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雑誌目次

雑誌文献

公衆衛生58巻10号

1994年10月発行

雑誌目次

特集 歯科保健医療の動向

歯科疾患の予防

著者: 岡田昭五郎

ページ範囲:P.684 - P.687

◆はじめに
 世界保健機関(WHO)は1994年の世界保健デーのテーマを“Oral Health for Healthy Life”とし,口腔保健を推進することとなった.口腔の疾患のなかで多いのは歯科疾患であって,いずれの国もその予防対策に力を注いでいる.
 生涯にわたって人の歯をむしばむ歯科疾患の予防は健康の保持増進の一環であるが,老後の健康な生活のためには健全な自分の歯でかむ能力を保持することが大切であるという事例が報告されるようになって,若いときからの歯科保健の重要性が一層強く叫ばれるようになってきている.

成人における口腔粘膜病変

著者: 大屋高徳

ページ範囲:P.688 - P.692

◆はじめに
 口腔粘膜には口腔粘膜固有の疾患のほか,全身疾患の一分症として現れる疾候性病変も少なからずみられる.
 西山によると次の3項目に口腔粘膜の病変を分類している.すなわち,①口腔粘膜に限局した病変,②皮膚疾患と関係のある病変,③内臓病変の部分現象があることが述べられており,このような口腔粘膜病変に対して確実な診断をし,全身的病変の有無を確認するためには,口腔粘膜の生理的状態ならびに無害な口腔粘膜の状況と,異常病変を知っておくことが必要である.このように特異な変化を示す成人における口腔粘膜病変について解説したい.

高齢者・障害者の歯科医療における課題と展望

著者: 渡辺誠 ,   菊池雅彦

ページ範囲:P.693 - P.697

◆はじめに
 わが国における65歳以上の老年人口が全人口に占める比率は,平成2(1990)年で12.0%,平成12(2000)年では17.0%,さらにその10年後(2010年)には21.3%となり,日本は世界一の老人社会になると予測され,高齢化が他国に例をみないほど急速に進行している1)
 また高齢化社会の裏側には,寝たきり老人や痴呆性老人などの介護の必要な老人数の増加の問題がある.平成2年における国内の寝たきり老人は約70万人で,内訳は在宅に24万人,特別養護老人ホームに約16万人,長期入院している老人が約25万人と推計されている2).このような状況のもとで,歯科医療はいかに対応すべきか,また何ができるのかを考え直す時期にきている.

歯科治療の最前線—歯科用レーザー

著者: 松本光吉

ページ範囲:P.698 - P.700

◆はじめに
 特集「歯科保健医療の動向」の項目の一つとして,歯科用レーザーに関する原稿を依頼され,特集の主旨を読ませて頂いたところ,わが国の医療制度の最大の弱点でもある病気を治療しないとお金を支払わないという治療法からの脱却,すなわち,予防法に,いかに対応するか,その際,どのような予防法が推奨されるのか,フッ素の上水道水への投与,口腔衛生指導の徹底などの他に,最近話題になっているレーザー治療法があることから,現場の歯科医師に,このような予防法もあることを紹介するために依頼を受けたものと勝手に解釈して,誌面の関係もあり,今回は歯科用レーザーの中でも,特に,レーザーによるう蝕予防,初期う蝕治療に限定して述べることにした.

歯科医療と保険制度

著者: 林治幸

ページ範囲:P.701 - P.704

◆歯科医療の特徴
 1.予防可能な2大疾患
 歯科疾患といえばう蝕(むし歯)と歯周病(歯槽膿漏)という2大疾患がほとんどである.もちろん,顎関節症や口腔癌などの歯科疾患もあろうが,歯科治療のほとんどがこの2大疾患の治療で占められている.
 ところで,この2大疾患は偶然に発症するというよりは生活習慣によるところが大きい,つまり食生活(ことに甘い物の取り方)や適切なブラッシングの習慣化ということが,直接発症に結びついている.戦後の貧しい時代に小学校でよい歯のコンクールを行えば,必ずといってよいほど貧困家庭の児童が選ばれた.おやつに甘い物を買ってもらえないかわりにむし歯にならなくてすんだわけである.その後経済が発展し豊かになると,どこの家庭でも甘い物が十分買える時代になり,昭和30年代後半から50年代前半まで,乳歯う蝕の洪水ともいえる時代が続いた.どこの歯科医院でも順番待ちの光景がみられ,中には小児歯科専門という歯科医院が誕生した.しかしその後は親の意識も高まり,乳歯う蝕の洪水の時代は鎮静化した.つまり,う蝕は甘い物の取り方に注意すればそれだけでも十分予防効果があるわけである.

