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雑誌目次

雑誌文献

公衆衛生58巻4号

1994年04月発行

雑誌目次

特集 行動医学へのアプローチ

行動医学—日本行動医学会(JSBM)の発足を背景に

著者: 荒記俊一

ページ範囲:P.235 - P.237

◆はじめに
 「行動医学(Behavioral Medicine)」は,臨床諸科学,心理社会行動科学・基礎医学および公衆衛生・予防医学にまたがる学際的で新しい専門学術である.「国際行動医学会(International Society of Behavioral Medicine)」の憲章(1993年改訂)によると,健康と疾病に関する心理・社会学的,行動科学的および医学生物学的研究を進め,これらを統合のうえ,疾病の予防,病因の解明,診断,治療およびリハビリテーションに適用することを目的とする学際的学術と定義される.
 行動医学の研究領域は,行動機序の生物学的な解明から,臨床診断と治療,さらに疾病予防と健康増進にまで及んでおり,公衆衛生がこの学術の今後の発展に果たす役割が期待されている.
 本特集では,本誌の行動科学に関する前回の特集1)に続いて,その後設立された「日本行動医学会(Japanese Society of Behavioral Medicine,以下JSBMと省略)」の第1回学術総会のシンポジウムより,いくつかの論文が報告される.本稿では,その背景をなすJSBMの設立過程と活動状況を国際行動医学会との関係を含めて紹介する.

諸疾患へのアプローチ—心血管疾患

著者: 小林章雄

ページ範囲:P.238 - P.242

◆はじめに
 ひとつの学問分野の発展は,そこで用いられる概念(コンセプト)および方法論の厳密さと妥当性にかかっているとされるが,今日,行動医学領域で用いられる心理・社会的要因(psychosocial factor)に関するコンセプトの中には,心血管疾患,ことに虚血性心疾患とのかかわりを通じて形成されてきたものが数多くみられる.ともすれば「主観的で客観性に欠ける」との批判を受けやすい心理・社会的側面からのアプローチは,虚血性心疾患という明白で重大なend pointとの関連性によって,逆にその厳密さと妥当性が検証されてきたともいえる.心血管疾患にかかわる心理・社会的要因は多様な分野で取り扱われてきたが,大別すると疫学・社会学の領域,心理学・行動科学の領域,および医学の領域などに分けられる.疫学・社会学の領域では,社会的な環境要因が個人にどのような影響を及ぼすかという観点から,心理学・行動科学の領域では,個人のいかなる特質が心血管疾患と結びつくのか,個人の側の特質あるいは行動の変容により疾病を防ぎうるかという観点から,また医学の領域では,どのようなメカニズムによって疾患に結びつくのか,またそれらの害作用を減ずる医学的方策(処方)はあるのかという観点から,主として取り組まれてきた.そして,それぞれのコンセプトや方法論は,さらに多領域にまたがる集学的な検証を経て確立されてきたものである.

諸疾患へのアプローチ—大腸がん

著者: 古野純典

ページ範囲:P.243 - P.245

◆はじめに
 わが国の大腸がん罹患率は欧米の高率国における罹患率の約3分の1と低率ではあるが,図に示すように,大腸がん,特に結腸がんは,わが国にあって近年著しく増加しているがんである1).最近の大腸がんによる死亡は,わが国のがん死亡の10%近くを占あ,平成4年度からは老人保健法によるがん検診の対象にもなっている.
 米国日系人の大腸がん罹患率が米国白人と同程度に高くなっていることや,図に示すわが国における増加傾向などから,欧米人に特有な食事要因,特に高脂肪・低繊維の食事が大腸がんの発生に重要な役割を果たしていると考えられている.しかし,近年の世界各地の疫学研究により,運動などの食事以外の要因の重要性も指摘され始めている.運動は多くの疾病と関連する重要な行動医学的要因であるが,本稿では大腸がん発生との関連性についての疫学研究の概要に触れ,大腸がんの前がん病変と考えられている線腫性大腸ポリープについての私どもの研究を簡単に紹介させていただきたい.

