期医療における医師のあり方について述べるが,ここに書かれたことはすべての医師に要求される多くの共通点を有していると考える.

都市型在宅ホスピス

著者: 川越厚

ページ範囲:P.614 - P.617

◆はじめに
 わが国においては,家で死にたい希望を持っていても,末期がん患者の中で実際に家で死ぬことができる人は,たかだか7%である.
 家で死ねるかどうかは別としても,末期がんと診断されてから死亡するまでには,入院するまでのかなり長い期間を家庭で過ごさなければならない.末期がん患者のケアで,最も欠けている部分である.
 在宅ホスピスの第1の目標は,在宅末期がん患者と家族を対象にしたホスピスケアを行うことである.第2の目標は,在宅期間を延長することである.在宅死は在宅ホスピスの目的と考えるよりも,むしろ結果と考えるほうがよい.そして第3の目標は,在宅と施設でのケアを,ホスピスケアという点で,一貫性をもたせることである(図1).
 わが国でホスピス,特に在宅ホスピスが育つためには,わが国固有の土壌に見合った育て方が重要である2).日本型在宅ホスピスの特徴は,第1に医師積極参加型であること.第2は,訪問看護婦主導型であること.第3は,家族積極参加型であることである.在宅ホスピスといっても,一般にはなかなか理解され難く,現実に在宅でのホスピスケアを受けられる患者は,少なくとも今の日本ではきわめて稀である.

坪井病院におけるホスピスと在宅ケア

著者: 坪井栄孝 ,   新庄八重

ページ範囲:P.618 - P.622

◆はじめに
 人生の終焉をquality高く生きぬくためには,在宅医療の提供体制が整備されることが国民的希求とされている.
 住み慣れた場所で,身近に親愛なる人々がいて,見慣れた風景の中で人生を終わりたいと願うことは,「病院より自宅で」という相対的な価値観ではなく絶対的なものであると考えるべきであろう.特に終末期にある患者の居宅受療指向には特別の意味があり,末期患者の在宅における全人的ケアの提供こそ,現代医療に欠くことのできない分野である.
 このような背景をふまえて,末期がん患者への対応のため,在宅ホスピスを中心とした全人的医療提供を施行して来たので,その体験をもとに末期医療の内包している諸問題について述べたいと思う.

箕面市のターミナルケア

著者: 中井紘二 ,   松尾高子 ,   秋好美恵 ,   眞島栄一 ,   伴一枝 ,   浜裕美子 ,   浅野克子 ,   高谷ます子 ,   倉沢菊世 ,   青井靖子 ,   谷本弘子

ページ範囲:P.623 - P.626

◆はじめに
 欧米諸国に比べ予測以上の早さで到来する高齢化社会に対応するたあ,わが国においては医療・保健・福祉の総合一体化した諸施策の推進が図られている.このような状況のもとで国は,昭和63年訪問看護等在宅ケア総合推進モデル事業(モデル事業)を全国11市町において実施し,在宅ケアの充実を図ったが,そのうちのひとつとして箕面市は都市近郊型として指定を受けた.市はモデル事業終了後も引き続き市の単独事業として訪問看護事業を実施してきた.昨年老人保健法の改正により老人訪問看護制度が実施されるに当たり,今までの実績を基盤に平成4年4月から老人訪問看護ステーションを開設し,訪問看護活動を引き続き実施している.
 これらの対象者は高齢であるため,約半数近くの者がターミナルを迎えている.今回,昭和63年10月から平成3年9月までの3年間の在宅死の事例について,主治医と訪問看護婦が中心となり,資料の収集分析を行ったので報告する.