8020運動の推進

著者: 網元愛子

ページ範囲:P.705 - P.707

◆はじめに
 8020運動の達成は,21世紀に入ってからと予測されている.今世紀の前半と後半とでは,大変な社会の変貌が起こった.この変貌は21世紀にはさらに加速され,途方もない技術社会が到来するにちがいないと思っている.
 筆者は患者を通して,「生活抜きの歯科」はあり得ない,また,患者については「全身の健康を抜きには『はなし』にならない」ことを学び,さらに,口腔保健は健康→生活→文化である.患者対策は,特に歯科にこだわらず考察することが必要である.医学(歯学)は歴史的に見れば人類の文化史である,ということを経験から会得した.そこで8020運動の戦略についても,単に歯科領域からだけで問題をとらえるのではなく,国民の生活,日本の文化,社会から考察していくべきであろうと考える次第である.

世界の口腔保健対策の動向

著者: 鶴巻克雄

ページ範囲:P.708 - P.711

◆はじめに
 口腔保健の目的が「口腔の健康を保つこと」にとどまらず,QOLを高め長寿社会へ大きく寄与していこうと,変わりつつある.
 口腔保健を論ずるとき,人,場所,時間,歯科医学的要因の他に政治学,経済学,社会学,教育学といった分野からの知識の重ね合わせが必要となってくる.
 世界各地で関係者間で話し合われるテーマは必ずしも歯科医学的技術論だけではなく,器械,材料,薬品,自動車,船,建物,通信,本,紙,お金といった歯科医療を供給するに必要な物についてはいうに及ばず,言語,人種,宗教といった人間が生きるために必要なすべてを背景においた議論がなされることになり,どの視点から口腔保健を論ずるのかを決めてかからなければ,しばしば混乱と対立を招き,誤解を生ずることになる.
 このような多面化したアプローチの方法の異なる口腔保健を整理し,秩序立ててリードしているのは,世界保健機関(WHO)と国際歯科連盟(FDI)であろう.

視点

目の保健

著者: 中島章

ページ範囲:P.681 - P.683

1.世界の失明,トラコーマ
 視覚は最も大切な感覚で,ヒトの生活に重要な役割を果たしている.視覚の重度の障害は,文明の進んだ現代社会では,生命に危険を及ぼすことはないが,残った感覚をフルに使っても日常生活が大変に不便になり,生活の質が低下する.わが国の視覚障害者は人口のおよそ0.3%,そのうち重度のものはその半分で,他の先進国に比して特に多いわけではない.しかし,欧米,特にスカンジナビア諸国に比べて,視覚障害者の援護にさらに努力が望まれる.
 視覚障害者の頻度をわが国でさらに低下させることは簡単ではない.昔はトラコーマが失明予防上大きな問題であり,トラコーマ予防法が明治時代に制定され,公衆衛生的な対策が行われた.世界的に見ると,トラコーマ患者数は今日でも世界人口の1割,それによる失明は数百万人と推定され,日本の終戦直後の状態(1950年頃)に対比される.しかし日本ではトラコーマによる失明は,淋菌による結膜炎(膿漏眼)とともに後を絶って久しく,昭和58年にはトラコーマ予防法も有名無実の法として廃止された.

連載 地域精神保健の展開—精神保健センターの活動から・10

大分県精神保健センターの取り組み—こころの健康フェスティバルを中心に

著者: 東保みづ枝

ページ範囲:P.712 - P.715

【はじめに】
 精神保健センターの行う業務のうち,広報普及活動は,精神障害に対する理解がいまだ社会に乏しい現状では,重要なものと考えられる.昭和44年3月の「精神衛生センター運営要領」では広報普及はセンターの業務の3番目に取り上げられ,「センターは,全県的規模で一般住民に対する精神保健知識の普及啓蒙を行うとともに,保健所が行う広報普及活動に対して専門的立場から指導と援助を与える.広報普及活動の実践に際しては,地域住民の現状をよく把握し,観念的になることを避けなければならない」とされている.この運営要領に沿った活動として,各種の大会や講演会がセンターの主催で開催されて来た.しかし,現実にこれらの会を催してみても,参加するのは障害者とその家族,医療や保健・福祉に携わる人,その他の行政職員など,一部の関係者に限られてしまうことが多かった.正しい精神保健知識をもってほしい“一般住民”に対しては,なかなか普及のチャンスがないのが実態である.