諸疾患へのアプローチ—歯科・口腔外科疾患

著者: 内田安信

ページ範囲:P.246 - P.249

◆はじめに
 行動医学とは,「身体的健康ならびに疾患の理解に必要な行動科学の知識と技法を開発し,これを予防,診断,治療さらにリハビリテーションに応用することを目標とする研究領域の医学」と定義されている.1977年Yale行動医学会議で行動科学の医学への貢献が強調され,アメリカにおいては1970年代後半に至り,急激に行動医学が,保健体制を行動理論的立場からアプローチする必要性から発展し,今日に至っている.わが国においては,1972年内山1)が『行動療法』という大著をすでに刊行し,日本心身医学会を中心として医・歯学領域で,これら学習理論に則った治療技法が導入され,1980年で相当程度臨床に応用され浸透しつつあるのが現状である.わが歯科・口腔外科領域においても,従来からの身体医学的手法のみでは,なかなかに治療し得ない疾病や病態群が増加し,心身医学的技法を駆使した治療法が,1970年当初より用いられている.
 筆者は1982年,第8回日本行動療法学会総会において,会長講演として「口腔心身症と行動療法」と題し,歯科・口腔外科領域こそは行動療法についての未開拓の分野で,その適応病態は無限の広がりを有している旨の発表を行った2)

諸疾患へのアプローチ—摂食障害

著者: 村永鉄郎 ,   野添新一

ページ範囲:P.250 - P.253

◆はじめに
 摂食障害には,神経性食欲不振症(Anorexia Nervosa)と神経性過食症(Bulimia Nervosa)の2つがあるが,思春期から青年期の女子に好発する心身症の代表的な疾患で,近年増加しつつあると考えられる1).これらの疾患は慢性的な経過をとりやすく,特に神経性食欲不振症では6〜10%に死亡例があり,約10%で正常な生理学的発達や健康が損なわれている例がある.
 厚生省特定疾患研究班の神経性食欲不振症の診断基準を表1に,米国精神医学会による神経性過食症の診断基準(DSM-Ⅲ-R)を表2に示す.拒食と過食は相反する異なった病態を示すように見えるが,もし心理社会的背景が見過ごされ的確な治療がなされなければ,いずれの症状も持続遷延化するなかで次第に社会的活動の狭小化がみられ,身体的にも精神的にも悪循環が形成されることになる.
 治療には様々なアプローチがなされているが,われわれは行動論の立場からこれらの疾患の病態をとらえ,治療を行っている.ここでは,それぞれの疾患について,行動論の立場から病態を述べ,治療の概要を述べたい.

生活行動と健康—運動の行動医学的アプローチ

著者: 下光輝一 ,   岩根久夫 ,   大谷由美子 ,   小田切優子

ページ範囲:P.254 - P.257

◆はじめに
 現代における急速なモータリゼーションと技術革新は,職場や家庭における人々の身体活動度の急速な低下をもたらしており,運動習慣を有し身体活動度を高めることは,以前にも増して重要なことになってきている.それに伴い近年,ジョギングやウォーキングなどの健康のためのスポーツが,中高年者を中心に盛んになりつつある.運動による健康づくり政策を推進する厚生省,労働省をはじめとして自治体,民間企業なども,こぞってスポーツや運動による健康増進を奨励している.そのような中で,運動の効果と弊害について,様々な面から研究が行われてきた.しかし,それらは心臓血管機能,糖・脂質代謝,内分泌機能などに関する生理学的,生化学的な研究が主で,運動の効果と弊害についての行動医学的な研究は少なかったように思われる.
 運動は,食,住,性などと同様に人間行動の基本となるものであり,また,ライフスタイルの中では喫煙,飲酒などのネガティブな行動と異なり,健康に対してポジティブな行動である.したがって運動と健康の問題も行動医学という面からとらえていく必要がある.そこで本稿では,運動と健康について行動医学的な面から検討してみたい.

生活行動と健康—タイプA行動パターン—最近のトピックスを中心にして

著者: 桃生寛和 ,   遠藤奏恵

ページ範囲:P.258 - P.261

◆はじめに
 「タイプA行動パターン」は,冠動脈疾患(以下CAD)の危険因子の可能性があるという重要性のために,米国における行動医学の歴史の中で最も集中的・精力的に研究されてきた分野のひとつである.それゆえタイプAの研究は行動医学的研究のモデルといってもよい.
 日本におけるタイプA行動パターンの研究は,1980年頃に始まったが,1988年に「タイプA行動パターン・カンファレンス」が創設されたことなどを契機にして,ここ数年急速に発展してきた.1990年には学術雑誌『タイプA』(星和書店)が創刊され,1993年には『タイプA行動パターン』(星和書店)という単行本が発刊されるに至っている.
 本稿では誌面の都合もあるので,タイプA行動パターンとは何かについて簡単に紹介した上で,最近のトピックスの中から興味深いテーマのいくつかを紹介する.