長野県信濃町のターミナルケア

著者: 龍野由子

ページ範囲:P.627 - P.630

◆はじめに
 「在宅ケア」の単語だけは今,日常用語となった.その延長線上の“ターミナルケア”の言葉も,在宅を前提として割合すんなりと使われている.言葉の内容はどう解されているだろうか.「自宅療養」そして「在宅死」など,見た目での治療施設以外の場で,自らの努力と家族などの支援による身始末をするイメージが大方であろう.それが,当事者のアイデンティティであるか否かはこの際重きはおかれてはいまい.多くの調査結果は一様に,人々は住み慣れた家(地)で過ごしたり,家族とともに在りたい,ターミナルにあってはそこを終焉の場としたい,と回答していると報告されている.人々は,“在宅”を求め,あこがれ,常識として共有しはじめた.いつの間にかゴールドプランの方針を受け入れているようだ.調査では対象者の多くが,“願わくばそのようにありたい”との思いを調査票に託したのだろう.看ていただく絶対的受身に置かれたら,人々は,看る人への気兼ねや心くばりの意識が先行してはたらき,これが調査票ににじみ出た部分もあろう.だから100%が在宅ターミナルケアを望む結果にはならない.本音を調査票にぶつけている人々もいるはずである.

末期ガン患者のケアと全国協議会

著者: 小田清一

ページ範囲:P.631 - P.633

◆はじめに
 平成4年度の人口動態社会経済面調査によれば,ガンで亡くなった患者のケアに対する介護者の満足度は,積極療法を受けた患者では70.1%であるのに対して,緩和ケア療法を受けた患者では92.8%となっており,緩和ケアに対する介護者の評価は高い.しかし,ガンの告知については,「告げられて知っていた」と介護者が答えたのは18.2%で,「察していた」と答えたのが42.5%であった.緩和ケア病棟の利用はガンの告知と密接に関係するが,わが国においては,ガンの告知率は現在のところ低いレベルにある.ガン患者の在宅医療の状況については,最後まで在宅医療を受けていたものと,在宅医療を続けていて最後に入院したものを合わせても全体の8.8%と,1割に満たない状況にある.

南島におけるターミナルケア

著者: 近藤功行

ページ範囲:P.634 - P.638

 筆者は与論島を中心とした奄美群島ならびに沖縄本島,沖縄離島域で終(つい)の場所に関する調査研究を継続中である.このテーマを進めていく中で,1992年には特別養護老人ホームも対象として沖縄本島内の同施設を全施設訪問し,高齢女性に見られる一過性の俳徊行動などの裏付けを行う一方1),終の場所などの調査を行ってきた2),また,奄美群島内の施設の訪問も今年1月までにすべて終えた.老人ホームの中でも,とりわけ特別養護老人ホームでは終の場面に接する機会が多いことが施設の訪問を通して明らかになった3).このため,施設職員も息を引き取る場所としての対応が必要となってきているなど,施設での動向も知ることができた.入所者の死を避けて通ることのできない特別養護老人ホームの現状については,その現状を押さえておく必要があると思い,南島(南西諸島の呼称)全域に調査の手を広げた.これまでの調査から死に際しての過程,そして死亡場所を追って行くと,(1)施設内入所から病院への転院による死亡,(2)施設内入所から(終末を自宅で迎えるために)自宅に戻っての死亡,(3)施設内死亡(居室→静養室での死亡),など各施設の違いも明らかになってきた.

イギリスにおけるターミナルケア

著者: 恒藤暁

ページ範囲:P.639 - P.642

◆はじめに
 近代的ホスピス運動の始まりは,ロンドン郊外にあるセント・クリストファー・ホスピス(St Christopher's Hospice)が創立された1967年とされる.それ以降,ホスピス運動はイギリスだけでなく,60カ国以上の世界各国に普及し,ターミナルケアの充実や発展が望まれている.今回,筆者は3カ月にわたってセント・クリストファー・ホスピスを中心に5カ所のホスピスや在宅ケア,また緩和ケアチームを研修する機会に恵まれた.この貴重な体験をもとに,イギリスにおけるターミナルケアについて述べていきたい.