疾病対策の構造

特定病因説の科学史(2)

著者: 長野敬

ページ範囲:P.716 - P.718

 外側からの力が病気を引き起こすという観念は,解析的医学の時代に始まったものではない.ここに解析的医学といったのは,生命の機構を分析的にとらえる近代生物学の手法が確立して,その姿勢が医学の実地にも影響を及ぼすようになったことを指すつもりで,この語を用いた.
 生物学から医学へと影響を及ぼすといっても,流れは,もちろんこの方向だけに向かうものではなかった.むしろ解剖学も生理学も,それら自体が元来は医学として始まったといえるから,当初においては,影響の流れはむしろ逆であった.ヴェサリウス(A. Vesalius,1514-1564)の『人体の構造』(1543)や,ハーヴィ(W. Harvey,1578-1657)の『血液循環』(1628)は,実証的で精密な手法が医学そのものの中で,まず確立したことの証拠文書である.それにもかかわらず,生物学から医学へ,と上にこだわって言ったのは,別個に実在する個々の生物体を超えて,生命の一般法則をさぐるという姿勢がまず明確にされたのがやはり生物学においてであり,19世紀初頭の“Biologie”という造語(ラマルクとトレヴィラヌス,1802)が,この姿勢を表明する旗印だったと思うからである.

21世紀への食品保健行政

FAO/WHO合同,食品規格計画とわが国の食品保健

著者: 鈴木康裕

ページ範囲:P.719 - P.722

●はじめに
 国民の食生活の多様化やわが国の経済発展・円高に伴う購買力の向上,食品の国際貿易の増加などを背景として,輸入食品が食卓に上る機会が増加している.
 輸入食品については,国民の食生活の選択肢を広げたり,食料価格の高騰を防ぐという利点はあるが,輸出国の食品添加物や残留農薬に関する規制制度のわが国との違い,食品の衛生管理がわが国ほど徹底していない国々からわが国への食品輸出など,留意すべき点も多い.
 本稿では,こうしたわが国の食品輸入の現状と対策,安全な食品の国際流通に関してFAO(国連食糧農業機関)とWHO(世界保健機関)が合同で進めている食品規格計画が果たす役割について述べる.

進展する地域医師会の公衆衛生活動 老人保健施設の運営—能代市山本郡医師会・2

運営の現状—その入退所状況を中心に

著者: 小西重夫 ,   田中武

ページ範囲:P.723 - P.725

 「病状が安定し入院治療より医学的管理のもとに家庭的な雰囲気でリハビリテーションや看護・介護を中心としたケアを提供するという理念に基づいて老人保健施設をつくりましたが,前会長からは県内の老人保健施設のモデルになるような施設にしてくれと厳命されました.そこで建物もアメニティを配慮した快適なものとし,職員も開設前に定員に見合って充実させました.」と開設前の心躍る心境を事務長は振り返る.
 とにかく平成3年3月末に竣工し,5月2日の開所に向けて入所定数95床に相当する職員も確保した.ところがいざ開所ということになると,初日の入所希望者はわずか2人だけであった.「医師会は宣伝・広報が下手なのでしょうね.」と事務長は建設から開所までが多忙で,建物の竣工,職員の確保に神経が奪われ,入所案内などの地域への広報活動が十分に展開できなかったと述懐する.

活動レポート

動物愛護センターにおける子犬の集団飼育方法

著者: 伊藤幹男 ,   青木誠 ,   水野忠信

ページ範囲:P.726 - P.729

 動物愛護センターでは名古屋市内で捕獲された抑留犬,あるいは市民が飼育しきれずに保健所へ持参した引取犬の中から,健康で性格のよさそうな生後1.5〜2ヵ月の子犬を選別し,常時約50〜60頭を集団飼育している.これらの子犬はセンター内のふれあい広場の主役として,あるいはイベント会場や幼保育園で行う移動ふれあい教室で活躍し,市民に大変かわいがられている.センターの来館者は年々増加し,休日は1日で1,200人を数える日もあり,ふれあい広場(午前10時〜11時30分,午後1時30分〜4時,月曜日休館)は大盛況である.また移動ふれあい教室は春秋を中心に年間約20回実施しているが,開催の要望は年々増加している.子犬は生後約3ヵ月になると,毎月ほぼ2回開催している子犬を差し上げる会で毎回10〜15頭を市民に譲渡している.平成4年度には333頭の子犬を譲渡したが,譲渡希望老は子犬頭数の3〜4倍で,市民の需要には到底追いつかない状況である(表1).
 一方,本市の抑留犬および引取犬は年々減少しており,子犬を選別する際の幅は非常に狭くなっている.

