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雑誌目次

雑誌文献

公衆衛生58巻12号

1994年12月発行

雑誌目次

特集 生活習慣と健康

健康づくりの視点からみた生活習慣

著者: 富田拓 ,   細谷憲政

ページ範囲:P.835 - P.839

◆はじめに
 平成元年12月,公衆衛生審議会は,「保健事業の充実・強化策に関する意見」を具申した.「意見」は,健康診査によって生活習慣の改善が必要と判定されたものに対し,食生活や運動状況等の生活習慣の総合的な把握に基づき,個々人に即した具体的な生活改善指導を積極的に行う事業の必要性を強調している.これまでの公衆衛生活動は,そのターゲットを疾病の流行の抑止から疾病の発生の予防へ,さらには健康の維持・増進へと変化させてきた.この流れは,個々人の日常の生活のより近くへ,という流れでもある.意見具申を受けて,厚生省が平成2年度から導入した「生活習慣改善指導事業」は,ある意味では,この流れの必然的にたどり着くべきところであったともいえる.そしてまた,生活習慣改善指導は,一人ひとりの日常に密着する,という意味においては,これ以上遡ることのできないような,一つの終着点に近いとも考えられる.そもそも,Max Weberがライフスタイルという言葉を生み出したとき,それが将来,健康との関連において,改善を指導される対象となろうとは夢想だにしなかったに違いない.

時間からみた日本人の生活習慣

著者: 牧田徹雄

ページ範囲:P.840 - P.843

◆生活時間調査について
 習慣とは,決まった時期,あるいは決まった時刻に特定の行動を行うことをさす.したがって,習慣と時間とは密接な関係がある.
 例えば,1年という時間幅をとると,お正月とお盆には多くの人々が田舎に帰省することが習わしになっており,この時期になると,高速道路は毎年懲りることなく大渋滞に陥り,東京の空は青く澄みわたる.

職業別にみた生活習慣

著者: 川上憲人

ページ範囲:P.844 - P.847

◆はじめに
 主要な成人病の発症や主観的な健康に,栄養,運動,休養などの日常の生活習慣が大きな影響を与えることが明らかとなり,これに基づいた健康づくり戦略が展開されるようになって久しい.職域においてもトータルヘルスプラン(THP)によって運動を中心とした健康づくりが熱心に進められている.
 職業別に生活習慣を分析することには,2つの意義があると思われる.第1に,勤労者の健康状態には職種によって大きな差がある1).成人病に限っても,事務職では高コレステロール血症が,営業職や中間管理職では胃・十二指腸潰瘍が,管理職および運輸職では糖尿病が多い.こうした職種間の健康状態の差異には,職種ごとの生活習慣の差が強く影響していると推測される.職種別の生活習慣の特徴を把握し,これに基づいて職種ごとに変容を促すべき主要日標となる生活習慣を設定することで,効率的な健康づくり活動が実施できる.第2に,禁煙教室など望ましい生活習慣への変容を援助しようとする場面で,仕事上のつきあいやストレスなどが行動変容の困難さや失敗の原因となることがしばしば報告される.生活習慣の形成および維持に及ぼす職業性因子の影響を理解することは,健康づくり活動を進める上で重要である.

性格別にみた生活習慣

著者: 今井一枝

ページ範囲:P.848 - P.851

◆はじめに
 がんや心疾患などの成人病は習慣病とも呼ばれ,生活習慣の偏りが発病の大きな原因となっている.生活習慣の形成には家庭環境,労働条件,経済,社会などの外的な要因の他に,個人個人による違いが大きい内的要因(宿主要因)も関与している.特に豊かな物質に恵まれ,多様な生活環境が存在する日本や欧米では,個人の価値観や好みを優先した生き方を選択することが可能である.われわれはこうしたライフスタイルの選択に性格が関与していると考えている.なぜなら,常に新しい情報を取り入れ流行のライフスタイルを持つとか,逆にライフスタイルの変更を拒むといった行動や態度には,性格が影響していると考えるからである.
 一方性格は,以前から特定の成人病と関連しているという報告がある.Aタイプの性格行動型は,せっかちで競争心が強いことが特徴であるが,このタイプは血液中のカテコールアミンが上昇しやすいため,血圧や心拍に影響を与えると考えられ,虚血性心疾患のリスクファクターとされている1,2).また,がん患者には抑うつ的で感情を表面に出さない性格型が多いという報告があり,これをがんに関連した性格型としてCタイプと呼ぶことが提唱されている3,4)

