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雑誌目次

雑誌文献

公衆衛生58巻3号

1994年03月発行

雑誌目次

特集 地域開発と公衆衛生—地域活性化の論点と戦略

新しい公衆衛生パラダイムの論点と戦略構想

著者: 小野寺伸夫

ページ範囲:P.155 - P.160

◆まえがき
 わが国が国際社会において重要な責務を有する今日において,世界の人々の健康と福祉の向上を通じ,活力ある社会づくりへの路線形成が望まれている.
 公衆衛生は学理と実践を通じて,これらの期待に応えるべき戦略構想として,時代の発展を促す新しい枠組み(パラダイム)を必要とする.同時に,日常生活において人々の価値観の多様化が進み,健康生活のありかたについて個人が持つそれぞれの生活年齢に適合した機能や行動を配慮した生活の質(QALY=Quality Adjusted Life Years)の向上が求められる.

地域人口学からみた公衆衛生

著者: 大友篤

ページ範囲:P.161 - P.164

◆平均寿命と公衆衛生
 「地域人口学からみた公衆衛生」というテーマの執筆を何気なく引き受けた後,いざ,執筆の段階になって,引き受けたことを後悔している.というのは,日本における公衆衛生は多分世界で最も進んでいると思うので,ここで,公衆衛生に関していろいろ述べる必要もないということに気がついたからである.筆者は,外国に出かけると,その国の人口学者から,よく,日本人の平均寿命が世界で最も長い理由を質問されるが,いつも,あまりよくわからないと答えることにしている.その理由は,平均寿命と裏腹の関係にある死亡力(Mortality)は,筆者自身の直接の研究領域ではないからであるが,しかし,人口学者のはしくれとして,わからないという答えだけでは済まされないので,結局,日本人の食生活ばかりでなく公衆衛生の発展や医療水準の上昇が平均寿命の延伸に大きく貢献していると思うと答えている.残念ながら,公衆衛生の発展がどのようなプロセスを経て死亡率の低下に関わってきたかという研究は,日本の場合には,筆者の知る限りでは,ほとんど行われていないのが実状であるからである.

地域経済学からみた公衆衛生の諸問題

著者: 田中一盛

ページ範囲:P.165 - P.167

◆はじめに
 経済学,地域経済学の立場から,「公衆衛生と経済発展」,「地域開発と公衆衛生」との関係を,地域活性化の論点と戦略という点に配慮しながら,若干のポイントについて試論を展開してみよう.
 「公衆衛生と経済発展」,「地域開発と公衆衛生」という課題は,経済学の発想においては珍しく,問題は多岐にわたり,極めて論じにくいテーマであるが,若干の論点に絞りかなり自由に論ずることにしたい.
 経済学の立場からみて,地域発展あるいは地域開発のメカニズムは,概略,次のように説明される.地域における何らかの設備投資は地元住民に雇用機会を創出し,一方で所得創出効果を発揮すると共に,製品が生産されるという生産力効果を発揮し,地域の活性化をもたらす.これが,投資に基づく地域活性化の経済学的論理である.山紫水明であるとか,臨海地であるとか臨空港地であるとか,いろいろな地域特性に対応して,企業誘致,工場誘致あるいは最近では大学誘致,あるいは病院誘致などのプロジェクトが立案計画され,一村一品運動のような形で,地域おこし,村おこし,町おこしが計られる.

地域環境学と公衆衛生

著者: 加藤三郎

ページ範囲:P.168 - P.171

◆はじめに
 今日,地球規模の環境破壊が大きな問題となり,人類の将来に対する不安と共に現代文明のあり方そのものに疑問がもたれている.そして,21世紀に向けて新たな文明のあり方が模索され始めている.しかし,現代文明は近代の帰結であり,その文明を変えるということは環境問題に対する技術的対応などではなく,人類の歴史的な大転換を意味する.これは人々の価値観,人生の目的そのものの転換を伴うことになる.このような問題に対する回答はそう簡単に見いだせるものではないが,今後のあるべき地域開発と公衆衛生の役割に関して,上述の視点から考えてみたい.

