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雑誌目次

雑誌文献

公衆衛生58巻5号

1994年05月発行

雑誌目次

特集 健康都市

健康都市プロジェクトとは何か

著者: 高野健人

ページ範囲:P.307 - P.311

◆はじめに
 今日,人間の居住環境は急速な都市化の波にさらされている.国連の推計によれば,西暦2010年には,全世界の人口の半分以上は都市住民となる.わが国においては,1985年時点で市部人口は約77%に達し,居住環境の都市化とともに,生活様式の都市化現象の顕著な進行をみている.世界の各国においても,いわゆる先進国や途上国等,それぞれの経済的な発展段階は様々であっても,それぞれの国の特色に応じて,それぞれの都市問題を抱えている.そしてほとんどすべての都市問題はそこに住む人びとの健康の問題と関連し,住民の健康を都市の諸条件によって左右している.
 図1に示すように,人類にとって新しい居住環境である高度稠密化都市における人びとの健康は,様々な要因によって影響を受けている1).したがって,都市における住民の健康を推進するためには,多領域多部門に対する多角的な,また総合的な働きかけが必要となってくるわけである.このように,近年,住民の健康に最重点をおいた都市政策の推進やそのための運動の必要性が強く認識されるようになった.このような潮流の展開を広く健康都市プロジェクトと呼んでいる.

健康文化と快適なまち創造プラン

著者: 牧野ゆり子

ページ範囲:P.312 - P.314

◆はじめに
 わが国は,終戦後約半世紀の短期間に,社会経済や科学技術はめざましく進展し,保健医療面では高い水準が達成されるなど,人びとの生活レベルは向上し安定したものとなっている.しかしその一方,人口の高齢化や少子化,疾病構造の成人病化など新たな課題に直面しているところでもある.
 成人病を中心とする疾病構造の下で,疾病の予防,健康の保持増進を図っていくためには,一人ひとりがそれぞれのライフステージにおいて健康で豊かな活力ある生活習慣を確立していくことが重要である.生活習慣のあり方は生活の質(QOL:quality of life)の高さを大きく左右するものでもあるが,その生活習慣を形成する個人と環境について,健康を基本にすえた公衆衛生活動を積極的に展開していくことは以前にもまして重要な課題となっているところである.
 生活の質を高めていくためには,個々人が自らの生活習慣を健康なものにしていくことはもちろん,個人を取り巻く環境そのものを健康に資するようなものに変化させていくことも必要である.

健康文化創造のためのアプローチ

著者: 太田壽城

ページ範囲:P.315 - P.318

◆健康モデル
 世界保健機関(WHO)によれば「健康とは,肉体的,精神的および社会的に完全によい状態にあることであり,単に疾病または,虚弱でないということではない」と定義されている.換言すれば,身体的および精神的に健全な状態にあり前向きに社会に関与できる状態を示す.健康は個人について考えるのみではなく,集団について考える必要もある.たとえば,地域や職域の社会の健康を考えることは政治的,経済的な観点からきわめて重要である.
 医学は治療中心の医学から早期発見・早期治療の健診医学・健康管理学を経て,予防医学に重点をおくようになっている.同時に医学の関与は病人中心から健康人を対象とするように変化している.個人のレベルでも健康に対する関心は強まり,健康を最大の幸福と考える時代になってきた.社会全体も政府,地方自治体,会社等で健康に対する意識と行動は高まっている.このような状況下で個人と集団の健康を積極的に保持・増進するのが健康づくりである.健康づくりは個人の幸福と社会の活性化に寄与する.

