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雑誌目次

雑誌文献

公衆衛生58巻2号

1994年02月発行

雑誌目次

特集 老人保健福祉計画の推進

老人保健福祉計画の意義と展望

著者: 厚生省老人福祉計画課

ページ範囲:P.83 - P.86

◆老人保健福祉計画作成の経緯
 1.福祉ビジョンの策定
 はじめに全国的な動向として,昭和63年10月,厚生省・労働省において「長寿・福祉社会を実現するための施策の基本的考え方と目標について(いわゆる福祉ビジョン)」が策定された.この福祉ビジョンにおいて,“今後は地域における保健,医療,福祉サービスの総合的かつ計画的展開を図るため,基本的な方針を定め,在宅サービスと病院,施設について,その体系化および連携を図る”こととされ,また,“高齢者が可能な限り家庭や地域で生活していくことができるように,昭和75年度(2000年度)を目途に,ショートステイ5万床程度,ホームヘルパー5万人程度,デイサービスセンター1万カ所程度,特別養護老人ホーム,老人保健施設あわせて定員50万人分程度を整備する”等の具体的な目標が示されたところである.

計画の推進と町づくりの展望

著者: 小林勝彦

ページ範囲:P.87 - P.91

 地方自治体の当面する最大の共通課題は,高齢社会に対応する地域づくりをいかに進めるかということだと思う.
 市町村は,地方自治法の定めるところにより,それぞれ長期計画を持っているが,従来の計画は,社会資本の整備,産業の振興,教育・文化・芸術のための施設づくり等,主としてハードな面に重点を置き,量的拡大に視点が向けられており,そこに住む人びとの生活という点については欠落した点が多かった.今度の「高齢者保健福祉推進10カ年戦略」に基づく「老人保健福祉計画」は,長期的な町づくりの展望に立って,ものごとを総合的にとらえるスタンスが必要だと思う.

計画の推進と地域保健の展望

著者: 磯博康 ,   嶋本喬 ,   山海知子 ,   今野弘規

ページ範囲:P.92 - P.95

◆はじめに
 老人保健福祉計画の推進にあたり,保健,医療,福祉の連携が唱えられている.その際,高齢化社会への対応として医療のみでは解決しえない問題を福祉に頼ろうとするあまり,福祉のみが過大に強調される傾向が見受けられる.しかし,保健と福祉は車の両輪であるという原点を見失うことのないよう,保健の充実も念頭において,老人保健福祉計画の策定を進めるべきである.
 本稿では,地域における脳卒中対策を例にとり,脳卒中自体の予防(1次・2次予防対策)が,脳卒中による寝たきりの数を減らし,病院や地域における脳卒中患者のリハビリ等のケア(3次予防対策)や福祉の負担減につながり,結果的に,効率的で充実した福祉を行い得ることを実際のデータを示しながら論じる.そして,保健事業を進める上での現在の問題点と,今後の展望について述べたい.

計画の推進と福祉の展望

著者: 小室豊允

ページ範囲:P.96 - P.98

■「老人福祉計画」の背景
 1963年には,アメリカより1年早く,老人のための総合的な福祉法である老人福祉法が制定されたが,わが国の場合は,ヨーロッパ諸国に比べ,高齢化の進行は遅く,とくに医療,介護の費用がかかる後期老人層(75歳以上)人口の伸び率は,さらに低かった(図参照).
 しかし,1970年代に入ると,少子化傾向の問題もふくめ,高齢化社会のコストをどのような形で負担するかという問題が,オイルショック後の経済成長の鈍化とともに,大きな社会的問題となってきた(1950〜1973年の平均年間経済成長率は10%,1974〜1990年は3.9%).

かかりつけ医の将来と計画の推進

著者: 糸氏英吉

ページ範囲:P.99 - P.101

◆医療法改正と在宅医療
 世界でもトップレベルの豊かさを達成したわが国において,在宅ケアに対する意識も大きく変化してきている.医療の分野,福祉の分野においてもそのニーズと対応は大きく様変わりしてきている.
 昨年の医療法改正はある意味で画期的なものであった.それは医療の概念を従来の治療のみに限らず,予防・リハビリテーションにまで拡大したこと,一方,医療を提供する施設として,患者の居宅も認めたことで,ここに在宅医療が法的にもはっきり位置づけられ,患者の権利として保障されたと言ってよいであろう.これからの高齢者は,人間としてその出生からその最後まで,自由を求め,プライバシーを尊重し,貴重な個人の人間関係を病気や生理的不都合によって放棄することは余程のことがない限り認めないようになってくるものと考えられる.