地域活性化における予防医学活動の貢献

著者: 櫻井末男

ページ範囲:P.172 - P.174

◆はじめに
 過日,平成5年6月に開催された国土審議会総会の報告書を見る機会があった.それは平成4年9月に厚生省人口問題研究所の発表した「日本人の将来推計人口」に基づき第四次総合開発計画(四全総)の総点検を行ったもので,「人口減少,高齢化進展と活力ある地域づくり」という点にかなりのウエイトを置いた内容となっている.
 それによると,西暦2000年のわが国の人口は,当初の四全総の目標を380万人下回る1億2,739万人と推定.ピーク時も2013年の1億3,603万人が,2011年1億3,044万人とされ,560万人下回る予測に修正されている.この原因は出生率の低下と後期高齢化の進展にともない死亡数が出生数を上回る,いわゆる人口自然減にあり,ピーク時を境に日本の人口は急速に減少する.2015年から2020年にかけて全国すべての市町村で自然減の状態となり,後期高齢者の急増と相まって,社会構造を維持することの困難な地域も多発し,局所的,姑息的な地域開発,地域活性化では問題解決とはならず,国民あげて考え,行動を起こさなければならないと結んでいる.

社会教育活動の地域活性化へのかかわり

著者: 松下拡

ページ範囲:P.175 - P.177

◆地域の活性化とは
 地域の活性化とは,そこに住んでいる人々が積極的主体的に意欲をわかして活動を展開することであり,その活動はそれぞれの目的に応じた自由で様々な性格と内容をもつ組織的なものである.その場合の「地域」とは人々の「関係」のありようであり,その活性化はそこで暮らす人々の関係によって生み出されるものである.
 今,地域は大きく揺れ動いている.高齢化社会としての課題の複雑さは,地域における人口動態とその関係の変化の激しさによるところが大きい.そのような状況の中で,人々は生活の安定化と人生の充実を求め,それを可能にするための条件を求めているが,それはただ求めるのみでなく,その要求を主体化して自分たちで地域に生み出そうとするかどうかが「活性化」として問われて来るのである.

農村における生活関係普及活動と地域活性化

著者: 田村久子

ページ範囲:P.178 - P.181

◆はじめに
 農村部は若壮年層が減少した人口構成となり,高齢化社会を20年先取りしているといわれる.
 疾病もがん,虚血性心疾患,糖尿病,アレルギー,骨粗しょう症等,食事やストレスの多い生活など日常の生活管理に起因する疾病が大半を占めている.医療費の負担が公私ともに社会的問題となっている現在,安全で新鮮な食品,健全な食生活,ストレスをやわらげる生活の仕組みの改善,温かみのある人間関係,やすらぎのある農村環境などが疾病の発症を抑制し,健康で活力のある地域社会を形成するための重要な要素として浮かび上がってきている.
 今回「地域社会と公衆衛生」の特集を組まれた趣旨が,公衆衛生の概念を今日的課題である健康づくり,予防,医療,リハビリ,福祉,教育,労働環境保全等の広義の概念としてとらえ,個人個人の特性を生かした健康で豊かな人生を送れる活力ある社会を創造することをねらいとしていることを知り,同様に農業者という“人”に着目して活動を行っている農林水産省の生活関係普及活動と公衆衛生活動とが連携することにより,農村の地域活性化に貢献し得ることを願って,活動の一端を紹介することとしたい.

北九州市の地域開発と健康政策

著者: 坂口信貴

ページ範囲:P.182 - P.185

◆はじめに
 北九州市は人口102万人,面積482.23 km2で,九州の北端に位置し,関門海峡を挾んで,本州と向かいあう交通の要衝にある.
 本市は,昭和38年2月,地域の新たな発展を目指し,隣り合う門司,小倉,若松,八幡,戸畑の5つの市が地方自治史上,例をみない対等合併をして発足し,本年2月で市制31周年を迎えた.
 合併する以前は1901(明治34)年,旧八幡市に官営八幡製鉄所が開業して以来,かつては教科書に北九州工業地帯として紹介され,京浜,中京,阪神工業地帯とならぶ4大工業地帯のひとつに数えられていたように,重化学工業を基幹産業とする工業地帯として栄えていた.

視点

人口と保健福祉政策

著者: 小川直宏

ページ範囲:P.153 - P.154

【2007年に向けて】
 日本大学人口研究所が1993年2月に公表した人口推計によれば,わが国の総人口は1990年の1億2,361万人から2007年の1億2,864万人まで増加した後に,減少に転じることが示されている.また,年齢構造も著しく様変わりし,65歳以上人口が総人口に占める割合も1990年の12.1%から2025年では27.3%まで増加するのである.しかも,65歳以上の高齢人口が20%に到達するのが2007年であり,この時点で,人類史上初めて20%という高水準に達するのである.
 2007年に総人口は減少を開始し,同時に高齢化水準も世界一となるが,現時点では依然として人口も緩やかではあるが増加を続けており,高齢化水準も西欧諸国と比べても未だ相当に低い水準である.しかも,従属人口比(0〜14歳の年少人口と65歳以上の高齢人口の合計値を15〜64歳の生産人口で除して100を掛けた値)は43であり,1920年に国勢調査が開始されて以来の最低水準にある.このような状況からも明らかなように,人口高齢化現象が本格化する前の現在こそ,来世紀に向けての高齢化論の展開および政策の設定にとってベスト・タイムといえよう.