生活習慣と健康—運動

著者: 内藤義彦 ,   飯田稔

ページ範囲:P.852 - P.855

◆はじめに
 本稿では,まず健康と運動(身体活動)との関連について触れる.次に,日常生活の中に運動習慣を組み込むことが困難な状況をいかに打破するか,本人および指導・援助する側としての心構えや対応を論じる.最後に,必ずしも運動指導を中心にしていないが,生活習慣の改善を目指した肥満解消プログラムの事例を示しつつ,生活指導の効果を評価する必要性,集団を基盤とした健康づくりの重要性について触れたい.なお,運動という用語は多義的で,一般には「体育・保健のために身体を動かすこと」(広辞苑)で身体活動の一部分として用いられる.われわれは労働による身体活動や通勤,買い物などの日常生活の中における身体活動も重視し,こうした身体活動量も積極的に増やすことを奨励する立場をとっている.以下の文中では,「運動」を「種々の身体活動量を積極的に増加させる行動様式」として拡大解釈した.

生活習慣と健康—栄養

著者: 上島弘嗣

ページ範囲:P.856 - P.860

◆はじめに
 わが国は,1945年の第二次世界大戦における敗戦後,栄養状態の改善とともに結核を代表とする感染症による死亡率を減らし,また,乳児死亡率も減少させた1).そして,1951年には慢性疾患の代表格となった脳卒中がわが国の死亡のトップを占め,脳卒中撲滅が国民の悲願となった.その後,栄養状態の改善とともに,1965〜90年の過去25年間に脳卒中死亡率は80%以上も滅少し,わが国は世界の長寿国の首位を占めるに至った1).この間,多くの先進工業国は,脂肪のとり過ぎによる過栄養の状態から血清総コレステロール値は高値を維持し2),動脈硬化性疾患の心筋梗塞の死亡率は高率であった3)
 近年のわが国の食生活は,欧米先進工業国のそれに近づきつつあることが指摘され,動脈硬化性心疾患の増加も懸念されている.ここでは,わが国の食生活の変化に触れつつ,いわゆる成人病である慢性疾患の動向との関連について触れ,今後の食生活のあり方について述べてみたい.

健康づくりのための休養—よりよい自己実現のために

著者: 野﨑貞彦

ページ範囲:P.861 - P.864

 日本の国際化が進むなか,国民の健康をとりまく環境は大きく変化している.人口の高齢化が進み,わが国は世界一の長寿国となった.一方,成人病の増加,過労やストレスなど,数多くの問題が山積するなか,健康づくりへの取り組みはいま,大変重要な課題となっている.国民生活の向上や家事の簡素化,労働時間の短縮が進み,週休2日制も定着してきた.
 働くことは美徳とされてきた日本人の感覚も西欧に少しずつ近づき,週間労働時間も昭和63年度からは,48時間から40時間に短縮することが図られてきている.また平成5年の夏季連続休暇の普及率は81.6%(前年81.0%)と少しずつ伸び,日本人の休暇に対する考え方が積極的になってきていることがうかがえる.しかし余暇に対する考え方は,西洋人に比べるとまだまだで,例えばフランス人は余暇のために仕事をするが,日本人は仕事をするために余暇がある,ということが言われる.

健康づくりと生活指導

著者: 内野英幸

ページ範囲:P.865 - P.869

◆はじめに
 わが国の疾病構造は急性伝染病や結核に代わって,がん・脳血管疾患・心臓病など,いわゆる成人病が主流を占めるようになった.伝染病の時代には伝染病についての正しい知識の教育と集団防衛の観点から,「禁止」や「強制」などの疾病予防対策で対応できた.
 しかし,成人病時代の健康教育は,それがライフスタイル病であることを認識し,予防のためには長年にわたって慣れ親しんできた生活習慣や行動様式を自ら改善するための教育が求められている.
 筆者は1986年から4年間,政令都市の保健所で健康診査とその事後指導に関わり,1990年からは県型保健所に異動して,保健所と市町村との連携で肥満教室や高コレステロール(以下,高コレ)血症教室に取り組んできた.そこで,本稿では保健所が中心になって行っている健康づくりや生活指導のポイントを,個人と社会環境の関係を視点に述べる.