保健婦の将来像と計画の推進

著者: 平山朝子

ページ範囲:P.102 - P.105

◆はじめに
 保健婦は,1937年保健所法の施行に伴って,保健所を通して地域の看護活動を担う技術職員として誕生した.すでに半世紀を超える活動の実績と歴史を持っている.この間,わが国の社会情勢の動きに従い,保健行政の課題も移り変わり,いつの時代も保健婦のありようは問われ続けてきた.とりわけ保健婦の役割は周囲から問われることが多い.今回は,高齢社会に向けて諸サービスを整備していくために,保健婦がどの部分をどのように担うか,ということが問われている.したがって本論では,保健婦のこれからのあり方を看護学の立場から検討し,老人保健福祉計画の推進に貢献できる基本的な姿を考えたい.

計画推進の経済環境

著者: 武田宏

ページ範囲:P.106 - P.110

◆はじめに
 老人保健福祉行政の「分権化」
 1992年4月より,市町村に老人保健福祉計画策定が義務づけられたが,おおむねこの3月までには全国の約3,300市町村すべてが計画策定を終了する.他方で,町村への老人福祉・障害者福祉入所施設の措置権移譲も同時に行われたが,これらは在宅福祉サービスの法定化とあわせ,1990年6月の老人福祉法等改正(以下,「90年改革」と略称)により定められたものである.また公衆衛生審議会での意見具申に基づき,従来都道府県が設置してきた保健所機能の一部の市町村への権限移譲も検討・実施段階にさしかかっている.そしてこれが実現すれば,市町村が在宅・施設の保健福祉についての権限を一元的に持ち,計画的に実施する体制が実現するといわれる.
 しかし筆者は,①市町村が地域福祉を自主的に構築できるように中央政府たる厚生省の省令・通知等を通じた統制の緩和,②市町村への福祉財源保障の2つの条件がなければ,老人保健福祉行政における真の市町村分権は実現しないと考える.この意味では「90年改革」は「不完全な改革」と評価している.

英国における新しい公衆衛生と地域ケアへの期待

著者: ,   藤原仁史

ページ範囲:P.111 - P.115

◆はじめに
 近年英国では,医療,地域ケア,および公衆衛生サービスの運営と供給について多くの面で抜本的な改革がなされてきた.この論文では,これらの推移について検討したい.
 英国の国民保健サービス(NHS)は1948年に誕生し,多少の見直しと手続上の変更とを除いては,1980年代中ごろまでその本質は変わらないまま継続されてきた.その基本原則は,包括的なサービスの提供であったが,現在でもその原則は同じである.そのサービスはプライマリ・ケアと病院医療を含んでおり,個人の支払能力にかかわらず,利用に際し費用はほぼ無料であり,その財源は主として一般の税金によって賄われている.同時にこれまでも付加的に私費診療が実施されており,少数だが,次第に増大しつつある一部の人々によって利用されてきた.また,英国では包括的保健サービスを提供するために,実績として国民総生産(GNP)の6〜7%を支出しており,その額は他のほとんどの先進諸国よりも明らかに低額である.

視点

少子化時代の子どもの保健

著者: 巷野悟郎

ページ範囲:P.81 - P.82

【子育ては昔も今も】
 出生率の低下が続いてから久しい.この原因には,世の中があまりにも大人社会になりすぎているからであろうと考える.戦後の産業革命といわれる時代を経て,女性の社会参加などが注目されると同時に,いつの間にか子どものことを,子どものレベルで考えなくなってきてしまった結果である.しかし,子育ては人類がこの地球上に存在している限り続けられるのだから,いつの時代でも子どもたちに,よりよい環境を提供していかなければならないことには変わりない.

公衆衛生医師—その現状と課題 座談会

保健医療福祉計画と公衆衛生医師(1)

著者: 岩室紳也 ,   笹井康典 ,   原徳壽 ,   坂田清美

ページ範囲:P.116 - P.121

 坂田 昭和60年に医療法が改正され,各都道府県で医療計画が作成されました.この医療計画は5年後に見直しをするということで,策定後5年経過した現在,その見直しが進められ現在までに30都道府県以上で見直しを終わっているということです.
 他方,平成2年には老人福祉法等の福祉関連8法が改正され,市町村で老人保健福祉計画を作成することになり,1994年4月までには出そろうことになっています.