保健所における双子育児教室の歩み

著者: 金田治也 ,   北村佐恵子

ページ範囲:P.730 - P.733

●はじめに
 育児環境の変化に加えて,排卵誘発剤による多胎妊娠,周産期医療システムの向上等により,出産,育児の場は変化しており,母子保健事業の再編成が必要となっている.そこで尼崎市東保健所では,出産頻度の比較的に高い双胎児を安心して生み育てることを支援する目的で,平成3年から全国で初めての「双子育児教室」を開始し,双胎児を持つ妊産婦,母親の健康管理と育児についての知識の提供を行うと共に,母親同士の交流,仲間作りを行って好評を得てきた.同時に指導方法,カリキュラムのあり方の研究,指導教材の開発も行ってきた.

調査報告

B型肝炎ワクチン接種による自覚症状出現に及ぼす影響

著者: 多田敏子 ,   三好保 ,   中村秀喜 ,   今木雅英

ページ範囲:P.734 - P.737

●はじめに
 予防接種は,疾病予防の重要な対策1)として位置づけられている.多種類のしかも大量の病原菌にさらされる機会の多い医療従事者の健康管理は,その役割の遂行のためにもきわあて重要なことである.健康管理上,予防接種が有効なものの一つにB型肝炎があり,医療従事者へのB型肝炎予防対策としてのB型肝炎ワクチンの予防接種の実施報告2-5)も見られる.近年,予防接種に当たって,効果や身体への影響が指摘されている6-9)が,事前の調査によって自覚症状の出現状況が把握できれば,予防接種をより安全に実施することにつながる.B型肝炎ワクチン接種については主な対象者が成人であることや,一般的でないことから,抗体の獲得成績に注目した報告が多い.
 今回,B型肝炎ワクチンを接種した後に,体調の変化を訴えた者が多かったことから,事前に調査したアンケート結果との関連から自覚症状出現の要因を検討した.

全国市町村における高齢者の社会活動に関する実態調査の実施状況

著者: 玉腰暁子 ,   大野良之 ,   清水弘之 ,   五十里明 ,   橋本修二 ,   坂田清美 ,   中村利恵 ,   若井建志 ,   川村孝 ,   鈴木貞夫

ページ範囲:P.738 - P.742

 全国各市町村単位で実施されている高齢者に関する実態調査の現状を把握するとともに,各市町村では社会活動の指標としてどのような活動を想定し調査しているかを探るための調査を,1992年に全国3,261市町村(特別区含む)を対象に実施した.高齢者に関する実態調査は現在70%以上の市町村で実施されていることが明らかとなったが,調査は主に医療福祉面の観点から行われてきたものと推測された.高齢者の社会活動として今までに調査された項目は,市町村の人口規模により順位,頻度が異なっており,社会的に活動的と考えられる高齢者の姿は,用意された社会状況に応じて変化する可能性が示唆された.同様に高齢者の社会参加を促進するために各市町村が図っている主な施策は,市町村の人口規模で大きく異なっていた.したがって,社会的に活動的と考えられる高齢者像をとらえる場合には,社会参加そのものを規定する背景要因をも考慮する必要があると考えられる.

保健行政スコープ

保健婦一人当たり受け持ち人口集団について

著者: 橋爪章

ページ範囲:P.746 - P.747

●はじめに
 日本人口を保健所または市町村に勤務している保健婦数で割り算をすると,保健婦一人当たり6千人(男3千人,女3千人)弱の人口集団を受け持っていることになる.この平均的人口集団では約10人の医師が医療施設で働いており,これらの臨床医を中心とした医療従事者の働きは,人口集団のうち医療機関と強く結び付いている群の健康度(予後)へ強く影響を及ぼしている.しかし,人口集団構成要素としては医療機関との結び付きが緩い群のほうが大きく,この群の健康度は,もっぱら保健婦等の公衆衛生活動従事者の働きに委ねられることになる.医療従事者と公衆衛生活動従事者との両者の働きによって人口集団全体の健康度が上下するわけであるが,これが集団間の格差となって諸保健衛生指標に表れてくることになる.人口集団全体の健康度にとって,保健婦等の公衆衛生活動従事者は医療従事者と同じく大きな影響力があるのである.

基本情報

公衆衛生

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1170

印刷版ISSN 0368-5187

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