ヨーロッパの健康都市プロジェクトの実態

著者: 遠藤弘良

ページ範囲:P.319 - P.322

◆はじめに
 WHOのヨーロッパ地域事務局で健康都市プロジェクト構想が始まったのは1985年であった.そして翌1986年の暮れまでにヨーロッパの11都市がプロジェクト都市として選ばれ,1987年より本格的な事業がそれぞれの都市で実施され始めた.しかし11の都市で試験的に始められた本プロジェクトは,その後次々と参加都市が増加してゆき,しかもヨーロッパの都市に限らず,世界的に広がっていった.そしてWHO/EURO健康都市プロジェクトの第1期目が終了した1992年の時点では,実に19カ国,650都市が参加するという一大プロジェクトに発展していた.
 健康都市プロジェクトは,WHOの掲げる「Health for All by the Year 2000」という戦略を都市という環境の中で実施し,都市における新たな公衆衛生活動のあり方を探ろうとしたものである.
 これまで健康問題は保健医療従事者だけが中心となって取り組んできた傾向があるが,このプロジェクトの特徴は,健康問題を都市における様々な政策立案の中に組み込んでいくこと,一般住民を企画段階から巻き込んでいくことであった.

リバプールにおける先駆的な健康都市プロジェクトの展開

著者: 中村桂子

ページ範囲:P.323 - P.326

◆はじめに
 リバプールは,世界保健機関(WHO)の健康都市プロジェクトの発足当初の11のプロジェクト都市のひとつとして,斬新な健康都市政策を具体的に展開し,ニュー・パブリック・ヘルスの理論的支柱を軸に,世界の諸都市の健康都市運動を牽引する役割を果たしてきた1-4).それは,WHOが掲げる「西暦2000年までにすべての人に健康を」の目標を達成するために,ヨーロッパにおける38の地域目標5)に基づき,具体的に都市のレベルで取り組むべき課題を明らかにし,オタワ憲章6)にうたわれたヘルス・プロモーションを実践する手順を示すプロセスであった.
 リバプールにおける健康都市プロジェクトの発展に関して特筆すべき点は,次の4点である.まず,リバプールは,19世紀のパブリック・ヘルス・ムーブメントの経験を活かすことにより,ニュー・パブリック・ヘルス・ムーブメントを効果的に展開することができたことである.第2に,構造不況のために様々な悪条件に直面しているにもかかわらず,それらを克服して健康都市プロジェクトを実践していることである.

宮崎県都城市のウエルネス都市づくり

著者: 岩橋辰也

ページ範囲:P.327 - P.329

◆「ウエルネス都城」の誕生
 都城市は平成元年10月22日に「ウエルネス都市宣言」を行い,「豊かな自然と人間性,そして先進的都市機能に育まれた活力ある都市」をコンセプトに,21世紀に向けた目指すべき都市像を「ウエルネス都城〜人が元気・まちが元気・自然が元気」と定めた.
 ウエルネスとは,個人の身体的健康から精神的健康,人間性までも含んだ概念であり,社会的には健康行政から文化,アメニティ(快適性)をも含む積極的な概念を意味している.このことから,本市ではこの「ウエルネス」という意味を,単に人の健康から一歩進めて,その健康を支える基盤としての社会行動をどう展開させていくのかといった「まちづくり」に置き換え,ウエルネス運動として諸事業を展開していった.

京都市における健康都市づくり

著者: 小濱本一

ページ範囲:P.330 - P.333

◆はじめに
 今日,日本は世界で有数の経済大国になった.これまでは経済優先あるいは効率性を追求することが最優先の時代であったが,これからは,これまでの経済成長に向けてきた努力の果実を国民の一人ひとりの豊かさにつなげていこうという時代,すなわち「生活大国の実現」を目指す時代になってきている.これらの変化には,2つのまちづくりの方向の転換が示唆されているのではないかと考える.ひとつは,「経済」から「人」へと政策の重心が移行するだろうということ,つまり,より一層「人」の暮らしに焦点を当てた政策に重点が移ることが予測される.そしてもうひとつは,「フローの大きさ」より「ストックの豊かさ」が重視されるようになるということ,すなわち「豊かさの実感」という言葉に照らして見れば,これからは,心の豊かさや暮らしのゆとりといったものに目標を定め,その源となる「ストックの豊かさ」が重視されるようになると考えられる.このような世の中の動きは,何よりも人が住み,働き,学び,遊び,憩う舞台としての熟度によって都市が評価される時代の始まりを告げているのではないだろうか.