アニュアル・レポート

公衆衛生学の動向—第52回日本公衆衛生学会を中心に

著者: 重松峻夫

ページ範囲:P.186 - P.189

◆はじめに
 世界最長寿命を達成したわが国では,戦後の出生率の著しい低下により,急激な人口の高齢化が進み,人類未経験の超高齢社会の到来が目前に迫り,社会,経済全般にわたり高齢社会対策が緊急のものとなっている.公衆衛生領域でも,この急速な高齢化に伴う老人保健・医療・福祉対策が最大の課題である.
 環境問題では国内の一般的大気汚染,水質汚濁はかなり改善されたとはいえ,ゴミ公害,交通公害,家庭排水,産業廃棄物その他多くの生活環境問題への対応,国際的には地球温暖化,オゾン層破壊,酸性雨など地球規模の問題が山積している.
 さらに,近年新たに登場したエイズの世界的流行は,わが国でも次第に増加傾向が明らかとなり,また,異性間性的接触による感染の増加と共に人類生存への脅威として,賢明な対応が望まれている.
 このような状況下で,わが国では特に急激な高齢化と医学・医療の進歩により,国民の疾病構造は大きく変化,保健医療ニーズの多様化,老人医療費の急増等に対応して,保健・医療・福祉の再編成が必要となり,先年来医療法の改正による保健医療計画,福祉8法の改正と保健福祉計画の策定,さらに保健所法を改正して地域保健の大変革と大きな転換期を迎えている.

衛生学の動向

著者: 和田攻

ページ範囲:P.190 - P.193

◆衛生学会の歴史と現代からみた動向
 日本衛生学会はわが国の医学会の中でも最も古い歴史をもち,明治35(1902)年に第1回日本医学会の衛生関連部会を,東京帝国大学衛生学初代教授緒方正名会長が開催したのをその始めとし,定期的に開催され,昭和4(1929)年には,衛生学,細菌学,伝染病学が連合した連合衛生学会として,同二代教授横手千代乃助会長が開催し発展的に新発足し,以後毎年1回開催され,さらに昭和24(1949)年には,細菌学会,伝染病学会が分かれ,日本衛生学会として独立し,現在に至っている.これは,後述するように,衛生学が時代を先取りして,社会の最も大きな問題と取り組む学問であることを示すものであり,動向をみる場合,社会の流れをみることにより推定できることが分かる.
 学会員数も,着実に増加し続け,現在3,000人近くに達し,過去20年間に1,000人余の増加がみられている(図1).

産業衛生学の動向—第66回日本産業衛生学会を中心に

著者: 高田勗

ページ範囲:P.194 - P.197

◆日本産業衛生学会の概要
 日本産業衛生学会は,1929(昭和4)年本学会の前身である「産業衛生協議会」(暉峻義等主唱)の結成から始まっている.
 この協議会は,1932(昭和47)年に「日本産業衛生協会」に改名し,1938(昭和13)年に社団法人となった.1951(昭和26)年に協会の学会活動として行っていた「日本産業医学会」は,日本医学会分科会に承認され,1972(昭和47)年には,多様化する産業衛生領域の課題に対応するため名称を「日本産業衛生学会」に変更し,1993(平成5)年に至るまでに学術総会は66回を数え,現在に至っている.学会総会の変遷を示したものが表1である.

公衆衛生医師—その現状と課題 座談会

保健医療福祉計画と公衆衛生医師(2)

著者: 岩室紳也 ,   笹井康典 ,   原徳壽 ,   坂田清美

ページ範囲:P.198 - P.203

 坂田 これまでのお話で市町村と保健所,都道府県の役割がかなり具体的にイメージできてきたような気がします.直接的な対人保健サービスは市町村で,という底流ができています.保健所,さらに都道府県レベルの公衆衛生医の役割はますます重要になっていると思います.
 例えば保健所あるいは都道府県には,毎年の老人保健事業の検診データがたくさん蓄積されていますが,必ずしも疫学的な立場から解析されていません.これは市町村レベルでできるものもあるでしょうが,都道府県レベルで情報を集め解析することによって,市町村間の格差やばらつきを明らかにできると思うのです.ところが,そのデータがこれまであまり生かされてこなかった背景には,都道府県レベルで必ずしもそれだけの専門家を確保する余裕がなかったのかも知れませんし,あるいはビジョンがないために充足できなかったことがあるかも知れません.都道府県の衛生研究所は本来そういう機能を担ってもおかしくない機関ですけれども,必ずしもその機能が明確にされておらず,疫学的な解析も十分行われてないのが現状かと思います.