連載 地域精神保健の展開—精神保健センターの活動から・2

市町村の精神保健活動との連携—宮城県精神保健センター

著者: 相澤宏邦

ページ範囲:P.122 - P.125

 地域精神保健活動に関して,宮城県は当初から市町村が積極的に参加した全国でも珍しい県である.身体に関わる保健活動にしろ,精神にしろ,住民の身近な場で援助されることが望ましいことはいうまでもない.地域保健の改革に向けてこの度の地域保健問題研究会より提言された「地域保健対策の基本的な在り方について」の中にも,身近で頻度の高い保健サービスは市町村で一元的に実施することが求められており,精神障害者の社会復帰対策や痴呆性老人対策等についても,保健所の協力の下に実施することが必要とされている.これが実施された時,市町村が従来のように精神保健に無関心であったり,避けるようなことは許されなくなるであろう.宮城県においては昭和31年に保健所において定例的な精神保健相談が始まった1)が,その時すでに市町村の保健婦が自分の受け持ちの患者や家族を伴って相談に訪れ,午後のケース検討会に参加し今後の訪問活動に役立てるという,現在の地域精神保健活動の兆しが見えている.しかし,全国のほとんどの市町村では,現在まで精神保健活動に手を染めておらず,地域精神保健活動のノウハウを持ち合わせていない.

疾病対策の構造

(1)地域保健の基盤構造

著者: 倉科周介

ページ範囲:P.126 - P.131

 昔から病気はいつも人生の迷惑きわまる道連れだった.それは人々から生きられるはずの時間を無差別に奪って,“早すぎる死(premature death)”を量産してきた.平均的な人生の長さが50年だったのはさほど遠い過去のことではない.だが,いまや日本は世界で最長寿の国の一つになった.われわれの日常生活に落ちる病気の影は,いつしか薄らいでいたのである.どうしてそれは達成されたのか.医学の果たした役割も含めて,改めて疾病対策,特に地域保健の概念を考え直してみよう.

これからの保健婦活動 これからの保健婦活動をめぐって・2

保健婦業務の分担を考える

著者: 久保訓子 ,   佃篤彦 ,   坂田清美 ,   柳川洋

ページ範囲:P.132 - P.135

◆はじめに
 社会情勢の変化に伴い,保健婦の活動も時代に即した活動への変容が求められるため,第1報では「これからの保健婦の役割を考える」として,今後重要と考えられる保健婦の機能等について保健婦に意見を求めた結果を報告した.
 第2報では,母子保健事業等の都道府県から市町村への事業の実施主体の移行に伴い,保健所および市町村保健婦の業務分担が不明確となっている問題に焦点を当てた.両者の業務を合わせ持つ政令市・特別区の保健婦を除き,都道府県および市町村の保健婦から意見を求め,両者の分担すべき機能と連携すべき機能を明確にすることを試みた.

進展する地域医師会の公衆衛生活動

地域におけるMRSAの実態調査—新発田市豊栄市北蒲原郡医師会(3)考察と対策

著者: 川井和夫 ,   渡辺悌三

ページ範囲:P.136 - P.137

 今回の調査では,患者や家族に不要な不安感を生じないようにという考えから,患者・家族への説明は行わなかった.それは個々の医師の判断に任せた.あくまでも地域の感染の実態を把握し,その対策を進あるということに目標をおいて調査が実施された.したがって,検査結果についても患者には連絡されていない.また,今回の調査では保菌者の入院歴も調査項目の中には入れていない.ただ,入院歴を調査項目とするか否かの検討はされている.
 渡辺 コアグラーゼ型別を調べれば大体感染経路,発生源がわかるといわれています.Ⅱ型は主として入院患者に多いといわれておりますが,われわれの調査結果でもⅡ型が多かったことを見ると,病院での感染が多いのではないかと推定しています.ただ個々の医療機関名を調査するといろいろと差し障りがありますので,今回は調査項目に入れませんでした.