健やかな21世紀の滝川をめざして

著者: 林芳男

ページ範囲:P.334 - P.337

◆滝川市の概況
 滝川市(たきかわ)は,1890年屯田兵によって開かれたまちで北海道のほぼ中央部,札幌と旭川の中間の道央都市ラインに位置しており,高速道と国道3路線・JR線2線が交差し,古くから交通の要衝として発展,平成2年に滝川2世紀のスタートを切ったばかりの,人口5万人の商業サービス業を中心とした中空知広域圏の中核都市である.また,広大な石狩平野を貫く石狩川と空知川の2大河川に挾まれて扇状に広がるフラットな地形や,周辺の丘陵地と遠くに望む暑寒岳や十勝連峰の山並みなど,自然環境と景観は優れており,四季のメリハリがある気象など自然条件は北海道の特性のすべての要素をもっている.このような自然環境のもと,市民は抜けるような青空,カラッとした大気のもとでスポーツに親しみ自然とふれあい,冬は白一面の雪景色のなか,北国ならではの健康づくりが季節を通して行われる.

田舎のまちの健康づくり—山形県村山市

著者: 佐藤昌一郎

ページ範囲:P.338 - P.340

◆はじめに
 村山市は,山形県の内陸地方のほぼ中央にある農村都市だ.人口3万1千人.農林畜産業の粗生産額100億円,工業出荷額(金属加工,電子,機械工業など)が平年ベースで650億円,商業取扱高は卸売を含あて450億円である.
 東は奥羽山脈,西は出羽山系で,市の中央を最上川が貫流する.面積196km2.江戸時代は羽州街道の宿場として栄えた.つまり,地方ではどこにでもある田舎の街だが,それでも空港に隣接し,高速道路や鉄道で中央とつながっていて交通の便も良い.流行語でいえば「空気が美味」で「自然が美しい」ところ,である.
 こんなに清潔で健康的な所で,なんで“健康づくり”なのか,なにを今さら…と質問されることがある.とくに大都市の方々から聞かれることが多い.以下,その答えを含めた現況報告である.

視点

医学教育における公衆衛生

著者: 能勢隆之

ページ範囲:P.305 - P.306

【はじめに】
 公衆衛生に関する教育の問題点は医学教育にかぎったことではなく,保健医療従事者すべてにとって今日的課題であるが,筆者は日頃医学教育を担当しているのでそれに焦点をあてて考えを述べることにする.

公衆衛生医師—その現状と課題 座談会

老人保健事業を再検討する(2)

著者: 浅野明美 ,   一居誠 ,   森岡聖次 ,   笹井康典

ページ範囲:P.341 - P.347

■健康手帳は
 森岡 健康手帳が一つの事業として位置づけられていますが,その発想はいいと思うのです.個人が自分の情報をいつも持っていて,それで新たな情報が増えたらそれを追加して書き込んでいき,医療機関などを受診したときに,そのデータベースを参考資料として医師に見せられるという趣旨だと思います.しかし,現実に健康手帳の活用はどうなのでしょうか.市町村としては一生懸命に受診率を追求し,健康手帳を配布するということを行っていますが,各個人は健診データをどう使っているのでしょうか.
 浅野 診察現場の保健所の外来では結構利用されています.基本健康診査のデータをきちんと記入されている方もおりますし,保健所での血圧や尿検査のデータも記録されています.それからリハビリテーション訓練の方も手帳を上手に利用されていますし,多いとは言えませんが,医療機関での検査データもきちんと書き込んだりはさみ込んだりされている方もおります.

連載 地域精神保健の展開—精神保健センターの活動から・5

「こころの電話」相談をとおした精神保健活動—静岡県精神保健センター

著者: 佐野光正 ,   吉川由紀子 ,   根本英行

ページ範囲:P.348 - P.351

●はじめに
 平成2年度から3年度にかけて,全国のほとんどの精神保健センターにおいて,「こころの電話」相談事業が開始された.これは,心の健康づくり推進事業の一環として,国の補助事業として予算化されたものである.もちろん,従来よりこうした電話相談事業は,精神保健センターや保健所において行われてはいた.静岡県においては,保健所の心の健康づくり推進モデル事業と統合し,精神保健センターと3保健所のネットワークにより,平成2年11月にスタートした.
 ここでは,「こころの電話」相談事業を開始した経過,静岡県における「こころの電話」相談事業の概要について紹介し,地域精神保健活動における心の健康づくり事業と霞話相談事業の意義について考察したい.