視点

障害者基本法

著者: 五味重春

ページ範囲:P.833 - P.834

 障害者基本法(以下,基本法と略す)が,平成5年(1993)12月3日に公布された.この基本法は,心身障害者対策基本法(昭和45年)の改正によるものである.
 わが国における障害者の処遇に関する法的な歩みと外国の流れを述べ,基本法を紹介し,問題点等について紙幅の許す範囲でふれたい.

公衆衛生医師—その現状と課題 座談会

これからの精神保健を考える(2)

著者: 景浦しげ子 ,   中村清司 ,   斎藤京子 ,   岡田耕輔 ,   竹島正

ページ範囲:P.870 - P.875

 竹島 岡田先生はエイズの仕事に関連してHIVと人権・情報センターの方とおつき合いがありますが,精神保健の領域と,例えばエイズ関連,あるいは老人保健や母子保健との違いがあるのかどうか,その点はどのようにとらえられていますか.
 岡田 今年の4月ごろにHIVと人権・情報センターの方と一緒に,高知でメモリアルキルト展を開こうということになりました.そして,その会場に何人かの方で自由に話をしていただこうというコーナーを設けたのです.そのときだれに話をしてもらうかと考えた場合に,差別とか偏見という観点から見ると,HIV感染者と精神障害者とはある程度似通った面があるのではないかということで,一つは精神障害者自身に話していただく,それから,ノーマライゼーションという考え方から身体障害者の方にも話してもらう,結局,精神障害者が2人,身体障害者が1人,それから聴覚障害の方,HIVと人権・情報センターの代表で血友病の方の,合計5人の方にそれぞれ自由に話していただきました.

連載 地域精神保健の展開—精神保健センターの活動から

生活の場づくりを通しての地域精神保健活動

著者: 後藤雅博

ページ範囲:P.876 - P.879

【はじめに】
 最初に編集部から依頼を受けたときの題名は,「社会復帰の受け皿づくりを通した地域精神保健活動」となっていた.けれども「受け皿」という言葉には,どうも屋台のコップ酒であふれた酒を無駄にしないためにコップの下に置く皿の「こぼれた余分のものを受けとめる」というイメージがつきまとう.それで題名は表記のようにした.
 精神医療での受け皿というと普通は施設を指したり,家族を指したりする.それは病院から退院をする場合のみを想定しているからであり,「病院からあふれでた」ものを受ける,というニュアンスがある.いわゆる病院精神医療の考え方の反映である.地域精神医療の観点では,社会復帰施設も家族も「受け皿」ではなくて,本来のあるいは今後の生活の場である.少なくともこれからの社会復帰関連の施設を語るときには,コップ酒の受け皿のイメージはないほうがいいように思う.

疾病対策の構造

(4)病気を数える

著者: 倉科周介

ページ範囲:P.880 - P.883

 このシリーズの主題のひとつは,社会の体力の向上による病気の抑制である.空気や水や,さては大地のように,桁外れに大きく重い存在は,そのためにかえって意識され難い.社会も間違いなくそのひとつである.19世紀に至るまで,ヒトは病いに対するに僅かに祈りと施しをもってするのみだった.一転して20世紀は,予防接種と抗生物質に代表される医学的疾病対策と学術信仰全盛の時代として終始した.その効果と限界が共に明らかになりつつある今,次なる世紀に向けての疾病対策は,病気の抑制において社会が果たす巨大な役割を冷静に認識するところから出発すべきであろう.社会における病気の数と質の総体を適切にとらえることから,その作業ははじまる.
 SAGEがそのための道具であることはすでに述べた.仕組みや使い方や効果も,何度となく説明してきた.今回はSAGE構築の前史に触れながら,その原材料である統計資料の重みについて紹介することにしたい.

調査報告

パーキンソン病入院患者の在宅復帰に影響する因子の検討

著者: 大仲功一 ,   北村純一 ,   山口明 ,   出倉庸子 ,   小林充 ,   岡内章

ページ範囲:P.884 - P.887

●はじめに
 パーキンソン病は慢性進行性の中枢神経疾患である.近年のL-ドーパをはじめとする治療薬の進歩などによりその余命は伸びてきている1)が,このことは一方では,障害をもちながら生活する期間が延長していることも意味している.特に日常生活に何らかの介助を要する程度までに進行した場合,在宅で療養できるか否かが患者のquality of lifeに少なからず影響することが予想される.したがって患者の在宅療養に関わる諸問題を明らかにしておくことは,適切な医療的・社会的サービスに不可欠である.今回われわれはその一環として,パーキンソン病入院患者の転帰をその身体的側面や社会的側面から調査し,在宅復帰に影響する因子を検討した.