講座 10代のこころを診る—思春期相談のために・9

強迫神経症

著者: 山崎透

ページ範囲:P.643 - P.646

1.はじめに
 まず,最近筆者が出会ったK君のケースを簡単に紹介する.
 K君は中学2年生の男の子である.中学1年の3学期にクラブ活動(ブラスバンド部)で彼が望んだパートになれなかったことをきっかけに中2の4月から不登校となり,その後自宅に引きこもるようになった.6月のある夜,テレビ映画の性的な場面を見ていた時に,自分の精液が漏れてしまったような気がしてとても不安になり,自分が汚れてしまったようでそれから手を頻回に洗うようになった.それからは性的なことが頭に浮かんで来るだけで手を洗わずにいられない状態となり,自分専用の石鹸を3日で1つ使い切ってしまうほどであった.また,手洗いが終わった後は母親に“清潔”になったかを何度も確認し,母親がうまく応えられないとパニックとなり,母親に手を挙げるようになった.これをみかねた父親が止めに入ると,「あんたには関係ない.今さらなんだ.どうせおれなんかいないほうがいいんだろう」とエスカレートするという状態のため,母親に連れられて相淡に訪れた.
 思春期相談において,このような強迫症状についての相談が持ちこまれてくることはそれほど稀ではない.

トピックス

地域保健の見直しを考える

著者: 貞本晃一

ページ範囲:P.647 - P.650

●保健所問題とは何か
 地域保健が見直されようとしている.どうやら見直される中心は保健所のようであるが,いわゆる保健所問題とは何であるのか.過去の議論の中でもこの問いの明確な回答は必ずしも示されていないのではないだろうか.乏しい知識と経験に基づく私見ではあるが,この機会に述べてみたい.
 問題とは「変化に対する欲求である」という.保健所問題が言われはじめて20年以上が経過したが,それでは,保健所のどこが「変」で,何をどのように「変えたい」のか,時代と立場で異なると思うが,「誰」の,「どのような」問題であるかを通して保健所問題の本質を考えてみる.

群馬県のエイズ電話相談

著者: 大月邦夫 ,   朝比奈浄真 ,   安部理 ,   田島貞子 ,   宗行彪 ,   石坂喜美江

ページ範囲:P.651 - P.654

●ぐんま・エイズ・ストップ作戦
 平成4年3月に改正された政府の「エイズ問題総合対策大綱」および厚生省通知「エイズ対策の推進について」(平成4年5月28日)に基づき,本県でも図1に示すごとく,プライバシーと人権の保護に留意した重点対策と推進体制の整備を内容とする『ぐんま・エイズ・ストップ作戦』を展開してきた(エイズ対策費は,4年度当初予算1,947千円,9月補正予算17,780千円).以下,平成4年度の本県の主なるエイズ対策を示す.

活動レポート

日本リウマチ友の会の昨日,今日,明日

著者: 島田広子

ページ範囲:P.655 - P.658

●はじめに
 “リウマチ—この身近な難病—”これは日本リウマチ友の会が啓発活動として行っている「リウマチ写真展」の一つの題名である.
 この題名どおり,リウマチは耳なれ聞きなれた「身近な」病気である.患者は100万人といわれ,圧倒的に女性に多い.しかも,原因不明で治療法が確立されていない.そのため患者は,激痛とともに関節の変形,破壊による障害も生じ,一生つき合わなければならない「難病」である.長期の闘病により社会的,精神的,経済的な問題をかかえた患者同士が,リウマチを正しく知り,励まし合い,明るく強く生きるために,リウマチ友の会は発足した.
 それから34年,リウマチ専門の医師をはじめ,コ・メディカル,家族などの参加を得て,わが国有数の患者団体に発展して来ている.今日までの歴史と展望を,昨日,今日,明日に分けて述べてみたい.

新しい保健活動の視点

文京区の地域保健活動

著者: 宮川多津子

ページ範囲:P.659 - P.662

◇はじめに
 厚生省は本年1月より「地域保健の総合的な見直し」を行うために急ピッチで作業をすすめ,全国の保健衛生関係者に論議を巻き起こしている.見直しの理由として,「人口の老齢化」,「ニーズの多様化」,「生活環境問題への住民意識の高まり」を挙げている.また,見直しの基本的考え方として,(1)市町村の役割の重視
(2)保健所の機能強化
(3)保健,医療,福祉の連携
(4)マンパワーの確保
(5)計画的で円滑な地域保健の体系化
 を示している.これに対して,全国知事会,全国市町村会,全国衛生部長会,全国保健所長会,東京都知事等から要望が出されているところである.東京都特別区は,それぞれの区が独自に保健所を設置しており,保健衛生事業に係わる市町村業務を併せて実施している.このほど特別区衛生部長会は,厚生省に対して,特別区の保健所を政令市の保健所と同様に法的に位置付けるとともに,特別区の特性を活かした施策の展開ができるよう,保健所の設置数を各区の自主的判断に任せるよう要望したところである.