連載 地域精神保健の展開—精神保健センターの活動から・3

精神保健センターにおける酒害相談事業—東京都立精神保健センター

著者: 松下砂織 ,   藤野邦夫 ,   伊勢田堯 ,   堀田直樹

ページ範囲:P.204 - P.207

【はじめに】
 精神保健センターの酒害相談事業は,1979年に出された厚生省公衆衛生局長の通達「精神衛生センターにおける酒害相談指導事業実施要領」1)を嚆矢とする.その中でセンターの事業として,①適正な飲酒および予防思想の普及,②相談指導,診断等,③関係機関との連絡協調,④断酒会等の民間団体の育成,指導,⑤技術指導・技術援助の5項目があげられた.続いて同年提出された「厚生省アルコール中毒診断会議報告」1)は精神衛生センターを,都道府県における酒害予防活動推進の拠点の機関であると位置づけている.さらに1989年,厚生省保健医療局長通達で出された「精神保健センターにおける特定相談事業実施要領」2)は,アルコール関連問題に関する相談指導等を特定相談であると規定した.

これからの保健婦活動 これからの保健婦活動をめぐって・3

保健婦活動の質的評価を考える

著者: 坂田清美 ,   久保訓子 ,   佃篤彦 ,   柳川洋

ページ範囲:P.208 - P.211

◆はじめに
 そもそも保健事業から保健婦活動だけを取り出して,その効果を評価することは無理な命題であるが,本調査では従来の保健婦活動実績報告や保健所運営報告にみられるような保健婦活動の量的な指標ではなく,どのようにすれば質的な評価が可能であるかを探り,今後の保健婦活動の質的な向上と効果的な実践に寄与することを目的としている.公衆衛生活動の目的の一つは疾病の発生予防にあるが,現実にはすべての疾病の発生を予防することはできない.保健婦活動も当然疾病の1次予防,2次予防,3次予防のあらゆる分野にわたっている.わが国において長い歴史をもつ健康診査事業をはじめ,訪問指導事業,機能訓練事業の対象者カバー率の把握状況,主な死亡率,罹患率,有病率の目標設定状況について第一線の市町村,保健所の保健婦の評価の現状を把握し,若干の考察を加えて報告する.

疾病対策の構造

(2)未知への海図—疾病対策の未来

著者: 倉科周介

ページ範囲:P.212 - P.214

 いまや日本は世界でも有数の長寿国である.寿命の長短を決める最大の要因は病気だから,これはわが国が病気の制圧に関して世界屈指の成功を収めてきたことを意味する.集団の先頭に立つ者は,みずからが追いすがるべきモデルを持てない.今日の状況を成功した模倣の結果と解釈するかどうかは別として,疾病対策の分野でも従来にもまして,自分の頭で考え自分の足で歩く心構えが必要なことは明らかであろう.

活動レポート

福岡県の—保健所におけるエイズの検査と相談体制

著者: 田島静 ,   中原由美 ,   蓑原巌 ,   稗田慶子

ページ範囲:P.215 - P.219

●はじめに
 昭和62年2月のエイズ問題対策大綱1)の中での「検査医療の体制の充実,相談,指導体制の充実および二次感染防止対策の強化」をうけて,保健所におけるHIV抗体検査は,福岡県では昭和62年2月から開始された.さらに,平成3年2月の「保健所におけるHIV抗体検査の実施について」という通知2)では,プライバシー保護の観点から匿名検査の実施の徹底がなされ,検査前のカウンセリングの実施に対し,消極的な姿勢が示された.平成4年5月の「エイズ対策の推進について」3)では,保健所を含めた検査体制の一層の整備とともに,検査後のカウンセリング体制の充実がもりこまれている.
 保健所でのHIV相談・検査については,その重要性は多方面から指摘されているが,その現状についての報告・疫学的検討等の報告は日本においてはない.英国での任意のHIV抗体検査の報告4)があるが,この内容は主にHIV抗体陽性者の割合に重きがおかれている.
 私どもは,保健所におけるHIV抗体検査・相談事業の現状および問題点を論ずることで,今後の保健所エイズ事業の一助となるのではないかと思い,昭和62年からのA保健所における相談・検査の現状を解析したので報告する.