研究ノート

在宅ケアのあり方を探る—難病患者・高齢者の在宅生活に共通する状態像の検討から

著者: 秋田昌子 ,   石川左門 ,   松田正己 ,   丸地信弘

ページ範囲:P.139 - P.142

◆はじめに
 高齢社会の到来は,住民生活に種々多様な影響を及ぼし,従来の保健・医療・福祉における社会システムの課題を明確にした.そして,その課題解決と21世紀の超高齢化社会を支えるケアシステムの実現に向けて,老人福祉法と老人保健法の改正による老人保健福祉計画の策定が実施されつつある.高齢者が住み慣れた地域や家庭で生き生きと暮らしていくためには,在宅ケアが必要であり,自治体ではそのサービスやシステムの確立を急いでいる.
 しかし,在宅ケアシステム確立への必要性は,今に始まったことではない.過去から現在に至るまで,その課題を切実に提起し続けてきた難病患者や障害者の在宅生活の実態があることを認識する必要がある.
 高齢社会の問題は,人の加齢に伴う社会現象であるため,全住民的課題として注目されるが,難病や障害は特別な人たちだけの問題として扱われ,高齢社会の問題とは別だという意識を持ちやすい.ところが,疾病や障害が長期にわたり,在宅でのケアが必要であるという点においては,難病患者・高齢者という個別性を越えた共通性があり,在宅ケアの体制づくりが「高齢者」という枠に留まらず,人間生活における社会的課題であることを示している.

資料

第1回女性と喫煙世界会議報告

著者: 斉藤麗子

ページ範囲:P.144 - P.145

 1993年初め,American Public Health AssociationのDeborah L. Mclellan(MHS)より手紙が届いた.彼女は「International Network of Women Against Tobacco INWAT」の運営委員でもある.1992年10月北アイルランドにおいて「第1回女性と喫煙世界会議」が開かれ,41カ国150人の参加があった.日本からは紙上参加のみであったので,今回筆者に送られてきた会議録の概要を,日本の公衆衛生関係者にご紹介することが私の責務と思い,その要約を記す.第2回は1994年10月10〜14日,パリでの「第9回たばこと健康世界会議」注)と同時に開かれる.女性と喫煙の問題について関心を持つ保健医療従事者が増えることを期待する.

保健活動—心に残るこの1例

エイズ相談に来所したNさん夫妻

著者: 吉永陽子

ページ範囲:P.138 - P.138

 あたりをうかがうように相談室に入ってきたNさんは,きちっとネクタイをしめていかにもまじめそうな印象を受けた.最初の説明(検査のシステム,秘密が守られること等)を遮るように彼は言った.「たった1回だけなんです.」話は次のような概要だった.10年前,転勤先で婚外交渉を持った.忘れていたのだが,今年になって風邪が治らない.マスコミから得た情報によると自分の今の症状がよく似ているし,潜伏期間が長いと聞いたが発病するとすればちょうどあてはまる.自分はエイズに違いない.ろくろく仕事にも手がつかずミスばかりしてしまう,検査に行くと決めてからはいよいよ不安が募り,ここ2,3日は会社を休んでいる.眠れなくて消耗しきっている彼に,私は精神科の受診を勧めた.
 「主人の結果を見せて下さい.」

保健行政スコープ

建築物における衛生的環境の確保に関する法律施行規則改正について

著者: 足立晃一 ,   苗村光廣

ページ範囲:P.149 - P.151

1.はじめに
 1992年の12月1日より,水道法における新水質基準が施行され,これにより従来,水道法の水質基準を基に水質基準を定めていた法律も自動的に改正されることとなった.これを機会に,建築物における衛生的環境の確保に関する法律(以下「ビル衛生管理法」という)の水質基準について,ビル衛生管理という概念から独自に改正したので報告したい.

新しい保健・福祉施設

香川県大的場健康体育センター

著者: 竹内義員

ページ範囲:P.146 - P.147

《はじめに》
 健康の維持増進のためには,各個人に適応した栄養・休養・運動の三要素がバランスよく生活の中に取り入れられていなくてはならない.そこで,生活様式に応じた適切なプログラムを提供し,県民の健康増進の実践指導を行うことにより,成人病等の予防を目的とした香川県健康増進センターと,県民皆体育推進の一環としての屋内水泳プールを併設して,積極的に県民の健康を保持増進させる施設として香川県大的場健康体育センターが昭和52年4月に開所した.なお,この運営については香川県から委託を受けて財団法人香川県大的場健康体育センターが当たっている.

基本情報

公衆衛生

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1170

印刷版ISSN 0368-5187

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