シンポジウム リハビリテーションと保健活動—障害の受容をめぐって

3)精神科リハビリテーションの立場から

著者: 窪田由紀

ページ範囲:P.352 - P.356

●障害概念の検討—精神障害の特殊性
 リハビリテーションという枠組みが精神科の中に定着するにはある程度時間を要し,精神障害者は長らく病者としてのみ扱われることが多かったように思う.彼らを病者として位置付けた場合,そこには,治癒像を想定し,それに向けて医療の枠組みの中に抱え続けることを意味する.本人は治ったら退院して働くと言い,家族も良くなれば家庭に引き取ると言いながら長期の入院を続けてきたかつての精神科医療の体制は,障害者としてとらえる視点の欠如によるものであろう.精神科リハビリテーションの出発点は,病者を障害者として位置付け直すことであったといえよう.
 精神障害も身体障害をはじめとする他の障害と同じ枠組みで論ずることが,精神障害者の社会的な立場を築き,生活の質の向上を目指すためには欠かせない.精神障害の障害概念について,WHOの定義に基づいて,身体障害と同様に機能障害,能力障害,社会的不利の3つの側面に分けてとらえる蜂矢らの立場はこのような視点に基づくものである1).しかし,対人関係の障害,日常生活管理能力の障害といった,いわゆる生活障害としての能力障害や,偏見も含めた社会的不利という側面は比較的明確にとらえられるものの,機能障害となると,病気の症状や素因との区別が困難である.また,能力障害や社会的不利のための過大なストレスを受けて病気そのものが悪化することもしばしばで,その結果としてさらに障害が重篤化することもある.

疾病対策の構造

(3)安全性の構造

著者: 倉科周介

ページ範囲:P.357 - P.361

 今日の日本人の死亡率は,ほかの国民に比べてどの年齢階級でもほぼまんべんなく低い.平均寿命はその積算値の一種だから,これが世界で最長になったのも理の当然といえる.生活環境の安全性をどの国よりも高くするというすこぶる正統的な営みの結果だが,病気と死を不可分の関係ととらえ,存在する病気の制圧を至上命題としてきた従来の疾病対策の感覚にはなじみ難い成行きだったかもしれない.やや違った角度からこの点を考えてみる.

進展する地域医師会の公衆衛生活動

在宅ケアの取り組み—高知市医師会の地域医療カンファレンス(3)その反省と今後の課題

著者: 村山博良 ,   中田恵朗 ,   畠中卓士 ,   岡林弘毅 ,   島崎俊一郎 ,   上島宏一 ,   高橋重臣 ,   田中孝介 ,   筒井洋子 ,   楠瀬満恵 ,   鶴浜祥子 ,   神﨑明子 ,   田村美由紀 ,   山本瞳

ページ範囲:P.362 - P.363

鶴浜(保健婦)「カンファレンスを何回か持つうちに,医師の考え方などもわかるようになりました.他方,事例検討についても,発表のために事例をまとめるという傾向が強くなり,発展性はどうなのかという疑問も出始あました.そこで,地域の問題を通じ高齢者の問題を考えるために次のステップに進もうということで,カンファレンスに発展性のあるテーマを設定したのです.」
 1993年7月5日に開催されたミニカンファレンスにホームヘルパーが初めて参加した.最近では,医師会の活動を超えて保健婦,支援センター,民生委員その他参加者間の連携も密接になってきている.