生活行動と健康—高齢者と健康管理

著者: 中西範幸

ページ範囲:P.262 - P.265

◆はじめに
 日本人の平均寿命は平成3年度には男76.1歳,女82.1歳に達している.長寿社会は多様な健康状態の高齢者を包摂し,多くの機能や資源を必要とする.人生80年時代をいかに健康で生きがいを持ち,明るい活力のあるものとするかは,高齢者対策における最優先課題となっている.
 老後におけるQOL(生命・生活・人生の質)の保障のためには,個々のライフ・スタイルに即した疾病予防・健康づくりの推進,地域における医療・福祉の供給体制の効率的な整備,そして保健と医療・福祉の事業が互いに連動した有機的なチーム・ケア・アプローチは不可欠の要件である.本研究は,高齢者の健康の保持・増進に関連する要因を明らかにすることを目的として,地域の中で生活する65歳以上の高齢者を対象に調査・分析を行ったものである.今回はとくに保健事業にかかわる健康管理,健康に対する行動様式が高齢者の健康状態に及ぼす影響について検討を行った.

行動科学と行動理論

著者: 内山喜久雄

ページ範囲:P.266 - P.270

◆行動理論
 1.行動理論の意味
 行動科学の理論的基礎は基本的には行動理論(behavioral theories)にあり,これによって裏打ちされている.つまり,行動科学とは行動論的(behavioral)な方向づけをその特性とする科学ということになる.したがって,行動科学,行動理論の意味を明確化するたあには,まず,「行動論的」という語の意味を明らかにし,かつ規定する必要がある.
 一般に,「行動論的」は行動(behavior)によって決定づけられ,方向づけられる方法,理論ないし現象を説明する場合に用いられる.したがって,生理的なものや,遺伝的なものの場合には行動論的とはいわない.ちなみに,心理学においても,行動は常に中心的な研究対象となってはいるものの,その概念は必ずしも明確ではなく,研究者の見解も一致していない.行動の定義の主なものを挙げてみても,生体の活動;特定の生体の観察可能な活動;生体の測定可能な活動;刺激に対する個人,種,ないし集団の反応;特定の生体の特定の反応;反応パターン全体の中の一部分反応;運動;個人ないし集団による主観的,客観的,観察不能ないし可能のすべてにわたる活動の総体等,まことに多岐にわたっている.

視点

口腔保健—21世紀の口腔保健,その目標と課題

著者: 関根弘

ページ範囲:P.233 - P.234

 日本の歯科界では,現在「8020(はちまるにまる)」運動を展開している.これは全身の平均寿命が80という長寿時代に,歯の平均寿命がその半分しかないという現状から,80歳まで20本の歯を残そうというキャンペーンである.折しもWHOでは,本年の4月からの1年間を世界口腔保健年に指定して,世界的な口腔の健康の伸展運動を展開することになって準備が進められている.日本で展開している「8020」も,これを機に,弾みをつけて力を入れていかねばならないと考える.これには口腔保健医療関係者の努力はもとより,ケアを中心とした事柄が重要であるだけに,国民の認識と価値観の改革が必要であると考える.ここで21世紀にわたる口腔保健の目標と課題および対策の要点に触れてみたい.

公衆衛生医師—その現状と課題 座談会

老人保健事業を再検討する(1)

著者: 浅野明美 ,   一居誠 ,   森岡聖次 ,   笹井康典

ページ範囲:P.271 - P.276

 笹井 老人保健事業が開始されて10年がたちます.この間に市町村は積極的な保健事業を展開し,その意義は大きいものでした.一方,事業の実施状況やその効果はどうか,さらには健康診査の事後指導や精度管理など改善すべき課題は多いと思われます.
 本日はそれらの課題や市町村の体制整備,保健所の役割や支援体制など,今後老人保健事業をいっそう推進するための方策について検討したいと思います.

連載 地域精神保健の展開—精神保健センターの活動から・4

思春期相談と学校教育との連携—愛知県精神保健センター

著者: 伊藤克彦

ページ範囲:P.277 - P.280

はじめに
 精神保健センターは(以下センターと記す)全国都道府県における精神保健に関する総合的技術センターとして性格づけられており,一面では地域社会のニーズに対応して先駆的事業に取り組む役割を果たしてきたといえよう.そして近年,思春期の心の病い,適応障害,問題行動等の多彩でありまた多発していることに社会的関心が高まっており,精神的不健康をめぐる援助活動はセンター業務のなかでも一層重要な分野を占めるに至っている.すでに昭和60年度の調査でも思春期精神保健事業は43センター中19カ所が実施しており,それぞれ思春期相談,学校カウンセリング,グループ指導,不登校児の会,家族教室・家族療法,親の会,思春期講座などの形で取り組まれてきた.