進展する地域医師会の公衆衛生活動

在宅ケアの取り組み—高知市医師会の地域医療カンファレンス(1)カンファレンスの開催に至る経緯

著者: 村山博良 ,   中田恵朗 ,   畠中卓士 ,   岡林弘毅 ,   島崎俊一郎 ,   上島宏一 ,   高橋重臣 ,   田中孝介 ,   筒井洋子 ,   楠瀬満恵 ,   鶴浜祥子 ,   神﨑明子 ,   田村美由紀 ,   山本瞳

ページ範囲:P.220 - P.221

 高知市の人口は平成5年4月現在315,379人,うち65歳以上が44,724人,14.2%と高い高齢化率を示し,独居老人は4,261人となっている.一方,地域の保健婦は一人で地域住民1万人を,また民生委員は一人で500人を担当しており,とても十分な支援は不可能な状況である.
 高知市でも他の多くの都市と同様に,隣り近所との付き合いが薄くなっている.特にアパートなどの集合住宅などでは,隣りの部屋の人が倒れていても全く気付かないようなことがある.

調査報告

中年期男子労働者における労働の質と疲労感に関する研究

著者: 武田文 ,   川田智恵子 ,   奥井幸子 ,   松本幸恵

ページ範囲:P.223 - P.227

●はじめに
 近年,40〜50歳代の中年期男子における突然死1-3)や自殺4-6)の問題が指摘されてきている.疲労2)やストレスがその要因の一つと考えられ,昭和62年の労働者の健康状況調査結果においても,「大きな心配ごとや悩みごとがある」と回答した割合は40代で最も高く,過半数に達している7).その背景には,労働時間や労働の質等の労働的要因と,子供の教育,住宅問題,両親の介護等の家庭的要因が推察されている6)
 このうち労働的要因については,近年,働きがい感・適性感・職場での人間関係等,質的局面の重要性が指摘されるようになってきた8-11).また,40〜50歳代において働きがい感や能力評価に対する満足度が低下する傾向も報告されている12).したがって,中年期男子の健康状態に関しては,労働の質との関わりをふまえた視座が必要と思われる.
 しかしながら,中年期男子の死亡率や主観的健康をとりあげたこれまでの研究では,属性,労働時間,保健行動等との関連は検討されているものの3,13),上に述べたような労働の質との関連はあまり検討されていない.

新しい保健・福祉施設

神奈川県城山町保健福祉センター

著者: 井上正久

ページ範囲:P.228 - P.229

1.町の概要
 城山町は東京都心から45km,横浜から35kmの神奈川県北西部に位置し,東は相模原市,北は東京都八王子市,町田市に接した面積19.90km2,人口22,439人(平成6年1月1日)の町である.相模川が中央から南東に流れ,津久井・城山の2湖を有し,東部は相模原台地へ広がりを見せ,西へ向かっては,丹沢山系や高尾山系に連なる山々となり,台地から山間部に入る起伏に富んだ自然条件を有している.
 交通機関は近距離にJR横浜線,中央線,京王相模原線が走り,新宿や横浜へ1時間ほどに位置するため,ベッドタウンとして人口が増加傾向にある.

保健行政スコープ

医療政策の展望(1)

著者: 梅田勝

ページ範囲:P.230 - P.231

●はじめに
 わが国における医療供給体制は,総合的な医療レベル,特に医療機関などの量的な整備,医療機関へのアクセスの容易さなどからみても世界に冠たるものであると考えられる.しかし,人々の高齢化,疾病構造の変化,価値観の多様化,ニーズの高度化など,われわれを取り巻く環境の変化は大きい.このような医療をめぐる状況の中で,良質な医療を国民すべてに,全体としての公平,公正さを確保しつつ,効率的かつ安定的に供給するための医療供給体制の整備方策を検討しなければならない.このための医療行政の方向付けを,以下の7つの視点にまとあて述べてみたい.
(1)医療施設機能の体系化
(2)医療施設の近代化
(3)医療経営の健全化
(4)医療機能の客観化および評価
(5)医療の周辺の質の向上
(6)情報の開示
(7)マンパワーの確保

基本情報

公衆衛生

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1170

印刷版ISSN 0368-5187

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