活動レポート

「まいんど・きょうと」(京都精神障害者友の会)の活動

著者: 遠山照彦 ,   冨永貴則

ページ範囲:P.364 - P.368

◆はじめに
 精神保健法施行後「5年後の見直し」の時期の中で,1987年の法改正の際に,「積み残し」となったいくつかの課題1)のうちのひとつであるいわゆる大都市特例が,1996年度より導入されそうである.これにより政令市は,これまで道府県が行ってきた精神保健行政を,立案・実行しなければならなくなる.すでに東京都2)の他にも,川崎市3)のように,これまでにも市レベルでの調査・施策の立案・実行をしてきたところもある.しかし京都市では,これまで精神保健についての総合的な計画をもたず,ようやく最近関係各部署が整備され,京都市立の精神保健センターを設立することが計画中であるときいている.
 このような状況の下で,我々は,最近,市民レベルで京都の精神障害者福祉の前進に寄与したいと考え,1992年5月に「まいんど・きょうと」(京都精神障害者友の会)を発会した.このレポートでは,「まいんど・きょうと」の概要を紹介するとともに,その会員などを対象に行った「京都市精神保健センターについてのアンケート」調査の結果を報告したい.

保健活動—心に残るこの1例

精神分裂病の息子を持つ母親との関わりから

著者: 南雲孝代

ページ範囲:P.370 - P.370

 私が○氏(23歳)の住む地区を担当したのは平成2年で,当時,病識のない○氏は精神分裂病の治療半ばで無断離院していた.しかし,○氏の母が水薬を食事に混ぜて服薬させることで目立った問題行動はなく,また,理解ある職場のおかげで休みながらも就労は何とか継続している状況だった.前任保健婦の記録には,家族(○氏,母,父)皆に,現状を認識し具体的な生活設計を自ら描く能力に欠けていること,そのために保健婦および関係職種の人々が苦労して当事例に取り組んできたこと,その成果として生活保護の受給を母に納得させ,○氏と母を治療ルートに乗せることができたことが記されていた.
 一見安定しているように思えた○氏家族であるが,訪問を続けることが徐々に辛くなってきた.というのは,薬の副作用症状に苦しむ○氏を見た母が,独自の判断で何度も服薬を中断させ,やがて暴力等の問題行動が頻発し就労が中断すると,仕方なく服薬を再開.しかし,状態が改善するとともに母は再び○氏の治療の必要性を疑問視する.この一連の経過を繰り返すばかり.

新しい保健・福祉施設

福島県西会津町保健センター

著者: 鈴木義孝

ページ範囲:P.372 - P.373

 西会津町保健センターは地域社会における保健活動の中核的役割を担うべく,昭和53年度に開設された.
 保健センターの基本目標は,各種関係機関および地区組織との密接な連携のもとに,住民の健康づくりのための保健活動を強化することと合わせ,「自分の健康は自分でつくり,自分で守る」という自覚と認識を高めることにより,健康で明るい町づくりを目指すものである.

保健行政スコープ

愛だけでは足りないが

著者: 橋爪章

ページ範囲:P.374 - P.375

 公衆衛生行政関係者の間では「地域保健法」(案)がトピックである.この新しい法体系による地域保健の行方はおおいに気になるところである.保健所の機能強化,マンパワーの確保・充実,保健・医療・福祉の連携,市町村の役割の重視が,サービス提供者側から見た本法案の目指す方向であるが,住民側からは,要するに,行政アクセスがより身近になるということである.それでは行政アクセスが身近になるとどんな良いことがあるのかといえば,一般的に,ニーズの多様化に対応したきめ細かな行政サービスが期待される,と唱えられている.
 さて,行政を長くやっていると,ふと,そもそも行政とは何であるかの根源的な疑問が頭をかすめることがある.行政は,特に,個人の生活に深くかかわる公衆衛生行政は,人間生活への干渉行為であり,知らず知らずのうちに,本来侵してはならない領域にまで足を踏み入れているのではないだろうか.ひょっとして,行政は,その存在が感じられないほど希薄であるほうが良いことなのではないだろうか.行政アクセスが身近になるということは,もろ手をあげて歓迎してよいことなのであろうか.行政に求められている責務は,住民間に法の下の平等を担保するための均質化努力ではなかったろうか.

基本情報

公衆衛生

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1170

印刷版ISSN 0368-5187

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