シンポジウム リハビリテーションと保健活動—障害の受容をめぐって

1)障害受容論の必要性

著者: 野中猛

ページ範囲:P.281 - P.282

●はじめに
 1993年10月21日は,ささやかながら画期的な日であった.北九州市において第52回日本公衆衛生学会総会が開催され,そのシンポジウムにリハビリテーションと精神保健が初めて取り上げられたのである.しかも,両分野に共通する課題である「障害の受容」を直接論ずる機会としても,それぞれの専門分野に先んじる初めての試みであった.本号から5回にわたって連載される諸論文は,当日の発表に考察を加えたものである.

2)身体的リハビリテーションの視点から

著者: 本田哲三

ページ範囲:P.283 - P.286

●はじめに
 本学会では,まず身体的障害後の心理—あるいは「障害受容」—研究のながれを概括し,その上で現在筆者なりに考えている障害受容について述べたい.

進展する地域医師会の公衆衛生活動

在宅ケアの取り組み—高知市医師会の地域医療カンファレンス(2)カンファレンスの運営とその経過

著者: 村山博良 ,   中田恵朗 ,   畠中卓士 ,   岡林弘毅 ,   島崎俊一郎 ,   上島宏一 ,   高橋重臣 ,   田中孝介 ,   筒井洋子 ,   楠瀬満恵 ,   鶴浜祥子 ,   神﨑明子 ,   田村美由紀 ,   山本瞳

ページ範囲:P.287 - P.289

 潮江地区は高知市のほぼ中央南部,中心街に接する住宅の多い地域で,地域の面積は8.18km2,人口30,810人.うち65歳以上4,685人,独居老人574人,高齢化率は14.7%である.また,平成5年10月1日現在の在宅寝たきり者は32名となっている.
 地区の医療機関は病院2,診療所19(有床6,無床13),さらに老人保健施設1,在宅介護支援センター1(平成5年4月開設)が開設されている.

報告

減塩の第一歩は1日1gカットから—効果的減塩方法についての考察

著者: 竹森幸一

ページ範囲:P.291 - P.295

●はじめに
 国民栄養調査成績1)におけるわが国の食塩摂取量は1975年から1987年までは一貫して減少してきたが,1988年以降は減少傾向が停滞しむしろ上昇傾向に転じた.そして同調査成績では「今後かなり努力しないかぎり,今までのような減少は期待できず,目標摂取量1日10g以下を達成するのは困難である」と述べている.本稿ではわが国の食塩摂取量の低下を阻んでいる要因について考察し,さらに食塩摂取量を低下させるための効果的方法について検討する.

仙台市における新興団地の人口構造の分析

著者: 車田松三郎

ページ範囲:P.296 - P.299

●はじめに
 高齢化社会をめぐって,今後種々の問題が発生することが予想される.仙台市の場合,高齢者割合(65歳以上の全人口に占める割合)は全体として見ると全国平均を下回っているが,行政区を小区分してみると15%を超えているところもある.当然,高齢者の増加は医療施設サービスや福祉サービスに影響を及ぼす.特に現在,諸般の事情で施設サービスから在宅サービスが求められ,そのあり方が求められている.
 他方,住民は高齢になると横の移動が困難になるために,できるだけ住宅地域に近いところに医療施設や福祉サービスを求めるが,現実は必ずしもそのようになっていない.特に医療や福祉サービスの場合,サービス区域が大きく,市民が要求するような便利さを満たすことができない.それを解決するためには,できるだけ小さく行政区分を取ることにより,住民のニードを把握する方法が重要である.
 例えば,寝たきり老人の問題は「寝たきりにしない」ための解決策を考えることが必要である.それには木目細かな医療や福祉サービスの実現をはかることである.そのためには介護サービスなどのネットワークが必要であろう.寝たきり老人の近接地にサービスネットワークを実現する.

新しい保健・福祉施設

青森県尾上町地域福祉・保健センター

著者: 佐藤喜代造

ページ範囲:P.300 - P.301

 尾上町地域福祉・保健センターは,平成3年4月に福祉・保健・医療を連動させ,町民の幸福を高め在宅福祉と保健サービスの向上と充実を図るたあ,地域福祉センターと保健センターを合築し,複合施設とした.全国的にも類例のない施設と思っている.行政と社会福祉協議会や地域とのふれあいネットワークを基本に,それぞれの機能を生かし相互の連携協調を深め,情報の交換提供により町民サービスの向上を図らなければならない.

保健行政スコープ

職場における定期健康診断の実施率等について

著者: 北窓隆子

ページ範囲:P.302 - P.303

 労働省政策調査部が平成4年11月に実施した「平成4年労働者健康状況調査」が今般まとまったので,その概要の中から特に定期健康診断の実施について取り上げる.なお,前回調査は昭和62年に実施している.

基本情報

公衆衛生

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1170

印刷版ISSN 0368-5187

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