進展する地域医師会の公衆衛生活動 弘前総合保健センターの運営とその活動—弘前市医師会・3

弘前総合保健センターを活用しての健診事業

著者: 金上幸夫 ,   豊田尚幸

ページ範囲:P.663 - P.665

 豊田理事 「他の市町村では検診業者がいろいろと入ってきているようですが,弘前市では医師会と市で協同してきましたので,うまくやってきていると思います.その点で市からも一切任せるといわれておりますので,評価は受けていると自負しています」.
 弘前市医師会は昭和58年から集団健診事業を行ってきた.それは弘前商工会議所関係の企業の従業員(80〜140名)を対象としたもので,まだまだ小規模の活動で商工会議所を会場として実施されていた.

発言あり

国際ボランティア

著者: 国井修 ,   三井和子 ,   李節子

ページ範囲:P.601 - P.603

「アマからプロへ時代は変わる」
 筆者は3つの国際ボランティアに参加している.AMDA(アジア医師連絡協議会),TILL(栃木インターナショナル・ライフライン),JOCS(日本キリスト教海外医療協力会)である.予算規模も活動内容も異なるが,国際的視野で保健医療を考え,積極的に行動を起こしている民間団体(NGO)という点では共通している.AMDA,JOCSは第三世界のニーズに応じ,前者は主に緊急医療援助,後者は長期的な保健医療の開発協力を実施している.TILLは在日外国人の保健医療問題に対処しているが,日本国内の国際化の問題を扱うという点では国際ボランティアといえるであろう.
 筆者は,ここ1年間でAMDAからバングラデシュ,ソマリア,JOCSからカンボジアに短期派遣され,診療,衛生調査,健康教育に関わってきた.その中で,ソマリアはアメリカ軍が介入したわずか1カ月後,銃声が頻繁に響き渡り,栄養失調の子供が食糧配給所に群がるような時期であった.先遣隊として,筆者を含め3名の医師がソマリア国内外の難民・被災民のキャンプを訪れて健康調査を行った結果,1年間の緊急医療援助を開始することになった.

わが町の保健・福祉施設

秋田県南部老人福祉総合エリア

著者: 藤本博道

ページ範囲:P.666 - P.667

 秋田県が,高齢化社会に対応するために建設した老人福祉施設,秋田県南部老人福祉総合エリアは「活力とうるおいに満ちた長寿社会秋田」を目標に,お年寄りの方々の福祉・医療・居住・社会参加などをすすめる総合的な機能を持つ施設である.正式名称は,「秋田県南部老人福祉総合エリア」であるが,通称「南部シルバーエリア」,地元の人たちからは「エリア」と呼ばれて親しまれている.
 南部シルバーエリアは,施設の主な部分の設置主体は秋田県であるが,大森町と広域圏も設置主体を成しており,運営管理も秋田県社会福祉事業団と大森町が行っており,地域との密接な連携のもとに運営されている.

保健行政スコープ

「遺伝子治療臨床研究に関するガイドライン」の目指すもの

著者: 石塚正敏

ページ範囲:P.669 - P.671

1.はじめに
 去る4月15日,厚生科学会議(座長=杉村隆:国立がんセンター名誉総長)において「遺伝子治療臨床研究に関するガイドライン」がとりまとめられ,厚生大臣に報告された.
 これによって,わが国でも21世紀の画期的先端治療技術といわれる遺伝子治療の臨床応用が,本格的にスタートするものと期待されるが,本稿ではガイドラインの背景にある考え方と今後の展開について解説することとする.なお,遺伝子治療の基礎知識については本誌1992年11号で紹介しているので参照されたい.

基本情報

公衆衛生

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1170

印刷版ISSN 0368-5187

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