地域における小児耳科疾患の検討—滲出性中耳炎難治遷延ケース検討から

著者: 福永一郎 ,   丸山保夫 ,   實成文彦

ページ範囲:P.888 - P.892

●はじめに
 小児の滲出性中耳炎は,3歳児の1割が罹患している1)といわれ,これらをはじめとする幼児期の耳科疾患対策は母子保健推進上の課題となりつつある.なかでも難治遷延する小児の慢性・滲出性中耳炎は,軽度から中等度も難聴を伴い,頻回の通院,複数回の入院手術を必要とすることも多く,幼児期における患児の精神発達や学習行動,患児家族の日常生活や経済状況に及ぼす影響は大である.
 この長期加療を要する難治性の小児滲出性中耳炎については,臨床現場ではよく遭遇し,その取り扱いに難渋するが2),地域保健現場では,そのような事実が存在すること自体あまり知られておらず,したがって,地域保健現場で取り上げられることも少なく,小児耳科保健に関する理解・関心は未だ得難い状況である.
 今回われわれは,小児慢性・滲出性中耳炎の難治遷延ケースの検討を行い,その実態を明らかにし,地域における小児耳科保健の重要性について,予防医学的考察を加え報告する.

新しい保健・福祉施設

掛川市徳育保健センター

著者: 伊東義森

ページ範囲:P.894 - P.895

 掛川市は,静岡県の西部に位置し,地形は南に小笠台地,北に赤石山系の尾根が南下し,暖かい気候と自然に恵まれた地方都市である.歴史は古く,平安時代より東遠地方の要地として街道の宿駅(東海道53次中26・27番目の宿場町)として繁盛し,さらに室町時代から廃藩置県までのおよそ500年間は,城下町として政治・経済・産業・文化の中心であった.明治22年,町村制発布により掛川町が誕生,以降周辺16村の合併を重ね,昭和29年3月市制施行し,現状の掛川市が整い将来への展望の基礎を固めた.昭和54年には,市制25周年を迎え,全国にさきがけて生涯学習都市宣言を行い,7万人市民一人ひとりの充実した生きがいと郷土の愛着と誇りを持てる都市づくりをスタートさせた.平成2年には,生涯学習10カ年計画パートⅡ「地球・美感・徳育」都市宣言を行い,生涯学習運動の一層の発展深化を図っている.
 掛川市といえば「茶」といわれるほどで,その生産量も市町村単位では日本一を誇り,伝統産業の葛布製品も全国に出荷されている.

保健行政スコープ

わが国における廃棄物対策の動向

著者: 中村健二

ページ範囲:P.896 - P.898

1.はじめに
 わが国においては,廃棄物の減量化・再生利用の推進,適正処理の推進,最終処分場等の廃棄物処理施設の確保等を目的とした「廃棄物の処理及び清掃に関する法律」の抜本的な改正が平成3年に行われるとともに,同年に「再生資源の利用の促進に関する法律」,平成4年に「産業廃棄物の処理に係る特定施設の整備の促進に関する法律」,平成5年に「エネルギー等の使用の合理化及び再生資源の利用に関する事業活動の促進に関する臨時措置法」の制定が行われるなど法制上の対応が進められており,地方公共団体や事業者団体等においても,それぞれの創意工夫を生かした廃棄物の減量化・再生利用,適正処理にむけた本格的な取り組みが開始されている.
 これらの取り組みの進展にもかかわらず,経済発展に伴う生産・消費の拡大,生活様式の多様化,消費意識の変化,経済のソフト化・情報化に伴い,廃棄物の排出量は増加し,その種類も多様化が進んでいる.他方,最終処分場をはじめとする廃棄物処理施設の確保が困難となっており,また不法投棄等の不適正な処理が大きな社会問題となるなど,廃棄物の処理を取り巻く状況はきわめて深刻なものがある.

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基本情報

公衆衛生

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1170

印刷版ISSN 0368-5187

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